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4 羅生門
4-4 呪いの谷
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甲冑を脱ぐ間もなく、今こうして帰陣した。
夢のようであった。
幾たびの戦を重ね、鎧の重みすら忘れていた日々を思えば、この静けさがかえって現とも思えない。
遠く、馬の嘶きが微かに残るだけで、あたりはすでに冬の気配に包まれていた。
谷を渡る風は、どこか湿り気を帯びていた。
戦の火がようやく鎮まったというのに、空気の底には澱むものがある。
一益は馬上から見下ろし、ふと、その谷が鎌掛であることに思い至った。
軍勢を引き払った一益は、峠の入り口で津田秀重に兵を任せ、江南に残った。
義太夫が信楽院に送った重丸の亡骸は、本来の重丸の墓である五輪塔の下に埋葬されていた。
忠三郎は例のごとく、五輪塔の前にしゃがみ、虫の声に耳を傾けていた。
「思いきや 虫の音しげき 浅芽に
君を見捨てて かへるべしとは」
聞いたような歌だと思った。
平安の昔、十五で夭折した近衛天皇の死を悼んだ歌だと、ふと思い出す。
一益が忠三郎の背後に近づいていくと、傍にいた町野左近が気づいて頭を下げる。
「前々から、聞きたいと思うていたことじゃが…」
四方から虫の声が響くなか、静かに問いかける。
「そなたはここでわしに会う前から、すみれの墓に花を手向けてくれていた。何故、そのようなことをしていた?」
重丸の墓に別人が埋葬されている話を聞いた時から、不思議に思っていた。
忠三郎は振り返り、ふっと笑みを浮かべて言った。
「毎年ここに…女人の死を悼む方がお参りになることは知っておりましたゆえ」
言葉を区切り、少し恥ずかしそうに微笑みながら続ける。
「人の命がたやすく捨てられるこの乱世においても、母を失った悲しみは計り知れず、同じように誰かを失い悲しむ者が毎年ここに訪れるのなら…一人で悲しんでいるのなら…共にいたいと、そう思うて」
一益は心のうちで、あの心優しい貴人の子らしいと感じた。
「それは誰であってもよかったが…。誰なのか、知りたくもありました。よもや義兄上だったとは。まことに人の縁とは不思議なもの」
忠三郎は何年もずっと、一益と同じ思いでここに来ていたという。
「母上が、義兄上に会わせて下された。ここで会うたのが義兄上でよかった」
忠三郎の思いは測りかねるが、毎年人知れずここに訪れ、すみれの死を悼む一益の悲しみに近づこうとしていたのだ。
(それが本来のそなたの姿か)
悲しむ者と共にいて、共に悲しみたいと願うのが忠三郎の真の姿なのだと、一益は思った。
(ロレンソが、似たようなことを言うておったな)
岐阜城で再会したとき、去り際にロレンソが言った。
『喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣け』
ロレンソのいうことは、こういうことなのだろうか。
「鶴、そのような顔をして一人で抱えるな」
「義兄上…」
忠三郎の顔を見れば、何を考えここにしゃがみ込んでいたのか分かった。
甲賀を出たあの日、自らの無力さに泣いたあの日を思い出した。
(では、此度は、わしを、そなたの悲しみに近づかせてくれ。口に出せないその悲しみに…)
一益は忠三郎の肩を掴み、言葉をかける。
「そなたの痛みは、ようわかっておる」
忠三郎は黙って一益を見つめ、唇を噛みしめて頷いた。
「しばし、この場で月を楽しむとしよう」
一益が夜空を仰ぐと、今年も変わらず美しい月がそこにあった。
「今宵も月は変わらず美しい。今年も、晴れていてよかった」
忠三郎も月を見上げ、微笑んだ。
***
忠三郎が中野城に戻ったとき、すでに合戦勝利の宴は幕を閉じ、家臣たちはそれぞれの屋敷へと戻っていた。
「皆、笑って帰ったのであれば、それでよし」
広間に残る酒の香と食い散らかされた膳を横目に、忠三郎は静かに居間へと足を運んだ。
まもなく、膳番の河北新介が折敷を抱えて現れる。
「若殿が祝宴におられぬ故、皆、早々に引き揚げました」
「然様か。喉が渇いた。まず、水をくれ」
忠三郎は差し出された茶碗を両手で受け取り、一息に干す。
河北新介は、忠三郎よりわずかに年上。朝夕に顔を合わせる、気心の知れた相手だ。
「若殿、そのようにじっと見られては、食が進みませぬ」
「よいよい。はやう食え。わしも腹が減って目が回る」
「ハッ。では、お毒味仕る」
新介は箸を取り、穏やかに一口。
「うむ、今日もよい炊き加減にございます」
評定でもするように言うその様子に、忠三郎は思わず笑って言った。
「ちと待て。その一口は大きすぎるではないか。わしの分が減るわ」
「このくらいが、ちょうどかと」
だが、そのときだった。
折敷を掴みかけた新介が、ふいに呻き、口を押さえた。
「何を戯けたことを…」
言いかけて、忠三郎は息を呑む。
新介の口元から、泡が滲み出し、胸元を掻きむしるようにして、苦悶の声を漏らした。
「新介! どうした――!」
駆け寄ったが早いか、新介は青ざめた顔のまま、その場に崩れ落ちた。
忠三郎は怒声をあげた。
「誰か、誰かおるか!」
大声で人を呼ぶと、ただならぬ様子を聞きつけた家人が飛んできた。
「何事…これは!」
「毒を盛られた。薬師を呼べ」
家臣たちが慌てて現れ、河北新介を運び去っていく。
(またか…)
喉の奥が焼けるように熱いのに、口は渇いて声が出なかった。ここ数日、ようやく平穏が戻ってきたかに思えた矢先だった。重丸が討たれたのち、これで呪いの連鎖は断ち切られたと――そう、信じたはずだった。
(助かるまい)
そう呟いた心は、既に答えを知っていた。今まで毒に倒れた者が、ふたたび元気な姿を見せたことなど、一度としてないのだ。
膳番の者が代わりに死ぬだけ――。そんな理屈は、誰よりも忠三郎自身が知っていた。
(なぜ、かようなことを…)
怒りと悔しさが同時に胸にこみ上げ、拳が震えた。歯を食いしばりながら、固く握りしめたその拳で、何度も床板を叩いた。音を立てて揺れる床の木目が、涙で滲んだ視界に揺らいで見える。
