27 / 50
3章 碧、マッチングするかも知れない
第4話 寄り添ってくれるのか
しおりを挟む
「ま、言うてもしゃあないです。それこそ昔は電話しか無かったんですから、そんときに比べたらましです。言うてももとより冷静な人が、フォームやチャットを使いはるんで、きっついクレームのほとんどは電話に集中するんですけど」
弓月さんは少し吹っ切れた様に言う。碧に愚痴の様に吐き出したことで、少しは気分転換ができたのだろうか。
だとしたら、小さなことかも知れないが、お客さまのお役に立てたかも知れないことが、とても嬉しい。ここは食堂だから、美味しいごはんで心をほぐしてもらうことが本懐ではあるのだが、こうした何気無い会話でも、和んでもらえたら喜ばしく感じる。
「大変でしょうけど、がんばってくださいね」
碧が言いつつガッツポーズを作ると。
「ありがとうございます。話聞いてもらえて、すっきりしました。こういうの、言える人ってあんまおらんくて。ユーザーのことやから友だちには話しにくいし、同僚との時間はなかなか取れんし、ひとり暮らしやしで」
やはり、弓月さんはひとり暮らしだったか。特に聞いてはいないが、営業している日は毎日こうして朝ごはんを食べにくるので、そうなのではと思っていたのだ。
弓月さんは両親がふたりでやっていたときからのご常連だから、ふたりとはもしかしたらそんな話をしたのかも知れない。
「うちで良ければ、いつでもお話していってくださいね。お聞きすることしかできませんけど」
さすがに混んでいる時間帯だと難しいが、今の様な空いているときなら大歓迎である。それで少しでも弓月さんの、ご常連の心が軽くなるのなら。
お客さまとお話ができるのは、碧にも嬉しいことなのだ。この「とくら食堂」に心を開いてくれている様に思えるから。
「ありがとうございます!」
弓月さんは晴れやかな笑顔を見せた。
数日後、「とくら食堂」閉店後、お家に帰ると、結婚相談所の担当をしてくれている柏木さんから、スマートフォンのアプリに連絡があった。この結婚相談所は会員専用のアプリがあり、登録後は主にそれを介して連絡をしてくれるのだ。
アプリのダウンロードは任意である。しない人はメールやSNSなどで連絡がある。だがやり取りがさらに楽になるということだったので、碧はさっそくダウンロードしていた。
戸倉様、お世話になっております。
何名様か、戸倉様のご条件に合致しそうな男性がいらっしゃいました。
簡潔なプロフィールをお送りさせていただきましたので、ご覧いただけますでしょうか。
気になる方がおられましたら、詳細をお送りいたしますので、お手すきの時にご連絡をいただければ幸いでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
アプリにはいくつかのメニューがあり、メッセージページ、ご紹介ページなどがある。碧はご紹介ページのボタンをタップする。すると未読の3件のプロフィールがリストになっていた。
碧は上から順番に見ていく。顔写真、名前、年齢、血液型、趣味、相手に希望することなどが簡潔に記されている。
ひとりめは45歳の男性だった。脱サラして飲食店をやりたいとの希望で、碧の実家を一緒にやるもの良いのでは、というものだった。
それはありがたいが、やはり年齢の差は気になる。45歳ということは、20歳も歳上である。さすがに離れすぎている。
ふたりめは39歳の男性だった。脱サラして~のくだりは45歳の男性と変わらない。
ただの想像でしか無いが、高卒や大卒などで働き始め、10年から20年ぐらいでお仕事にマンネリを感じ、脱サラを意識したのでは無いだろうか。
飽きがくる、といえば聞こえは良く無いかも知れないが、あらたな道に踏み出したいと思っても不思議では無い年月なのかも知れない。
碧も、「さつき亭」で数年、「とくら食堂」ではまだ数ヶ月、同じ場所でお仕事を続けてきた。内容としては日々同じで、確かに変化には乏しいかも知れない。それでも毎日いっぱいいっぱいになりながら、どうにかやってきた。
だがその期間を過ぎて、慣れが出てきたしまったら。
お仕事を始めて数ヶ月後、平均で半年ぐらいで慣れで慢心が出ると聞く。そうなるとミスが出やすいという。だから碧は「さつき亭」にいるときには、常に初心を心に置いていた。正社員として入社し、店長へとステップアップしても、それは変わらなかった。
それは「とくら食堂」にいる今も同じである。ご常連のお客さまも多いから、確かに日々、あまり代わり映えはしないかも知れないが、大切な朝ごはんを提供するのだから、お客さまに不快な思いはして欲しく無いし、心地良くお仕事に向かえる様にしたいのだ。
このふたりの男性が、その思いに寄り添ってくれるのか。そればっかりはプロフィールを見ただけでは分からないが、何となく難しいものを感じてしまった。これはただの勘なのだが。
そして、最後のひとり。
こちらは29歳で、今も飲食業界で働いていて、独立を目指し、料理人を探しているとあった。既存のお店を一緒に経営する形でも問題無いともあった。
これは、もしやもしや。碧は目を丸くした。
弓月さんは少し吹っ切れた様に言う。碧に愚痴の様に吐き出したことで、少しは気分転換ができたのだろうか。
だとしたら、小さなことかも知れないが、お客さまのお役に立てたかも知れないことが、とても嬉しい。ここは食堂だから、美味しいごはんで心をほぐしてもらうことが本懐ではあるのだが、こうした何気無い会話でも、和んでもらえたら喜ばしく感じる。
「大変でしょうけど、がんばってくださいね」
碧が言いつつガッツポーズを作ると。
「ありがとうございます。話聞いてもらえて、すっきりしました。こういうの、言える人ってあんまおらんくて。ユーザーのことやから友だちには話しにくいし、同僚との時間はなかなか取れんし、ひとり暮らしやしで」
やはり、弓月さんはひとり暮らしだったか。特に聞いてはいないが、営業している日は毎日こうして朝ごはんを食べにくるので、そうなのではと思っていたのだ。
弓月さんは両親がふたりでやっていたときからのご常連だから、ふたりとはもしかしたらそんな話をしたのかも知れない。
「うちで良ければ、いつでもお話していってくださいね。お聞きすることしかできませんけど」
