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第2章 魔術師の試練
18. ひとりで
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俺はひとり、洞窟を探索していた。
光源は腰のベルトに括りつけられた魔法の明かりを灯すランプのみ。洞窟の中は薄暗く、十数歩先までしか見通せない。
目的はこの洞窟の奥にだけ自生するという薬草を取ってくること。誰の力も借りず、ひとりで――
「俺は反対です……っ!ノアをひとりで行かせるなんて!」
みんなで雉料理に舌鼓を打っていたあの晩――師の提案に一番に異を唱えたのはウィルだった。
「ノアにもし何かあったら……陛下がまた飛んでくるのでは……ああ、恐ろしい」
怒れる兄を思い出したのか、ジンは小刻みに震えている。
「私たちは少し距離をとって、ノアのうしろを随行します。それではいけませんでしょうか?」
「ならぬ……」エトワールの妥協案を、師は一蹴した。
「ノア……おまえは仲間に恵まれておる。おまえには人を惹きつける力がある――それも才能のひとつやもしれん。しかし、それでこの先、一人前の魔術師、冒険者として、やっていけるのであろうか?」
師の言うことは、もっともだった。
だから俺は、成し遂げなければならない。何もかも、自分ひとりのちからで――
洞窟の奥に向かって進んでいくと、2匹のモンスターに行く手を塞がれた。
一匹はコウモリ、もう一匹は大型の両生類型のモンスターだった。
落ち着くんだ、ノア――
立ち止まり、大きく息を吸って呼吸を整える。
コウモリ型のモンスターが、甲高い鳴き声とともに、超音波を発した。
俺は咄嗟に耳を塞いでこらえる。その間に両生類型のモンスターが、大きな口を開き、粘液の塊のようなものを俺めがけて吐き出した。
――足に魔力を込め、魔法の力で大きく後退するのだ――
師の声が脳裏に蘇った。
ウィルとの立ち合いを思い出す。
あのときのように力みすぎて転倒してしまっては、実戦では命の危機となる――
俺は集中して、耳を塞いだまま足に魔力を込め、地面を蹴った。
避けれた――!
モンスターが吐き出した粘液の塊は、俺が元いた場所に着弾した。粘液は土を溶かし、地面からは煙が上がっている。
反撃だ!
俺は杖を取り出し、呪文の詠唱を始めた。
「ノア……遅いな」
「まさか…何かあったんじゃ……」
「ノアを信じて、待ちましょう」
ノアがひとりで洞窟に入っている間、俺たちは洞窟の入り口で待機していた。
ホルデウムは、俺たちは過保護すぎると言ってあきれていたが、モンスターの跋扈する洞窟にノアをひとりで行かせること自体、心配で心配でたまらないのだ。このくらいは許してほしい。
時間が経つのがやけに遅く感じる。ノア……どうか無事でいてくれ――
「あ……っ!あの光は!?」
「ノアだ!!」
光がこちらに近づき、ノアの姿が見え始めた。俺は洞窟の入り口のふちに立って、ノアに大きく手を振った。
「ノアーーー!おかえりー!」
「ケガはない!?大丈夫かいー?」
「あと少しです。がんばって!」
俺たちは口々にノアに声をかけた。
「ただいまー!大丈夫だよー!」
ノアも手を振り返してくれた。
「任務達成だ!」
ノアは誇らしげに、ホルデウムが採ってくるようにと指定した薬草の入った袋を掲げた。
「やったな!」
「大きなケガがなくて、何よりです」
「さすがノア♪」
日の光の下であらためてノアを見てみると、顔も服もあちこち土と泥で汚れていた。
俺は思い出していた。まだ幼い子どもだった頃のこと――
俺たちはふたりで、城の広い庭を泥だらけになって走り回っていた。
はしゃぎ回るルクス皇子は、石に躓いて転んでしまった。俺はすぐに駆け寄ってなだめたが、皇子は擦りむいてできた足の傷の痛みに、わんわんと泣くばかりだった。
