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第9章 嵐の前に
7. 休日
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昨夜はついつい夜更かしをしてしまったせいで、今朝は寝過ごしてしまった。朝食を取り身支度を整え終えたのは、もうまもなく午後になろうかという時刻だった。
今日もいい天気だな……
大勢の人に死をもたらす厄災がせまっているなんて、うそみたいだ――
ほんとうに、悪い冗談ならよかったのに……
窓の外を眺めながらとりとめもなく思いを馳せていると、部屋の扉を控えめにノックする音が聞こえた。
「はい?」
「ノア、俺だ。入ってもいいか?」
声の主はウィルだった。
「どうぞー」
扉が開いた。ウィルの隣にはエトワールもいる。
「今日はふたりとも、訓練してなかったんだね」
ふたりは戦闘用の装備を身に着けていなかった。
「今日の訓練は朝の内に済ませました。午後からは休養日にしようかと」
「エトワールは帝都に来るのは初めてなんだ。で、帝都散策にでも行こうかって話になって……」
「俺も一緒に行きたい!」
「ノアもご一緒してくれたら嬉しいと、ウィルと話していたのです」
「さっそく行こうよ!」
空気がおいしい――
気心の知れた仲間と一緒に街を自由に散策するなんて、いつぶりだろうか……
今も『厄災』という危機が差し迫ってはいるのだけれど……
息抜きだって、必要だ!
「ここが帝都…王都も広かったですが、それ以上ですね」
帝都ガルネートゥスは帝国一、繁栄した都市だ。
至るところに魔法が使われ、市民たちは便利で豊かな生活を送っている。
ここはその中でも一際賑わう中心街。煉瓦造りの建物が軒を連ねていた。
「ノア……きみは陛下から貴族街以外への立ち入りを禁止されているはずだが……いいのか?」
「何を今さら……それは冒険者になる前の話だし、第一その頃からその約束は破ってたよ」
まったく……兄上の心配性にも困ったものだ。
「はあ……俺が訓練している間か?そういえば、きみは城の図書室でひとりで過ごしたいと言って……まさか」
「あっ!あの店よさげじゃない?」
通りに置かれたカフェの看板が目に入った。陽が差し込む居心地の良さそうな中庭に、小洒落たテーブルセットが並べられている。
「ごまかしたな……」
「ふふっ……」
「こんな店あったっけ?」
店の近くで呼び込みをしていたウェイターさんが近づいてきた。金髪碧眼のイケメンだ。
「ひと月前に開店したばかりです。ぜひお食事なさっていってください」
ふたりの顔を見上げると、頷きを返された。
「お願いします」
「こちらへどうぞ」
店員に日当たりのよい席に案内され、メニューを渡された。水彩画で飲み物や食べ物のイラストが描かれており、目を楽しませてくれる上にわかりやすい。
俺は前世で言うところの、ガレットのようなメニューを注文した。
ウィルはピザ、エトワールはエッグベネディクトだ。小皿にとって少しずつ分け合う約束をした。
早く料理、来ないかな……
「うまい!」
料理はどれも絶品だった。
「この店、ぜったいまた来るよ」
「二日に一日は休養しなければなりませんものね」
「それ……過保護だよなあ、兄上はまったく……」
「まあまあ。ちょっと前に大変な目にあって、未知の魔法でようやく元に戻ったわけだし……それに、ノアはがんばり過ぎるところがあるから、それくらいでちょうどいいのかもよ」
「そうかなあ……」
ウィルも兄上ほどじゃないけれど、過保護なところがあるからな……
そんなことよりも……
「世界が平和になったら、こういう店を持つのもいいなあ……」
「え?冒険者はどうするんだ……」
ウィルはあきれ顔だ。
「二足のわらじってことだよ」
「冒険者、カフェオーナー、皇子……ってことか」
「へへ……三足になっちゃうね」
「楽しそうですね!みんなでカフェをやるなんて」
「エトワール!だよね!!」
「まったくエトワールは……ノアをあまり調子づかせない方がいいぞ」
俺は仲間たち五人で帝都の城下町にカフェを開く未来を思い描いた。イケメン店員で話題の店になるんじゃないか?
「楽しみになってきた!」
「おいおい……本気か?」
「陛下が許してくださればいいのですが……」
「あ……」
そうだった。大きな壁が立ちふさがっていた……
「兄上はやはり、反対なさるかなあ」
「うーん……でも、陛下のことだ。ノアのお手製料理と給仕でもてなすと約束すれば、案外易々と落ちるんじゃないか」
「お手製か……こんなにおいしいガレット……作れるようになるかなあ」
「俺が教えてやるよ。落ち着いたら」
「ウィル!ありがとう!」
そういえば、ウィルの料理の腕は一流だった。
「貴族街での出店なら危険も少ないだろうし、陛下も許可してくださるんじゃないか?」
「うーん……貴族街は微妙かな」
「こちらに、ということでしたら警護の兵を手配されそうですよね……」
「それありそう……」
その後も、話は盛り上がった。
それから店を出て買い物をした後、通りがかった店の前に行列ができていたので、列に並んだ。その店は今、帝都で話題のスイーツ店だった。
「おいし~!」
「並んだ甲斐があったなあ」
非の打ちどころのない美味しさの甘味に舌鼓を打ち、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
ニケとジンも、今度連れて来てあげないとな……
その店から外へ出ると、夕陽が沈みかけていた。
「もうこんな時間か……」
「また来ましょうね」
「……だな」
暮れゆく陽の光が一日の終わりを告げている――それを心の底からうらめしく思う。
ああ……こんな日が、ずっと続けばいいのになあ……
今日もいい天気だな……
大勢の人に死をもたらす厄災がせまっているなんて、うそみたいだ――
ほんとうに、悪い冗談ならよかったのに……
窓の外を眺めながらとりとめもなく思いを馳せていると、部屋の扉を控えめにノックする音が聞こえた。
「はい?」
「ノア、俺だ。入ってもいいか?」
声の主はウィルだった。
「どうぞー」
扉が開いた。ウィルの隣にはエトワールもいる。
「今日はふたりとも、訓練してなかったんだね」
ふたりは戦闘用の装備を身に着けていなかった。
「今日の訓練は朝の内に済ませました。午後からは休養日にしようかと」
「エトワールは帝都に来るのは初めてなんだ。で、帝都散策にでも行こうかって話になって……」
「俺も一緒に行きたい!」
「ノアもご一緒してくれたら嬉しいと、ウィルと話していたのです」
「さっそく行こうよ!」
空気がおいしい――
気心の知れた仲間と一緒に街を自由に散策するなんて、いつぶりだろうか……
今も『厄災』という危機が差し迫ってはいるのだけれど……
息抜きだって、必要だ!
「ここが帝都…王都も広かったですが、それ以上ですね」
帝都ガルネートゥスは帝国一、繁栄した都市だ。
至るところに魔法が使われ、市民たちは便利で豊かな生活を送っている。
ここはその中でも一際賑わう中心街。煉瓦造りの建物が軒を連ねていた。
「ノア……きみは陛下から貴族街以外への立ち入りを禁止されているはずだが……いいのか?」
「何を今さら……それは冒険者になる前の話だし、第一その頃からその約束は破ってたよ」
まったく……兄上の心配性にも困ったものだ。
「はあ……俺が訓練している間か?そういえば、きみは城の図書室でひとりで過ごしたいと言って……まさか」
「あっ!あの店よさげじゃない?」
通りに置かれたカフェの看板が目に入った。陽が差し込む居心地の良さそうな中庭に、小洒落たテーブルセットが並べられている。
「ごまかしたな……」
「ふふっ……」
「こんな店あったっけ?」
店の近くで呼び込みをしていたウェイターさんが近づいてきた。金髪碧眼のイケメンだ。
「ひと月前に開店したばかりです。ぜひお食事なさっていってください」
ふたりの顔を見上げると、頷きを返された。
「お願いします」
「こちらへどうぞ」
店員に日当たりのよい席に案内され、メニューを渡された。水彩画で飲み物や食べ物のイラストが描かれており、目を楽しませてくれる上にわかりやすい。
俺は前世で言うところの、ガレットのようなメニューを注文した。
ウィルはピザ、エトワールはエッグベネディクトだ。小皿にとって少しずつ分け合う約束をした。
早く料理、来ないかな……
「うまい!」
料理はどれも絶品だった。
「この店、ぜったいまた来るよ」
「二日に一日は休養しなければなりませんものね」
「それ……過保護だよなあ、兄上はまったく……」
「まあまあ。ちょっと前に大変な目にあって、未知の魔法でようやく元に戻ったわけだし……それに、ノアはがんばり過ぎるところがあるから、それくらいでちょうどいいのかもよ」
「そうかなあ……」
ウィルも兄上ほどじゃないけれど、過保護なところがあるからな……
そんなことよりも……
「世界が平和になったら、こういう店を持つのもいいなあ……」
「え?冒険者はどうするんだ……」
ウィルはあきれ顔だ。
「二足のわらじってことだよ」
「冒険者、カフェオーナー、皇子……ってことか」
「へへ……三足になっちゃうね」
「楽しそうですね!みんなでカフェをやるなんて」
「エトワール!だよね!!」
「まったくエトワールは……ノアをあまり調子づかせない方がいいぞ」
俺は仲間たち五人で帝都の城下町にカフェを開く未来を思い描いた。イケメン店員で話題の店になるんじゃないか?
「楽しみになってきた!」
「おいおい……本気か?」
「陛下が許してくださればいいのですが……」
「あ……」
そうだった。大きな壁が立ちふさがっていた……
「兄上はやはり、反対なさるかなあ」
「うーん……でも、陛下のことだ。ノアのお手製料理と給仕でもてなすと約束すれば、案外易々と落ちるんじゃないか」
「お手製か……こんなにおいしいガレット……作れるようになるかなあ」
「俺が教えてやるよ。落ち着いたら」
「ウィル!ありがとう!」
そういえば、ウィルの料理の腕は一流だった。
「貴族街での出店なら危険も少ないだろうし、陛下も許可してくださるんじゃないか?」
「うーん……貴族街は微妙かな」
「こちらに、ということでしたら警護の兵を手配されそうですよね……」
「それありそう……」
その後も、話は盛り上がった。
それから店を出て買い物をした後、通りがかった店の前に行列ができていたので、列に並んだ。その店は今、帝都で話題のスイーツ店だった。
「おいし~!」
「並んだ甲斐があったなあ」
非の打ちどころのない美味しさの甘味に舌鼓を打ち、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
ニケとジンも、今度連れて来てあげないとな……
その店から外へ出ると、夕陽が沈みかけていた。
「もうこんな時間か……」
「また来ましょうね」
「……だな」
暮れゆく陽の光が一日の終わりを告げている――それを心の底からうらめしく思う。
ああ……こんな日が、ずっと続けばいいのになあ……
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