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2章 碧、あやかしと触れ合う
第12話 思いやりの心
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そうしてすべてのお見合い写真を見た碧は、また思わずため息を吐いてしまった。中には40歳代の人もいて、それは良いのだが、男性たちが相手女性に求めるものが、ものの見事に似たり寄ったりだったのだ。
これだから、今までご縁に恵まれなかったのでは、と思うほどに。
昔からの価値観というものは根強く、今だに結婚生活に影響を及ぼしている様だ。男尊女卑と言うのは言い過ぎだろうか。だが碧より年上のこの人たちからは、女性を下に見て、思い通りにしたいという思惑が透けて見える様な気がした。
うがった見方だろうか。でも某女性専用SNSなどを見ていると、奥さまの愚痴が多いのが気になるのだ。もしかしたら自分は毒されている? とも思ったりするほどだ。つい疑心暗鬼になってしまう。
良いお手本が周りにいるのだから、そう警戒することも無いと思いたいのだが。結婚をしたいがあまり、視野狭窄になっているのだろうか。いけないいけない。
結局は思いやりあえるかどうかなのだと思う。思いやっていれば、相手を尊重しようとするだろうし、家事なども相手だけの負担にならない様にすると思うし、気遣ったりもするだろう。
そういうところもお付き合いをするなかで、見極めていかなければならないのだ。難しいな、と思う。自分にできるだろうか。お父さんの様な旦那さまと出会うことができるだろうか。
「ああほら、碧ちゃん、難しい顔せんと」
都倉のお祖母ちゃんに笑いながら言われ、碧は我に返る。もしかしたら考え込んでいるうちに、顔をしかめたりしてしまっていたのだろうか。碧は慌てて両手で顔を伸ばした。
「碧ちゃん」
お母さんに優しく呼ばれ、碧は何だか子どものころに戻った様な気持ちになる。慈しまれている、そんな暖かさがあった。
「お父さんとお母さんはね、碧ちゃんが幸せになってくれることがいちばんやねん。結婚は確かにそうなるためのひとつの手段かも知れんけど、無理にして欲しいとかは思ってへんのよ。お母さんは、碧ちゃんが変な人と結婚するよりは、独身の方がよっぽどまし。それだけは覚えといてね。お母さんたちは、碧ちゃんを不幸にする様な要素なんか、いっこもいらんの」
「うん」
親が子に向ける、深い深い愛情。すぅっと心に沁み渡っていく。
「碧、さっきも言うたが、碧が励んどったら、自ずと付いてくるもんがある。せやから碧はいつもの様にやってたらええ。大丈夫や」
ざしきちゃんも言ってくれて、碧はそれも自信になる様だった。
「ありがとう、ざしきちゃん」
あやかしだって人間だって、こうして思いやりをくれる。本当に何てありがたいのだろう。この思いを、碧が日々がんばることで引き寄せているのなら、碧の今は間違っていないと信じられる。
「碧ちゃん、少し早いけど、25歳のお誕生日、おめでとう」
お母さんは言って、碧の頭をそっと撫でてくれた。その暖かさに、何だか目頭にこみ上げてくるものがあって。
「……ありがとう」
碧は心の底から喜びが沸き上がり、顔をくしゃりとさせたのだった。
宴もたけなわ。後片付けは全員でする。使い終わった食器を運んだり、それを洗ったり、お水でゆすいだり、拭いたり。
調理器具やお鍋類は久慈さんが片付けてくれているので、碧たちは食器を片すだけだ。それだけでもかなり楽である。
しかし、ざしきちゃんまでもが食器運びを手伝ってくれているのに、黒助くんは黒猫の姿のまま、あのときから微動だにしない。
「ざしきちゃん、黒助くん、大丈夫やろか」
碧も食器を運びながら、こっそりとざしきちゃんに聞いてみると。
