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第9章 嵐の前に
9. 旧友との再会
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今日は二日に一度の休養日だ。
空は快晴で、崩れてきそうな気配もない。
俺は自室で、魔法彫金で自作した指輪に魔力を込めてた。
「これでいけるかな……」
今日は一日、ひとりで行動したかった。だが、それにはひとつ問題がある。
……兄上だ。
兄上の目を欺き、外出する。そのためのちょっとした小細工が、この指輪だ。
魔力を込めた指輪を自室に置いておく。これで最近やたらと俺の魔力を感知し、城の行く先々に現れる兄上も俺の不在に気づかない……はず。
メイドには今日は一日自室で過ごすため、部屋には入らないようにと言い含めてある。念のため扉には鍵をかけておいた。
俺は魔法を唱え、ブラウフォンスに転移した。
転移した先は、冒険者ギルドの演習場だ。
よし……ひとまずは外出成功。
ここへ来るのはアルゴグ討伐に参加して以来だから、もう三か月も前なのか……
感傷に浸りながら、俺は街の冒険者ギルドへと向かった。
石造りの壁に鉄製の黒い扉――
ブラウフォンスの冒険者ギルドを訪ねるのは、兄上からザッフィロ地下遺跡への同行の依頼を受け、その報酬を受け取りにきたとき以来だ。
この扉の向こうに行くのは久しぶりだからだろうか。若干緊張に鼓動を早くしながら、重たい鉄の扉に手をかけた。
ギルドは以前訪れたときと変わらず、賑わっていた。
漏れ聞こえてくる冒険者たちの会話からは、『厄災』や『サナトリオルム』といった単語が度々聞こえてきた。
厄災から生き残るためには、人々が一丸となって未知の脅威に立ち向かわなければならない。そのための対策が、着々と進められていた。
部屋の片隅でギルドの様子をなんとはなしに見ていると、係のお姉さんにバッジを見せてほしいと請われたので、言われた通りにした。
「あ、あなた!アルゴグ・スレイヤーのノアさんではないですか!」
「は、はあ……」
アルゴグを倒したのは宿敵であるサナトリオルムの力だということが判明したため、その大仰な通り名を返上できるものならばしたいくらいだ。
「お会いできて光栄です!今日は何か依頼を引き受けてくださるのですか?」
「あ……いえ…今日は近くまで寄ったものですから……ただ、顔を出しただけで……」
「そうですか……次回来られた際にはぜひ、依頼を受けてくださいね」
「はい、次は頼りになる仲間と一緒にまた来ますので、よろしくお願いします」
係のお姉さんが去った後、たくさんの依頼が貼られた掲示板を眺めているときだった。
「ノア……?」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにいたのは……
「え……スパーダ?と……マディス?」
「ひっさしぶりだなあ!元気だったか!?」
スパーダがこちらへと駆け寄って来て、俺たちは再会の抱擁を交わした。
「ちょ、痛いよスパーダ!」
「相変わらず、ひょろっこいな~ノアは!アラゴグスレイヤーとして恐れられる凄腕冒険者だなんて、信じられないぜ!」
「あれはね……じつは勘違いされてることもあって……」
「おいおいおい!謙遜はやめろよ~!俺たちふたりなんてまだまだ駆け出し冒険者だぜ。ギルドの演習所に通って訓練で腕を磨きつつ、行商人の護衛の依頼やら、夜間に畑を荒らすモンスターの夜通しの見張りなんかで、細々と食いつないでるよ」
懐かしいなあ……スパーダとマディスと話していると、ふたりとウィル、エトワールと五人でパーティーを組んで冒険者試験のダンジョンに挑んだときの記憶が、鮮やかによみがえってくる。
「俺はある魔術師の師匠に弟子入りして、三か月ほど修行漬けの日々だったなあ……」
「おお~。やっぱ修行は大事だよなあ!」
「だよね。それから、アルゴグ討伐があって、古代の遺跡を探索したり……ザハブルハーム王国に行ってクラフターの技術を学んだよ」
「ザハブルハーム!?一月前に帝国と戦争があった国じゃねえか!巻き込まれちまわなかったか!?」
「うん……巻き込まれた」
「おいおいおいおい!やべえな!ノア!!」
「なんとか切り抜けたよ……それから北にある島まで航海して……」
今思い返せば……その島では、休む間もなく目まぐるしい冒険の日々を送っていた。
隠された魔族の里へと足を踏み入れたのだが、魔族は予想していたよりも友好的で、親切で……
けれど、悪霊が化けていたドラゴンには騙され、手酷く翻弄されてしまった。
それから古代人が建てた遺跡の塔を探索し、手強い魔物を仲間たちと力を合わせ倒したこと……あの勝利の味と言うか、達成感は特別なものだった。
その後は辛かった。いままでに経験したことがない――ああ、もう二度とごめんだ。病に苦しみ、人々から嫌われ蔑まれ唾を吐かれ、石を投げられる……
この世界も前世と同じく、不平等が蔓延り、多くの人々が苦しんでいる。俺たちは自ら目を瞑り、耳を塞ぎ、背を背けて生きているのを実感させられた。
俺を幸運だった。兄上によって救い出され、世界の秘密を知り……そのすぐあとには……もうひとりの自分であるルクスから憎まれ、刺され――
それでも、次から次へと襲い来る試練を乗り越え続けてこられたのは――
「……色々なことがあったけれど、何とか生き延びてるよ。いい仲間に巡り会えたおかげかな……」
「そっか……仲間って、あのウィルとエトワールか?」
「うん、あと他にも何人か……今度、ふたりにも紹介するよ」
