某国の皇子、冒険者となる

くー

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第9章 嵐の前に

10. 会話

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「師匠、お久しぶりです」
「おお、ノアよ……無事であったか。よく顔を見せておくれ」

師匠の温かな手のひらで頬を包まれた。師の頬には涙が伝っている。

「し、師匠?」
「何があった……ノア。おまえにとんでもないことが起きたと……儂にはわかるぞ」
「師匠……」

俺は、これまでに起こったことを師にかいつまんで説明した。

「なんと……そのようなことが……」
「はい……ですが、兄上は国を挙げて厄災による被害を最小限とする策を講じておられます。サナトリオルムの思惑通りに事を運ばせるつもりはありませんから」
「わが弟子は、しばらく見ぬうちにずいぶんとたくましく成長したようじゃの……」
「いえ……俺なんてまだまだです」
「うむ……常に謙遜の気持ちを忘れぬことこそ肝要じゃ。その調子で日々励むのじゃぞ」
「はい!」

師匠は厄災への対策について協力を惜しまないと約束してくれた。
俺は師に別れを告げ、次の目的地へと転移魔法で向かった。



大陸より北に位置する島――だが、魔族の隠れ里ではなく……


変わってないな……あれから十日も経ってないんだし、当然か――

かつて俺はこの街で物乞いをしていた。
島の北に位置する大きな街、ミセリコルディアだ。

街ではいくつかの神が信奉され数多の宗教が混在しており、それぞれの教会がいたるところに建てらていた。
ベルムデウス帝国では、現在、宗教はあまり信奉されていない。過去には大規模な弾圧があったと歴史の授業で習ったが、記憶はあやふやだ。

あのときは……穢れるからと教会に入ることを禁じられていた。けれど今は襤褸ではなく、兄上からいただいたお気に入りの青と黒のローブに身を包んでいる。呼び止められ、咎められるようなことはないだろう。

街で最も大きな教会を訪れ、椅子に腰かける。
静謐な空気に包まれながら、色硝子で造られた飾り窓から差し込む陽の光を、ぼんやりと眺めていた。


「こんな場所にひとりきりとは……不用心な皇子だ」


……現れた。

漆黒のローブを纏い、フードを目深に被った不気味な男が、いつのまにか少し距離を置いて隣に座っていた。

「サナトリオルム……」


ここへひとりで来たのは、奴に聞きたいことがあったからだ。


「何故おまえは、俺をこの世界に呼び寄せたんだ?」

「おまえは自分が特別な存在だと思いたいのだろうが、違う。たまたまだ。ルクス皇子が瀕死のときに、死んだ人間の中でおまえが一番皇子に近かっただけだ」

まあ……そうだよな……

「……ルクスの魂を奪って、どうするつもりだ?」
「おまえのときはグラヴィスに容易く見つかってしまったからな。くく……よい使い道は他にいくらでもある」

やはり、そう簡単には教えてくれないか……

「もうひとつ……おまえは……」
「ノア――おまえは他者の心配をするよりも、己の身を案じるべきではないか?我がおまえを害さず無事に帰すような、日和見主義であるとはよもや、思ってはいるまい?」

サナトリオルムが低い声で呪文を呟き、邪悪な魔力がこちらへと狙い定められていることを感じた。



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