そこへ、滝川助太郎が息を切らしながら駆け込んできた。
「忠三郎様!」
振り向いた忠三郎の顔を見て、助太郎は一瞬言葉を失う。だが、すぐにその使命を思い出し、声を張った。
「殿からの急報です。手勢をまとめ、音羽城へ向かえとのご下知!」
「音羽城?何故に?」
口の中にまだ鉄の味が残っていた。訳も分からず訊ねた忠三郎に、助太郎は真剣な目で言った。
「道々お話いたしましょう。さ、早う」
助太郎の手が、忠三郎の腕をしっかりと支えた。忠三郎は、まだしっくりこない思考のまま、ぼんやりとした足取りで立ち上がった。
脇に置かれていた刀を掴む。鞘の冷たさが、ようやく意識を現に引き戻した。
まだ、河北新介の体温が腕に残っていた。
時は信楽院で忠三郎と別れたところまで遡る。
「城では戦勝祝いの宴の最中。義兄上も、ぜひお越しくだされ」
忠三郎にそう誘われたが、一益は首を横に振った。
「いや。ちと用がある」
短く応じると、義太夫や木全彦一郎ら甲賀衆を伴い、音羽城へと馬を進めた。
城の近くまで来ると、草むらの中から滝川助九郎と藤九郎がぬっと姿を現す。
「杉谷の者たちは?」
「はい。殿の読み通りでござります」
「やはりそうか」
忠三郎はかつて音羽城で杉谷勢と対峙している。一度逃れた敵は、追っては来まいと踏んで、再びこの地へ戻ってくると読んでいた。予感は的中した。
「人数は揃っているか?」
「いえ、まだ四、五人といったところ。三九郎様の姿も見えませぬ」
しばし、城の周囲で息を潜め、様子を伺った。
やがて小半刻が過ぎ、城門の影に十余りの人影が現れ、ぞろぞろと中へ入っていった。
「あれで全てでは?」
「思ったより多い。仕掛けても何人か、取り逃がすじゃろう」
一益は顎に手をやり、黙して思案する。
ここで逃せば、次はあるまい。討ち果たすか、捕らえるか、いずれにせよ一網打尽にせねばならない。
「やむを得ぬ。助太郎を走らせ、鶴を呼べ。急げ」
「はっ」
使いを走らせたのち、一益は腰の太刀を確認しながら、静かに草むらに身を沈めた。
「此度は、一人たりとも逃がすな。取り囲め。捕えられる者は捕え、逃げれば斬れ」
低く放たれたその命に、甲賀衆たちは一様に頷く。
しばらくして、忠三郎が手勢を率いて駆けつけた。甲冑の音も、鬨の声もなく、ただ土煙だけが尾を引いて迫ってくる。
「義兄上、音羽城に杉谷衆が?」
「そなたは手勢を連れ城門から行け。我らは鎌掛谷から間道を通って城内に入る」
忠三郎にそう告げると、助太郎に案内を頼み、鎌掛谷を目指した。
鎌掛谷――それは音羽山の北東、深い山裾に隠れるように続く旧道である。谷筋に沿って細く伸びる山道は、岩と苔に覆われ、昼なお薄暗い。湿気を帯びた風が木々の隙間を縫って抜け、鳥の声もまばらだった。
「殿。こちらへ」
助太郎が指さす獣道のような細道を、一行は馬を降りて進む。足元に敷き詰められた落ち葉は、踏むたびにしっとりと沈み込むようで、山に呑まれていくような錯覚に襲われた。
「この辺りは…妙じゃな」
一益が立ち止まり、振り返って言った。周囲に漂う気配に、義太夫も首をすくめるように頷く。
「妙でござりますな。この辺りは何と申したかな?」
「土地の者どもは藪岨《やぶそ》と呼んでいたような…」
助太郎が答える。
藪岨――風葬の地として忌み嫌われた場所の名だ。かつては日野のみならず、各地にあり、いまもその名が残るという。
「この先は土地の者に地獄谷と呼んでおりました」
一益は小さく笑った。笑いながらも、その名に漂う異様な重さを感じ取っていた。
「鶴は…呪われた地と教えられたと、そう申しておったな?」
「はい。重丸がそう言うたと」
地獄谷まで来たとき、一益と義太夫は思わず足を止めた。
そこには異様な光景が広がっていた。
湿った風が鼻を突き、甘く腐ったような匂いが漂っている。
見渡す限り、朱に染まる石楠花の群れ。その色は月明かりに濡れて、血の池を覗き込むかのようだった。
石楠花は本来、標高の高い冷涼な土地を好む植物だ。こんな谷底の湿地に、自然に生えるはずがない。
一益は息を詰め、低く言った。
「皆、うかつに触れるな」
一益の声が、少しだけ緊張を帯びる。
触れただけで命を落とすことはないが、煎じて口にすれば、命を奪うに足る毒がある。花は、意図されたかのように等間隔で広がっていた。
数年で広がる量ではない。誰かが、長い年月をかけて丹念に植え、育ててきたのだ。
「昔、ここで快幹の従兄が謀殺されたと聞いたが、死因は?」
助太郎が、思い出したように口を開いた。
「た、確か、毒殺とか…」
一益は喉の奥から吹き出すように笑い出した。止まらない。
(あの快幹が隠居生活で菜花を育てているなどと、妙な話だと思えば……こういうことか)
日野から送られてきた桜漬を見たときから、不思議に思っていたことだ。
「殿。この木は馬酔木でござりますな」
義太夫が感心したように言う。馬酔木は葉を食べた馬が酔ったかのようにフラフラになったことから名付けられたとも伝わる。
「河内附子もあろう」
「ござります」
河内附子は古の昔、日本武尊をも倒したと伝わる猛毒だ。
忠三郎の高祖父、蒲生貞秀は、この谷に目を付け、山里の者たちが近寄らぬ地で毒草を育て、人目を欺くため、偶然見つけた日野菜を表向きの作物とした。
(それを何代にも渡り、平然と帝に献上していたと)
蒲生家では代々、鎌掛谷を毒草栽培の地として密かに管理していたのだろう。知る者は、ごく限られた家臣に過ぎぬはず。
(それゆえに、日野菜は代々、当主が育て、御所への献上で匂いを隠すとは…)
そう考えれば、甲賀の毒薬作りの源流が蒲生家にある可能性もある。あるいは逆に、蒲生家が甲賀に毒の知識を借りたのか――。
どちらにせよ、この山深い谷底で、百年以上に渡って人の命を奪う草が育てられてきたのだ。
快幹は、蒲生秀紀を毒殺したとき、音羽城を破却したように見せかけ、毒の秘密を葬ろうとした。
だが、重丸を匿うために、音羽城を手放すわけにはいかなかった。
そこで子らに近寄らせぬため、鎌掛谷を「呪われた地」と教え込んだ――。
