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第8章 呪われた世界
11. 追い詰められて
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俺を助けてほしい。そう続ける暇を、ルクスは与えてくれなかった。
「……そうなの?でもぼくは、こうすることにするよ」
突然――
下腹部が鋭い痛みに襲われた。
目線を下に落とすと、ルクスが柄を握っているナイフが、俺の腹に刺さっているのが見える。
「ノア……きみを、どうしても許せない……許せないんだ……」
ルクスの目には、隠しようのない憎しみが込められていた。
「こうするしか、なかったんだ……」
ナイフの柄を放したルクスの白い手は、小刻みに震えている。
痛い……!!
刺されるって、こんなに痛いんだ……
「ノア――!!!」
兄上が船から降りてきて、崩れ落ちる俺のからだを受け止めてくれた。
「あ…あにう…え……」
「ノア!ああ……っ!なんてことだ……」
「ルクス……っ!」
「っ……!」
ルクスは背を向け、この場から離れようと駆け出したが、10メートルも行かないうちに足を止めた。
止めたというよりか、からだの動きを止められたのだ。兄上の魔法によって……
「ノア……横になってくれ……そう、ゆっくりだ……。ラウルス、ルクスをここに連れてきて、ノアの横に横たわらせてくれないか」
「御意!」
「ノア……っ!ヒール!!」
ニケが回復魔法をかけてくれた。
「刃を抜くぞ。すまない……あと少しだから、がんばってくれ……」
腹に刺さったナイフが動かされる激痛。
あまりの痛みに、次第に気が遠くなっていく――
回復魔法のあたたかな波動を感じる……
「ノア……っ!ノア……どうか目を覚ましてくれて……」
重たい目蓋を持ち上げると――見慣れない天井と、涙の跡が頬に残る兄上の顔が目の前にあった。
「兄…上……?」
「ノア!よかった……」
「ノア……!」
仲間たちが口々に安堵の声を上げている。
あれ…視界が広い……?
手を持ち上げると、その手は病に侵されひどく荒れたものではなく、ほっそりとした白い手だった。
「俺……」
「そうだ……おまえは元のからだに戻れたんだ。助かったんだよ……」
言われてみると……からだは軽く、前のからだでは感じられたなかった魔力が満ちている――
俺のからだ……
病に侵されたからだに入れられている間中、ずっと戻りたいと心から願っていた。
ああ――戻れたんだ……
「いったい、どうやって……」
上体を起こそうとすると、兄上は枕を腰の下に差し入れ、慈しむようにように背中をさすってくれた。
「私が魔法を使った。魂を別のからだに移し入れる魔法だ。過去に魔術師たちが試みた際の記録が、城に禁書として保管されている。興味があるのなら今度読んでみるといい」
城の広大な図書室を思い返す。
禁書を読むことは禁じられていたけど、許してもらえるんだ。楽しみだな……
「魔法を使ってからすでに半日近く経っている。ほら――窓から見える空が白んでいるだろう。魔法は成功したが……ルクスが気がかりなのだ」
目を伏せ、ルクスに呼びかける。
ルクス――兄上がきみを呼んでるよ。
…………
それにしても、ここは船室だろうか?船室にしては寝台も広いし、品のいい調度品が置かれているから、兄上の部屋かな……
…………
しばらく経っても、ルクスからの応えはなかった。
「返事がないです……眠っているのかな」
「うまく魔法が成功したかを確認したいのだ……ルクスはこの魔法を使うことに納得していないようだったが……」
「……ルクスはノアを刺した。合わせる顔がないんじゃないか?」
ラウルスの言ったことは、なんとなく当たっていそうな気がする……
「ノア……痛かっただろう。すまなかったな……」
「……正直、今までで一番痛かったです」
「ああっ……!かわいそうに……ほんとうにすまない」
兄上は心底申し訳なさそうに項垂れている。
「兄上は悪くありません。俺も油断していました。まさか、ルクスがあんなことをするなんて……」
「あの子はまだ、子どもなのだ。おまえもよく知っているだろうが、早くに母を亡くし、寂しい思いをさせてきてしまった。だからと言って許されることではないし、甘すぎるかもしれない。だが、今回だけは大目に見てやってはくれないか……」
「兄上……」
「まさか……こんなことになるとはなあ」
船室の入り口から聞こえた低い声に、みなは一斉に振り返った。
扉の枠にからだをもたせかけ、腕を組んだ男――
漆黒のフードから覗く口元は、邪悪な笑みに歪んでいる。
サナトリオルムだった。
「……そうなの?でもぼくは、こうすることにするよ」
突然――
下腹部が鋭い痛みに襲われた。
目線を下に落とすと、ルクスが柄を握っているナイフが、俺の腹に刺さっているのが見える。
「ノア……きみを、どうしても許せない……許せないんだ……」
ルクスの目には、隠しようのない憎しみが込められていた。
「こうするしか、なかったんだ……」
ナイフの柄を放したルクスの白い手は、小刻みに震えている。
痛い……!!
刺されるって、こんなに痛いんだ……
「ノア――!!!」
兄上が船から降りてきて、崩れ落ちる俺のからだを受け止めてくれた。
「あ…あにう…え……」
「ノア!ああ……っ!なんてことだ……」
「ルクス……っ!」
「っ……!」
ルクスは背を向け、この場から離れようと駆け出したが、10メートルも行かないうちに足を止めた。
止めたというよりか、からだの動きを止められたのだ。兄上の魔法によって……
「ノア……横になってくれ……そう、ゆっくりだ……。ラウルス、ルクスをここに連れてきて、ノアの横に横たわらせてくれないか」
「御意!」
「ノア……っ!ヒール!!」
ニケが回復魔法をかけてくれた。
「刃を抜くぞ。すまない……あと少しだから、がんばってくれ……」
腹に刺さったナイフが動かされる激痛。
あまりの痛みに、次第に気が遠くなっていく――
回復魔法のあたたかな波動を感じる……
「ノア……っ!ノア……どうか目を覚ましてくれて……」
重たい目蓋を持ち上げると――見慣れない天井と、涙の跡が頬に残る兄上の顔が目の前にあった。
「兄…上……?」
「ノア!よかった……」
「ノア……!」
仲間たちが口々に安堵の声を上げている。
あれ…視界が広い……?
手を持ち上げると、その手は病に侵されひどく荒れたものではなく、ほっそりとした白い手だった。
「俺……」
「そうだ……おまえは元のからだに戻れたんだ。助かったんだよ……」
言われてみると……からだは軽く、前のからだでは感じられたなかった魔力が満ちている――
俺のからだ……
病に侵されたからだに入れられている間中、ずっと戻りたいと心から願っていた。
ああ――戻れたんだ……
「いったい、どうやって……」
上体を起こそうとすると、兄上は枕を腰の下に差し入れ、慈しむようにように背中をさすってくれた。
「私が魔法を使った。魂を別のからだに移し入れる魔法だ。過去に魔術師たちが試みた際の記録が、城に禁書として保管されている。興味があるのなら今度読んでみるといい」
城の広大な図書室を思い返す。
禁書を読むことは禁じられていたけど、許してもらえるんだ。楽しみだな……
「魔法を使ってからすでに半日近く経っている。ほら――窓から見える空が白んでいるだろう。魔法は成功したが……ルクスが気がかりなのだ」
目を伏せ、ルクスに呼びかける。
ルクス――兄上がきみを呼んでるよ。
…………
それにしても、ここは船室だろうか?船室にしては寝台も広いし、品のいい調度品が置かれているから、兄上の部屋かな……
…………
しばらく経っても、ルクスからの応えはなかった。
「返事がないです……眠っているのかな」
「うまく魔法が成功したかを確認したいのだ……ルクスはこの魔法を使うことに納得していないようだったが……」
「……ルクスはノアを刺した。合わせる顔がないんじゃないか?」
ラウルスの言ったことは、なんとなく当たっていそうな気がする……
「ノア……痛かっただろう。すまなかったな……」
「……正直、今までで一番痛かったです」
「ああっ……!かわいそうに……ほんとうにすまない」
兄上は心底申し訳なさそうに項垂れている。
「兄上は悪くありません。俺も油断していました。まさか、ルクスがあんなことをするなんて……」
「あの子はまだ、子どもなのだ。おまえもよく知っているだろうが、早くに母を亡くし、寂しい思いをさせてきてしまった。だからと言って許されることではないし、甘すぎるかもしれない。だが、今回だけは大目に見てやってはくれないか……」
「兄上……」
「まさか……こんなことになるとはなあ」
船室の入り口から聞こえた低い声に、みなは一斉に振り返った。
扉の枠にからだをもたせかけ、腕を組んだ男――
漆黒のフードから覗く口元は、邪悪な笑みに歪んでいる。
サナトリオルムだった。
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