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#68 夜の賄いでビーフステーキ
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さて、夜の賄いを作る。ビーフステーキはミディアムなどにする場合は、焼き上げてから食べるまでの時間が勝負なので、最後に焼く事にする。
さて、鶏肉や豚肉が焼き上がり、パスタも出来た。このタイミングでビーフステーキを焼こう。
「イチ、焼き方見てて良いか? 旨かったらさ、食堂のやつの焼き方変えてもいいのかなって思ってさ」
「ああ、うん。ちょっと緊張するなぁ」
壱は室温に戻しておいたステーキ肉に塩と胡椒、千切ったタイムを振る。今日は2枚あった。
次にフライパンを火に掛けて、熱くなったらに牛脂を敷き、適量溶け出して来たらにんにくのスライスを入れる。
にんにくから良い香りが上がって来たので、ステーキ肉を調味料を振った面を下にして入れる。まずは強火で焼き色が付くまで。その後弱火に落とし、表面に肉汁が浮いて来るのを待つ。
その間ににんにくを返してこんがりと焼き色を付けて行く。
表面に赤い透明の液体が出て来たら裏返し、風味付けの赤ワインを少量振る。
ここまでは、普段の食堂のステーキと同じ焼き方だ。違いはこの先。裏面を何秒焼くかで、加減が変わるのだ。
まず、壱と茂造の分はミディアムレアなので12、3秒くらいで上げる。
「短くね?」
カリルが驚いて声を上げるが、壱は首を振る。
「これはじいちゃんと俺の分」
そしてもう1枚はそれから10秒足らずで上げた。
「やっぱり短けー! 大丈夫なのか?」
「大丈夫。見た目は生っぽいけど、ちゃんと火は通ってるからさ」
壱はそれぞれを皿に盛り、にんにくチップを乗せると、両手で持って厨房に運んだ。添え物の無いシンプルな盛り付けだった。
「はいお待たせー」
2種類の焼き方のビーフステーキをテーブルに置くと、みんなが興味深げに覗き込む。
「ん? 見た目はいつものステーキと変わらない感じがするんだけど」
メリアンの言う通りである。
「違いは中だよ。ちゃんと焼けてると良いけどなー」
壱がナイフとフォークを使い、切り分けて行った。まずはミディアムから。
中心部分だけが薄っすらと赤い。なかなか悪く無い焼き上がりである。
「こっちがミディアム。余熱で完全に色が変わらない内に食べてみてよ」
昨日食べてみたいと言っていたマユリとカリルとサント、そしてサユリの分は小さめに切り分けて皿に置いてやる。
壱は続けてミディアムレアの方にナイフを入れる。こちらはミディアムより赤い部分が多い。壱と茂造の好みの、そして人気の焼き方でもある。
その間に、マユリたちが各々ミディアムのステーキをフォークに刺し、恐る恐る口元に運んだ。
「そんなに警戒する様な事?」
壱が不思議に思って聞いてみると、カリルが応える。
「いや、生の肉も食べた事あるけどよ、生臭いって思ってさ。でもこれはそんな匂いとかはしないな」
「火は通ってるからな。レアだったらもっと生っぽいけど」
「じゃ、じゃあ、い、いただきます……!」
一番にマユリが齧り付いた。一口では無理なので適量を噛み切り、味わいながらゆっくりと咀嚼する。するとその顔が驚きで満ちた。
「これ、美味しい、です。あの、中が赤いのに、あまり、生って感じが、しなくて、あの、生臭いとかも、無くて、柔らかくて」
「本当か? じゃあオレも」
カリルとサント、サユリも口に入れる。男ふたりは大口を開けて。サユリも一口で欠片を食んだ。
「あ、本当だ。冷たいとかも無いし、生臭くも無い。柔らかくて旨いな!」
「成る程カピ。これくらいなら臭みも無くなるのだカピな」
サントもうんうんと頷いている。
みんな満足してくれた様だ。ミディアムなら大丈夫だろうとは思っていたが、やはり不安はあった。壱は安堵する。
「うんうん、やはり中が赤いビフテキは旨いのう。良い焼き加減じゃ」
茂造はミディアムレアの方を頬張っている。壱も口に放り込んだ。うん、やはりこのぐらいの焼き加減が好みだ。
にんにくやタイムで臭みはしっかりと抑えられている。しっかり噛むと、口の中で旨味が弾け、甘い肉汁が溢れる。壱は眼を閉じた。
この村の牛肉は乳牛を潰すと言うやり方なので、食用に育てられる牛より肉質は劣る。当然臭みも多くなる。それが余計に村人に生食を敬遠させているのだと思う。
それでもまだ比較的若い内に潰すらしいので、壱たちの世界で廃牛と言われるものよりは上質な筈なのだ。
充分だ。充分に美味しい牛肉だ。きちんと管理され、餌も良いものを食べさせて貰っているのだろう。
「牛ってそもそも鶏とか豚より癖のある肉だろ。灰汁が多いからかな。だから多少の臭みというか、そういうのは仕方が無いと思うんだよね。でもにんにくとタイムがちゃんと仕事してくれてるから、そんなに慎重に火を通さなくても大丈夫だと思うんだ」
「そーだな。けどいきなり中が赤い肉を出すのは、みんな抵抗あるだろうから、こう、ギリギリの焼き加減で行きてぇよな」
「裏返したら30秒ぐらいで大丈夫だよ。明日またステーキが余ったら焼いてみようか」
「おっ、頼むぜ!」