「にしても、近寄るなと言われて、近寄らないような小童とも思えませぬが…」
普段から忠三郎の無鉄砲ぶりに手を焼いている義太夫が言う。
「むしろ、近寄るのでは?」
助太郎の呟きに、その場にいた者たちが一斉に頷いた。
一益はふっと笑った。まったくだ。好奇心の強い者なら、禁じられていればこそ、より深く足を踏み入れたくなるものだ。いや、忠三郎も重丸も、いかにもそんな性分であった。
(…ということは…)
一益は谷の様子にあらためて目を凝らし、ぽつりと問うた。
「義太夫、この辺りに黄蘗はないか」
「は?黄蘗《きはだ》…あ、ああ、なるほど…」
義太夫が小さく声を漏らし、あたりを探し回る。そして、ほどなくして一枝を指さした。
「ござりました!」
一益は黙って頷いた。
(やはりそうか…)
黄蘗は、内皮が鮮やかな黄色をしている木で、排毒薬として古くから知られている。
重丸が毒を塗った手裏剣を受けても死ななかった理由が、ようやく腑に落ちた。あれは偶然などではない。
(幼き折より排毒薬を与えられていたのか)
重丸は、祖父――快幹が飲ませるその薬の意味を、幼心にも察していたのだろう。そして、自身だけでなく忠三郎にも、それとなく同じ薬を与えていた。
(あやつは己だけでなく、鶴にも飲ませていた――)
思い至った刹那、一益は言葉を失った。
(重丸は分かっていた……鎌掛谷に隠された、先祖からの秘事を)
この谷に根づく毒草たち――それはただの薬草ではない。代々、語られぬまま伝えられた「家の秘密」であり、「家を守る術」でもあった。
忠三郎が毒殺に異様なまでの警戒心を示すのもまた、今なお蒲生家が密かに毒薬を調合し続けている事実を知っているからだ。
そして、その事実を握っている快幹は、今なお忠三郎に呪いのように圧力をかけている。
(脅しているのか。余計なことをするなと)
忠三郎が、なぜ快幹を放置しているのか――理由があるはずだった。見過ごしていたのは、自分だ。
「そういえば…前に鶴が、珍しく顔色変えて怒ったことがあったな」
一益がぽつりと言うと、義太夫が頷いた。
「確かに。殿が、蒲生の家を調べたと仰せになり、鶴が、何を知ったのかと執拗に殿に迫り…」
そのときの光景が、頭の中によみがえる。一益が苛立ちから忠三郎の襟首を掴み、声を荒らげたことがあった。
(つまらぬことをしたな。あのまま鶴に喋らせておけば、何か言うていたかもしれぬ)
あれは、ただの口論ではなかった。忠三郎のなかに、どうしても知られたくない『何か』があるのだ。それは一益が思っていたよりも遥かに深く、重く、家の根幹に関わること――。
(まだある。何かが…)
風が、石楠花の群れを揺らす。その陰から何かがこちらを覗いているような錯覚に襲われ、一益は無意識に草の群れに目を凝らした。
「もうないか?見慣れぬ草は?」
「こう暗くては、分かりませぬ」
だが、違和感が消えなかった。何かを見落としている。まだ、蒲生家には秘密がある――。心に巣食うざわめきは拭えない。
「殿。間道出口があれに」
助太郎の声で我に返った。
「よし。杉谷衆を逃すな。みな、捕えよ」
間道を抜けた先には、音羽城の北郭が見えていた。竹林の裏手を抜けるように進むと、ちょうど城内に紛れた杉谷衆が兵を休めていた。
ふいを突かれた彼らは、あわてた様子で刀を抜き、こちらへ駆けてくる。
だが一益はすでに刀を抜いていた。鍔鳴《つばな》りとともに駆け出し、斬り結ぶ。冷静に、素早く、動きに無駄はない。次々と敵を倒していくその背に、他の甲賀者たちも続いた。
少し遅れて、忠三郎率いる蒲生勢が城門から雪崩れ込んできた。
勝敗は一瞬だった。形ばかりの抵抗ののち、杉谷衆の多くは捕らえられ、一部は斬られた。
戦の喧噪が静まるなか、城内には血と土と、そして山の香が入り混じった匂いが漂っていた。
一益は、刀を納めながらふたたび谷の方を振り返る。
あの鎌掛谷――そこに根ざす毒草の群れは、代々の家の『罪』を可視化したもののようだった。代々、語らず、見せず、けれど確かに伝えてきた「もの」。それはもはや知識でも兵法でもなく、家を繋ぐ呪いそのものだ。
(鶴…そなたは、それをすべて知っていて、抱えていたのか)
「将監様!」
町野左近が、馬を荒く駆けさせて近づいてくる。
「遅い!鶴は?」
「それが…おかしな様子で」
「おかしな様子?」
「実はここに来る直前、毒を盛られ、膳番が倒れておりまする」
「毒?」
一益は顔をしかめ、町野左近とともに忠三郎のもとへ向かった。
忠三郎は馬にまたがっていたが、今にも落ちそうなほど意識が朦朧としている。目はうつろで焦点が定まらず、唇は乾いて色を失っていた。
「鶴、しっかりいたせ。何を食した?」
「いえ。若殿は何も召し上がってはおられぬ筈にて…」
だが忠三郎がかすかに唇を動かした。
「水を……飲み……」
「全て吐き出しておろうな?」
忠三郎は弱々しく頷いた。
「馬から降ろして寝かせよ。動けば毒が回る」
しかし――おかしい。毒を摂取したにしては、あまりに静かだ。苦しむ様子がない。熱もなく、嘔吐もない。異様なまでに無表情で、感情の波が見えない。
「理兵衛…誰か、篠山理兵衛を呼べ」
毒のことなら、甲賀でも篠山理兵衛の右に出る者はいない。
使いを出すと、一益は改めて忠三郎に目を向けた。そのとき、ふと手の甲に目が留まった。皮膚が裂け、薄く血がにじんでいる。
「これは?」
町野左近に問いかける。
「それが…床を殴ったと…」
「……鶴が?」
町野左近は、無言で頷いた。
「理兵衛はまだか!」
一益は舌打ちし、臍を噛む。こんなことなら、酒宴の誘いを断らなければよかった。焦燥を押し殺しながら辺りを見回すと、ようやく助太郎に伴われた篠山理兵衛の姿が見えた。
「フム、今、どのような様子じゃ?」
理兵衛が地に膝をつき、忠三郎の顔を覗き込む。
忠三郎は瞼を半ば閉じ、うつろな声で呟いた。
「極楽が…近いような…」
一益は血の気が引き、肩を掴んで揺さぶった。
「鶴!しっかりせぬか!」
だが理兵衛は笑いながら言った。
「ふわりとしておるのじゃろう。吐いたなら大事ない。水を大量に飲ませ、少し寝かせておけばよい」
