新世界に恋の花咲く〜お惣菜酒房ゆうやけは今日も賑やかに〜

山いい奈

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3章 それは誰の幸せか

第3話 ささやかなお手伝い

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 なぜ由祐ゆう? どういうことだ。由祐は混乱してしまう。何かをあげるということは、その規模はどうであれ、きっと思いと好意を乗せるもの。それに由祐が関係があるのか?

「え、あ、もらって嬉しいもんですか? プレゼントってことですかね?」

「そうです」

 由祐は戸惑いながらも、男性からのプレゼントで嬉しいものを思い浮かべる。由祐はあまりにも異性関係が乏しいので、なかなか難しいのだが。

「……無難なのは、ネックレスとかのアクセサリですかね? 指輪以外で。入浴剤とかもありですかね。これから寒くなるからマフラーとか。あとは消え物。お菓子とかお花とか。あ、消え物では無いですけど、プリザーブドフラワーはええインテリアになるかもですね」

「なるほど」

 大村おおむらさんは興味深げに何度も小さく頷く。

「どなたかに、贈り物をされるんですか?」

 由祐が何気無さを装って聞くと、大村さんはぽっと顔を赤くした。照れながら。

「あの、職場の同僚に良くしてもろてるんで、何かお礼ができたらと思って」

 ……ああ、これが多分、久田くださんが言っていた、大村さんに関わる恋愛ごとなのだろう。大村さんがその同僚さんにどれぐらいお世話になったのかは分からないが、そういったお礼に正直アクセサリとかは重いのでは無いだろうか。

「あの、差し出がましいかも知れないですけど、同僚さんへのお礼やったら、えっと、こう、小袋のお菓子とか、缶コーヒーとかペットボトルのお茶とか、そんな何気無いもんの方がええかも知れないですかねぇ」

 由祐が言うと、大村さんはしょんぼりと肩を落とす。

「そうでしょうか……」

「そんな軽いもんからの方がええかなって、同じ女性の立場からですけど、思いますねぇ」

「そんなもんなんですか……!」

 大村さんは少し気を取り直したのか、顔を上げた。

「はい。で、それが好きとか美味しいとか、お話のきっかけになったりね、するかも知れませんね。あ、甘いもん好きかは分からんので、リサーチとかできたらええですね。でもちっちゃいもんやったら、そこまで気にせんでも大丈夫かな」

「あ、そうですね、女性やからって甘いもん好きとは限りませんもんね。時代は変わったもんなぁ」

 あやかしである大村さんも、長い時間を生きてきて、いろいろな時代、価値観の変遷を見てきたのだろう。由祐はスイーツ好きに男女の壁などは無いと思っているし、良く来てくれる平井ひらいさんも、締めには抹茶スイーツを頼むことが多々ある。

 以前は「甘いもんは女子どもの食うもん」なんて価値観があって、今もそう思っている男性だっているだろう。だがカフェに行けば、男性だって生クリームたっぷりのパンケーキに向き合っていたりする。シュークリームなどならコンビニで手軽に買うこともできるのだ。

 ちなみに由祐は以前はお酒を避けていたのだが、実はそう甘党というわけでは無い。だが辛党でも無い。だがスイーツは食べたいときに当たり前に食べるし、言うまでも無いが抹茶スイーツには目が無いのである。

「でも、スイーツやったら、どんなんがええんやろ。ぼく、恥ずかしいけど男がスイーツなんてって時代の人間なんで、よう分からんわ」

 大村さんが弱った様に頬を掻く。何とも微笑ましい。見た目30歳代の大村さんだが、多くの時代を生きてきて、アップデートできることとできないことがあるのかも知れない。

「オーソドックスなところやったら、アンリさんのフィナンシェとか、ゴディバさんのクッキーとか、ですかね? 数個入りのがあって、1,000円以内で買えますし、お手頃やろうかなって思います。ある程度日持ちもしますし、個包装やからお仕事しながらとかでも食べやすいですしね。季節限定のフレイバーがあったりもしますし。他にもそういうの出してはるお店ありますから、行ってみたらええと思いますよ。この辺やったらハルカスの近鉄きんてつさんかなんばの高島屋たかしまやさんですかね? どちらにもアンリさんとゴディバさん、入ってますよ」

 アンリ・シャルパンティエさんは、兵庫県芦屋あしや市に本店を置く洋菓子店で、看板商品のフィナンシェは日本一の年間販売個数を誇り、ギネス記録にもなっている。フィナンシェに使われているアーモンドはパウダーでは無く、実を仕入れて工場で挽いているそうで、その仕上がりの香りは群を抜いているそうだ。

 ゴディバさんはベルギーの首都ブリュッセルで誕生し、本店を持つ、ベルギー王室御用達の高級チョコレートブランドである。本社はアメリカのニューヨークに置かれている。世界中で展開されていて、その美味にファンを多く持つ。

 すると大村さんは「ああ~……」とそわそわする。

「ぼくみたいな大柄なおっさんが、そんなきらきらしたところに行ってもええんやろか。何や恥ずかしいちゅうか」

「それやったら、よろしかったら、次のここのお休みの日で良ければ、わたしが見に行ってみましょか? お渡しする方のお好みとかを聞いてくれはったら、見繕ってみますけど」

「ええんですか!?」

 大村さんが腰を浮かして前のめりになる。そのかっと開かれた目が語るのは、助かった、とか、ありがたい、とか、そんな感情に見える。

「わたしで良ければ、見てきますよ。よろしければ、差し上げる分と、大村さんのお味見用でふたつ買ってきましょうか」

「あ、それは助かります。味分からんもんあげるんも申し訳無いし。でも由祐ちゃんが選んでくれるもんやったら、確実に美味しいでしょうから、ほんまに助かります」

「お休みの日は、なんばの旭屋あさひや書店さんに行くことが多いんですよ。そっからすぐですからね、高島屋さん。デパ地下のスイーツは確実ですよ。とりあえず差し上げる方のリサーチをお願いしたいです。和菓子好きか洋菓子好きか、甘いもんが苦手やったらおせんべいとかが良かったりもしますし」

「は、はい。今一緒に仕事してるんで、世間話をするチャンスはあると思います。お願いします、ありがとうございます」

「いえいえ、とんでも無いですよ」

 お相手が人間のお嬢さんだということは気になる。だがあやかしだろうが人間だろうが、誰かを想う気持ちは尊いもので、止められるものでは無い。由祐は「ええ様になったらええな」と心をほっこりさせたのだった。
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