「碧は気にせんでええ。放っとけ」
「ええんかなぁ」
そう言いつつ、黒助くんが現金なのは碧も知っているので、きっと問題無いと思う。明日にはけろりとして、このまま都倉本家に居続けるのだろう。
今、シンクの前に立って洗い物をしているのは笠野のお祖母ちゃんで、ゆすいでいるのはお祖父ちゃんだ。
「笠野さん、ゆっくりしててください!」
都倉のお祖母ちゃんと伯母ちゃんが慌てているのだが。
「いえいえ、準備ぜんぜんしてへんのですから、後片付けぐらいさせてくださいね~」
「そうですよ~」
笠野の祖父母は軽やかにそう言いながら、ひょいひょいと食器を綺麗にしていった。それを拭いているのはお母さんだ。親子の見事な連携プレイである。
お母さんが拭き上げた食器を、食器棚に納めているのが伯母ちゃんなのだが、「代わりますから~」と言いながらくるくる動いている。
結局笠野の祖父母は、最後まで食器を洗い上げた。都倉のお祖母ちゃんと伯母ちゃんは恐縮して「ありがとうございます!」と頭を下げているが、これもいつもの宴会の風景である。
「さてと、そろそろ運転代行呼ぼか」
お父さんがスマートフォンを手にし、アプリを立ち上げようとする。すると。
「うちで呼ぶから待たんかい」
そう言ってストップを掛けたのは伯父ちゃんだ。伯父ちゃんも素早くスマートフォンを取り上げた。
「いや、兄ちゃん、うちで呼ぶし代金も払うし」
「ええて。どうせ経費で落ちんねん。節税やと思って呼ばせんかい」
伯父ちゃんはそう言いながら、素早くアプリを立ち上げて、操作を終えてしまった。
これも毎度のことである。伯父ちゃんとお父さんの運転代行押問答。碧たちも電車で来ることもできるのだが、荷物があるからとレンタカーを借りる。もちろん運転代行は自分たちで手配して代金も支払うつもりだった。なのにいつもお父さんが負けてしまう。
もちろんお父さんは本当に自分で支払うつもりなのだが、これも予定調和というやつかな、と碧は思うのだった。
ちなみにお料理の全量は、かなりのものだった。作ってくれた久慈さんも「余ったら冷凍もできますから」なんて言っていたのだが、二口女がふたりと、その性質を継いだハーフがいて、余るわけが無いのである。
これだから、今までご縁に恵まれなかったのでは、と思うほどに。
昔からの価値観というものは根強く、今だに結婚生活に影響を及ぼしている様だ。男尊女卑と言うのは言い過ぎだろうか。だが碧より年上のこの人たちからは、女性を下に見て、思い通りにしたいという思惑が透けて見える様な気がした。
うがった見方だろうか。でも某女性専用SNSなどを見ていると、奥さまの愚痴が多いのが気になるのだ。もしかしたら自分は毒されている? とも思ったりするほどだ。つい疑心暗鬼になってしまう。
良いお手本が周りにいるのだから、そう警戒することも無いと思いたいのだが。結婚をしたいがあまり、視野狭窄になっているのだろうか。いけないいけない。
結局は思いやりあえるかどうかなのだと思う。思いやっていれば、相手を尊重しようとするだろうし、家事なども相手だけの負担にならない様にすると思うし、気遣ったりもするだろう。
そういうところもお付き合いをするなかで、見極めていかなければならないのだ。難しいな、と思う。自分にできるだろうか。お父さんの様な旦那さまと出会うことができるだろうか。
「ああほら、碧ちゃん、難しい顔せんと」
都倉のお祖母ちゃんに笑いながら言われ、碧は我に返る。もしかしたら考え込んでいるうちに、顔をしかめたりしてしまっていたのだろうか。碧は慌てて両手で顔を伸ばした。
「碧ちゃん」
お母さんに優しく呼ばれ、碧は何だか子どものころに戻った様な気持ちになる。慈しまれている、そんな暖かさがあった。
