某国の皇子、冒険者となる

くー

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第8章 呪われた世界

12. 宿敵

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最初に動いたのは兄上だった。

「オブスクーリタース!」

サナトリオルムの額目がけて一筋の闇が放たれた。

――だが、闇は標的を貫くことなく、男に届く直前で見えない膜のようなものに吸収されてしまった。

「チッ……」

「おまえのような恐ろしい魔法詠唱者を前にして、何の策もなしに姿を現すわけがないだろう。グラヴィス……」

兄上は魔法の籠手を顔の前に掲げ、サナトリオルムを見据えながら呪文の詠唱を始めた。
さっきよりも威力の高い攻撃魔法を放とうとしているのだ――

「おまえが我を滅する呪文を唱え終わるのと、我がおまえの大事な弟の肉体をバラバラにしてやるのと……どちらが早いだろうな?」

「クッ……」

兄上は手を下ろし、呪文の詠唱を中断した。


「サナトリオルム……!何が目的だ!?」
ラウルスが前に出て、漆黒のローブを纏う男へ問いかけた。

「我はおまえたちと一戦交えるために此処へ来た訳ではない。だが、勘違いはしないでくれ。親睦を深める為でもない」
「当然だ!貴様がノアにしたこと……っ!!償わせてやる!!必ずっ!」
「怖いなあ……グラヴィスは……子孫と言えど、イグニスとは似ても似つかないな」

イグニス――サナトリオルムと親交のあった何代も前のベルムデウス家当主……

「グラヴィス、今は抑えろ」
「クソッ……」
「戦いに来たのではないのなら、貴様は何をしにここへ来たのだ?」

「我は、おまえたちに宣戦布告をしに来た」

「なんだと……?」

「我は近々世界に厄災を起こすつもりだ。我とおまえ……ベルムデウス家は協力関係にあった。おまえたちが起こす戦争のおかげで、我は労せずに十分な量の糧を手に入れることができていた。だが――少々飽きてきたのだよ」

「飽きてきただと………何が不満なのだ!?」

「グラヴィス……おまえが起こす戦争は正々堂々、力を力で圧し潰すものばかり……つまらん……それが戦争か!?違うだろう。戦争とは……」
「くだらん。貴様の繰り言など、耳を傾ける価値のない妄言だ」

得体の知れない存在相手に、喰ってかかる兄上――さすがだ。

「グラヴィス……大事な弟の命が惜しければ、その生意気な口を閉じていた方が身の為だぞ」
「チッ……」

「我は『死』を愛している。様々な死がこの世界には溢れているが、特に我が好むのは絶望に打ちしがれ失意のなかで迎える死だ。極限まで苦悩した魂にこそ、至高の味わいが宿る。それなのに……貴様の戦争で死する者たちときたら……死への恐怖と敵への怨恨に塗れて絶望の中で死んだものはいいが、厄介なものは熟練された戦士たちだ。名誉の死を遂げ、誉れを胸に抱いて死した者など……つまらぬつまらぬつまらぬ!!我が好むのは――餓えと謂れなき暴力によって憎しみに身を焦がしながら死せる者……生まれたばかりにもかかわらず、慈悲の欠片もない簒奪者に面白半分で殺された無垢な赤子……力無きせいで暴力に屈し、辱めに堪えられず自ら命を絶った美しき娘……見せしめのために生皮を少しずつ剥がれ、鴉に臓物をつつかれながら途方もない苦しみの中で死せる者、――侵略、略奪、目も当てられない残虐行為……こういった戦の醍醐味を……愚かなグラヴィス……兵らに何故禁じているのだ?」

「虫唾が走る……貴様のような邪悪な者に、くれてやる言葉はない」
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