すると、メリアンもミディアムの方にフォークを伸ばした。
「みんなズルい! ボクも食べる!」
「あらぁ、じゃあワタシもいただこうかしら~」
そうして食べたふたりにも好評で、壱はまた胸を撫で下ろした。
さて、鶏肉や豚肉が焼き上がり、パスタも出来た。このタイミングでビーフステーキを焼こう。
「イチ、焼き方見てて良いか? 旨かったらさ、食堂のやつの焼き方変えてもいいのかなって思ってさ」
「ああ、うん。ちょっと緊張するなぁ」
壱は室温に戻しておいたステーキ肉に塩と胡椒、千切ったタイムを振る。今日は2枚あった。
次にフライパンを火に掛けて、熱くなったらに牛脂を敷き、適量溶け出して来たらにんにくのスライスを入れる。
にんにくから良い香りが上がって来たので、ステーキ肉を調味料を振った面を下にして入れる。まずは強火で焼き色が付くまで。その後弱火に落とし、表面に肉汁が浮いて来るのを待つ。
その間ににんにくを返してこんがりと焼き色を付けて行く。
表面に赤い透明の液体が出て来たら裏返し、風味付けの赤ワインを少量振る。
ここまでは、普段の食堂のステーキと同じ焼き方だ。違いはこの先。裏面を何秒焼くかで、加減が変わるのだ。
まず、壱と茂造の分はミディアムレアなので12、3秒くらいで上げる。
「短くね?」
カリルが驚いて声を上げるが、壱は首を振る。
「これはじいちゃんと俺の分」
そしてもう1枚はそれから10秒足らずで上げた。
「やっぱり短けー! 大丈夫なのか?」
「大丈夫。見た目は生っぽいけど、ちゃんと火は通ってるからさ」
壱はそれぞれを皿に盛り、にんにくチップを乗せると、両手で持って厨房に運んだ。添え物の無いシンプルな盛り付けだった。
「はいお待たせー」
2種類の焼き方のビーフステーキをテーブルに置くと、みんなが興味深げに覗き込む。
「ん? 見た目はいつものステーキと変わらない感じがするんだけど」
メリアンの言う通りである。
「違いは中だよ。ちゃんと焼けてると良いけどなー」
壱がナイフとフォークを使い、切り分けて行った。まずはミディアムから。
中心部分だけが薄っすらと赤い。なかなか悪く無い焼き上がりである。
「こっちがミディアム。余熱で完全に色が変わらない内に食べてみてよ」
昨日食べてみたいと言っていたマユリとカリルとサント、そしてサユリの分は小さめに切り分けて皿に置いてやる。
壱は続けてミディアムレアの方にナイフを入れる。こちらはミディアムより赤い部分が多い。壱と茂造の好みの、そして人気の焼き方でもある。
その間に、マユリたちが各々ミディアムのステーキをフォークに刺し、恐る恐る口元に運んだ。
「そんなに警戒する様な事?」
壱が不思議に思って聞いてみると、カリルが応える。
「いや、生の肉も食べた事あるけどよ、生臭いって思ってさ。でもこれはそんな匂いとかはしないな」
「火は通ってるからな。レアだったらもっと生っぽいけど」
「じゃ、じゃあ、い、いただきます……!」
一番にマユリが齧り付いた。一口では無理なので適量を噛み切り、味わいながらゆっくりと咀嚼する。するとその顔が驚きで満ちた。
「これ、美味しい、です。あの、中が赤いのに、あまり、生って感じが、しなくて、あの、生臭いとかも、無くて、柔らかくて」
「本当か? じゃあオレも」
カリルとサント、サユリも口に入れる。男ふたりは大口を開けて。サユリも一口で欠片を食んだ。
「あ、本当だ。冷たいとかも無いし、生臭くも無い。柔らかくて旨いな!」
「成る程カピ。これくらいなら臭みも無くなるのだカピな」
サントもうんうんと頷いている。
みんな満足してくれた様だ。ミディアムなら大丈夫だろうとは思っていたが、やはり不安はあった。壱は安堵する。
「うんうん、やはり中が赤いビフテキは旨いのう。良い焼き加減じゃ」
茂造はミディアムレアの方を頬張っている。壱も口に放り込んだ。うん、やはりこのぐらいの焼き加減が好みだ。
にんにくやタイムで臭みはしっかりと抑えられている。しっかり噛むと、口の中で旨味が弾け、甘い肉汁が溢れる。壱は眼を閉じた。
この村の牛肉は乳牛を潰すと言うやり方なので、食用に育てられる牛より肉質は劣る。当然臭みも多くなる。それが余計に村人に生食を敬遠させているのだと思う。
それでもまだ比較的若い内に潰すらしいので、壱たちの世界で廃牛と言われるものよりは上質な筈なのだ。
充分だ。充分に美味しい牛肉だ。きちんと管理され、餌も良いものを食べさせて貰っているのだろう。
「牛ってそもそも鶏とか豚より癖のある肉だろ。灰汁が多いからかな。だから多少の臭みというか、そういうのは仕方が無いと思うんだよね。でもにんにくとタイムがちゃんと仕事してくれてるから、そんなに慎重に火を通さなくても大丈夫だと思うんだ」
「そーだな。けどいきなり中が赤い肉を出すのは、みんな抵抗あるだろうから、こう、ギリギリの焼き加減で行きてぇよな」
「裏返したら30秒ぐらいで大丈夫だよ。明日またステーキが余ったら焼いてみようか」
「おっ、頼むぜ!」
すると、メリアンもミディアムの方にフォークを伸ばした。
「みんなズルい! ボクも食べる!」
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