チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆

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第9話 追放勇者、ケジメをつける【その4】

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 イリサーヴァは当時、高い城壁に囲まれていた。壁に使われていた石は一つ一つに浄化の紋が彫られ、邪悪なものは絶対に寄せ付けないと、街の首長は自負していた。
 鉄壁の街とも言われていたが、そんな壁の一端が、易々と破壊された。魔王の側近である、三鬼神の仕業だった。絶対無敵と思われていた壁が壊され、魔物が一気に雪崩れ込んだ。
 必ず守られている、壁が破られるわけがない。という奢りと、夜襲であったこともあって、イリサーヴァはものの一晩で滅んだのだった。

 街の住人たちの遺体は、お世辞にも丁寧には葬られなかった。葬ることができなかった。
 街の中心で、魔王の魔瘴気がバラまかれていたのだ。濃い魔瘴気は、触れるだけで命を落とす。
 皮肉にも、城壁の浄化能力が作用していたことで、魔瘴気は壁を抜けることなく外部には漏れなかった。しかしそれが、被害をさらに拡大させたとも言われている。

 結果、街の中は魔瘴気で満たされた。遺体は穢れ、そして腐敗した。このまま放っておけば、伝染病などの発生の帰来もあった。
 そのため、七勇者が一人『ヒメコ=グラセオール』の炎の呪文と、『ボッサ=シークレ』の浄化の術式を用いて、街全部を一度に弔うこととなった。

 ボッサは空を見ていた。遺体が焼け、立ち上る煙をずっと眺めていた。
 煙はどこまでも、果てしない空へ吸い込まれていった。

 *****************************


 封じられていた街の入り口は、何者かにこじ開けられていた。誰がやったのかは、容易に想像できる。
 サックは特に臆することなく、ただまっすぐを見据え、街の中心にある広場を目指した。サックの目論見が正しければ、彼はそこにいるはずだ。
 ビルガドの街で急ごしらえした『フェンサーマント』が、時折吹く北風になびく。

「私、入るの初めてです」
 サックをイリサーヴァ正門跡まで送り届けたクリエは、彼の忠告を無視し、勝手についてきていた。
 なお、当初心配されていた『女神のつばさ』定員は、かろうじて二人分までなら移送可能であることが証明された──サックは移動中ずっと、クリエの体に抱きついた状態、という非常に不格好かつ、危険な様相ではあったが。

「警告はしたぞ。それでも帰らないか」
 はぁ、と、ため息交じりでサックが話す。
 左頬に受けたクリエの平手打ちの跡が痛々しい。
 すると、はあぁぁぁぁぁ、と、それ以上の大きなため息をつきながら、クリエは反論した。

「あのですねぇ、運送費がタダなんて、虫のいい話ありません! しかも移動中、変なところ触られまくったし!」
「こっちも、落ちまいと必死だったんだぞ」
「とにかく! 運賃以上の情報を頂かないと、私も帰れません。腐っても新聞屋ジャーナリストですからね!」
「腐っている自覚はあるんだな」
 ふふっ、と、サックは鼻で笑った。
 そして、いつものクリエなら10倍くらいの嫌味を言い返すところを、特に反論せず、クリエも微笑んだ。

「やっと、笑ってくれましたね、息が詰まりそうでした」
「……そんなに、険しい顔してたか?」
「ええそりゃもう、まるで赤鬼レッドオーガみたいでしたよ」
 クスクスと、悪戯っぽくクリエが笑った。
「……レッドなのは、ビンタの跡の所為じゃないかな」
 それにつられてか、サックの口元も緩んだ。

「サックさん……見届けさせてください。あなたの覚悟を」
「ああ、新聞に乗せるときは、美化三割増しで頼むぜ」
「それはできません、捏造になります」
 そんな、サックとクリエの漫才のような会話を尻目に、彼らは街の中心に近づいていった。
 奥に進めば進むほど、崩れた石造りの建物の表面の焦げ色は濃くなっていく。

 魔物の襲撃を受けたとき、街の住人は、街の中央に立てられている巨大な『女神の像』に向かって避難してしまっていた。神聖な守りの加護が付与されていた像ならば、邪悪な魔物は近づけないはずであったが、しかし、敵の数が多すぎた。
 女神の加護は破られ、最終的には、中央の広場では多くの遺体が折り重なっていた。
 サックたちは、その悲劇の場に近づこうとしていた。

「うっ……」
 クリエが口を押さえていた。聞き及んでいたことであるが、いざ自分が、その現場に近づいているという現実を想像したら、自然と吐き気を催していた。
「クリエ、下がるなら今だぞ」
「いえ、できるだけ最後まで見届けます。ですが……」
 クリエは言葉をつづけた。
「私も死にたくないので。サックさんの合図があったら、手筈通りに逃げますよ」
「賢明だな。方角を示すから、その時はその方向へ退けよ」
「はい」
 クリエは、事前に渡された薬瓶を握りしめた。右手の骨折は、サックが調合した回復薬で治癒してもらっていた。


 *


 女神の像はいまだ健在だった。所々にひびが走り、表面はすすけていたが、形はしっかり保たれていた。十分視認が可能だ。

 イリサーヴァ中央広場。
 平和だった時代は、民が集まり憩いの場として開放され、また、記念式典などの催し物も行われていた。
 街の中央に大きく開けた場所は、全方位からも中央が良く確認できた。

 そこの女神像の袂に、ボッサが立っていた。福音奏者のマントの代わりに白い外套を身に着け、司祭が着る服には汚れやシミ一つなく、真っ白な装いだった。右手には長い杖のようなものを持ち、じっと、女神像を見上げていた。
 それともう一人。彼女も、女神像の足元──ボッサの横に立っていた。ちょうど後ろ向きだったため顔は確認できないが、子供と見間違うほどの小柄な体型と、ネコ属独特の尖った髪型(毛並み)は、サックには見おぼえがあった。

「アリンショアっ!」
 中央広場の端から、サックは呼びかけた。しかし、アリンショアは微動だにしなかった。その代わりに、ボッサが振り向いた。

「来ましたか」
 元々の細い目をさらに細め、小さく口角を上げて微笑んだ。年齢は40を越えたばかりなはずだが、白髪や体つきの所為か、もっと年老いて見えた。

 中央広場に入ったサックだが、歩みを止めなかった。女神像のほうへ向かいながら、サックはボッサに呼びかけた。
「止めに来たぞ、ボッサ!」
「……なにを、ですか?」
 すると、サックは歩みを止めた。まだボッサとは距離が十分離れている。まるで、今の彼らの心の距離を表しているようであった。

「ボッサ、お前さ、そこまでやるか。気付いたときには血の気が引いたぞ」
 サックの声は、周囲の静けさもあってボッサの耳に十分届いた。
「……」
 ボッサは何も答えなかった。

「……大浄化術式イア=ナティカ、だな」
「ええっ!」
「……ほう」
 ボッサの代わりに、サックが答えた。それは、魔王城前決戦で使用された、強大な浄化術の名前だった。後ろからついてきていたクリエが、つい声を上げて驚いてしまった。

「ボッサが通ったと思われる街を線で結ぶと、大陸の大都市を全て囲っていた。そこで、ピンと来た。魔王城前決戦で魔物を殲滅させた、あの大浄化式だ、ってな」
 左手の人差し指で、空中にくるくると弧を描いた。最北の魔王城から、ボッサの通ったと推察される街をたどると、大陸をぐるりと周遊し、大都市を全て含んだ円になるのだという。

「お前……人間を『浄化』させる気だな」
「……!!」
 その場で一番驚愕したのは、クリエだったのかもしれない。彼女は目を見開き、口元を手で押さえた。

「お見通しでしたか。流石ですね」
「いんや、思いつき。けどその返事ってことは、あながち間違いではなさそうだな」
 サックには確証はなかった。だから少し、かま・・をかけた。ボッサはまんまと、それに足を掬われた格好だ。

 ボッサの目尻が、少しヒクついた。未だ口元は笑みを作っているが、内心はサックへの怒りに溢れているのだろうか。
「やっぱり、昔からあなたのことが苦手です」

 するとボッサは、携えていた杖──いや、布を被せた槍だ──を縦に構え、石突きで地面を小突いた。
 コン、と、石畳とぶつかる音が広場に響く。
 すると、先ほどから後ろを向いていたアリンショアが、ゆっくり振り向いた。

「──やりやがったな、ボッサ」
 アリンショアを正面に構え、サックの顔が一層険しくなった。
 アリンショアの顔には全く精気が無かった。目は虚ろで、焦点は合ってない。口は半開きでヨダレを垂らしていた。

 なにより、サックは既に深層鑑定ディープアナリシスによって、アリンショアの真相は覗き見えていた。

死者傀儡ネクロマンス……!」

 彼女は既に、死んでいたのだ。
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