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3章 碧、マッチングするかも知れない
第4話 寄り添ってくれるのか
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「ま、言うてもしゃあないです。それこそ昔は電話しか無かったんですから、そんときに比べたらましです。言うてももとより冷静な人が、フォームやチャットを使いはるんで、きっついクレームのほとんどは電話に集中するんですけど」
弓月さんは少し吹っ切れた様に言う。碧に愚痴の様に吐き出したことで、少しは気分転換ができたのだろうか。
だとしたら、小さなことかも知れないが、お客さまのお役に立てたかも知れないことが、とても嬉しい。ここは食堂だから、美味しいごはんで心をほぐしてもらうことが本懐ではあるのだが、こうした何気無い会話でも、和んでもらえたら喜ばしく感じる。
「大変でしょうけど、がんばってくださいね」
碧が言いつつガッツポーズを作ると。
「ありがとうございます。話聞いてもらえて、すっきりしました。こういうの、言える人ってあんまおらんくて。ユーザーのことやから友だちには話しにくいし、同僚との時間はなかなか取れんし、ひとり暮らしやしで」
やはり、弓月さんはひとり暮らしだったか。特に聞いてはいないが、営業している日は毎日こうして朝ごはんを食べにくるので、そうなのではと思っていたのだ。
弓月さんは両親がふたりでやっていたときからのご常連だから、ふたりとはもしかしたらそんな話をしたのかも知れない。
「うちで良ければ、いつでもお話していってくださいね。お聞きすることしかできませんけど」
さすがに混んでいる時間帯だと難しいが、今の様な空いているときなら大歓迎である。それで少しでも弓月さんの、ご常連の心が軽くなるのなら。
お客さまとお話ができるのは、碧にも嬉しいことなのだ。この「とくら食堂」に心を開いてくれている様に思えるから。
「ありがとうございます!」
弓月さんは晴れやかな笑顔を見せた。
数日後、「とくら食堂」閉店後、お家に帰ると、結婚相談所の担当をしてくれている柏木さんから、スマートフォンのアプリに連絡があった。この結婚相談所は会員専用のアプリがあり、登録後は主にそれを介して連絡をしてくれるのだ。
アプリのダウンロードは任意である。しない人はメールやSNSなどで連絡がある。だがやり取りがさらに楽になるということだったので、碧はさっそくダウンロードしていた。
戸倉様、お世話になっております。
何名様か、戸倉様のご条件に合致しそうな男性がいらっしゃいました。
簡潔なプロフィールをお送りさせていただきましたので、ご覧いただけますでしょうか。
気になる方がおられましたら、詳細をお送りいたしますので、お手すきの時にご連絡をいただければ幸いでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
アプリにはいくつかのメニューがあり、メッセージページ、ご紹介ページなどがある。碧はご紹介ページのボタンをタップする。すると未読の3件のプロフィールがリストになっていた。
碧は上から順番に見ていく。顔写真、名前、年齢、血液型、趣味、相手に希望することなどが簡潔に記されている。
ひとりめは45歳の男性だった。脱サラして飲食店をやりたいとの希望で、碧の実家を一緒にやるもの良いのでは、というものだった。
それはありがたいが、やはり年齢の差は気になる。45歳ということは、20歳も歳上である。さすがに離れすぎている。
ふたりめは39歳の男性だった。脱サラして~のくだりは45歳の男性と変わらない。
ただの想像でしか無いが、高卒や大卒などで働き始め、10年から20年ぐらいでお仕事にマンネリを感じ、脱サラを意識したのでは無いだろうか。
飽きがくる、といえば聞こえは良く無いかも知れないが、あらたな道に踏み出したいと思っても不思議では無い年月なのかも知れない。
碧も、「さつき亭」で数年、「とくら食堂」ではまだ数ヶ月、同じ場所でお仕事を続けてきた。内容としては日々同じで、確かに変化には乏しいかも知れない。それでも毎日いっぱいいっぱいになりながら、どうにかやってきた。
だがその期間を過ぎて、慣れが出てきたしまったら。
お仕事を始めて数ヶ月後、平均で半年ぐらいで慣れで慢心が出ると聞く。そうなるとミスが出やすいという。だから碧は「さつき亭」にいるときには、常に初心を心に置いていた。正社員として入社し、店長へとステップアップしても、それは変わらなかった。
それは「とくら食堂」にいる今も同じである。ご常連のお客さまも多いから、確かに日々、あまり代わり映えはしないかも知れないが、大切な朝ごはんを提供するのだから、お客さまに不快な思いはして欲しく無いし、心地良くお仕事に向かえる様にしたいのだ。
このふたりの男性が、その思いに寄り添ってくれるのか。そればっかりはプロフィールを見ただけでは分からないが、何となく難しいものを感じてしまった。これはただの勘なのだが。