「おう!楽しみにしてるぜ」
「ノア……達者でな……」
ふたりと別れ、次に俺が向かった先は……
鬱蒼とした木々に囲まれた古めかしい建物――師である魔術師ホルデウムの屋敷だ。
空は快晴で、崩れてきそうな気配もない。
俺は自室で、魔法彫金で自作した指輪に魔力を込めてた。
「これでいけるかな……」
今日は一日、ひとりで行動したかった。だが、それにはひとつ問題がある。
……兄上だ。
兄上の目を欺き、外出する。そのためのちょっとした小細工が、この指輪だ。
魔力を込めた指輪を自室に置いておく。これで最近やたらと俺の魔力を感知し、城の行く先々に現れる兄上も俺の不在に気づかない……はず。
メイドには今日は一日自室で過ごすため、部屋には入らないようにと言い含めてある。念のため扉には鍵をかけておいた。
俺は魔法を唱え、ブラウフォンスに転移した。
転移した先は、冒険者ギルドの演習場だ。
よし……ひとまずは外出成功。
ここへ来るのはアルゴグ討伐に参加して以来だから、もう三か月も前なのか……
感傷に浸りながら、俺は街の冒険者ギルドへと向かった。
石造りの壁に鉄製の黒い扉――
ブラウフォンスの冒険者ギルドを訪ねるのは、兄上からザッフィロ地下遺跡への同行の依頼を受け、その報酬を受け取りにきたとき以来だ。
この扉の向こうに行くのは久しぶりだからだろうか。若干緊張に鼓動を早くしながら、重たい鉄の扉に手をかけた。
ギルドは以前訪れたときと変わらず、賑わっていた。
漏れ聞こえてくる冒険者たちの会話からは、『厄災』や『サナトリオルム』といった単語が度々聞こえてきた。
厄災から生き残るためには、人々が一丸となって未知の脅威に立ち向かわなければならない。そのための対策が、着々と進められていた。
部屋の片隅でギルドの様子をなんとはなしに見ていると、係のお姉さんにバッジを見せてほしいと請われたので、言われた通りにした。
「あ、あなた!アルゴグ・スレイヤーのノアさんではないですか!」
「は、はあ……」
アルゴグを倒したのは宿敵であるサナトリオルムの力だということが判明したため、その大仰な通り名を返上できるものならばしたいくらいだ。
「お会いできて光栄です!今日は何か依頼を引き受けてくださるのですか?」
「あ……いえ…今日は近くまで寄ったものですから……ただ、顔を出しただけで……」
「そうですか……次回来られた際にはぜひ、依頼を受けてくださいね」
「はい、次は頼りになる仲間と一緒にまた来ますので、よろしくお願いします」
係のお姉さんが去った後、たくさんの依頼が貼られた掲示板を眺めているときだった。
「ノア……?」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにいたのは……
「え……スパーダ?と……マディス?」
「ひっさしぶりだなあ!元気だったか!?」
スパーダがこちらへと駆け寄って来て、俺たちは再会の抱擁を交わした。
「ちょ、痛いよスパーダ!」
「相変わらず、ひょろっこいな~ノアは!アラゴグスレイヤーとして恐れられる凄腕冒険者だなんて、信じられないぜ!」
「あれはね……じつは勘違いされてることもあって……」
「おいおいおい!謙遜はやめろよ~!俺たちふたりなんてまだまだ駆け出し冒険者だぜ。ギルドの演習所に通って訓練で腕を磨きつつ、行商人の護衛の依頼やら、夜間に畑を荒らすモンスターの夜通しの見張りなんかで、細々と食いつないでるよ」
懐かしいなあ……スパーダとマディスと話していると、ふたりとウィル、エトワールと五人でパーティーを組んで冒険者試験のダンジョンに挑んだときの記憶が、鮮やかによみがえってくる。
「俺はある魔術師の師匠に弟子入りして、三か月ほど修行漬けの日々だったなあ……」
「おお~。やっぱ修行は大事だよなあ!」
「だよね。それから、アルゴグ討伐があって、古代の遺跡を探索したり……ザハブルハーム王国に行ってクラフターの技術を学んだよ」
「ザハブルハーム!?一月前に帝国と戦争があった国じゃねえか!巻き込まれちまわなかったか!?」
「うん……巻き込まれた」
「おいおいおいおい!やべえな!ノア!!」
「なんとか切り抜けたよ……それから北にある島まで航海して……」
今思い返せば……その島では、休む間もなく目まぐるしい冒険の日々を送っていた。
隠された魔族の里へと足を踏み入れたのだが、魔族は予想していたよりも友好的で、親切で……
けれど、悪霊が化けていたドラゴンには騙され、手酷く翻弄されてしまった。
それから古代人が建てた遺跡の塔を探索し、手強い魔物を仲間たちと力を合わせ倒したこと……あの勝利の味と言うか、達成感は特別なものだった。
その後は辛かった。いままでに経験したことがない――ああ、もう二度とごめんだ。病に苦しみ、人々から嫌われ蔑まれ唾を吐かれ、石を投げられる……
この世界も前世と同じく、不平等が蔓延り、多くの人々が苦しんでいる。俺たちは自ら目を瞑り、耳を塞ぎ、背を背けて生きているのを実感させられた。
俺を幸運だった。兄上によって救い出され、世界の秘密を知り……そのすぐあとには……もうひとりの自分であるルクスから憎まれ、刺され――
それでも、次から次へと襲い来る試練を乗り越え続けてこられたのは――
「……色々なことがあったけれど、何とか生き延びてるよ。いい仲間に巡り会えたおかげかな……」
「そっか……仲間って、あのウィルとエトワールか?」
「うん、あと他にも何人か……今度、ふたりにも紹介するよ」
「おう!楽しみにしてるぜ」
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