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3章 碧、マッチングするかも知れない
第6話 出会いのかたち
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「都倉さん、客が少ない時間帯、どうにかしたいって思いません?」
佐竹さんに挑む様な顔で言われ、碧は一瞬(何や?)と怯む。だが。
「できたらええんでしょうけど、その時間帯はそれはそれで、やることもありますしねぇ」
卵料理を作り足したりとか、お昼のメインを仕込み始めるとか、それこそ弓月さんの様なご常連と他愛の無いお話をするだとか。ピーク時には難しいことがいろいろとあるのである。
「いえ実はですね、ぼく、勤め先が「ペンギンキッチン」なんですけど、今、店舗を広げようとして、いろいろやってましてね」
「はぁ」
話が見えない。「ペンギンキッチン」は初めて聞く店名だった。店舗を広げる、ということは、チェーン展開をしているのだろうか。
「都倉さんの店も、そこに入りませんか?」
「は?」
碧は思わず顔をしかめてしまう。どういうことなのだろうか。碧の怪訝な顔に気付いているのかいないのか、佐竹さんははきはきとした様子で話を続ける。
「本町、めっちゃええ立地や無いですか。そこに店舗できたら、うちも強くなれると思うんですよ。個人でやってるお店やから、面積は小さいやろうけど、全然問題ありませんよ。朝と昼だけの店でしたよね、人雇って、夜までやって、メニューもうちのに切り替えて。うち、洋食のファミリーレストランなんで、いろんなもんがあるから、集客も見込めますよ。セントラルキッチンもあるから、楽できるしね!」
佐竹さんは興奮して、一気にまくし立てる。丁寧語もほどけてきている。そして碧の心は、佐竹さんが発言を続けるほどに冷めていった。
碧は、少しだけど期待していたのだ。まだ1回目だから、成婚の可能性はかなり低いだろうとはいえ、自分のお店を持ちたい人とお話ができたら楽しいだろうな、と思っていた。
会ったばかりの人と、さすがに結婚がどうとかなんていうお話は難しいだろうなとは感じていた。だから取っ掛かりとして「とくら食堂」のことや、佐竹さんが思い浮かべるお店のお話ができたら、と。
なのに、これだ。
「ペンギンレストラン」が洋食ファミレスであるのなら、お料理のジャンルこそ違えど、以前勤めていた「さつき亭」の競合店だ。なのに碧が知らないということは、ほんの最近できたチェーン店なのか、それとも、かなりの小規模なのか。
「あの、その「ペンギンキッチン」は、何店舗あるんですか?」
「今は2店舗です。豊中と堺の郊外。でも街中にも店舗が欲しくて、みんなでいろいろ動いてるんですよ~」
豊中市はお母さん方の祖父母が住んでいる市だ。だがやはり、碧は聞いたことが無い。郊外というのだから、大阪モノレールの方なのかも知れない。
大阪モノレールは、池田市にある大阪空港駅から門真市駅を繋いでいる。太陽の塔がある万博記念公園駅も大阪モノレール沿いである。豊中市にあるのは少路駅と柴原阪大前駅、蛍池駅の3駅。
その中で少路駅の近くには、豊中ロマンチック街道があり、大小さまざまな飲食店やサービス店舗が立ち並んでいる。ドライブコースにもなっていて、箕面市に繋がっているのだ。
堺市に関しては、碧はあまり土地勘が無いのだが、政令指定都市にもなっている大きな市なので、郊外となるとどこなのか想像も付かない。大阪メトロ御堂筋線にJR阪和線、南海電車に阪堺電車が通っているが、カバーできていないところなんてたくさんあるだろう。
「ええ話やと思うんですよ。うち、ぼくが言うんもなんですけど、結構美味しいんですよ。言うても個人店やと限界もあるでしょ? うちで店舗出したら儲かると思うんですよ。豊中の本店と堺店の売り上げもまずまずでね。あ、今はセントラルキッチンて言うても、本店の厨房でまとめて作って、車で堺に運んでるんですよ。それでコストカット!ってね」
佐竹さんは得意げに言う。しかし碧の心はすっかりと冷え込んでいた。いったい自分は何を聞かされているのかと。
「とくら食堂」がファミレスに鞍替え? 碧は「ペンギンキッチン」を知らない。食べたことが無いのだから、味はもちろん分からない。だが、そういうことでは無い。
そりゃあ、佐竹さんだって、碧がどれだけ「とくら食堂」に思い入れがあるのかは知らない。だが跡を継ぎたいと言っている以上、その心意気は汲んでくれていると思っていた。思いたかった。
甘かったのだろうか。それともそうと伝わっていたとしても、それは佐竹さんにとって、佐竹さんの目的のためには度外視しても良いものだったのか。
世の中にはいろいろな人がいる。碧は幸い良い人に恵まれてきたけれど、数年勤めた「さつき亭」には理不尽なお客さまだっていた。今の「とくら食堂」にだって、横柄なお客さまがいたりする。お金を投げる様にトレイに置くお客さまなんて、珍しくも無かった。
それでもまだ、自分は視野が狭かったのだろうか。世間知らずなのだろうか。知っても知らずとも、人の思いを踏みにじる、そんな人だっているのだ。
冗談じゃ無い。碧の気持ちは、他人から見たらちっぽけで他愛の無いものなのかも知れない。だが碧にとっては大切で尊いものなのだ。
