某国の皇子、冒険者となる

くー

文字の大きさ
34 / 142
第2章 魔術師の試練

18. ひとりで

しおりを挟む
俺はひとり、洞窟を探索していた。
光源は腰のベルトに括りつけられた魔法の明かりを灯すランプのみ。洞窟の中は薄暗く、十数歩先までしか見通せない。
目的はこの洞窟の奥にだけ自生するという薬草を取ってくること。誰の力も借りず、ひとりで――



「俺は反対です……っ!ノアをひとりで行かせるなんて!」

みんなで雉料理に舌鼓を打っていたあの晩――師の提案に一番に異を唱えたのはウィルだった。

「ノアにもし何かあったら……陛下がまた飛んでくるのでは……ああ、恐ろしい」
怒れる兄を思い出したのか、ジンは小刻みに震えている。

「私たちは少し距離をとって、ノアのうしろを随行します。それではいけませんでしょうか?」
「ならぬ……」エトワールの妥協案を、師は一蹴した。

「ノア……おまえは仲間に恵まれておる。おまえには人を惹きつける力がある――それも才能のひとつやもしれん。しかし、それでこの先、一人前の魔術師、冒険者として、やっていけるのであろうか?」

師の言うことは、もっともだった。
だから俺は、成し遂げなければならない。何もかも、自分ひとりのちからで――


洞窟の奥に向かって進んでいくと、2匹のモンスターに行く手を塞がれた。
一匹はコウモリ、もう一匹は大型の両生類型のモンスターだった。

落ち着くんだ、ノア――
立ち止まり、大きく息を吸って呼吸を整える。

コウモリ型のモンスターが、甲高い鳴き声とともに、超音波を発した。
俺は咄嗟に耳を塞いでこらえる。その間に両生類型のモンスターが、大きな口を開き、粘液の塊のようなものを俺めがけて吐き出した。

――足に魔力を込め、魔法の力で大きく後退するのだ――
師の声が脳裏に蘇った。

ウィルとの立ち合いを思い出す。
あのときのように力みすぎて転倒してしまっては、実戦では命の危機となる――

俺は集中して、耳を塞いだまま足に魔力を込め、地面を蹴った。

避けれた――!
モンスターが吐き出した粘液の塊は、俺が元いた場所に着弾した。粘液は土を溶かし、地面からは煙が上がっている。

反撃だ!

俺は杖を取り出し、呪文の詠唱を始めた。







「ノア……遅いな」
「まさか…何かあったんじゃ……」
「ノアを信じて、待ちましょう」

ノアがひとりで洞窟に入っている間、俺たちは洞窟の入り口で待機していた。
ホルデウムは、俺たちは過保護すぎると言ってあきれていたが、モンスターの跋扈する洞窟にノアをひとりで行かせること自体、心配で心配でたまらないのだ。このくらいは許してほしい。

時間が経つのがやけに遅く感じる。ノア……どうか無事でいてくれ――

「あ……っ!あの光は!?」
「ノアだ!!」
光がこちらに近づき、ノアの姿が見え始めた。俺は洞窟の入り口のふちに立って、ノアに大きく手を振った。

「ノアーーー!おかえりー!」
「ケガはない!?大丈夫かいー?」
「あと少しです。がんばって!」
俺たちは口々にノアに声をかけた。

「ただいまー!大丈夫だよー!」
ノアも手を振り返してくれた。

「任務達成だ!」
ノアは誇らしげに、ホルデウムが採ってくるようにと指定した薬草の入った袋を掲げた。
「やったな!」
「大きなケガがなくて、何よりです」
「さすがノア♪」

日の光の下であらためてノアを見てみると、顔も服もあちこち土と泥で汚れていた。


俺は思い出していた。まだ幼い子どもだった頃のこと――

俺たちはふたりで、城の広い庭を泥だらけになって走り回っていた。
はしゃぎ回るルクス皇子は、石に躓いて転んでしまった。俺はすぐに駆け寄ってなだめたが、皇子は擦りむいてできた足の傷の痛みに、わんわんと泣くばかりだった。

どんなになだめても泣き止まなかった子どもは、もういない――


成長したな――ノア……


第2章・完




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

処理中です...