どんなになだめても泣き止まなかった子どもは、もういない――
成長したな――ノア……
第2章・完
光源は腰のベルトに括りつけられた魔法の明かりを灯すランプのみ。洞窟の中は薄暗く、十数歩先までしか見通せない。
目的はこの洞窟の奥にだけ自生するという薬草を取ってくること。誰の力も借りず、ひとりで――
「俺は反対です……っ!ノアをひとりで行かせるなんて!」
みんなで雉料理に舌鼓を打っていたあの晩――師の提案に一番に異を唱えたのはウィルだった。
「ノアにもし何かあったら……陛下がまた飛んでくるのでは……ああ、恐ろしい」
怒れる兄を思い出したのか、ジンは小刻みに震えている。
「私たちは少し距離をとって、ノアのうしろを随行します。それではいけませんでしょうか?」
「ならぬ……」エトワールの妥協案を、師は一蹴した。
「ノア……おまえは仲間に恵まれておる。おまえには人を惹きつける力がある――それも才能のひとつやもしれん。しかし、それでこの先、一人前の魔術師、冒険者として、やっていけるのであろうか?」
師の言うことは、もっともだった。
だから俺は、成し遂げなければならない。何もかも、自分ひとりのちからで――
洞窟の奥に向かって進んでいくと、2匹のモンスターに行く手を塞がれた。
一匹はコウモリ、もう一匹は大型の両生類型のモンスターだった。
落ち着くんだ、ノア――
立ち止まり、大きく息を吸って呼吸を整える。
コウモリ型のモンスターが、甲高い鳴き声とともに、超音波を発した。
俺は咄嗟に耳を塞いでこらえる。その間に両生類型のモンスターが、大きな口を開き、粘液の塊のようなものを俺めがけて吐き出した。
――足に魔力を込め、魔法の力で大きく後退するのだ――
師の声が脳裏に蘇った。
ウィルとの立ち合いを思い出す。
あのときのように力みすぎて転倒してしまっては、実戦では命の危機となる――
俺は集中して、耳を塞いだまま足に魔力を込め、地面を蹴った。
避けれた――!
モンスターが吐き出した粘液の塊は、俺が元いた場所に着弾した。粘液は土を溶かし、地面からは煙が上がっている。
反撃だ!
俺は杖を取り出し、呪文の詠唱を始めた。
「ノア……遅いな」
「まさか…何かあったんじゃ……」
「ノアを信じて、待ちましょう」
ノアがひとりで洞窟に入っている間、俺たちは洞窟の入り口で待機していた。
ホルデウムは、俺たちは過保護すぎると言ってあきれていたが、モンスターの跋扈する洞窟にノアをひとりで行かせること自体、心配で心配でたまらないのだ。このくらいは許してほしい。
時間が経つのがやけに遅く感じる。ノア……どうか無事でいてくれ――
「あ……っ!あの光は!?」
「ノアだ!!」
光がこちらに近づき、ノアの姿が見え始めた。俺は洞窟の入り口のふちに立って、ノアに大きく手を振った。
「ノアーーー!おかえりー!」
「ケガはない!?大丈夫かいー?」
「あと少しです。がんばって!」
俺たちは口々にノアに声をかけた。
「ただいまー!大丈夫だよー!」
ノアも手を振り返してくれた。
「任務達成だ!」
ノアは誇らしげに、ホルデウムが採ってくるようにと指定した薬草の入った袋を掲げた。
「やったな!」
「大きなケガがなくて、何よりです」
「さすがノア♪」
日の光の下であらためてノアを見てみると、顔も服もあちこち土と泥で汚れていた。
俺は思い出していた。まだ幼い子どもだった頃のこと――
俺たちはふたりで、城の広い庭を泥だらけになって走り回っていた。
はしゃぎ回るルクス皇子は、石に躓いて転んでしまった。俺はすぐに駆け寄ってなだめたが、皇子は擦りむいてできた足の傷の痛みに、わんわんと泣くばかりだった。
どんなになだめても泣き止まなかった子どもは、もういない――
成長したな――ノア……
第2章・完
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