「然様か…それにしても、これは何の毒じゃ? 見覚えがない」
「古え、唐土より密々に伝わった、罌粟《けし》じゃろう」
「罌粟……あれが毒に?」
「もとは腹下しの薬として用いられた。分量を誤らねば大事ない」
「腹下し薬…」
一益はようやく安堵の息をついた。忠三郎は既に眠っていたが、呼吸は落ち着いていた。
「それにしても快幹め、罌粟まで使うとは……どこで手に入れたのか」
理兵衛が半ば感心したように呟く。
「膳番が命を落としたと聞いておる」
「膳番だけか?」
理兵衛が奥歯にものが挟まったような言い方をする。
「他にもおる筈…と?」
「分からぬ。されど罌粟を育てているのなら、裏ではかなりの仕掛けをしておるやもしれぬ」
「はっきり申せ」
「もういい加減、小童に口を割らせた方がよかろう。間もなく目を覚ますはずじゃ」
忠三郎は必死に隠している。問い詰めれば何か言うかもしれないが、気が進まない。
(また義太夫を使うか…)
そう思った瞬間、理兵衛がそれを見透かしたように口を開いた。
「左近。おぬし、言いにくいことは何でも義太夫に言わせておるな?」
一益は理兵衛をちらりと見た。
「三九郎のことも、この小童のことも、義太夫では荷が重い。だいたい、この面倒な小童は、のらりくらりと交わすばかりで、おぬし以外の者には本音を漏らさんじゃろう」
図星だった。一益は、童の扱いが苦手だ。だからこそ、人当たりのよい義太夫に任せてきた。
「わかった…此度はわしが話そう」
やるべきことは分かっている。ただ気が重い。
「わしはもう少し、罌粟のことを調べておこう」
理兵衛は何か心にかかるものがあるのか、ひとつ頷くと腰を上げた。一益はそれを見送ると、なおも昏々と眠る忠三郎に目をやり、無言のまま立ち去った。
忠三郎は音羽城の一室に寝かされていた。かつては城主蒲生秀紀の居城であったが、開城以来、手入れもされぬまま荒れるに任され、今では杉谷衆の隠れ家として使われていた。
その荒れた部屋の板張りの床に、一益は胡座をかき、縄を解かれた三九郎と対座している。その表情には硬さが残っていた。
「杉谷衆は皆、捕えておる」
一益が低く告げると、三九郎は険しい目で睨み返し、
「信長を撃ったのはわしじゃ。かくなる上は、腹を仕るべし」
三九郎が覚悟を決めたように言うと、一益はそれを嘲笑った。
「たわけ。上様の仰せは『生かして捕らえよ』じゃ」
傍らで義太夫が固唾を飲む。
「そなたは、上様の手にかかれば、いかなる処刑が待っておるか分かっておるか?」
一益は語気鋭く言い放つ。三九郎は顔を強張らせ、それでも反抗心を捨てきれぬ様子で叫んだ。
「黙れ、第六天魔王の手先め!仏敵信長なぞ、恐ろしゅうない!」
虚勢を張っているが分かる。一益は堪えきれずに立ち上がり、義太夫を見やる。
「義太夫、教えてやれ」
そう言い残し、部屋を出ていった。
義太夫はため息をつきながら、三九郎の隣に腰を下ろした。どこか女のような穏やかな笑みをたたえ、口を開く。
「上様のお命を狙うたなどとは、ゆめゆめ申されますな。下手人は杉谷家のあの坊主――善住坊でござりまする」
「何を言う。信長を狙うたのは……!」
三九郎が声を荒げるのを制すように、義太夫は静かに続けた。
「三九郎様。殿は、ただ脅しで申されたのではござりませぬ。上様の命を狙ったとあらば、胴切、生吊り胴などでさえ、まだ生ぬるい。牛裂き、鋸引きが相応でございましょうな」
三九郎の頬から血の気が引く。
「では、善住坊に罪を着せると?」
「善住坊を除き、杉谷衆は全て討ち果たしました。坊主は身動きできぬようにして、阿弥陀寺の裏に置いて参りました。すでに奉行が向かいましょう」
すでに付近の大溝城主、磯野丹波守に知らせを送っている。
「坊主が処刑され次第、殿のお言葉により、三九郎様は放免されますゆえ――それまで、しばしご辛抱を」
三九郎は義太夫を凝視した。義太夫は涼しい顔だ。
「されど…坊主が拷問に遭えば、わしの名を漏らすじゃろう……」
「ご安心を」
義太夫は懐から扇子を取り出し、涼しげに扇ぎながら言った。
「いかなる責め苦を受けようとも、坊主はもう喋れませぬ」
その一言に、三九郎の背筋が凍った。声は柔らかくとも、そこに一片の情もなかった。
「恐ろしい…滝川左近はやはり恐ろしい…」
「そうおっしゃるが――その恐ろしいことを、殿にさせたのは、三九郎様ではござりませぬか?」
義太夫はまた笑った。だがその笑みは、もはや三九郎の目には、人のものとは思えなかった。
「……これ以上、関わっていたら、気分が悪うなる……」
「ならば、我がもとへ参れ」
突然、背後から声がした。義太夫と三九郎が振り返ると、そこにはいつもの笑顔を浮かべた忠三郎が立っていた。
「聞いておった。わしは蒲生忠三郎じゃ。三九郎、甲賀に戻る気がないのであれば、我が城へ参れ」
「鶴…!。目が覚めたか。大事ないか」
「おぉ。義兄上のおかげで、元通りよ」
実際に手当てしたのは篠山理兵衛で、水を飲ませただけだったが、それは黙っていた。
「異存はあるまい、三九郎。日野の水はうまいぞ。わしは滝川左近の義弟ゆえ、いうなればおぬしの叔父にあたる。助太郎もおる。義兄上には、わしから話しておこう」
捲し立てるように語るその姿に、三九郎はふと、ある人物を思い出した。
(風花殿…)
敵の只中にありながらも、毅然と、堂々と、三九郎を圧倒していた信長の娘にして一益の正室。忠三郎の明るさの裏にある芯の強さが、それと重なった。
「それにしても、腹が減った。義太夫、何か食い物はないか?」
忠三郎が腹を押さえて言うと、義太夫は苦笑しながら、懐から干餅を差し出した。
杉谷善住坊が磯野丹波守により捕えられ、岐阜へ送られたのは、その翌朝のことである。そして、鋸引きの刑に処されたのは、その月の終わりだった。
――だが、忠三郎の胸には安堵よりも、重苦しい影が残っていた。
谷に咲き乱れる毒花、幾代にもわたり家に伝わる秘め事。あれは果たして敵を討つための備えか、それとも己が血筋を絡め取る呪いなのか。
(お爺様は、何を守ろうとしておるのだ…いや、何を隠しておるのか)
そう思うたびに、胸の奥に冷たいものが忍び寄る。
