とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈

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4章 碧、転機を迎える

第9話 デートなんてものでは無く

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「どんなカフェやったんですか? 今ってレトロカフェも流行ったりしてますよねぇ」

「あ、まさにそんな、いわゆるレトロカフェです。ぼくらの親世代が懐かしいって言いはるような」

 それこそ昭和からある様なレトロカフェの人気はここ数年続いていて、大阪なら大阪駅前ビルや、新世界しんせかいに多くある印象である。

 大阪の梅田うめだは言わずと知れた大阪の繁華街のひとつで、キタと呼ばれ、日々大勢の、主に若者が繰り出す街だ。

 今注目されているのは、うめきたエリアと呼ばれている近年整地されたエリアだ。大阪中央郵便局跡地にできた商業施設のKITTEきって大阪は郵便局の一部装飾を受け継いでいて、それを懐かしがる人が訪れたりもする。

 もちろん昔からある東通ひがしどおり商店街やお初天神通はつてんじんどおり商店街、茶屋町ちゃやまち周辺も健在である。

 大阪駅前ビルは梅田の西側に位置し、広大な4棟のビルで構成されていて、1ビルから4ビルと呼ばれて親しまれている。竣工が1970年の4月という歴史もあり、長年続いているお店も多い。

 新世界も大阪の昔ながらの気配を残す街である。シンボルである展望塔の通天閣つうてんかく、その竣工は1912年7月で、それが新世界という街の始まりでもある。

 今でこそ飲食店や遊戯店などがひしめいているが、通天閣と同時に開業したのは遊園地であるルナパークだった。

 今でこそ若者や家族連れ、インバウンドなどで大いに賑わっているが、昔は治安の悪い街として有名だった。女性が近付くなんてとんでもないなんて言われていた。

 串かつ発祥のお店といわれる「だるま」さんの本店があるのもこの新世界である。だからなのか、新世界にある多くの飲食店では串かつをいただくことができるのだ。

「それやったら、穏やかでええお時間やったんでしょうねぇ。もちろんティタイムやったらそれなりにお忙しい時間もあったんでしょうけど」

「それがそうでも無くて。なんちゅうか、知る人ぞ知る店って感じのとこで、マスターこだわりの、サイフォンで淹れたコーヒーとか、ポットで抽出する紅茶とか、そういうのが飲める店でした。フードはカレーとピラフとナポリタンだけで、ケーキは近くのケーキ屋さんから卸してもらってましたね」

「それは、何だか憧れますねぇ~。おとなの喫茶店なんですね」

「そうですね。お客は年配の人も多かったですからね」

 この日はこうした過去話などに花が咲いた。主に渡辺わたなべさんのアルバイト時代のお話になったが、やはり飲食店のお話は興味深い。ジャンルこそ違えど同じ業態だから、お勉強にもなるのだ。

 レストランのお昼営業が終わる14時になると、そのままホテル内のカフェに移動し、贅沢なコーヒーをいただきながら、またお話をする。

 将来を見据える様なお話などは特にしなかったが、そう急ぐことでも無い。急いては事を仕損じる、では無いが、焦ってお話を進めてしまえば、大事なことを見落としてしまうかも知れないのだ。

 他にはあおの前職のお話などをして、15時ごろ、この日はお開きになったのだった。



 本町ほんまちのお家に帰ると、お父さんはおらず、お母さんは床に掃除機を掛けている様で、玄関にまで稼働音が届いてきた。

「ただいま~」

 碧がリビングに顔を出すと、お母さんは掃除機のスイッチを切って、碧を迎えてくれる。

「おかえり~。どうやった? デート」

「デートやなんて大げさなもんや無いよ。会っとっただけやって」

「何言うてるん。一応結婚を考えてるであろう男女が会うんやから、デートや無いん?」

 日傘があったとはいえ炎天下のお外を歩いて喉が渇いた碧は、冷蔵庫から麦茶ポットを出しながら「あはは」と笑う。

「あんまそんな感じせんかったなぁ。今日は渡辺さんがしてはったバイトのお話と、「やよい亭」のお話をしたぐらい。ああ、でもそれでもねぇ、やっぱりええ人そうかな、とは思ったわ」

 碧は冷たい麦茶をグラスに注ぎ、ぐいと一気にあおった。まだまだ夏真っ盛り。水分はまめに補給しなくては。

 碧は開いたグラスをキッチンの作業台に置くと、掃除を再開し始めたお母さんのところに行く。

「お手伝いある?」

「掃除はこれで終わり。あ、それやったら洗濯物取り込んで畳み始めてくれる? 今日はええ天気やし、もう渇いてるやろ」

「はーい。その前に部屋着に着替えよ」

 碧は着替えるために、まずは自室に入ったのだった。



 お父さんはお母さんと碧が洗濯物を畳んでいる間に、エコバッグをぱんぱんにして帰ってきた。と思えば、いつもの定休日の晩ごはんの支度時間より早く、取り掛かり始めた。

「お父さん、わたし、何したらええ?」

 碧がキッチンに顔を出すと、お父さんはふるりと首を振って。

「今日はのんびりしとき。疲れたやろ」

「え、あんま疲れては無いけど、え、何で?」

 碧が不思議に思って首をかしげると。

「ええから、ええから」

 にこにことそう言われ、言葉だけで押し戻されてしまう。

 そうして2時間が経ったころ、ダイニングテーブルに並んでいたのは、こんがりと焼かれたローストチキン、色彩豊かなカプレーゼ、艶やかなスモークサーモンとアスパラガスのクリームパスタ、ふっくらとした鯛とプロッコリのフリット、鮮やかなシーザーサラダだった。

 いつもは一汁三菜なのだが、今日は碧にとってはいつも以上のごちそうだ。どうしたのかとお揃いた顔でお父さんを見ると、お父さんは嬉しそうな顔で。

「今日は碧がデートやったからな、お祝いや」

「えええええ」

 全く、お母さんといいお父さんといい、なぜ親が浮かれているのか。でも碧は両親のその気持ちが嬉しくて、思わず「ふふ」と笑みを浮かべたのだった。
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