「お父さんとお母さんはね、碧ちゃんが幸せになってくれることがいちばんやねん。結婚は確かにそうなるためのひとつの手段かも知れんけど、無理にして欲しいとかは思ってへんのよ。お母さんは、碧ちゃんが変な人と結婚するよりは、独身の方がよっぽどまし。それだけは覚えといてね。お母さんたちは、碧ちゃんを不幸にする様な要素なんか、いっこもいらんの」
「うん」
親が子に向ける、深い深い愛情。すぅっと心に沁み渡っていく。
「碧、さっきも言うたが、碧が励んどったら、自ずと付いてくるもんがある。せやから碧はいつもの様にやってたらええ。大丈夫や」
ざしきちゃんも言ってくれて、碧はそれも自信になる様だった。
「ありがとう、ざしきちゃん」
あやかしだって人間だって、こうして思いやりをくれる。本当に何てありがたいのだろう。この思いを、碧が日々がんばることで引き寄せているのなら、碧の今は間違っていないと信じられる。
「碧ちゃん、少し早いけど、25歳のお誕生日、おめでとう」
お母さんは言って、碧の頭をそっと撫でてくれた。その暖かさに、何だか目頭にこみ上げてくるものがあって。
「……ありがとう」
碧は心の底から喜びが沸き上がり、顔をくしゃりとさせたのだった。
宴もたけなわ。後片付けは全員でする。使い終わった食器を運んだり、それを洗ったり、お水でゆすいだり、拭いたり。
調理器具やお鍋類は久慈さんが片付けてくれているので、碧たちは食器を片すだけだ。それだけでもかなり楽である。
しかし、ざしきちゃんまでもが食器運びを手伝ってくれているのに、黒助くんは黒猫の姿のまま、あのときから微動だにしない。
「ざしきちゃん、黒助くん、大丈夫やろか」
碧も食器を運びながら、こっそりとざしきちゃんに聞いてみると。
「碧は気にせんでええ。放っとけ」
「ええんかなぁ」
そう言いつつ、黒助くんが現金なのは碧も知っているので、きっと問題無いと思う。明日にはけろりとして、このまま都倉本家に居続けるのだろう。
今、シンクの前に立って洗い物をしているのは笠野のお祖母ちゃんで、ゆすいでいるのはお祖父ちゃんだ。
「笠野さん、ゆっくりしててください!」
都倉のお祖母ちゃんと伯母ちゃんが慌てているのだが。
「いえいえ、準備ぜんぜんしてへんのですから、後片付けぐらいさせてくださいね~」
「そうですよ~」
笠野の祖父母は軽やかにそう言いながら、ひょいひょいと食器を綺麗にしていった。それを拭いているのはお母さんだ。親子の見事な連携プレイである。
お母さんが拭き上げた食器を、食器棚に納めているのが伯母ちゃんなのだが、「代わりますから~」と言いながらくるくる動いている。
結局笠野の祖父母は、最後まで食器を洗い上げた。都倉のお祖母ちゃんと伯母ちゃんは恐縮して「ありがとうございます!」と頭を下げているが、これもいつもの宴会の風景である。
「さてと、そろそろ運転代行呼ぼか」
お父さんがスマートフォンを手にし、アプリを立ち上げようとする。すると。
「うちで呼ぶから待たんかい」
そう言ってストップを掛けたのは伯父ちゃんだ。伯父ちゃんも素早くスマートフォンを取り上げた。
「いや、兄ちゃん、うちで呼ぶし代金も払うし」
「ええて。どうせ経費で落ちんねん。節税やと思って呼ばせんかい」
伯父ちゃんはそう言いながら、素早くアプリを立ち上げて、操作を終えてしまった。
これも毎度のことである。伯父ちゃんとお父さんの運転代行押問答。碧たちも電車で来ることもできるのだが、荷物があるからとレンタカーを借りる。もちろん運転代行は自分たちで手配して代金も支払うつもりだった。なのにいつもお父さんが負けてしまう。
もちろんお父さんは本当に自分で支払うつもりなのだが、これも予定調和というやつかな、と碧は思うのだった。
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