87 / 117
第一章その6 ~急展開!~ それぞれの恋の行方編
神様のくれたゼリー
しおりを挟むあの混乱が起きた時、誠は故郷から脱出する船に乗った。
見知らぬ大人に囲まれ、何もかもが怖かったが、避難区に到着すると、更に恐ろしい日々が待っていた。
誠の父は高千穂研の主要研究員の1人だったし、その事を避難区の職員が漏らしてしまったからだ。
太古から災害に見舞われてきた日本人には、非常時に協力し合う習慣があるものだが、ごく稀に本物の悪人も紛れ込んでいる。彼らは徒党を組んで避難区を荒らし回り、幼い誠をリンチにかけてウサ晴らしをした。
人々も止めようとはしてくれたが、警察もおらず、暴力に抗するには限界がある。
食料は小さな紙箱に入れられて配布されたが、誠の所に来た時には、明らかに開封された跡がある。震える手でそれを開けると、中には石が詰まっていたのだ。
誠はもう何もかも嫌になって、ただ横になっていた。お腹が空くのも分からなくなった。
どうせ助からないのなら、延命した方が長く苦しむと言われるように、人は点滴などで栄養が足りていると、痛覚や恐怖が残っている。
脳は助かるために、体の危険をシグナルとして発信し続け、その間は地獄の苦しみが続くのだ。
しかしそうした栄養補給をせず、血が薄くなると、ある段階から脳は生きる事をあきらめ、苦痛のサインを消し去ってくれる。自然に意識が遠くなり、耳も段々聞こえにくくなった。
……そんな時、微かに誰かの声が聞こえた。
霞む目を開けると、必死の表情のお姉さんが見えた。
まだ髪は黒かったが、当時14歳だった雪菜であり、傍らには、長い髪を縛った青年……当時日本で最高のパイロットだった明日馬がいたのだ。
雪菜が差し出すゼリーのような携帯食料を、誠はぼんやり眺めていたが、やがて生きたい、という渇望が湧き上がってきた。
誠は懸命に口に運んだ。
ああ、それは何て味だったんだろう……!
舌の上で何かが爆発したように感じたその味は、どんな富豪でも得られぬほど甘美な体験に思えて、誠はそのまま気を失った。
少ない血が一気に胃に集まったため、頭の血が足りなくなったのだろう。
そして目が覚めた時、事態は驚くほど好転していた。
新進気鋭のパイロットであり、尊敬を集めていた明日馬と雪菜のおかげで、誠への虐待は明らかになり、以後そうした行為は無くなったのだ。
雪菜は出撃の合間に、誠をよく傍に置いた。他のレジェンド隊のパイロットも優しくしてくれたし、彼らが出撃する際は、信頼出来る整備班の親方に預けてくれた。
でも親方は、誠を甘やかすだけでなく仕事を与えた。
「いいかまこすけ、男なら自分で居場所を作れ。特にこういう時はな、最初からちやほやなんてされないもんだ。仕事で自分を認めさせるんだ」
親方は腕組みし、己に言い聞かせるように語る。
「そんでもって勉強だ。学校がないなら、図書館へ行けば本がある。俺は勉強しなかったからバカなんだが、お前はまだ若いんだからな」
「そうよ誠くん、坂本龍馬だって、低い身分からのしあがって、歴史に残る大人物になったんだし。男の子だから負けちゃだめよ」
燃える瞳で拳を握る雪菜に、誠は不思議そうに頷くのだ。
誠は勧められるままに、仕事の合間に図書館に通った。読める字が増えていくと、世界はどんどん広がっていく。
そして今学んでいる事に集中すると、恐怖でいっぱいだった心に、少しずつ余裕が出てきた。
だから親方は仕事を与えたのだ。怖い事ばかり考えるのではなく、今を生きる事に目を向けさせようとしたのだ。
誠は図書館中の本を読み漁り、次第に仕事ぶりでも、周囲の大人が目を見張るようになっていた。
見た事が無い機器が届き、分からない事があると、皆が誠に聞きに来る事が増えた。
科学の発展に基礎研究が重要なように、理論や知識を組み合わせれば、大抵の事は応用が効いたからだ。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
