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第3章 定めに抗う者たち
14. 目覚め
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「……ノア!……ノア!ノア!おい……っ!しっかりしろ!」
「ノア!お願い、目を覚まして……」
「……ヒール!」
仲間たちの声と治癒呪文のあたたかな光を感じて、俺は目を覚ました。
「みん…な……」
「ノア……っ!」
「よかった~!」
「ノア…死んじゃったかと……ぐすっ」
みんなひどい恰好だった。
ウィルは泥だらけ。ジンは血まみれ。ニケは泣き腫らしたかのような真っ赤な目をしていて、頬には幾筋もの涙の跡が残っていた。
ウィルに支えられながら、俺は上体を起こした。
「アラゴグ……倒したんだな」
「ノアがやったんじゃないのか?」
「俺が?まさか……」
三人は顔を見合わせている。
「あの時――俺たちみんなバラけてしまっていた。自分の身を守るだけで精一杯だった。そんなとき、どこかから一条の光が発せられたんだ。光はアルゴグを貫き、ヤツは地に倒れた。俺たちは何が起こったがわからなかったが、しばらくして終わったんだと、誰かが――おそらく魔法詠唱者が――あの光でヤツを倒してくれたんだと悟った。俺たちは仲間たちの名前を呼びながら、光が放たれていた場所に向かって進んだ。そこに――君がいたんだ、ノア……」
あのとき――朦朧とした意識の中で、男から与えられた力をアルゴグに向けて放った記憶が脳裏に蘇ってきた。
「漆黒のローブを纏ってフードを目深に被った男……おそらく魔法詠者だと思う……誰か、彼を見なかった?」
「魔法詠唱者?漆黒のローブか……ありふれた格好だからなぁ……」
「僕も自分のことに精一杯で、他人にまで気を配ってなかったよ」
「俺も……」
「その人が…俺の傷を癒し、力を与えてくれた……彼がいなければ俺は今頃……お礼、言わないと……」
「ああ…そうだな。他の連中にもその男を見なかったか、きいておくよ」
「絶対見つかるって。誰かとパーティを組んでるだろうし、ギルドに登録しているかも」
「………」
意識が朦朧としていたせいか、記憶は朧げだった。
あの男は何か重大なことを言っていたような気がするが……今はからだが鉛のように重たく、動くことままならないほどに疲労している。上手く思考を働かせることすら満足にできそうにない。
「ノア……大丈夫か」
「早く…治癒院に行こう。転移魔法ですぐに…」
「大丈夫だよ……ちょっと疲れているだけだから。俺の事より、エトワールの……」
「今、ギルドの連中が解体作業に入っている。一番に届けてくれるってさ」
「お待たせしました。こちらが、アラゴグの胆嚢です」
ギルドマスターのアンセルが、息を切らして俺たちに報酬を届けてくれた。
「ニケ……師匠のところへ……これを届けてくれる?」
「任せてノア……エトワールはもう大丈夫だから。君も治癒院へ早く……っ!」
「うん、わかってる。だけど、何故だかすごく眠いんだ。少しだけでいいから、眠らせて……みんな、悪いけど……あとのこと…頼んだ…よ……」
「ノア……?ノア――――」
俺はそれから一日中眠り続けたが、目を覚ますと疲労はきれいさっぱり消えていた。
すぐにでも師の屋敷に向かいたかったが、飲まず食わずで動き回ったら倒れるとウィルに諭されたため、大急ぎで飲み物とお粥を口に入れた。それから最低限の身支度を整えると、ウィル、ジンと一緒に師の屋敷に転移した。
ニケと師はあの後すぐに特効薬の生成に取りかかっていたらしい。すでに薬を完成させ、エトワールに飲ませてくれていた。
エトワールの部屋に入る。
彼は静かに眠っていた。
モンスター討伐に向かう前に見たときよりも、ずっと顔色がよくなっていた。
手を握ると、ほのかなぬくみが伝わってくる。
その手のあたたかさに安堵し、俺は安堵の息を吐いた。
握っていた手がぴくりと動いた。
陽の光を反射して白金にきらめくまつげが幾度か震え、淡い紫色の瞳が現れ――
「ノア……?」
「エトワール……!」
「私は……生きていますか?」
