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第一章その6 ~急展開!~ それぞれの恋の行方編
恋の勘違い。人生で一番恥ずかしい
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「ああああああああっ!!!」
あちこち壁にぶつかりながら、鶴はひたすら疾走する。階段を駆け上り、段を踏み外して転倒し、すぐに起き上がっては走り出す。
心臓は壊れたように脈打って、お腹の上辺りが、きつく締め付けられるように息苦しい。
何も考えたくないのに、様々な思いが頭の中を駆け巡った。
自信たっぷりに、未来の花嫁だとか言った事。
あたかも両思いのように振舞っていた事。
能天気な発言が、ブーメランのように弧を描いて戻って来ると、千の弓矢となって鶴の体を射抜いていく。
もはやこれまで、と想像の中で討ち死にした鶴だったが、現実の体はいたって無事だ。
鶴は両手で顔を覆った。
「バカバカバカバカっ、何であんなこと言ったんだろう!」
鶴は仮眠室に飛び込むと、ベッドにダイブして枕に顔をうずめる。
「どうしよ、どうしよ、うわあ、もう死んじゃいたい!」
恥ずかしくて消えてしまいたかった。
でも考えてみれば当たり前なのだ。
過去から来た自分と違って、黒鷹はずっとこの時代を生きてきたのだ。
それなのに、あんな自信満々な態度をとって……なんて滑稽な!
夕闇の迫る校舎の中を、鶴はとぼとぼ歩いていた。床も壁も、そして窓も鶴の見知らぬ材質で、いつもよりずっと寒々しく見える。
鶴はふと気が付いた。
考えてみれば、自分はこの時代の人も、物も、何も知らない。久しぶりの現世で有頂天になっていたが、冷静になってみれば、ここは見知らぬ場所だったのだ。
「ねえ、鶴」
不意に傍らから声がかかった。
ゆっくりと目線を上げると、階段の手すりにコマがちょこんと座っていた。コマはやあ、と前足を上げ、気さくに声をかけてくる。
「元気ないね鶴。らしくないじゃないか」
「コマ……」
鶴は力なく相棒の名を呼ぶ。今にも泣き出しそうな顔なのだろうが、自分でもどうする事も出来なかった。
コマは床に降り立つと、鶴の足元に歩み寄ってくる。
「見る影もないね。あんなに楽しそうだったのに、捨てられた狛犬みたいだ」
「……」
鶴は黙って壁際に座った。膝を抱え、顎を膝に乗せる。
コマも側におすわりをし、2人は夕日のひなたぼっこを開始した。
「……考えてみれば、私が色恋で報われるわけないわ。弓馬に薙刀、操船に水練。女らしい手習いなんて、何も知らなかったんだから」
「確かにそうかもね。でもあの時は、そうするしかなかったじゃないか」
鶴は手を伸ばし、コマの鬣を撫でる。己をいたわる相棒に感謝を示すように、指先で毛をとかすが、そこでふいに手を止めた。
「ねえコマ。黒鷹の昔の事、見てもいいかな?」
「えっ、それは直接本人に聞きなよ」
「駄目って言われるもん」
鶴は悲しげに首を振った。
「黒鷹は、あたしのいない時代を生きてきたんだよね。だから他の人を好きになって当然だと思う。それは辛いけど……でも、だから見てみたいの。あの人がどんなふうに生きてきたかを。そしたら納得出来るかもしれないし」
「しょうがないなあ、今回だけだよ?」
コマは幼子を慰めるような語調で言う。
「黒鷹とは契約してるから、魂の縁で見えるはずだよ」
コマの言葉に頷くと、鶴は目を閉じ、己の魂の奥底へ意識を潜らせた。
あちこち壁にぶつかりながら、鶴はひたすら疾走する。階段を駆け上り、段を踏み外して転倒し、すぐに起き上がっては走り出す。
心臓は壊れたように脈打って、お腹の上辺りが、きつく締め付けられるように息苦しい。
何も考えたくないのに、様々な思いが頭の中を駆け巡った。
自信たっぷりに、未来の花嫁だとか言った事。
あたかも両思いのように振舞っていた事。
能天気な発言が、ブーメランのように弧を描いて戻って来ると、千の弓矢となって鶴の体を射抜いていく。
もはやこれまで、と想像の中で討ち死にした鶴だったが、現実の体はいたって無事だ。
鶴は両手で顔を覆った。
「バカバカバカバカっ、何であんなこと言ったんだろう!」
鶴は仮眠室に飛び込むと、ベッドにダイブして枕に顔をうずめる。
「どうしよ、どうしよ、うわあ、もう死んじゃいたい!」
恥ずかしくて消えてしまいたかった。
でも考えてみれば当たり前なのだ。
過去から来た自分と違って、黒鷹はずっとこの時代を生きてきたのだ。
それなのに、あんな自信満々な態度をとって……なんて滑稽な!
夕闇の迫る校舎の中を、鶴はとぼとぼ歩いていた。床も壁も、そして窓も鶴の見知らぬ材質で、いつもよりずっと寒々しく見える。
鶴はふと気が付いた。
考えてみれば、自分はこの時代の人も、物も、何も知らない。久しぶりの現世で有頂天になっていたが、冷静になってみれば、ここは見知らぬ場所だったのだ。
「ねえ、鶴」
不意に傍らから声がかかった。
ゆっくりと目線を上げると、階段の手すりにコマがちょこんと座っていた。コマはやあ、と前足を上げ、気さくに声をかけてくる。
「元気ないね鶴。らしくないじゃないか」
「コマ……」
鶴は力なく相棒の名を呼ぶ。今にも泣き出しそうな顔なのだろうが、自分でもどうする事も出来なかった。
コマは床に降り立つと、鶴の足元に歩み寄ってくる。
「見る影もないね。あんなに楽しそうだったのに、捨てられた狛犬みたいだ」
「……」
鶴は黙って壁際に座った。膝を抱え、顎を膝に乗せる。
コマも側におすわりをし、2人は夕日のひなたぼっこを開始した。
「……考えてみれば、私が色恋で報われるわけないわ。弓馬に薙刀、操船に水練。女らしい手習いなんて、何も知らなかったんだから」
「確かにそうかもね。でもあの時は、そうするしかなかったじゃないか」
鶴は手を伸ばし、コマの鬣を撫でる。己をいたわる相棒に感謝を示すように、指先で毛をとかすが、そこでふいに手を止めた。
「ねえコマ。黒鷹の昔の事、見てもいいかな?」
「えっ、それは直接本人に聞きなよ」
「駄目って言われるもん」
鶴は悲しげに首を振った。
「黒鷹は、あたしのいない時代を生きてきたんだよね。だから他の人を好きになって当然だと思う。それは辛いけど……でも、だから見てみたいの。あの人がどんなふうに生きてきたかを。そしたら納得出来るかもしれないし」
「しょうがないなあ、今回だけだよ?」
コマは幼子を慰めるような語調で言う。
「黒鷹とは契約してるから、魂の縁で見えるはずだよ」
コマの言葉に頷くと、鶴は目を閉じ、己の魂の奥底へ意識を潜らせた。
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