言葉にはできぬが――自らの歩むべき道が、この呪いと無縁ではいられぬことを、忠三郎は薄々感じていた。
夢のようであった。
幾たびの戦を重ね、鎧の重みすら忘れていた日々を思えば、この静けさがかえって現とも思えない。
遠く、馬の嘶きが微かに残るだけで、あたりはすでに冬の気配に包まれていた。
谷を渡る風は、どこか湿り気を帯びていた。
戦の火がようやく鎮まったというのに、空気の底には澱むものがある。
一益は馬上から見下ろし、ふと、その谷が鎌掛であることに思い至った。
軍勢を引き払った一益は、峠の入り口で津田秀重に兵を任せ、江南に残った。
義太夫が信楽院に送った重丸の亡骸は、本来の重丸の墓である五輪塔の下に埋葬されていた。
忠三郎は例のごとく、五輪塔の前にしゃがみ、虫の声に耳を傾けていた。
「思いきや 虫の音しげき 浅芽に
君を見捨てて かへるべしとは」
聞いたような歌だと思った。
平安の昔、十五で夭折した近衛天皇の死を悼んだ歌だと、ふと思い出す。
一益が忠三郎の背後に近づいていくと、傍にいた町野左近が気づいて頭を下げる。
「前々から、聞きたいと思うていたことじゃが…」
四方から虫の声が響くなか、静かに問いかける。
「そなたはここでわしに会う前から、すみれの墓に花を手向けてくれていた。何故、そのようなことをしていた?」
重丸の墓に別人が埋葬されている話を聞いた時から、不思議に思っていた。
忠三郎は振り返り、ふっと笑みを浮かべて言った。
「毎年ここに…女人の死を悼む方がお参りになることは知っておりましたゆえ」
言葉を区切り、少し恥ずかしそうに微笑みながら続ける。
「人の命がたやすく捨てられるこの乱世においても、母を失った悲しみは計り知れず、同じように誰かを失い悲しむ者が毎年ここに訪れるのなら…一人で悲しんでいるのなら…共にいたいと、そう思うて」
一益は心のうちで、あの心優しい貴人の子らしいと感じた。
「それは誰であってもよかったが…。誰なのか、知りたくもありました。よもや義兄上だったとは。まことに人の縁とは不思議なもの」
忠三郎は何年もずっと、一益と同じ思いでここに来ていたという。
「母上が、義兄上に会わせて下された。ここで会うたのが義兄上でよかった」
忠三郎の思いは測りかねるが、毎年人知れずここに訪れ、すみれの死を悼む一益の悲しみに近づこうとしていたのだ。
(それが本来のそなたの姿か)
悲しむ者と共にいて、共に悲しみたいと願うのが忠三郎の真の姿なのだと、一益は思った。
(ロレンソが、似たようなことを言うておったな)
岐阜城で再会したとき、去り際にロレンソが言った。
『喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣け』
ロレンソのいうことは、こういうことなのだろうか。
「鶴、そのような顔をして一人で抱えるな」
「義兄上…」
忠三郎の顔を見れば、何を考えここにしゃがみ込んでいたのか分かった。
甲賀を出たあの日、自らの無力さに泣いたあの日を思い出した。
(では、此度は、わしを、そなたの悲しみに近づかせてくれ。口に出せないその悲しみに…)
一益は忠三郎の肩を掴み、言葉をかける。
「そなたの痛みは、ようわかっておる」
忠三郎は黙って一益を見つめ、唇を噛みしめて頷いた。
「しばし、この場で月を楽しむとしよう」
一益が夜空を仰ぐと、今年も変わらず美しい月がそこにあった。
「今宵も月は変わらず美しい。今年も、晴れていてよかった」
忠三郎も月を見上げ、微笑んだ。
***
忠三郎が中野城に戻ったとき、すでに合戦勝利の宴は幕を閉じ、家臣たちはそれぞれの屋敷へと戻っていた。
「皆、笑って帰ったのであれば、それでよし」
広間に残る酒の香と食い散らかされた膳を横目に、忠三郎は静かに居間へと足を運んだ。
まもなく、膳番の河北新介が折敷を抱えて現れる。
「若殿が祝宴におられぬ故、皆、早々に引き揚げました」
「然様か。喉が渇いた。まず、水をくれ」
忠三郎は差し出された茶碗を両手で受け取り、一息に干す。
河北新介は、忠三郎よりわずかに年上。朝夕に顔を合わせる、気心の知れた相手だ。
「若殿、そのようにじっと見られては、食が進みませぬ」
「よいよい。はやう食え。わしも腹が減って目が回る」
「ハッ。では、お毒味仕る」
新介は箸を取り、穏やかに一口。
「うむ、今日もよい炊き加減にございます」
評定でもするように言うその様子に、忠三郎は思わず笑って言った。
「ちと待て。その一口は大きすぎるではないか。わしの分が減るわ」
「このくらいが、ちょうどかと」
だが、そのときだった。
折敷を掴みかけた新介が、ふいに呻き、口を押さえた。
「何を戯けたことを…」
言いかけて、忠三郎は息を呑む。
新介の口元から、泡が滲み出し、胸元を掻きむしるようにして、苦悶の声を漏らした。
「新介! どうした――!」
駆け寄ったが早いか、新介は青ざめた顔のまま、その場に崩れ落ちた。
忠三郎は怒声をあげた。
「誰か、誰かおるか!」
大声で人を呼ぶと、ただならぬ様子を聞きつけた家人が飛んできた。
「何事…これは!」
「毒を盛られた。薬師を呼べ」
家臣たちが慌てて現れ、河北新介を運び去っていく。
(またか…)
喉の奥が焼けるように熱いのに、口は渇いて声が出なかった。ここ数日、ようやく平穏が戻ってきたかに思えた矢先だった。重丸が討たれたのち、これで呪いの連鎖は断ち切られたと――そう、信じたはずだった。
(助かるまい)
そう呟いた心は、既に答えを知っていた。今まで毒に倒れた者が、ふたたび元気な姿を見せたことなど、一度としてないのだ。
膳番の者が代わりに死ぬだけ――。そんな理屈は、誰よりも忠三郎自身が知っていた。
(なぜ、かようなことを…)
怒りと悔しさが同時に胸にこみ上げ、拳が震えた。歯を食いしばりながら、固く握りしめたその拳で、何度も床板を叩いた。音を立てて揺れる床の木目が、涙で滲んだ視界に揺らいで見える。
そこへ、滝川助太郎が息を切らしながら駆け込んできた。
「忠三郎様!」
振り向いた忠三郎の顔を見て、助太郎は一瞬言葉を失う。だが、すぐにその使命を思い出し、声を張った。
