33 / 34
宿り石
しおりを挟む「どうすっかなぁ」
薬師は横の繋がりが広い。あれはどこの誰であいつの弟子で~という風にいつの間にか伝わっている。
俺は薬師として生計を立てていくつもりだが、他の薬師たちに師匠や生まれもわからない見知らぬ男が薬を作っているとバレたとき、うまく誤魔化せるだろうか。
「あ~あ……はぁ、もう」
めんどくさい
やっとガルネシア語もアーネシアの人たちと遜色なく話せるようになったってのに。
あまり村には寄らず、山で調達した食える植物で腹を膨らましながら薬師が居なそうな町で少し薬を売ってはすぐ山へ入った。
小さな村より栄えている町の方が逆に目立たず居られる。東京より田舎のほうが余所者が目立つのと一緒だ。
しばらくその暮らしを続ける。
精神は限界で、なんのためにこんな生活をしてるのか疑問に思ってきた。
もっと楽になりたい。獣にも人間にも怯えず、ゆっくり寝たい。
「そこの薬師さん……!ちょっとまってくれ!」
ある町で手のひらに気泡のできる病が流行っていた。
「三人ほど薬師がいたが、薬を調合している最中に高熱で倒れてしまったので助けて欲しい」と山のなかで出会った商人に連れて行かれた田舎町、ダダ。
ダダとは西の言葉で『運命』という意味。
このダダという町には一度だけ来たことがある。育ての親の『ダン』と運命という単語の『ダダ』を合わせて、ベートーベンのダダダダーンってやつっぽい!と幼い頃にすぐ覚えられたこの世界の単語で、強く記憶に残っていた。
この記憶も本当に自分の体験なのだろうか。懐かしい記憶に頬が緩むも、そう考えて心が重くなった。
「他の薬師さんたちのつくった薬がこれです」
手渡された薬はよく出来ていたが、これは胃腸の炎症を抑えるもので今回の病に直接は効かない。だが死者が少ないのはこの薬があったからだろう。三人はよく頑張った。
この病は水に原因がある。
恐らく、一ヶ所にだけ衝撃を加えると粉々になる脆い種類の鉱石がこの町の上流付近で採れるはずだ。
その鉱石は落としても割れないが、小さな面積への強い衝撃に弱い。つるはしで叩くと粉々に煙立つので慎重に扱わなければならない厄介者だ。
一度砕けて粉になると水に溶ける性質があり、それが有害で今回のような病を引き起こしたのだろう。
他の薬師が倒れている間に薬を調合し、川を一時封鎖して井戸水も必ず沸騰させてから使うように指示を出す。
雨が降れば町中の樽を引っ張り出して雨水を溜めた。冷たい雨はみんなの心も身体も癒す。俺もこのときばかりは口布を下げて町のみんなと同じように雨水を飲んだ。
「粉鉱石の近くには宝石があると言われている。賊にも警戒してすすむぞ」
安全な飲み水の確保と治療がひとまず落ち着いてきたので、男たちを引き連れ上流を見に行く。
「ちなみに宝石はとれない。粉鉱石を崩さんよう宝石が埋まっていると思って掘れ、という意味だ」
雑談混じりにそう教えれば数人ガックリしていた。本当に宝石があるならこの地域はとっくに掘り返されているだろう。
「見ろ、あそこだ」
採石した跡。ごみは放置してあり、あちこち何かの食べカスが腐っている。川には予想通り、掘るのに失敗して崩れた崖から粉鉱石が流れ込んでいた。
宝石目当てに盗みに来たのだろうが、鉱石を扱いきれず粉を直接吸い込み続けたか。
厄介者の粉は吸うと体内では溶けず肺に蓄積され、吸い続ければいずれ呼吸困難になる。水に溶けることは知っていても、肺に溜まるのを知らない人間は多い。
蓄積された粉は体内で固まり、死体から元の石のようになって出てくる。生き延びようとしている紛れもない生物の姿だ。
そのことから付いた別名『宿り石』
「口布を絶対に外すなよ」
仲間が倒れていくのを見て慌てて逃げたのだろう。食べカスだと思った酷い腐敗臭のするナニかは、動物に食い荒らされた人間のようだ。その残骸の中に宿り石のような塊がいくつか出来ている。動物たちが綺麗に避けて食べているから、そうみて間違いない。
男たちに指示しながらその現場を片付け、慎重に石を積み間には粘土を塗り込んで崩れた鉱石の崖を覆う。溶け出している濃度の濃い場所は水が虹色に光っていて、これが薄まり元に戻ったら前のように川も生き返るだろう。
最初の薬師がやっとつかまったのが三月ほど前。だが町は半年前からこの状況だったという。
よくやっている。この世界では珍しく衛生面に敏感な町だからこの程度で収まっているが、他の地域ならばとっくに町の半数以上死者が出ていておかしくない。
味に異変を感じて飲むのを避けたまでは良かったが、作物や洗濯に使用したことで症状がでたのだ。
そして栄えているがこんな山奥、国から魔刀師が派遣されるのはまだ先になる。それまでなんとか重症者を死なせないようふんばるしかない。
1
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる