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宿り石
しおりを挟む「どうすっかなぁ」
薬師は横の繋がりが広い。あれはどこの誰であいつの弟子で~という風にいつの間にか伝わっている。
俺は薬師として生計を立てていくつもりだが、他の薬師たちに師匠や生まれもわからない見知らぬ男が薬を作っているとバレたとき、うまく誤魔化せるだろうか。
「あ~あ……はぁ、もう」
めんどくさい
やっとガルネシア語もアーネシアの人たちと遜色なく話せるようになったってのに。
あまり村には寄らず、山で調達した食える植物で腹を膨らましながら薬師が居なそうな町で少し薬を売ってはすぐ山へ入った。
小さな村より栄えている町の方が逆に目立たず居られる。東京より田舎のほうが余所者が目立つのと一緒だ。
しばらくその暮らしを続ける。
精神は限界で、なんのためにこんな生活をしてるのか疑問に思ってきた。
もっと楽になりたい。獣にも人間にも怯えず、ゆっくり寝たい。
「そこの薬師さん……!ちょっとまってくれ!」
ある町で手のひらに気泡のできる病が流行っていた。
「三人ほど薬師がいたが、薬を調合している最中に高熱で倒れてしまったので助けて欲しい」と山のなかで出会った商人に連れて行かれた田舎町、ダダ。
ダダとは西の言葉で『運命』という意味。
このダダという町には一度だけ来たことがある。育ての親の『ダン』と運命という単語の『ダダ』を合わせて、ベートーベンのダダダダーンってやつっぽい!と幼い頃にすぐ覚えられたこの世界の単語で、強く記憶に残っていた。
この記憶も本当に自分の体験なのだろうか。懐かしい記憶に頬が緩むも、そう考えて心が重くなった。
「他の薬師さんたちのつくった薬がこれです」
手渡された薬はよく出来ていたが、これは胃腸の炎症を抑えるもので今回の病に直接は効かない。だが死者が少ないのはこの薬があったからだろう。三人はよく頑張った。
この病は水に原因がある。
恐らく、一ヶ所にだけ衝撃を加えると粉々になる脆い種類の鉱石がこの町の上流付近で採れるはずだ。
その鉱石は落としても割れないが、小さな面積への強い衝撃に弱い。つるはしで叩くと粉々に煙立つので慎重に扱わなければならない厄介者だ。
一度砕けて粉になると水に溶ける性質があり、それが有害で今回のような病を引き起こしたのだろう。
他の薬師が倒れている間に薬を調合し、川を一時封鎖して井戸水も必ず沸騰させてから使うように指示を出す。
雨が降れば町中の樽を引っ張り出して雨水を溜めた。冷たい雨はみんなの心も身体も癒す。俺もこのときばかりは口布を下げて町のみんなと同じように雨水を飲んだ。
「粉鉱石の近くには宝石があると言われている。賊にも警戒してすすむぞ」
安全な飲み水の確保と治療がひとまず落ち着いてきたので、男たちを引き連れ上流を見に行く。
「ちなみに宝石はとれない。粉鉱石を崩さんよう宝石が埋まっていると思って掘れ、という意味だ」
雑談混じりにそう教えれば数人ガックリしていた。本当に宝石があるならこの地域はとっくに掘り返されているだろう。
「見ろ、あそこだ」
採石した跡。ごみは放置してあり、あちこち何かの食べカスが腐っている。川には予想通り、掘るのに失敗して崩れた崖から粉鉱石が流れ込んでいた。
宝石目当てに盗みに来たのだろうが、鉱石を扱いきれず粉を直接吸い込み続けたか。
厄介者の粉は吸うと体内では溶けず肺に蓄積され、吸い続ければいずれ呼吸困難になる。水に溶けることは知っていても、肺に溜まるのを知らない人間は多い。
蓄積された粉は体内で固まり、死体から元の石のようになって出てくる。生き延びようとしている紛れもない生物の姿だ。
そのことから付いた別名『宿り石』
「口布を絶対に外すなよ」
仲間が倒れていくのを見て慌てて逃げたのだろう。食べカスだと思った酷い腐敗臭のするナニかは、動物に食い荒らされた人間のようだ。その残骸の中に宿り石のような塊がいくつか出来ている。動物たちが綺麗に避けて食べているから、そうみて間違いない。
男たちに指示しながらその現場を片付け、慎重に石を積み間には粘土を塗り込んで崩れた鉱石の崖を覆う。溶け出している濃度の濃い場所は水が虹色に光っていて、これが薄まり元に戻ったら前のように川も生き返るだろう。
最初の薬師がやっとつかまったのが三月ほど前。だが町は半年前からこの状況だったという。
よくやっている。この世界では珍しく衛生面に敏感な町だからこの程度で収まっているが、他の地域ならばとっくに町の半数以上死者が出ていておかしくない。
味に異変を感じて飲むのを避けたまでは良かったが、作物や洗濯に使用したことで症状がでたのだ。
そして栄えているがこんな山奥、国から魔刀師が派遣されるのはまだ先になる。それまでなんとか重症者を死なせないようふんばるしかない。
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