某国の皇子、冒険者となる

くー

文字の大きさ
132 / 142
第9章 嵐の前に

8. 騎士団長と

しおりを挟む
ウィルとエトワールと帝都散策にでかけた翌日、俺は魔族の里の書庫で仲間たちとともに調べ物をしていた。
ジンの幼なじみ、ミーカも昨日から手伝ってくれていた。ジンの隣で真剣な表情で書物に向き合っている。

あの位置……なんだか距離が近いような……って、ジンは全然気づいてないな……

ミーカはジンのことが好きだと思う。応援してやりたいが、手出し無用な気配がある。なにせふたりは千年の刻を生きる魔族なのだ……人間とは時間の感覚が違いすぎる。
それに、ふたりの関係の進展よりも気になることが今はあった。

「ラウルス……」

それは隣の席で調べ物をする帝国軍近衛騎士団長に関することだ。

「なんでしょうか、ノア?」
「昨日、書店に行ったんだけど……」

膝の上に置いたとある本を見せると、ラウルスの顔色が変わった。

「少し、外で話しましょうか」
「なになに~?どうしたの?ふたりとも」
「別に?ちょっと休憩してくるよ」

外に出てみると雨がしとしと降り注いでいたため、近場の飲食店に入る。

飲み物を注文し終え、さっそく本題に入ることにした。

「すっごくおもしろかったよ!」

俺はテーブルに身を乗り出し、本の作者に感想を告げた。

「あ、ありがとうございます……」

雨のせいもあり店内は薄暗かったが、ラウルスの顔が赤くなっているのが見て取れた。

「なんだか意外だったな……ラウルスにこんな特技があったなんて」
「特技だなんて……私の書くものなど、所詮下手の横好きです」

それで出版されて書店に並ぶなんてことはないだろう。謙遜するなあ……

「俺も昔、作家になるのに憧れてた時期があったから……憧れるよ」
「昔というのは前世のことですか?」
「うん……そうだよ」

そういえば……俺が異世界からの転生者だということをみんな知っているのに、そのことについて全然話をしていないような……

「ノア……」
「ん?」
「許してください。あなたに命を救われたことの礼をまだきちんとしておりませんでした。言い訳になりますが、仕事に忙殺されていたのと、タイミングも合わずで……」
「礼なんて……いいよそんなの」
「そういうわけにはまいりません。私の命を助けてくださり、本当にありがとうございました」

ラウルスは深く頭を下げた。

「ど…どういたしまして……」
「ですが私は、私などのためにあなたが自らの命を犠牲にしようとしたこと、正しくない選択をされたと愚考いたします。今こうしてあなたが無事であることは神の御業の如き奇跡があればこそ。もしあのときあなたが命を落としていれば、私は決して自分を許せなかったでしょう」

「……ラウルスだって、命を捨てる覚悟でニケを庇ったじゃないか。お互い様だよ」
「私は騎士。あなたは皇子。立場が違います」
「でも俺は、ほんとうは皇子じゃない。サナトスの人間ですらない。俺が元いた世界は地球でという名前で……日本という国に住んでいて、ごく普通の学生だった」
「チキュウの二ホンですか……不思議な響きですね」
「そっかあ……俺にとっては懐かしいかんじかな」

「あ……しまった」
「ん?どうしたの?」
「あなたの前世の話をすることは陛下より禁じられているのです。あなたを不安にさせないために」
「兄上が……みんなにも?」
「ええ」
そうだったのか……
「しかし、どうかお許しください」

前置きの後に、ラウルスはこう続けた。

「私は作家の端くれとして、あなたがかつて生きていた世界――チキュウとはどのような世界であるのかと、興味がありまして……どんな些細なことでもいいのです。教えていただければと……」
「ラウルス……」
「いや……差し出がましいことを言ってしまいました。忘れてください……」
「そんなこと!」

俺は嬉しくてしょうがなかった。だって……

「もっとラウルスと話したいなって、前からずっと思ってたんだ。だから、たくさん話せそうな話題ができて嬉しい!」
「ノア……」
「ラウルスは兄上のことを弟のように想っているんでしょ。だったら、俺だってそう…なるよね?」
「あ、あれは……あのとき、私の命はもう先のないものであると……特殊な状況下での発言でして……陛下と言い、ノア……あなたまでその話を蒸し返すのはやめていただけないでしょうか……」
「……俺みたいな弟はいらないってこと?」
「そういうわけではなく、私などが尊き血筋の方々と兄弟であるなどと……畏れ多いというか……万が一人に聞かれでもしたら……」
「なら、ふたりきりならいいってことだよね」
「そういうわけでは……」

「……あ、兄上?」

「…………」

「違うかな?じゃあ、お兄様?」

「…………」

ラウルスが固まってしまった。俺も頬が熱くなっている。

「……そろそろ、書庫に戻りましょうか。今は厄災やサナトリオルムについての情報を少しでも多く知り得なければ……」
「そ、そうだね……」

店の外に出ると、雨は上がっていた。
隣を歩くラウルスを見上げる。

「これからもよろしくね、ラウルス」
「こちらこそ、ノア」
やさしさのこもった表情で微笑まれた。
普段は険しい顔をしていることが多い人だから、少し面食らう。

さっきの会話で、ラウルスとの距離が前よりも縮まった気がする――

嬉しいな……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

処理中です...