さすがに混んでいる時間帯だと難しいが、今の様な空いているときなら大歓迎である。それで少しでも弓月さんの、ご常連の心が軽くなるのなら。
お客さまとお話ができるのは、碧にも嬉しいことなのだ。この「とくら食堂」に心を開いてくれている様に思えるから。
「ありがとうございます!」
弓月さんは晴れやかな笑顔を見せた。
数日後、「とくら食堂」閉店後、お家に帰ると、結婚相談所の担当をしてくれている柏木さんから、スマートフォンのアプリに連絡があった。この結婚相談所は会員専用のアプリがあり、登録後は主にそれを介して連絡をしてくれるのだ。
アプリのダウンロードは任意である。しない人はメールやSNSなどで連絡がある。だがやり取りがさらに楽になるということだったので、碧はさっそくダウンロードしていた。
戸倉様、お世話になっております。
何名様か、戸倉様のご条件に合致しそうな男性がいらっしゃいました。
簡潔なプロフィールをお送りさせていただきましたので、ご覧いただけますでしょうか。
気になる方がおられましたら、詳細をお送りいたしますので、お手すきの時にご連絡をいただければ幸いでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
アプリにはいくつかのメニューがあり、メッセージページ、ご紹介ページなどがある。碧はご紹介ページのボタンをタップする。すると未読の3件のプロフィールがリストになっていた。
碧は上から順番に見ていく。顔写真、名前、年齢、血液型、趣味、相手に希望することなどが簡潔に記されている。
ひとりめは45歳の男性だった。脱サラして飲食店をやりたいとの希望で、碧の実家を一緒にやるもの良いのでは、というものだった。
それはありがたいが、やはり年齢の差は気になる。45歳ということは、20歳も歳上である。さすがに離れすぎている。
ふたりめは39歳の男性だった。脱サラして~のくだりは45歳の男性と変わらない。
ただの想像でしか無いが、高卒や大卒などで働き始め、10年から20年ぐらいでお仕事にマンネリを感じ、脱サラを意識したのでは無いだろうか。
飽きがくる、といえば聞こえは良く無いかも知れないが、あらたな道に踏み出したいと思っても不思議では無い年月なのかも知れない。
碧も、「さつき亭」で数年、「とくら食堂」ではまだ数ヶ月、同じ場所でお仕事を続けてきた。内容としては日々同じで、確かに変化には乏しいかも知れない。それでも毎日いっぱいいっぱいになりながら、どうにかやってきた。
だがその期間を過ぎて、慣れが出てきたしまったら。
お仕事を始めて数ヶ月後、平均で半年ぐらいで慣れで慢心が出ると聞く。そうなるとミスが出やすいという。だから碧は「さつき亭」にいるときには、常に初心を心に置いていた。正社員として入社し、店長へとステップアップしても、それは変わらなかった。
それは「とくら食堂」にいる今も同じである。ご常連のお客さまも多いから、確かに日々、あまり代わり映えはしないかも知れないが、大切な朝ごはんを提供するのだから、お客さまに不快な思いはして欲しく無いし、心地良くお仕事に向かえる様にしたいのだ。
このふたりの男性が、その思いに寄り添ってくれるのか。そればっかりはプロフィールを見ただけでは分からないが、何となく難しいものを感じてしまった。これはただの勘なのだが。
そして、最後のひとり。
こちらは29歳で、今も飲食業界で働いていて、独立を目指し、料理人を探しているとあった。既存のお店を一緒に経営する形でも問題無いともあった。
これは、もしやもしや。碧は目を丸くした。
1
あなたにおすすめの小説
あやかしが家族になりました
山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ
いつもありがとうございます。
当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。
ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。
一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。
ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。
そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。
真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。
しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。
家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
新世界に恋の花咲く〜お惣菜酒房ゆうやけは今日も賑やかに〜
山いい奈
キャラ文芸
由祐は大阪の新世界に自分の定食屋を持とうと、物件の内覧をしていた。
そのとき、鬼と出会う。理想の物件に住み着いているのだ。
お酒が苦手な由祐はお酒を扱わないお店にしたかったのだが、それは許さないと鬼は言う。
そもそも新世界で飲食業をするのに、お酒無しはあり得ないと。
由祐は鬼にお酒の美味しさを味わわせてもらい、友人の深雪ちゃんにも協力してもらって、お酒に馴染んでいく。
そして鬼の物件で無事自分のお店「お惣菜酒房 ゆうやけ」を開くことができたのだった。
メインのお客さまとなるあやかしの、なぜかの恋愛相談。
深雪ちゃんと婚約者さんの騒動。
由祐の生い立ちに関わるできごと。
そして、由祐と鬼の距離感。
「ゆうやけ」を切り盛りしながら、騒々しくも楽しい日々が流れていく。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】「かわいそう」な公女のプライド
干野ワニ
恋愛
馬車事故で片脚の自由を奪われたフロレットは、それを理由に婚約者までをも失い、過保護な姉から「かわいそう」と口癖のように言われながら日々を過ごしていた。
だが自分は、本当に「かわいそう」なのだろうか?
前を向き続けた令嬢が、真の理解者を得て幸せになる話。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる