123 / 142
第8章 呪われた世界
12. 宿敵
しおりを挟む
最初に動いたのは兄上だった。
「オブスクーリタース!」
サナトリオルムの額目がけて一筋の闇が放たれた。
――だが、闇は標的を貫くことなく、男に届く直前で見えない膜のようなものに吸収されてしまった。
「チッ……」
「おまえのような恐ろしい魔法詠唱者を前にして、何の策もなしに姿を現すわけがないだろう。グラヴィス……」
兄上は魔法の籠手を顔の前に掲げ、サナトリオルムを見据えながら呪文の詠唱を始めた。
さっきよりも威力の高い攻撃魔法を放とうとしているのだ――
「おまえが我を滅する呪文を唱え終わるのと、我がおまえの大事な弟の肉体をバラバラにしてやるのと……どちらが早いだろうな?」
「クッ……」
兄上は手を下ろし、呪文の詠唱を中断した。
「サナトリオルム……!何が目的だ!?」
ラウルスが前に出て、漆黒のローブを纏う男へ問いかけた。
「我はおまえたちと一戦交えるために此処へ来た訳ではない。だが、勘違いはしないでくれ。親睦を深める為でもない」
「当然だ!貴様がノアにしたこと……っ!!償わせてやる!!必ずっ!」
「怖いなあ……グラヴィスは……子孫と言えど、イグニスとは似ても似つかないな」
イグニス――サナトリオルムと親交のあった何代も前のベルムデウス家当主……
「グラヴィス、今は抑えろ」
「クソッ……」
「戦いに来たのではないのなら、貴様は何をしにここへ来たのだ?」
「我は、おまえたちに宣戦布告をしに来た」
「なんだと……?」
「我は近々世界に厄災を起こすつもりだ。我とおまえ……ベルムデウス家は協力関係にあった。おまえたちが起こす戦争のおかげで、我は労せずに十分な量の糧を手に入れることができていた。だが――少々飽きてきたのだよ」
「飽きてきただと………何が不満なのだ!?」
「グラヴィス……おまえが起こす戦争は正々堂々、力を力で圧し潰すものばかり……つまらん……それが戦争か!?違うだろう。戦争とは……」
「くだらん。貴様の繰り言など、耳を傾ける価値のない妄言だ」
得体の知れない存在相手に、喰ってかかる兄上――さすがだ。
「グラヴィス……大事な弟の命が惜しければ、その生意気な口を閉じていた方が身の為だぞ」
「チッ……」
「我は『死』を愛している。様々な死がこの世界には溢れているが、特に我が好むのは絶望に打ちしがれ失意のなかで迎える死だ。極限まで苦悩した魂にこそ、至高の味わいが宿る。それなのに……貴様の戦争で死する者たちときたら……死への恐怖と敵への怨恨に塗れて絶望の中で死んだものはいいが、厄介なものは熟練された戦士たちだ。名誉の死を遂げ、誉れを胸に抱いて死した者など……つまらぬつまらぬつまらぬ!!我が好むのは――餓えと謂れなき暴力によって憎しみに身を焦がしながら死せる者……生まれたばかりにもかかわらず、慈悲の欠片もない簒奪者に面白半分で殺された無垢な赤子……力無きせいで暴力に屈し、辱めに堪えられず自ら命を絶った美しき娘……見せしめのために生皮を少しずつ剥がれ、鴉に臓物をつつかれながら途方もない苦しみの中で死せる者、――侵略、略奪、目も当てられない残虐行為……こういった戦の醍醐味を……愚かなグラヴィス……兵らに何故禁じているのだ?」
「虫唾が走る……貴様のような邪悪な者に、くれてやる言葉はない」
「オブスクーリタース!」
サナトリオルムの額目がけて一筋の闇が放たれた。
――だが、闇は標的を貫くことなく、男に届く直前で見えない膜のようなものに吸収されてしまった。
「チッ……」
「おまえのような恐ろしい魔法詠唱者を前にして、何の策もなしに姿を現すわけがないだろう。グラヴィス……」
兄上は魔法の籠手を顔の前に掲げ、サナトリオルムを見据えながら呪文の詠唱を始めた。
さっきよりも威力の高い攻撃魔法を放とうとしているのだ――
「おまえが我を滅する呪文を唱え終わるのと、我がおまえの大事な弟の肉体をバラバラにしてやるのと……どちらが早いだろうな?」
「クッ……」
兄上は手を下ろし、呪文の詠唱を中断した。
「サナトリオルム……!何が目的だ!?」
ラウルスが前に出て、漆黒のローブを纏う男へ問いかけた。
「我はおまえたちと一戦交えるために此処へ来た訳ではない。だが、勘違いはしないでくれ。親睦を深める為でもない」
「当然だ!貴様がノアにしたこと……っ!!償わせてやる!!必ずっ!」
「怖いなあ……グラヴィスは……子孫と言えど、イグニスとは似ても似つかないな」
イグニス――サナトリオルムと親交のあった何代も前のベルムデウス家当主……
「グラヴィス、今は抑えろ」
「クソッ……」
「戦いに来たのではないのなら、貴様は何をしにここへ来たのだ?」
「我は、おまえたちに宣戦布告をしに来た」
「なんだと……?」
「我は近々世界に厄災を起こすつもりだ。我とおまえ……ベルムデウス家は協力関係にあった。おまえたちが起こす戦争のおかげで、我は労せずに十分な量の糧を手に入れることができていた。だが――少々飽きてきたのだよ」
「飽きてきただと………何が不満なのだ!?」
「グラヴィス……おまえが起こす戦争は正々堂々、力を力で圧し潰すものばかり……つまらん……それが戦争か!?違うだろう。戦争とは……」
「くだらん。貴様の繰り言など、耳を傾ける価値のない妄言だ」
得体の知れない存在相手に、喰ってかかる兄上――さすがだ。
「グラヴィス……大事な弟の命が惜しければ、その生意気な口を閉じていた方が身の為だぞ」
「チッ……」
「我は『死』を愛している。様々な死がこの世界には溢れているが、特に我が好むのは絶望に打ちしがれ失意のなかで迎える死だ。極限まで苦悩した魂にこそ、至高の味わいが宿る。それなのに……貴様の戦争で死する者たちときたら……死への恐怖と敵への怨恨に塗れて絶望の中で死んだものはいいが、厄介なものは熟練された戦士たちだ。名誉の死を遂げ、誉れを胸に抱いて死した者など……つまらぬつまらぬつまらぬ!!我が好むのは――餓えと謂れなき暴力によって憎しみに身を焦がしながら死せる者……生まれたばかりにもかかわらず、慈悲の欠片もない簒奪者に面白半分で殺された無垢な赤子……力無きせいで暴力に屈し、辱めに堪えられず自ら命を絶った美しき娘……見せしめのために生皮を少しずつ剥がれ、鴉に臓物をつつかれながら途方もない苦しみの中で死せる者、――侵略、略奪、目も当てられない残虐行為……こういった戦の醍醐味を……愚かなグラヴィス……兵らに何故禁じているのだ?」
「虫唾が走る……貴様のような邪悪な者に、くれてやる言葉はない」
1
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる