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3章 碧、マッチングするかも知れない
第5話 初めてのお見合い
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碧はさっそく、柏木さんにお返事を打ち込む。
お世話になっております。
プロフィールを拝見しました。さっそくありがとうございます。
お二人は年齢が離れていて、少し厳しいかな、と思ったのですが、お一人、佐竹さんは一度お会いしてみたいと思いました。
詳細なプロフィールをお送りいただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
そう、最後のひとりの名前は、佐竹祐樹さんとあった。この人だって、詳細を見てみないと判断ができないが、まずはいろんな人と会わないと、と思ったのだ。
会ってお話をしないことには、何も始まらないし、進まない。おこがましいが評価だってできないのだ。
数分後、柏木さんから返信が届いた。
都倉様、お世話になっております。
佐竹様の詳細プロフィールをお送りいたしましたので、お目通しいただけましたら幸いでございます。
お会いになるご意思がございましたら、恐れ入りますがご連絡いただけますでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。
さすが、お仕事が早い。ありがたい。碧はさっそく、佐竹さんの詳細プロフィールに目を通した。
それから数週間後、6月の下旬、碧はなんばのカフェで、ひとりの男性と向かい合っていた。
今日は梅雨のさなかであいにくの雨。それでもなんばに着けば、地下街にもたくさんカフェがあるので、雨に濡れずに済むのである。
なんばは大阪が誇る日本最大級の繁華街で、地下街もかなり発展しているのだ。なんばグランド花月やNMB48劇場、オタロードもあり、文化の発信地とも言える。
ここは、少しレトロ調なおしゃれなカフェだ。お客さまの多くは女性で、女性人気が高いのも頷ける内装である。
碧の目の前で、チャコールグレイのスーツ姿で優雅にアイスコーヒーを飲んでいるのは、佐竹さんである。今日は平日。「とくら食堂」の営業を終え、15時にこのカフェで待ち合わせをした。
佐竹さんも飲食業界で働いているので、土日が書き入れどきである。お休みにするのは難しいとのことで、平日のこの時間になったのだ。
カフェがあるのはNAMBAなんなんの、大阪メトロ御堂筋線の改札側出入口すぐそばである。
先にきていた佐竹さんはアイスコーヒーを頼んでいた。碧は追ってアイスティを注文する。
間も無く運ばれてきたので、ミルクだけを注いでストローでぐるりと混ぜ、口を付けた。
思ったより緊張しているのか、喉の乾きを感じていて、思わず一気に飲みそうになってしまいそうになるが、ぐっとこらえる。代わりにお冷やに手を伸ばした。ごくごくとふた口ほどを飲み下して、やっと落ち着く。気持ちも少しだがほぐれた気がする。
「あの、都倉さんは、お家がお店をされているとか」
独立を目指しているのなら、真っ先に気になるのだろう。初めましての挨拶は済ませているし、特に不躾とは思わず、碧は「はい」と頷いた。
「朝食と昼食を出している食堂なんです」
「場所はどちらなんですか?」
「本町です」
「ああ、それはええとこですね! ビジネス街で、客も会社員ですかね?」
「そうですね。うちは四ツ橋線の本町駅が最寄りなんで、御堂筋より静かではありますが、本町にお勤めの方が朝食をいただかれてから出勤したり、昼食を食べにきてくださったりしますねぇ。おかげさまで、毎日賑やかです」
「人気店なんですねぇ」
佐竹さんは感心した様に言う。碧は思わず眉尻を下げて「いえいえ」と首を振った。
「会社勤めの方を主なターゲットにしてるので、お客さまが少ない時間帯ももちろんあるんですよ。観光の方は本町そのものに少ないですし、決してそんなに余裕があるわけでは無いんです」
両親が「とくら食堂」を開いたのは、碧が小学校に上がるタイミングだった。それまでお父さんはがんばって働いて資金を貯め、お母さんは碧を主になって育て、パートもしながら、お父さんを支えた。
食品製造会社で営業職に就いていたお父さんは、はやり作り手側に回りたかったのだという。商品開発部に行けないのなら、自分でお店をしたいと考えたのだ。
そして目処が付いたのが、碧が幼稚園のとき。もう年長だったので転園をするのは現実的では無く、碧の小学校入学の時期を待ったのだ。その間にお店を開く場所を決め、不動産屋さんに通って。
そうして碧が小学校1年生の年の5月、碧の誕生日の近くに、「とくら食堂」はオープンしたのだ。
お父さんはそのとき料理人がひとりだったから、朝の4時から仕込みをしていた。お母さんが家事をしてから7時に行くのは変わらなかったが、碧が専門学校を卒業するまでは、お母さんと一緒に行って、バックヤードで、お父さんの美味しい朝ごはんを食べさせてもらっていたのだ。
バックヤードからこっそり覗き見た両親は、きらきらと輝いて見えた。それがとても眩しくて、羨ましくて。自分にもこんな打ち込めるものが欲しい、そう思ったのだ。
そんな背景もあって、碧は大事な大事な「とくら食堂」を、継ぎたいと思う様になっていったのだった。
お世話になっております。
プロフィールを拝見しました。さっそくありがとうございます。
お二人は年齢が離れていて、少し厳しいかな、と思ったのですが、お一人、佐竹さんは一度お会いしてみたいと思いました。
詳細なプロフィールをお送りいただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
そう、最後のひとりの名前は、佐竹祐樹さんとあった。この人だって、詳細を見てみないと判断ができないが、まずはいろんな人と会わないと、と思ったのだ。
会ってお話をしないことには、何も始まらないし、進まない。おこがましいが評価だってできないのだ。
数分後、柏木さんから返信が届いた。
都倉様、お世話になっております。
佐竹様の詳細プロフィールをお送りいたしましたので、お目通しいただけましたら幸いでございます。
お会いになるご意思がございましたら、恐れ入りますがご連絡いただけますでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。
さすが、お仕事が早い。ありがたい。碧はさっそく、佐竹さんの詳細プロフィールに目を通した。
それから数週間後、6月の下旬、碧はなんばのカフェで、ひとりの男性と向かい合っていた。
今日は梅雨のさなかであいにくの雨。それでもなんばに着けば、地下街にもたくさんカフェがあるので、雨に濡れずに済むのである。
なんばは大阪が誇る日本最大級の繁華街で、地下街もかなり発展しているのだ。なんばグランド花月やNMB48劇場、オタロードもあり、文化の発信地とも言える。
ここは、少しレトロ調なおしゃれなカフェだ。お客さまの多くは女性で、女性人気が高いのも頷ける内装である。
碧の目の前で、チャコールグレイのスーツ姿で優雅にアイスコーヒーを飲んでいるのは、佐竹さんである。今日は平日。「とくら食堂」の営業を終え、15時にこのカフェで待ち合わせをした。
佐竹さんも飲食業界で働いているので、土日が書き入れどきである。お休みにするのは難しいとのことで、平日のこの時間になったのだ。
カフェがあるのはNAMBAなんなんの、大阪メトロ御堂筋線の改札側出入口すぐそばである。
先にきていた佐竹さんはアイスコーヒーを頼んでいた。碧は追ってアイスティを注文する。
間も無く運ばれてきたので、ミルクだけを注いでストローでぐるりと混ぜ、口を付けた。
思ったより緊張しているのか、喉の乾きを感じていて、思わず一気に飲みそうになってしまいそうになるが、ぐっとこらえる。代わりにお冷やに手を伸ばした。ごくごくとふた口ほどを飲み下して、やっと落ち着く。気持ちも少しだがほぐれた気がする。
「あの、都倉さんは、お家がお店をされているとか」
独立を目指しているのなら、真っ先に気になるのだろう。初めましての挨拶は済ませているし、特に不躾とは思わず、碧は「はい」と頷いた。
「朝食と昼食を出している食堂なんです」
「場所はどちらなんですか?」
「本町です」
「ああ、それはええとこですね! ビジネス街で、客も会社員ですかね?」
「そうですね。うちは四ツ橋線の本町駅が最寄りなんで、御堂筋より静かではありますが、本町にお勤めの方が朝食をいただかれてから出勤したり、昼食を食べにきてくださったりしますねぇ。おかげさまで、毎日賑やかです」
「人気店なんですねぇ」
佐竹さんは感心した様に言う。碧は思わず眉尻を下げて「いえいえ」と首を振った。
「会社勤めの方を主なターゲットにしてるので、お客さまが少ない時間帯ももちろんあるんですよ。観光の方は本町そのものに少ないですし、決してそんなに余裕があるわけでは無いんです」
両親が「とくら食堂」を開いたのは、碧が小学校に上がるタイミングだった。それまでお父さんはがんばって働いて資金を貯め、お母さんは碧を主になって育て、パートもしながら、お父さんを支えた。
食品製造会社で営業職に就いていたお父さんは、はやり作り手側に回りたかったのだという。商品開発部に行けないのなら、自分でお店をしたいと考えたのだ。
そして目処が付いたのが、碧が幼稚園のとき。もう年長だったので転園をするのは現実的では無く、碧の小学校入学の時期を待ったのだ。その間にお店を開く場所を決め、不動産屋さんに通って。
そうして碧が小学校1年生の年の5月、碧の誕生日の近くに、「とくら食堂」はオープンしたのだ。
お父さんはそのとき料理人がひとりだったから、朝の4時から仕込みをしていた。お母さんが家事をしてから7時に行くのは変わらなかったが、碧が専門学校を卒業するまでは、お母さんと一緒に行って、バックヤードで、お父さんの美味しい朝ごはんを食べさせてもらっていたのだ。
バックヤードからこっそり覗き見た両親は、きらきらと輝いて見えた。それがとても眩しくて、羨ましくて。自分にもこんな打ち込めるものが欲しい、そう思ったのだ。
そんな背景もあって、碧は大事な大事な「とくら食堂」を、継ぎたいと思う様になっていったのだった。
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