「殿からの急報です。手勢をまとめ、音羽城へ向かえとのご下知!」
「音羽城?何故に?」
口の中にまだ鉄の味が残っていた。訳も分からず訊ねた忠三郎に、助太郎は真剣な目で言った。
「道々お話いたしましょう。さ、早う」
助太郎の手が、忠三郎の腕をしっかりと支えた。忠三郎は、まだしっくりこない思考のまま、ぼんやりとした足取りで立ち上がった。
脇に置かれていた刀を掴む。鞘の冷たさが、ようやく意識を現に引き戻した。
まだ、河北新介の体温が腕に残っていた。
時は信楽院で忠三郎と別れたところまで遡る。
「城では戦勝祝いの宴の最中。義兄上も、ぜひお越しくだされ」
忠三郎にそう誘われたが、一益は首を横に振った。
「いや。ちと用がある」
短く応じると、義太夫や木全彦一郎ら甲賀衆を伴い、音羽城へと馬を進めた。
城の近くまで来ると、草むらの中から滝川助九郎と藤九郎がぬっと姿を現す。
「杉谷の者たちは?」
「はい。殿の読み通りでござります」
「やはりそうか」
忠三郎はかつて音羽城で杉谷勢と対峙している。一度逃れた敵は、追っては来まいと踏んで、再びこの地へ戻ってくると読んでいた。予感は的中した。
「人数は揃っているか?」
「いえ、まだ四、五人といったところ。三九郎様の姿も見えませぬ」
しばし、城の周囲で息を潜め、様子を伺った。
やがて小半刻が過ぎ、城門の影に十余りの人影が現れ、ぞろぞろと中へ入っていった。
「あれで全てでは?」
「思ったより多い。仕掛けても何人か、取り逃がすじゃろう」
一益は顎に手をやり、黙して思案する。
ここで逃せば、次はあるまい。討ち果たすか、捕らえるか、いずれにせよ一網打尽にせねばならない。
「やむを得ぬ。助太郎を走らせ、鶴を呼べ。急げ」
「はっ」
使いを走らせたのち、一益は腰の太刀を確認しながら、静かに草むらに身を沈めた。
「此度は、一人たりとも逃がすな。取り囲め。捕えられる者は捕え、逃げれば斬れ」
低く放たれたその命に、甲賀衆たちは一様に頷く。
しばらくして、忠三郎が手勢を率いて駆けつけた。甲冑の音も、鬨の声もなく、ただ土煙だけが尾を引いて迫ってくる。
「義兄上、音羽城に杉谷衆が?」
「そなたは手勢を連れ城門から行け。我らは鎌掛谷から間道を通って城内に入る」
忠三郎にそう告げると、助太郎に案内を頼み、鎌掛谷を目指した。
鎌掛谷――それは音羽山の北東、深い山裾に隠れるように続く旧道である。谷筋に沿って細く伸びる山道は、岩と苔に覆われ、昼なお薄暗い。湿気を帯びた風が木々の隙間を縫って抜け、鳥の声もまばらだった。
「殿。こちらへ」
助太郎が指さす獣道のような細道を、一行は馬を降りて進む。足元に敷き詰められた落ち葉は、踏むたびにしっとりと沈み込むようで、山に呑まれていくような錯覚に襲われた。
「この辺りは…妙じゃな」
一益が立ち止まり、振り返って言った。周囲に漂う気配に、義太夫も首をすくめるように頷く。
「妙でござりますな。この辺りは何と申したかな?」
「土地の者どもは藪岨《やぶそ》と呼んでいたような…」
助太郎が答える。
藪岨――風葬の地として忌み嫌われた場所の名だ。かつては日野のみならず、各地にあり、いまもその名が残るという。
「この先は土地の者に地獄谷と呼んでおりました」
一益は小さく笑った。笑いながらも、その名に漂う異様な重さを感じ取っていた。
「鶴は…呪われた地と教えられたと、そう申しておったな?」
「はい。重丸がそう言うたと」
地獄谷まで来たとき、一益と義太夫は思わず足を止めた。
そこには異様な光景が広がっていた。
湿った風が鼻を突き、甘く腐ったような匂いが漂っている。
見渡す限り、朱に染まる石楠花の群れ。その色は月明かりに濡れて、血の池を覗き込むかのようだった。
石楠花は本来、標高の高い冷涼な土地を好む植物だ。こんな谷底の湿地に、自然に生えるはずがない。
一益は息を詰め、低く言った。
「皆、うかつに触れるな」
一益の声が、少しだけ緊張を帯びる。
触れただけで命を落とすことはないが、煎じて口にすれば、命を奪うに足る毒がある。花は、意図されたかのように等間隔で広がっていた。
数年で広がる量ではない。誰かが、長い年月をかけて丹念に植え、育ててきたのだ。
「昔、ここで快幹の従兄が謀殺されたと聞いたが、死因は?」
助太郎が、思い出したように口を開いた。
「た、確か、毒殺とか…」
一益は喉の奥から吹き出すように笑い出した。止まらない。
(あの快幹が隠居生活で菜花を育てているなどと、妙な話だと思えば……こういうことか)
日野から送られてきた桜漬を見たときから、不思議に思っていたことだ。
「殿。この木は馬酔木でござりますな」
義太夫が感心したように言う。馬酔木は葉を食べた馬が酔ったかのようにフラフラになったことから名付けられたとも伝わる。
「河内附子もあろう」
「ござります」
河内附子は古の昔、日本武尊をも倒したと伝わる猛毒だ。
忠三郎の高祖父、蒲生貞秀は、この谷に目を付け、山里の者たちが近寄らぬ地で毒草を育て、人目を欺くため、偶然見つけた日野菜を表向きの作物とした。
(それを何代にも渡り、平然と帝に献上していたと)
蒲生家では代々、鎌掛谷を毒草栽培の地として密かに管理していたのだろう。知る者は、ごく限られた家臣に過ぎぬはず。
(それゆえに、日野菜は代々、当主が育て、御所への献上で匂いを隠すとは…)
そう考えれば、甲賀の毒薬作りの源流が蒲生家にある可能性もある。あるいは逆に、蒲生家が甲賀に毒の知識を借りたのか――。
どちらにせよ、この山深い谷底で、百年以上に渡って人の命を奪う草が育てられてきたのだ。
快幹は、蒲生秀紀を毒殺したとき、音羽城を破却したように見せかけ、毒の秘密を葬ろうとした。
だが、重丸を匿うために、音羽城を手放すわけにはいかなかった。
そこで子らに近寄らせぬため、鎌掛谷を「呪われた地」と教え込んだ――。
「にしても、近寄るなと言われて、近寄らないような小童とも思えませぬが…」
普段から忠三郎の無鉄砲ぶりに手を焼いている義太夫が言う。
「むしろ、近寄るのでは?」
助太郎の呟きに、その場にいた者たちが一斉に頷いた。
