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第9章 嵐の前に
8. 騎士団長と
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ウィルとエトワールと帝都散策にでかけた翌日、俺は魔族の里の書庫で仲間たちとともに調べ物をしていた。
ジンの幼なじみ、ミーカも昨日から手伝ってくれていた。ジンの隣で真剣な表情で書物に向き合っている。
あの位置……なんだか距離が近いような……って、ジンは全然気づいてないな……
ミーカはジンのことが好きだと思う。応援してやりたいが、手出し無用な気配がある。なにせふたりは千年の刻を生きる魔族なのだ……人間とは時間の感覚が違いすぎる。
それに、ふたりの関係の進展よりも気になることが今はあった。
「ラウルス……」
それは隣の席で調べ物をする帝国軍近衛騎士団長に関することだ。
「なんでしょうか、ノア?」
「昨日、書店に行ったんだけど……」
膝の上に置いたとある本を見せると、ラウルスの顔色が変わった。
「少し、外で話しましょうか」
「なになに~?どうしたの?ふたりとも」
「別に?ちょっと休憩してくるよ」
外に出てみると雨がしとしと降り注いでいたため、近場の飲食店に入る。
飲み物を注文し終え、さっそく本題に入ることにした。
「すっごくおもしろかったよ!」
俺はテーブルに身を乗り出し、本の作者に感想を告げた。
「あ、ありがとうございます……」
雨のせいもあり店内は薄暗かったが、ラウルスの顔が赤くなっているのが見て取れた。
「なんだか意外だったな……ラウルスにこんな特技があったなんて」
「特技だなんて……私の書くものなど、所詮下手の横好きです」
それで出版されて書店に並ぶなんてことはないだろう。謙遜するなあ……
「俺も昔、作家になるのに憧れてた時期があったから……憧れるよ」
「昔というのは前世のことですか?」
「うん……そうだよ」
そういえば……俺が異世界からの転生者だということをみんな知っているのに、そのことについて全然話をしていないような……
「ノア……」
「ん?」
「許してください。あなたに命を救われたことの礼をまだきちんとしておりませんでした。言い訳になりますが、仕事に忙殺されていたのと、タイミングも合わずで……」
「礼なんて……いいよそんなの」
「そういうわけにはまいりません。私の命を助けてくださり、本当にありがとうございました」
ラウルスは深く頭を下げた。
「ど…どういたしまして……」
「ですが私は、私などのためにあなたが自らの命を犠牲にしようとしたこと、正しくない選択をされたと愚考いたします。今こうしてあなたが無事であることは神の御業の如き奇跡があればこそ。もしあのときあなたが命を落としていれば、私は決して自分を許せなかったでしょう」
「……ラウルスだって、命を捨てる覚悟でニケを庇ったじゃないか。お互い様だよ」
「私は騎士。あなたは皇子。立場が違います」
「でも俺は、ほんとうは皇子じゃない。サナトスの人間ですらない。俺が元いた世界は地球でという名前で……日本という国に住んでいて、ごく普通の学生だった」
「チキュウの二ホンですか……不思議な響きですね」
「そっかあ……俺にとっては懐かしいかんじかな」
「あ……しまった」
「ん?どうしたの?」
「あなたの前世の話をすることは陛下より禁じられているのです。あなたを不安にさせないために」
「兄上が……みんなにも?」
「ええ」
そうだったのか……
「しかし、どうかお許しください」
前置きの後に、ラウルスはこう続けた。
「私は作家の端くれとして、あなたがかつて生きていた世界――チキュウとはどのような世界であるのかと、興味がありまして……どんな些細なことでもいいのです。教えていただければと……」
「ラウルス……」
「いや……差し出がましいことを言ってしまいました。忘れてください……」
「そんなこと!」
俺は嬉しくてしょうがなかった。だって……
「もっとラウルスと話したいなって、前からずっと思ってたんだ。だから、たくさん話せそうな話題ができて嬉しい!」
「ノア……」
「ラウルスは兄上のことを弟のように想っているんでしょ。だったら、俺だってそう…なるよね?」
「あ、あれは……あのとき、私の命はもう先のないものであると……特殊な状況下での発言でして……陛下と言い、ノア……あなたまでその話を蒸し返すのはやめていただけないでしょうか……」
「……俺みたいな弟はいらないってこと?」
「そういうわけではなく、私などが尊き血筋の方々と兄弟であるなどと……畏れ多いというか……万が一人に聞かれでもしたら……」
「なら、ふたりきりならいいってことだよね」
「そういうわけでは……」
「……あ、兄上?」
「…………」
「違うかな?じゃあ、お兄様?」
「…………」
ラウルスが固まってしまった。俺も頬が熱くなっている。
「……そろそろ、書庫に戻りましょうか。今は厄災やサナトリオルムについての情報を少しでも多く知り得なければ……」
「そ、そうだね……」
店の外に出ると、雨は上がっていた。
隣を歩くラウルスを見上げる。
「これからもよろしくね、ラウルス」
「こちらこそ、ノア」
やさしさのこもった表情で微笑まれた。
普段は険しい顔をしていることが多い人だから、少し面食らう。
さっきの会話で、ラウルスとの距離が前よりも縮まった気がする――
嬉しいな……
ジンの幼なじみ、ミーカも昨日から手伝ってくれていた。ジンの隣で真剣な表情で書物に向き合っている。
あの位置……なんだか距離が近いような……って、ジンは全然気づいてないな……
ミーカはジンのことが好きだと思う。応援してやりたいが、手出し無用な気配がある。なにせふたりは千年の刻を生きる魔族なのだ……人間とは時間の感覚が違いすぎる。
それに、ふたりの関係の進展よりも気になることが今はあった。
「ラウルス……」
それは隣の席で調べ物をする帝国軍近衛騎士団長に関することだ。
「なんでしょうか、ノア?」
「昨日、書店に行ったんだけど……」
膝の上に置いたとある本を見せると、ラウルスの顔色が変わった。
「少し、外で話しましょうか」
「なになに~?どうしたの?ふたりとも」
「別に?ちょっと休憩してくるよ」
外に出てみると雨がしとしと降り注いでいたため、近場の飲食店に入る。
飲み物を注文し終え、さっそく本題に入ることにした。
「すっごくおもしろかったよ!」
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「あ、ありがとうございます……」
雨のせいもあり店内は薄暗かったが、ラウルスの顔が赤くなっているのが見て取れた。
「なんだか意外だったな……ラウルスにこんな特技があったなんて」
「特技だなんて……私の書くものなど、所詮下手の横好きです」
それで出版されて書店に並ぶなんてことはないだろう。謙遜するなあ……
「俺も昔、作家になるのに憧れてた時期があったから……憧れるよ」
「昔というのは前世のことですか?」
「うん……そうだよ」
そういえば……俺が異世界からの転生者だということをみんな知っているのに、そのことについて全然話をしていないような……
「ノア……」
「ん?」
「許してください。あなたに命を救われたことの礼をまだきちんとしておりませんでした。言い訳になりますが、仕事に忙殺されていたのと、タイミングも合わずで……」
「礼なんて……いいよそんなの」
「そういうわけにはまいりません。私の命を助けてくださり、本当にありがとうございました」
ラウルスは深く頭を下げた。
「ど…どういたしまして……」
「ですが私は、私などのためにあなたが自らの命を犠牲にしようとしたこと、正しくない選択をされたと愚考いたします。今こうしてあなたが無事であることは神の御業の如き奇跡があればこそ。もしあのときあなたが命を落としていれば、私は決して自分を許せなかったでしょう」
「……ラウルスだって、命を捨てる覚悟でニケを庇ったじゃないか。お互い様だよ」
「私は騎士。あなたは皇子。立場が違います」
「でも俺は、ほんとうは皇子じゃない。サナトスの人間ですらない。俺が元いた世界は地球でという名前で……日本という国に住んでいて、ごく普通の学生だった」
「チキュウの二ホンですか……不思議な響きですね」
「そっかあ……俺にとっては懐かしいかんじかな」
「あ……しまった」
「ん?どうしたの?」
「あなたの前世の話をすることは陛下より禁じられているのです。あなたを不安にさせないために」
「兄上が……みんなにも?」
「ええ」
そうだったのか……
「しかし、どうかお許しください」
前置きの後に、ラウルスはこう続けた。
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「ラウルス……」
「いや……差し出がましいことを言ってしまいました。忘れてください……」
「そんなこと!」
俺は嬉しくてしょうがなかった。だって……
「もっとラウルスと話したいなって、前からずっと思ってたんだ。だから、たくさん話せそうな話題ができて嬉しい!」
「ノア……」
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「あ、あれは……あのとき、私の命はもう先のないものであると……特殊な状況下での発言でして……陛下と言い、ノア……あなたまでその話を蒸し返すのはやめていただけないでしょうか……」
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「……あ、兄上?」
「…………」
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「…………」
ラウルスが固まってしまった。俺も頬が熱くなっている。
「……そろそろ、書庫に戻りましょうか。今は厄災やサナトリオルムについての情報を少しでも多く知り得なければ……」
「そ、そうだね……」
店の外に出ると、雨は上がっていた。
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「こちらこそ、ノア」
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