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運命のダダダダーン
しおりを挟む「薬師さん薬師さん!」
起き上がれるまで回復し、歩く練習をはじめた町の長が転げそうになりながら寄ってきた。
「国からいらっしゃったよ!」
「ああ、わかった」
魔刀師がやっと派遣されたらしい。
こんな田舎では魔刀師は王族のような扱いだ。
「こちらがいらっしゃった先生様です」
偉そうに座っている魔刀師のもとへ引っ張られ、その先生様へ挨拶をする。
「いま動ける薬師は自分だけだ。あんたは重傷者を診てくれ」
「なんと無礼な……」
「どこの生まれかもわからぬ野良の薬師などこんなものだ」
魔刀師の引き連れた取り巻きが騒ぐが無視。目も合わさず引き返す。
「この町の者たちは耐えた。ひとりでも多く救ってやりたい。俺ができることはやった。あとは頼んだ」
原因となった上流の処理も終えているし、魔刀師が来て使用人や御抱えの薬師も連れているなら俺に出来ることは特にない。
身分が違うので俺から名乗るのが普通だが、あまり触れられたくなくて無知で粗暴な忙しい薬師のふりをした。
取り巻きの言う通り、野良の薬師などこんなものだ。
「……後で話がある」
魔刀師はそれだけ言うと、長の娘たちに案内され重傷者の元へ向かった。感じの悪いやつ。
臥(ふ)せっていた他の薬師も重傷者で、彼らが話せるようになると都合が悪い。魔刀師も来たことだし俺は明日の朝には町を出よう。
「薬師さま、先生様がお呼びです」
「晩酌にこれをお持ちになって」
国お抱えのエリート魔刀師に浮き足たつ町娘たちが率先して手伝っているようで、俺のときとは全く違う様子に落ち込んだ。
これくらいバチは当たらんと、持たされた酒と煎った豆は懐へ入れる。娘たちには悪いが、あんな貴族たちに田舎の飯は口に合わんだろう。
「来たぞ。早朝でる。話は何だ」
忘れかけている公用語で喋るのでいつもより愛想はない。許せ。
「……まあ、座れ」
「はやく休む。話をしろ」
部屋を覗くと使用人は居ない。生娘相手ではないが、ふたりになって何か騒がれたらかなわん。
「あまり聞かれたくない話だ。座ってくれ」
お互い譲らず時間がたつ。うんざりして中へ入った。
「変なことを言うが……」
座った俺を見て言葉を選ぶ魔刀師。
「お前はこの世界の者ではないな」
───はっ、と息をのむ。
「我々のような魔刀師にはわかるのだが、俺からはお前が二重に見えている。交わり日が浅いな……苦労したはずだ」
「あ、ああ、うう……」
俺は気付けば泣いていた。
「突然自分の世界が異界と交わることがあるのだが、こんなにハッキリと紛れ込んだ人間は見たことがない」
魔刀師は涙を流す俺をしばらく眺め、落ち着いた頃にまた話し出した。
「世界の時間軸はまっすぐの線ではない。円であり、少しずつズレたそれが重なり合って球になる。終わりもなく、本当は続いているだけの線が円で球で時間の概念もなく全てが同時に起きているひとつの球体の中に我々は居る。
だがそれを人間が理解できるよう時間という概念でもって前に進み後に行けないよう処理して過ごしている。
その時間で順番をつけた点が線、線が円、円が球になっているから『少しずつ違うどの世界』も“ある瞬間”交わる点がでてくる。
だだ各世界線の時間の流れも速度も一定ではないので交わることは本当に珍しい。ほぼないといっていいほどに」
時計の短針長針秒針がもっと沢山あって、それがちょうど重なり合うイメージだろうか?
彼の言ってるいることの大半は理解できなかったが、身をもって経験しているだけに、それがただのオカルトや都市伝説だなんて思わない。
「だがお前は別人のようなもうひとりが重なっている。おそらく異界がふたつ以上交わった瞬間が来てしまい、そこへお前が干渉“できて”しまったか……」
城田啓介の記憶のままトキとして生きていた俺。突然トキの姿を失った俺。別のトキを見てしまった俺。
「おそらく元々が普通でないのだろう」
そのすべてを理解してくれた。
心が軽くなる。
「俺にはお前の魂が見えているが、あれだ…その。美しいな……」
そうだろ?トキは美人なんだ。自慢の俺の姿だ。
俺はそれから起きたことを全て告白した。生まれも、全て。だれにも話したことがない嘘のような話を全て。
「ふん、なるほど。普通なら複数の世界線を簡単に跨げない。出来たとしても『少しずつ違う前と似た世界』が新たに生まれ、それに気付かずそこへ馴染むはず。だがそれも出来ずにお前は今でも元居た世界に似た世界を『違うと認識して』うろうろしている。
つまりここもお前にとっては異界。だからもうひとりの自分を見てしまった」
「よくお前は『前世』という言葉を使うが、正しくはその肉体がお前の魂の入れ物となっているだけでお前自身ではない。それを自分の人生の続きと捉えていては“トキ”ではなく強い魂のお前が乗っ取ることになるぞ」
俺はトキではなく、トキの守護霊みたいなものなのか?よくわからない。トキの容姿で中身はおっさんの俺で生きてきたのに。
「今は『前世』がトキより前に出た危険な状態だ。そしてその姿のことだが……」
何かいいあぐねる魔刀師。
「恋人が居ると言ったな。その、あれだ。まだ清い関係だろう。それにトキ自身が清いままのはず」
確かにトキは童貞処女だが!!
「今の姿の人格が強すぎる。それに驚くほど魂が不安定だ。生まれたときに”我々より高次元の何者か”に干渉されたとみる。
何度も言うが、俺も初めて見た現象だ。普通ではない。俺たちは生まれた瞬間から何となく世界の理を知ってはいるが、知っているだけで現実に見ることはなかった。
だがそれでも、何かに導かれるようにお前がどうすればいいのか、俺にはわかる」
「……つまり?」
「肉体をトキで固定したいのならその恋人と成すべきだ」
セックスしなさい。ってことか……!
「この姿では……いやだ」
ジルドさんに抱かれるのが城田では嫌だ。浮気だ。なんとなくそう感じる。トキで抱いてほしい。
「な、なにも今そうしろと言ってない!これも感覚だが、おそらく再び混じり合う場所に近づけばこの世界と切り離せる。俺と出会ったのも元の世界へ帰るためだろう」
この魔刀師はここへ来る予定ではなかったらしい。ダダへ派遣される魔刀師たちが前日に一人ずつ謎の食あたりで倒れ困っていたところ、他国へ派遣されていた彼が帰国した。
「お前と俺は、運命だ。おそらくお前の世界でもそっちの俺と合っているはず」
メルヘンなことを言われてふと顔を確認した。
「あ!」
肺胞茸のときの魔刀師ではないか!入れ違いになった奴だ!そりゃここへ来るような魔刀師じゃない!エリートもエリート!
「やはり。そちらの俺は……お前と交われなかったようだな」
なんだそのエロい言い回しは。
「俺はその姿でもお前を愛せるが、どうだ」
どうだ、とは……。
「一目惚れだ。魔刀は魂を見る。お前は二重だが美しい魂だ。どちらもな」
口説かれまくってますジルドさん!ジルドさん!あなたのトキなのに!城田啓介はどぎまぎしてます!
「トキではない名を教えてくれないか」
穏やかで優しい声。俺と比べるとかなり若く見えるが、生まれた瞬間から理を知っているという彼らは皆こんなに達観しているのだろうか。ただの外科医だと思っていたけど、産婆が歪な俺を見極めたように、彼らも異端なのかもしれない。
俺は自分が記憶を持っている特別な人間だと思っていたが、なんてことない。彼らは”何か”を知っていても慢心せず、吹聴せず生きているのだから。
俺の生まれた世界が、文明の遅れていると思っていた国が、こんなに不思議な世界だったなんて。
「城田、啓介だ。ケイスケでいい。この世界の誰も知らない俺の名だ」
「ケイスケか。わかった」
自然と手を握り合う。
「ケイスケ、お前をもとの世界へ還そう。恐らくお前の生きた世界の時間は止まっているはずだ。そしてこの世界がまたそこへ交わるときを待っている。お前の帰りを待っている。だから少しもズレた世界でなく、ケイスケの愛した者の待つ場所へ戻れるよ。きっとできる、そんな感覚がある」
俺を見ているようで焦点の合わない瞳。彼は確かに“何か”を見ているのだろう。
「俺はこの世界のお前にもう一度惚れるのだろうな」
彼は名乗らなかった。教えると世界が大きく変わってしまうからだと言う。なぜだか俺もそんな気がして、見つめ合って笑った。
「ああ、トキは幸せ者だ。それにこっちのトキは俺のようにしみったれてなかった。明るい子だ」
「そうか……俺を選んでくれるかな」
「きっと飢えてるから飯を食わせてやったらイチコロだと思う。トキをよろしく」
「ジルドさんっ……!」
「おっ?どうしたトキ」
すん、とにおいをかぐ。懐かしいにおいだ。
数年ぶりに会ったかのような歓迎に困惑するジルドさん。
時間は確かに止まっていたようで、俺は夢だったのではないかと思うほど変わらない日常へ帰ってきた。
どうやって元の世界へ戻ったのかわからない。ただ心はあたたかく、あの後ふたりでワインを飲んで素朴な炒った豆を食べた記憶を最後に途絶えている。
とても幸せな時間だった。
この世界の彼も、俺を好きになってくれたのだろうか。一度合っているけど会話もしていない。あのとき一目惚れしてくれていたのかも…と思うと、あの不思議な男を思い出して胸が傷んだ。
■番外編『城田啓介再び?!』完
※突然SFになったと思われるかもしれませんが、元々の『魂/時間/因果/運命』というテーマのシリーズです!ムーンライトノベルズにて同世界シリーズ物を三作(嫁探し、ケニーの告白、これ当たり)掲載しております。
このあとからやっと城田の魂とトキの肉体で拮抗していた自我をジルドによって固定してもらうためにトキが頑張るのでよろしくお願いいたします。
(※現在執筆中)
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