一益はふっと笑った。まったくだ。好奇心の強い者なら、禁じられていればこそ、より深く足を踏み入れたくなるものだ。いや、忠三郎も重丸も、いかにもそんな性分であった。
(…ということは…)
一益は谷の様子にあらためて目を凝らし、ぽつりと問うた。
「義太夫、この辺りに黄蘗はないか」
「は?黄蘗《きはだ》…あ、ああ、なるほど…」
義太夫が小さく声を漏らし、あたりを探し回る。そして、ほどなくして一枝を指さした。
「ござりました!」
一益は黙って頷いた。
(やはりそうか…)
黄蘗は、内皮が鮮やかな黄色をしている木で、排毒薬として古くから知られている。
重丸が毒を塗った手裏剣を受けても死ななかった理由が、ようやく腑に落ちた。あれは偶然などではない。
(幼き折より排毒薬を与えられていたのか)
重丸は、祖父――快幹が飲ませるその薬の意味を、幼心にも察していたのだろう。そして、自身だけでなく忠三郎にも、それとなく同じ薬を与えていた。
(あやつは己だけでなく、鶴にも飲ませていた――)
思い至った刹那、一益は言葉を失った。
(重丸は分かっていた……鎌掛谷に隠された、先祖からの秘事を)
この谷に根づく毒草たち――それはただの薬草ではない。代々、語られぬまま伝えられた「家の秘密」であり、「家を守る術」でもあった。
忠三郎が毒殺に異様なまでの警戒心を示すのもまた、今なお蒲生家が密かに毒薬を調合し続けている事実を知っているからだ。
そして、その事実を握っている快幹は、今なお忠三郎に呪いのように圧力をかけている。
(脅しているのか。余計なことをするなと)
忠三郎が、なぜ快幹を放置しているのか――理由があるはずだった。見過ごしていたのは、自分だ。
「そういえば…前に鶴が、珍しく顔色変えて怒ったことがあったな」
一益がぽつりと言うと、義太夫が頷いた。
「確かに。殿が、蒲生の家を調べたと仰せになり、鶴が、何を知ったのかと執拗に殿に迫り…」
そのときの光景が、頭の中によみがえる。一益が苛立ちから忠三郎の襟首を掴み、声を荒らげたことがあった。
(つまらぬことをしたな。あのまま鶴に喋らせておけば、何か言うていたかもしれぬ)
あれは、ただの口論ではなかった。忠三郎のなかに、どうしても知られたくない『何か』があるのだ。それは一益が思っていたよりも遥かに深く、重く、家の根幹に関わること――。
(まだある。何かが…)
風が、石楠花の群れを揺らす。その陰から何かがこちらを覗いているような錯覚に襲われ、一益は無意識に草の群れに目を凝らした。
「もうないか?見慣れぬ草は?」
「こう暗くては、分かりませぬ」
だが、違和感が消えなかった。何かを見落としている。まだ、蒲生家には秘密がある――。心に巣食うざわめきは拭えない。
「殿。間道出口があれに」
助太郎の声で我に返った。
「よし。杉谷衆を逃すな。みな、捕えよ」
間道を抜けた先には、音羽城の北郭が見えていた。竹林の裏手を抜けるように進むと、ちょうど城内に紛れた杉谷衆が兵を休めていた。
ふいを突かれた彼らは、あわてた様子で刀を抜き、こちらへ駆けてくる。
だが一益はすでに刀を抜いていた。鍔鳴《つばな》りとともに駆け出し、斬り結ぶ。冷静に、素早く、動きに無駄はない。次々と敵を倒していくその背に、他の甲賀者たちも続いた。
少し遅れて、忠三郎率いる蒲生勢が城門から雪崩れ込んできた。
勝敗は一瞬だった。形ばかりの抵抗ののち、杉谷衆の多くは捕らえられ、一部は斬られた。
戦の喧噪が静まるなか、城内には血と土と、そして山の香が入り混じった匂いが漂っていた。
一益は、刀を納めながらふたたび谷の方を振り返る。
あの鎌掛谷――そこに根ざす毒草の群れは、代々の家の『罪』を可視化したもののようだった。代々、語らず、見せず、けれど確かに伝えてきた「もの」。それはもはや知識でも兵法でもなく、家を繋ぐ呪いそのものだ。
(鶴…そなたは、それをすべて知っていて、抱えていたのか)
「将監様!」
町野左近が、馬を荒く駆けさせて近づいてくる。
「遅い!鶴は?」
「それが…おかしな様子で」
「おかしな様子?」
「実はここに来る直前、毒を盛られ、膳番が倒れておりまする」
「毒?」
一益は顔をしかめ、町野左近とともに忠三郎のもとへ向かった。
忠三郎は馬にまたがっていたが、今にも落ちそうなほど意識が朦朧としている。目はうつろで焦点が定まらず、唇は乾いて色を失っていた。
「鶴、しっかりいたせ。何を食した?」
「いえ。若殿は何も召し上がってはおられぬ筈にて…」
だが忠三郎がかすかに唇を動かした。
「水を……飲み……」
「全て吐き出しておろうな?」
忠三郎は弱々しく頷いた。
「馬から降ろして寝かせよ。動けば毒が回る」
しかし――おかしい。毒を摂取したにしては、あまりに静かだ。苦しむ様子がない。熱もなく、嘔吐もない。異様なまでに無表情で、感情の波が見えない。
「理兵衛…誰か、篠山理兵衛を呼べ」
毒のことなら、甲賀でも篠山理兵衛の右に出る者はいない。
使いを出すと、一益は改めて忠三郎に目を向けた。そのとき、ふと手の甲に目が留まった。皮膚が裂け、薄く血がにじんでいる。
「これは?」
町野左近に問いかける。
「それが…床を殴ったと…」
「……鶴が?」
町野左近は、無言で頷いた。
「理兵衛はまだか!」
一益は舌打ちし、臍を噛む。こんなことなら、酒宴の誘いを断らなければよかった。焦燥を押し殺しながら辺りを見回すと、ようやく助太郎に伴われた篠山理兵衛の姿が見えた。
「フム、今、どのような様子じゃ?」
理兵衛が地に膝をつき、忠三郎の顔を覗き込む。
忠三郎は瞼を半ば閉じ、うつろな声で呟いた。
「極楽が…近いような…」
一益は血の気が引き、肩を掴んで揺さぶった。
「鶴!しっかりせぬか!」
だが理兵衛は笑いながら言った。
「ふわりとしておるのじゃろう。吐いたなら大事ない。水を大量に飲ませ、少し寝かせておけばよい」
「然様か…それにしても、これは何の毒じゃ? 見覚えがない」
「古え、唐土より密々に伝わった、罌粟《けし》じゃろう」
「罌粟……あれが毒に?」
「もとは腹下しの薬として用いられた。分量を誤らねば大事ない」
「腹下し薬…」
