某国の皇子、冒険者となる

くー

文字の大きさ
69 / 142
第5章 砂漠の国の錬金術師

4. それぞれの決意

しおりを挟む
「ニケの故郷ってどこなの?」
「ザハブルハーム王国だよ」
ザハブルハームはベルムデウス帝国より東に位置する隣国だ。
乾燥していて砂漠が多い。独自の文化を発展させ、帝国とも貿易など交流がある。
でも…国内よりも、危険じゃないかなぁ……

「帝国じゃないんだなぁ…」
「ノア!ダメだ!危険すぎる!」
ひさしぶりに、ウィルの保護者モードが発動だ。外国行きを心配するのは、従者として当然かもしれない。

「危険?冒険者なんだから、いろんな国で冒険するのが普通でしょ?」
たしかにそうだ。同じ国の中から一歩も出ない冒険者なんて、俺の目指す冒険者ではない。

「帝国の外に出るなんて初めてだな……」
「歓迎するよ、ノア」
「ザハブルハーム王国へ行くのは私も初めてです。楽しみですねぇ」
「……俺はどうなっても知らないよ~」
「ウィル……兄上に報告したら絶交だから」
「~~~~~~っ!!ノア!!」


師の屋敷に帰り、俺たちは大急ぎで荷造りをした。ようやくのことであらかたの作業を終える頃には、とっくに深夜になっていた。
「ウィル、荷造り手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「ノアの異次元生成魔法、勝手がよすぎてついつい荷物が増えちゃうよなぁ……」

ねぎらいの意味も込めて、ウィルにお茶を淹れた。

「ありがとう、ノア」
「ウィル、修行がんばってな」
「俺の事より、ほんとうに大丈夫なのか?せめて俺がついて行けたら……」
「大丈夫だって。帝国から出ることは冒険者として、いずれ通らなければならない道なんだから。ニケの故郷だっていうし、心配ないさ」

「ノア…」
「ん?」
「強くなったな……」
「な、なんだよいきなりっ!」
「いや…帝都を出てからもう四か月も経つんだって思うと、感慨深いなって……」
「ああ……。あのときはこんなにうまくやって行けるとは思ってなかった。試験も落ちたと思ったし」
「正直、間一髪だったよな……あのときはヒヤヒヤしたよ。冒険者試験に受かってからも、俺はノアが冒険者なんてやめるって、すぐ言い出すと思ってた」
ウィル……そんなこと思ってたのか……

「なんだよ。まぁ、俺って飽き性なとこはあるけどさ~」
「でも……ホルデウム殿の下で真剣に修行してるきみを見て、考えが変わった。きみはずっとこの先も――冒険者をやめないだろうなって。だから俺は君を守るよ、ずっと……」
「ウィル……ほんとうにいいの?だってきみは…」

「…家のこと?それなら心配ないよ。俺には兄弟がたくさんいるから」
「ウィルも俺が冒険者である限り、同じように冒険者としてずっと生きていく――ほんとうにそれでいいのか?……って、ごめん。俺の都合できみをさんざん振り回してきて、今さら何言ってんだよってかんじだよな……」
「俺は子どもの頃、騎士になりたかった。でも、騎士じゃきみを守れないだろ、ノア。そういうことさ」
強い意志がウィルの緑の瞳に宿っている。それを見ると、俺は何も言えなくなってしまった。
「ウィル…ありがとう」

「……明日も早い。そろそろ寝ないとな」
「うん、そうだね……おやすみ、ウィル」
「おやすみ、ノア」



ルクスは今日も、俺の中で眠っている……

もし俺がこの世界に来ることなく、ルクスのままだったら……ウィルは騎士になっていたんだろうなぁ……

ウィル……俺、がんばる。あのとき俺から離れて騎士になっていればよかったって、きみが後悔しないように……君を失望させないために――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

処理中です...