31 / 117
第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編
お盆と正月。子供の頃の一大イベント
しおりを挟む誠は購買を後にしつつ、渡辺さんの言葉を思い出していた。
「…………盆と正月、か……」
最後にそれを経験したのは、十年も前になるのだ。
都会から親戚が帰ってくると、必ず小さい子供もいる。最初は恥ずかしそうに親の後ろに隠れているのだが、一分もしないうちに誠との距離が縮まり、長い廊下を走り回って遊ぶのだ。
最後には、部屋の隅に重ねた座布団の上に陣取り、小型のゲーム画面を覗き込んでは語り合っている。
そうこうするうちに、ふすまを取り払って長い座卓がいくつも並べられ、その上にずらりと料理が並ぶのだ。
定番のお鍋にお刺身、鯛めしに、鶏やタコのから揚げ。鶏のから揚げは、このへんではせんざんきといい、醤油や酒、にんにくで味をつけている。タコは小さい子供でも食べやすい一口サイズに切られ、中は柔らかく、外はカリッと香ばしい。
蒸した瀬戸貝や牡蠣が荒磯のように積み上げられ、その向こうには真っ赤にゆだった海老やカニが、くりくりした黒い瞳で誠の方を睨んでいる。
大皿に盛られた枝豆が、鮮やかな緑の姿で登場すれば、時を同じくして無数のビール瓶が、打ち上げ前のロケットのようにテーブルに据えられた。
まるで海賊達の宴のように並ぶご馳走は、いつ見ても楽しいものだ。
から揚げばかりを食べている誠に、母がお刺身も食べて、とお皿にくれる。白く脂がのったハマチの刺身は、口の中で優しくとろけて、わさび醤油をからめてご飯に乗せれば、即席の海鮮丼の完成である。
明日は海に行こう、明後日は買い物に行きましょう、なんて言う両親と、お酒でゆでだこ色になって踊りだすじいちゃん、それを引き気味に止めつつ、飲む手だけは決して休めないばあちゃん。
誠に向かい、大きくなったなあ、なんて言う親戚のおじさんと、そのおじさんのビールを興味津々で狙う親戚の子供達。
もしかしたら、ここは本当に天国ではないかと思えるぐらい、幸せで楽しい、非日常の時間だった。仏壇もお土産のお菓子や果物でいっぱいになって、ご先祖達も天国で宴会なのだろう。
「……ちょっとだけ、ちょっとだけ想像してみるか」
誠は先ほどの集まりに、鶉谷司令を登場させてみた。誠は都合よく成人し、実家に司令を連れ帰ったという設定なのである。
司令の服装は、飾り気の無いセーターに、ジーンズぐらいがいいだろう。台所で料理を手伝っていたからであり、髪の毛は後ろで一つにまとめている。
ほう、誠くんもいいお嫁さんをもらったなあ、という親戚に照れながら、2人は寄り添って隣の座布団に座るのだ。
誠がちらりと司令の顔を見ると、彼女もこちらを見て恥ずかしそうに微笑む。
「うおお、幸せだ……幸せ過ぎて、もう死んでもいい……!」
はにかんだ司令の表情が新鮮で、誠は萌え死にしそうになったが、料理をよそおうとした司令が転び、煮えたぎった鍋が迫ってきたところで我に返った。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