碧はそう思い至った瞬間、はらわたが煮え繰り返る様な感覚に陥った。
佐竹さんに挑む様な顔で言われ、碧は一瞬(何や?)と怯む。だが。
「できたらええんでしょうけど、その時間帯はそれはそれで、やることもありますしねぇ」
卵料理を作り足したりとか、お昼のメインを仕込み始めるとか、それこそ弓月さんの様なご常連と他愛の無いお話をするだとか。ピーク時には難しいことがいろいろとあるのである。
「いえ実はですね、ぼく、勤め先が「ペンギンキッチン」なんですけど、今、店舗を広げようとして、いろいろやってましてね」
「はぁ」
話が見えない。「ペンギンキッチン」は初めて聞く店名だった。店舗を広げる、ということは、チェーン展開をしているのだろうか。
「都倉さんの店も、そこに入りませんか?」
「は?」
碧は思わず顔をしかめてしまう。どういうことなのだろうか。碧の怪訝な顔に気付いているのかいないのか、佐竹さんははきはきとした様子で話を続ける。
「本町、めっちゃええ立地や無いですか。そこに店舗できたら、うちも強くなれると思うんですよ。個人でやってるお店やから、面積は小さいやろうけど、全然問題ありませんよ。朝と昼だけの店でしたよね、人雇って、夜までやって、メニューもうちのに切り替えて。うち、洋食のファミリーレストランなんで、いろんなもんがあるから、集客も見込めますよ。セントラルキッチンもあるから、楽できるしね!」
佐竹さんは興奮して、一気にまくし立てる。丁寧語もほどけてきている。そして碧の心は、佐竹さんが発言を続けるほどに冷めていった。
碧は、少しだけど期待していたのだ。まだ1回目だから、成婚の可能性はかなり低いだろうとはいえ、自分のお店を持ちたい人とお話ができたら楽しいだろうな、と思っていた。
会ったばかりの人と、さすがに結婚がどうとかなんていうお話は難しいだろうなとは感じていた。だから取っ掛かりとして「とくら食堂」のことや、佐竹さんが思い浮かべるお店のお話ができたら、と。
なのに、これだ。
「ペンギンレストラン」が洋食ファミレスであるのなら、お料理のジャンルこそ違えど、以前勤めていた「さつき亭」の競合店だ。なのに碧が知らないということは、ほんの最近できたチェーン店なのか、それとも、かなりの小規模なのか。
「あの、その「ペンギンキッチン」は、何店舗あるんですか?」
「今は2店舗です。豊中と堺の郊外。でも街中にも店舗が欲しくて、みんなでいろいろ動いてるんですよ~」
豊中市はお母さん方の祖父母が住んでいる市だ。だがやはり、碧は聞いたことが無い。郊外というのだから、大阪モノレールの方なのかも知れない。
大阪モノレールは、池田市にある大阪空港駅から門真市駅を繋いでいる。太陽の塔がある万博記念公園駅も大阪モノレール沿いである。豊中市にあるのは少路駅と柴原阪大前駅、蛍池駅の3駅。
その中で少路駅の近くには、豊中ロマンチック街道があり、大小さまざまな飲食店やサービス店舗が立ち並んでいる。ドライブコースにもなっていて、箕面市に繋がっているのだ。
堺市に関しては、碧はあまり土地勘が無いのだが、政令指定都市にもなっている大きな市なので、郊外となるとどこなのか想像も付かない。大阪メトロ御堂筋線にJR阪和線、南海電車に阪堺電車が通っているが、カバーできていないところなんてたくさんあるだろう。
「ええ話やと思うんですよ。うち、ぼくが言うんもなんですけど、結構美味しいんですよ。言うても個人店やと限界もあるでしょ? うちで店舗出したら儲かると思うんですよ。豊中の本店と堺店の売り上げもまずまずでね。あ、今はセントラルキッチンて言うても、本店の厨房でまとめて作って、車で堺に運んでるんですよ。それでコストカット!ってね」
佐竹さんは得意げに言う。しかし碧の心はすっかりと冷え込んでいた。いったい自分は何を聞かされているのかと。
「とくら食堂」がファミレスに鞍替え? 碧は「ペンギンキッチン」を知らない。食べたことが無いのだから、味はもちろん分からない。だが、そういうことでは無い。
そりゃあ、佐竹さんだって、碧がどれだけ「とくら食堂」に思い入れがあるのかは知らない。だが跡を継ぎたいと言っている以上、その心意気は汲んでくれていると思っていた。思いたかった。
甘かったのだろうか。それともそうと伝わっていたとしても、それは佐竹さんにとって、佐竹さんの目的のためには度外視しても良いものだったのか。
世の中にはいろいろな人がいる。碧は幸い良い人に恵まれてきたけれど、数年勤めた「さつき亭」には理不尽なお客さまだっていた。今の「とくら食堂」にだって、横柄なお客さまがいたりする。お金を投げる様にトレイに置くお客さまなんて、珍しくも無かった。
それでもまだ、自分は視野が狭かったのだろうか。世間知らずなのだろうか。知っても知らずとも、人の思いを踏みにじる、そんな人だっているのだ。
冗談じゃ無い。碧の気持ちは、他人から見たらちっぽけで他愛の無いものなのかも知れない。だが碧にとっては大切で尊いものなのだ。
碧はそう思い至った瞬間、はらわたが煮え繰り返る様な感覚に陥った。
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