そして、最後のひとり。
こちらは29歳で、今も飲食業界で働いていて、独立を目指し、料理人を探しているとあった。既存のお店を一緒に経営する形でも問題無いともあった。
これは、もしやもしや。碧は目を丸くした。
弓月さんは少し吹っ切れた様に言う。碧に愚痴の様に吐き出したことで、少しは気分転換ができたのだろうか。
だとしたら、小さなことかも知れないが、お客さまのお役に立てたかも知れないことが、とても嬉しい。ここは食堂だから、美味しいごはんで心をほぐしてもらうことが本懐ではあるのだが、こうした何気無い会話でも、和んでもらえたら喜ばしく感じる。
「大変でしょうけど、がんばってくださいね」
碧が言いつつガッツポーズを作ると。
「ありがとうございます。話聞いてもらえて、すっきりしました。こういうの、言える人ってあんまおらんくて。ユーザーのことやから友だちには話しにくいし、同僚との時間はなかなか取れんし、ひとり暮らしやしで」
やはり、弓月さんはひとり暮らしだったか。特に聞いてはいないが、営業している日は毎日こうして朝ごはんを食べにくるので、そうなのではと思っていたのだ。
弓月さんは両親がふたりでやっていたときからのご常連だから、ふたりとはもしかしたらそんな話をしたのかも知れない。
「うちで良ければ、いつでもお話していってくださいね。お聞きすることしかできませんけど」
さすがに混んでいる時間帯だと難しいが、今の様な空いているときなら大歓迎である。それで少しでも弓月さんの、ご常連の心が軽くなるのなら。
お客さまとお話ができるのは、碧にも嬉しいことなのだ。この「とくら食堂」に心を開いてくれている様に思えるから。
「ありがとうございます!」
弓月さんは晴れやかな笑顔を見せた。
数日後、「とくら食堂」閉店後、お家に帰ると、結婚相談所の担当をしてくれている柏木さんから、スマートフォンのアプリに連絡があった。この結婚相談所は会員専用のアプリがあり、登録後は主にそれを介して連絡をしてくれるのだ。
アプリのダウンロードは任意である。しない人はメールやSNSなどで連絡がある。だがやり取りがさらに楽になるということだったので、碧はさっそくダウンロードしていた。
戸倉様、お世話になっております。
何名様か、戸倉様のご条件に合致しそうな男性がいらっしゃいました。
簡潔なプロフィールをお送りさせていただきましたので、ご覧いただけますでしょうか。
気になる方がおられましたら、詳細をお送りいたしますので、お手すきの時にご連絡をいただければ幸いでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
アプリにはいくつかのメニューがあり、メッセージページ、ご紹介ページなどがある。碧はご紹介ページのボタンをタップする。すると未読の3件のプロフィールがリストになっていた。
碧は上から順番に見ていく。顔写真、名前、年齢、血液型、趣味、相手に希望することなどが簡潔に記されている。
ひとりめは45歳の男性だった。脱サラして飲食店をやりたいとの希望で、碧の実家を一緒にやるもの良いのでは、というものだった。
それはありがたいが、やはり年齢の差は気になる。45歳ということは、20歳も歳上である。さすがに離れすぎている。
ふたりめは39歳の男性だった。脱サラして~のくだりは45歳の男性と変わらない。
ただの想像でしか無いが、高卒や大卒などで働き始め、10年から20年ぐらいでお仕事にマンネリを感じ、脱サラを意識したのでは無いだろうか。
飽きがくる、といえば聞こえは良く無いかも知れないが、あらたな道に踏み出したいと思っても不思議では無い年月なのかも知れない。
碧も、「さつき亭」で数年、「とくら食堂」ではまだ数ヶ月、同じ場所でお仕事を続けてきた。内容としては日々同じで、確かに変化には乏しいかも知れない。それでも毎日いっぱいいっぱいになりながら、どうにかやってきた。
だがその期間を過ぎて、慣れが出てきたしまったら。
お仕事を始めて数ヶ月後、平均で半年ぐらいで慣れで慢心が出ると聞く。そうなるとミスが出やすいという。だから碧は「さつき亭」にいるときには、常に初心を心に置いていた。正社員として入社し、店長へとステップアップしても、それは変わらなかった。
それは「とくら食堂」にいる今も同じである。ご常連のお客さまも多いから、確かに日々、あまり代わり映えはしないかも知れないが、大切な朝ごはんを提供するのだから、お客さまに不快な思いはして欲しく無いし、心地良くお仕事に向かえる様にしたいのだ。
このふたりの男性が、その思いに寄り添ってくれるのか。そればっかりはプロフィールを見ただけでは分からないが、何となく難しいものを感じてしまった。これはただの勘なのだが。
そして、最後のひとり。
こちらは29歳で、今も飲食業界で働いていて、独立を目指し、料理人を探しているとあった。既存のお店を一緒に経営する形でも問題無いともあった。
これは、もしやもしや。碧は目を丸くした。
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