「もう大丈夫だよ。おかえり……エトワール」
美しいひとが、みんなの元へと帰ってきてくれたのだ――
第3章・完
「ノア!お願い、目を覚まして……」
「……ヒール!」
仲間たちの声と治癒呪文のあたたかな光を感じて、俺は目を覚ました。
「みん…な……」
「ノア……っ!」
「よかった~!」
「ノア…死んじゃったかと……ぐすっ」
みんなひどい恰好だった。
ウィルは泥だらけ。ジンは血まみれ。ニケは泣き腫らしたかのような真っ赤な目をしていて、頬には幾筋もの涙の跡が残っていた。
ウィルに支えられながら、俺は上体を起こした。
「アラゴグ……倒したんだな」
「ノアがやったんじゃないのか?」
「俺が?まさか……」
三人は顔を見合わせている。
「あの時――俺たちみんなバラけてしまっていた。自分の身を守るだけで精一杯だった。そんなとき、どこかから一条の光が発せられたんだ。光はアルゴグを貫き、ヤツは地に倒れた。俺たちは何が起こったがわからなかったが、しばらくして終わったんだと、誰かが――おそらく魔法詠唱者が――あの光でヤツを倒してくれたんだと悟った。俺たちは仲間たちの名前を呼びながら、光が放たれていた場所に向かって進んだ。そこに――君がいたんだ、ノア……」
あのとき――朦朧とした意識の中で、男から与えられた力をアルゴグに向けて放った記憶が脳裏に蘇ってきた。
「漆黒のローブを纏ってフードを目深に被った男……おそらく魔法詠者だと思う……誰か、彼を見なかった?」
「魔法詠唱者?漆黒のローブか……ありふれた格好だからなぁ……」
「僕も自分のことに精一杯で、他人にまで気を配ってなかったよ」
「俺も……」
「その人が…俺の傷を癒し、力を与えてくれた……彼がいなければ俺は今頃……お礼、言わないと……」
「ああ…そうだな。他の連中にもその男を見なかったか、きいておくよ」
「絶対見つかるって。誰かとパーティを組んでるだろうし、ギルドに登録しているかも」
「………」
意識が朦朧としていたせいか、記憶は朧げだった。
あの男は何か重大なことを言っていたような気がするが……今はからだが鉛のように重たく、動くことままならないほどに疲労している。上手く思考を働かせることすら満足にできそうにない。
「ノア……大丈夫か」
「早く…治癒院に行こう。転移魔法ですぐに…」
「大丈夫だよ……ちょっと疲れているだけだから。俺の事より、エトワールの……」
「今、ギルドの連中が解体作業に入っている。一番に届けてくれるってさ」
「お待たせしました。こちらが、アラゴグの胆嚢です」
ギルドマスターのアンセルが、息を切らして俺たちに報酬を届けてくれた。
「ニケ……師匠のところへ……これを届けてくれる?」
「任せてノア……エトワールはもう大丈夫だから。君も治癒院へ早く……っ!」
「うん、わかってる。だけど、何故だかすごく眠いんだ。少しだけでいいから、眠らせて……みんな、悪いけど……あとのこと…頼んだ…よ……」
「ノア……?ノア――――」
俺はそれから一日中眠り続けたが、目を覚ますと疲労はきれいさっぱり消えていた。
すぐにでも師の屋敷に向かいたかったが、飲まず食わずで動き回ったら倒れるとウィルに諭されたため、大急ぎで飲み物とお粥を口に入れた。それから最低限の身支度を整えると、ウィル、ジンと一緒に師の屋敷に転移した。
ニケと師はあの後すぐに特効薬の生成に取りかかっていたらしい。すでに薬を完成させ、エトワールに飲ませてくれていた。
エトワールの部屋に入る。
彼は静かに眠っていた。
モンスター討伐に向かう前に見たときよりも、ずっと顔色がよくなっていた。
手を握ると、ほのかなぬくみが伝わってくる。
その手のあたたかさに安堵し、俺は安堵の息を吐いた。
握っていた手がぴくりと動いた。
陽の光を反射して白金にきらめくまつげが幾度か震え、淡い紫色の瞳が現れ――
「ノア……?」
「エトワール……!」
「私は……生きていますか?」
「もう大丈夫だよ。おかえり……エトワール」
美しいひとが、みんなの元へと帰ってきてくれたのだ――
第3章・完
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