一益はようやく安堵の息をついた。忠三郎は既に眠っていたが、呼吸は落ち着いていた。
「それにしても快幹め、罌粟まで使うとは……どこで手に入れたのか」
理兵衛が半ば感心したように呟く。
「膳番が命を落としたと聞いておる」
「膳番だけか?」
理兵衛が奥歯にものが挟まったような言い方をする。
「他にもおる筈…と?」
「分からぬ。されど罌粟を育てているのなら、裏ではかなりの仕掛けをしておるやもしれぬ」
「はっきり申せ」
「もういい加減、小童に口を割らせた方がよかろう。間もなく目を覚ますはずじゃ」
忠三郎は必死に隠している。問い詰めれば何か言うかもしれないが、気が進まない。
(また義太夫を使うか…)
そう思った瞬間、理兵衛がそれを見透かしたように口を開いた。
「左近。おぬし、言いにくいことは何でも義太夫に言わせておるな?」
一益は理兵衛をちらりと見た。
「三九郎のことも、この小童のことも、義太夫では荷が重い。だいたい、この面倒な小童は、のらりくらりと交わすばかりで、おぬし以外の者には本音を漏らさんじゃろう」
図星だった。一益は、童の扱いが苦手だ。だからこそ、人当たりのよい義太夫に任せてきた。
「わかった…此度はわしが話そう」
やるべきことは分かっている。ただ気が重い。
「わしはもう少し、罌粟のことを調べておこう」
理兵衛は何か心にかかるものがあるのか、ひとつ頷くと腰を上げた。一益はそれを見送ると、なおも昏々と眠る忠三郎に目をやり、無言のまま立ち去った。
忠三郎は音羽城の一室に寝かされていた。かつては城主蒲生秀紀の居城であったが、開城以来、手入れもされぬまま荒れるに任され、今では杉谷衆の隠れ家として使われていた。
その荒れた部屋の板張りの床に、一益は胡座をかき、縄を解かれた三九郎と対座している。その表情には硬さが残っていた。
「杉谷衆は皆、捕えておる」
一益が低く告げると、三九郎は険しい目で睨み返し、
「信長を撃ったのはわしじゃ。かくなる上は、腹を仕るべし」
三九郎が覚悟を決めたように言うと、一益はそれを嘲笑った。
「たわけ。上様の仰せは『生かして捕らえよ』じゃ」
傍らで義太夫が固唾を飲む。
「そなたは、上様の手にかかれば、いかなる処刑が待っておるか分かっておるか?」
一益は語気鋭く言い放つ。三九郎は顔を強張らせ、それでも反抗心を捨てきれぬ様子で叫んだ。
「黙れ、第六天魔王の手先め!仏敵信長なぞ、恐ろしゅうない!」
虚勢を張っているが分かる。一益は堪えきれずに立ち上がり、義太夫を見やる。
「義太夫、教えてやれ」
そう言い残し、部屋を出ていった。
義太夫はため息をつきながら、三九郎の隣に腰を下ろした。どこか女のような穏やかな笑みをたたえ、口を開く。
「上様のお命を狙うたなどとは、ゆめゆめ申されますな。下手人は杉谷家のあの坊主――善住坊でござりまする」
「何を言う。信長を狙うたのは……!」
三九郎が声を荒げるのを制すように、義太夫は静かに続けた。
「三九郎様。殿は、ただ脅しで申されたのではござりませぬ。上様の命を狙ったとあらば、胴切、生吊り胴などでさえ、まだ生ぬるい。牛裂き、鋸引きが相応でございましょうな」
三九郎の頬から血の気が引く。
「では、善住坊に罪を着せると?」
「善住坊を除き、杉谷衆は全て討ち果たしました。坊主は身動きできぬようにして、阿弥陀寺の裏に置いて参りました。すでに奉行が向かいましょう」
すでに付近の大溝城主、磯野丹波守に知らせを送っている。
「坊主が処刑され次第、殿のお言葉により、三九郎様は放免されますゆえ――それまで、しばしご辛抱を」
三九郎は義太夫を凝視した。義太夫は涼しい顔だ。
「されど…坊主が拷問に遭えば、わしの名を漏らすじゃろう……」
「ご安心を」
義太夫は懐から扇子を取り出し、涼しげに扇ぎながら言った。
「いかなる責め苦を受けようとも、坊主はもう喋れませぬ」
その一言に、三九郎の背筋が凍った。声は柔らかくとも、そこに一片の情もなかった。
「恐ろしい…滝川左近はやはり恐ろしい…」
「そうおっしゃるが――その恐ろしいことを、殿にさせたのは、三九郎様ではござりませぬか?」
義太夫はまた笑った。だがその笑みは、もはや三九郎の目には、人のものとは思えなかった。
「……これ以上、関わっていたら、気分が悪うなる……」
「ならば、我がもとへ参れ」
突然、背後から声がした。義太夫と三九郎が振り返ると、そこにはいつもの笑顔を浮かべた忠三郎が立っていた。
「聞いておった。わしは蒲生忠三郎じゃ。三九郎、甲賀に戻る気がないのであれば、我が城へ参れ」
「鶴…!。目が覚めたか。大事ないか」
「おぉ。義兄上のおかげで、元通りよ」
実際に手当てしたのは篠山理兵衛で、水を飲ませただけだったが、それは黙っていた。
「異存はあるまい、三九郎。日野の水はうまいぞ。わしは滝川左近の義弟ゆえ、いうなればおぬしの叔父にあたる。助太郎もおる。義兄上には、わしから話しておこう」
捲し立てるように語るその姿に、三九郎はふと、ある人物を思い出した。
(風花殿…)
敵の只中にありながらも、毅然と、堂々と、三九郎を圧倒していた信長の娘にして一益の正室。忠三郎の明るさの裏にある芯の強さが、それと重なった。
「それにしても、腹が減った。義太夫、何か食い物はないか?」
忠三郎が腹を押さえて言うと、義太夫は苦笑しながら、懐から干餅を差し出した。
杉谷善住坊が磯野丹波守により捕えられ、岐阜へ送られたのは、その翌朝のことである。そして、鋸引きの刑に処されたのは、その月の終わりだった。
――だが、忠三郎の胸には安堵よりも、重苦しい影が残っていた。
谷に咲き乱れる毒花、幾代にもわたり家に伝わる秘め事。あれは果たして敵を討つための備えか、それとも己が血筋を絡め取る呪いなのか。
(お爺様は、何を守ろうとしておるのだ…いや、何を隠しておるのか)
そう思うたびに、胸の奥に冷たいものが忍び寄る。
言葉にはできぬが――自らの歩むべき道が、この呪いと無縁ではいられぬことを、忠三郎は薄々感じていた。
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