とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈

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2章 碧、あやかしと触れ合う

第11話 たくさんのご縁の切れ端で

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あおちゃん、こっちおいで!」

 楽しそうな笑顔を浮かべた都倉とくらのお祖母ちゃんに手招きされる。ざしきちゃんが「わしも行く」と言うので、それぞれグラスを手に一緒に上座に向かった。そこでは両家の祖父母とお母さん、そしてようくんが、たくさんのお見合い写真を囲んでいた。

「これ、碧ちゃんに用意した見合い写真な。13冊あるわ」

「そんなに?」

 都倉のお祖母ちゃんに水色の紙でできたお見合い写真を手渡され、碧はそれを開いてみる。左側にスーツ姿の男性の大きな写真がはめ込まれ、右側に簡単なプロフィールが記されていた。

 顔は、失礼な言い方かも知れないが、いわゆるフツメンで、取り立てて特徴は無い。

 プロフィールを見ると、年齢は30代中盤だった。碧と10歳ほども違う。

「あんま歳が離れてると、話とか価値観とかが合うんかちょっと心配」

「そうか?」

 都倉のお祖母ちゃんは首を傾げる。お祖母ちゃんぐらいの年齢になれば、もしかしたら10歳の差は気にならないのかも知れないが、碧はさすがに引っかかってしまう。

 持っている価値観というものは、年齢だけで測れないものではあることぐらい、碧だって分かっている。それでも育った時代や環境、触れ合ったもので、それらは作られていく。

 碧のお父さんは昭和の生まれで、いわゆる昭和脳であってもおかしく無い。だがお父さんはお母さんと共働きという形だからか、家事は分担して助け合っている。碧のお世話もたくさんしてくれた。

 碧は「とくら食堂」を続けていくのだ。なら、協力し合えない相手とは一緒にはなりたく無いし、好きだから、愛しているから、なんて理由で尽くす性格でも無いのだ。碧がそういう環境で育ってきたからというのが、きっと大きい。

 だから、碧はお父さんとお母さんを尊敬している。四六時中一緒にいる様なものなのに、いつまで経っても仲が良く、違いを尊重し合っている。自分も結婚をするなら、そういう相手が望ましいのだ。

 この写真の男性は、碧とそういう関係になってくれる人なのだろうか。と、またプロフィールを見てみる。相手に、要は碧に望んでいることは。

 ・共働き希望
 ・家事は任せたい
 ・料理上手

 碧は思わず、呆れて目を細めてしまった。

「ねぇ、お祖母ちゃん、これ、相手の男性に、わたし、一緒にお店やりたいって言うた?」

「特には言うてへんねぇ。そういうのは、会ったときにすり合わせしていったらええと思って」

「わたし、共働き希望で家事全部やれっていう人とは、会う気にもなれへんねんけど」

「まぁ男なんて大半はそんなもんや。お祖父ちゃんも最初はそうやったし、親戚も揃いも揃ってそうや。せやから正月は苦労すんねん。昭和の遺物や」

 都倉のお祖母ちゃんはおかしそうに笑いながらも、辛辣にばっさりと斬り捨てる。確かにお祖父ちゃんは昭和の時代に産まれて育った人だから、そういう価値観であってもおかしくは無い。それを多少なりとも矯正したのはお祖母ちゃんである。

 平成の時代は30年間、令和に入ってから6年目だから、この男性はぎりぎり平成生まれだ。昭和を味わっていないはずなのに、こうした価値観で育ってしまう。昭和、恐ろしき。

 昭和の生まれ育ちである伯父ちゃんとお父さんが、お家のことを女性任せにしないのは、このお祖母ちゃんに育てられたからだろう。きっとお祖父ちゃんにも積極的に子育てに参加させ、その背中を見た伯父ちゃんはお祖父ちゃんの跡を継いだ。きっと陽くんも、それを引き継ぐのだと思う。

 近くにこんな理想的な家庭があると、自ずと欲求は高くなってしまう。碧だってそんな家庭ばかりで無いことぐらいは知っているので、慎重になってしまうのだ。

「それにしても、これ、おっさんばっかりやん」

 陽くんがお見合い写真を開き、それを横からざしきちゃんが覗き込んでいる。都倉のお祖母ちゃんが作った山からいちばん上を取り、めくり、見終わったものが新たな山を作る。碧が自分の膝の上に見終えたお見合い写真を置いて、陽くんが作った山から1冊取った。

 白いそれを開いてみると、その男性は40歳近かった。その人が女性に求めることは。

 ・家に入って家庭を守って欲しい

 だった。この人も無理だ。碧は「とくら食堂」を続けたいのだから。

 いきなり良縁に恵まれるなんて思っていない。それでもなかなかマッチングしないものだな、とため息が出てしまう。

「わたしもな、あんまよう知らんのよ。ただこの写真を回してくれたこの人らの母親が言うには、20代は出会いもあるやろって構えてて、でも無くて、30代になって慌て出してるんやって。しかも揃いも揃って若い子がええて言うて、碧の婚活話に乗っかってきたんや」

 都倉のお祖母ちゃんは呆れた様に言う。

「……お祖母ちゃん、そんな顔してんのに、何でわたしにこのお写真持ってきたん」

「縁なんてどこにあるんか分からんからね。碧が気に入るかどうか、まずはそこからやと思って。この分やと難しいやろかな」

「全部を見てへんから何とも。話はそれからやな」

 碧は見たばかりのものと膝のお見し写真を重ねて新たな山を作り、陽くんが作った山からまた1冊取った。
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