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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編
小さな勇者
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「あっおいっ、あいつら逃げてくぜ!」
特務隊の射撃を電磁シールドで弾きながら、宮島が叫んだ。
彼の言葉通り、青紫の機体は次々空へ飛び立って行く。餓霊の霧や対空呪詛がない場合、慣性制御で機体は飛行出来るのだ。
「逃がすかよ!」
宮島が銃を構えるが、その時モニターに通信が入った。
映されたのは、馴染みの歩兵部隊の顔である。
「待って、撃たないで下さい! し、司令が、鶉谷司令が攫われました!」
「何ですって!? みんな、いったん止まって!」
副隊長のカノンの指示で、一同はひとまず銃を下ろした。
「それでどうするんだ副隊長。俺も仏様じゃない、ここまでされたら黙ってられんぜ」
普段冷静な香川も、かなりの怒りを滲ませていた。
「決まってるわ。撃てない以上、追いかけるしかないでしょ」
カノンが答えた時、再び歩兵が口を挟んだ。
「そ、それがその、別情報なのですが。当避難区を目掛けて、餓霊の大軍が押し寄せています。更に別の避難区には、毒霧のようなものが発生しており……人々が次々倒れてしまい、避難もおぼつかず……」
「次から次へと厄介ね。まるでこの機を待ってたみたい」
カノンが呟き、香川が後を続けた。
「どう見てもそうだろう。つまるところクーデターだ。あいつら敵の侵攻時期が分かるんだろう? それに乗じて俺達を始末し、船団を一気に乗っ取る気だろう」
「そういや、今は旗艦に船団のお偉いさんが集まってんだよな。そこ狙われたらおしまいじゃんかよ!」
「……折角船団が1つになったのに、全部おじゃんになっちゃうわね」
宮島の叫びに、カノンが悔しげに呟く。
「それで、どないするんカノっち。うちらだけじゃ、司令と避難区と両方守るわけにいかんやろ」
「どうするって、それは……」
難波の問いにカノンは項垂れたが、その時。
一同の画面が光ると、そこに女神・岩凪姫が映し出された。
女神は力強く言い放つ。
「うろたえるな、まずは落ち着け。雪菜の事は手を回す。それと人々が倒れたのは、邪法の呪いだな。解呪せねば助からんが、私と妹が何とかしよう」
岩凪姫の隣には、長い黒髪に桜花を挿したもう1人の女神・サクヤ姫がいた。
「歩兵の皆さんには、人々を海岸のシェルターへ誘導して貰うわ。それまで敵を食い止めるしかないの。苦しい戦いになるけど、あなた達が頼りよ」
「りょ、了解しました!」
サクヤ姫の言葉に、一同は力強く答えた。
幼子は、何が起きたのか理解出来ずにいた。
人があちこちに倒れ、救護の兵が運び出している。
母の姿は見当たらないが、怪我をして運び出されたのだろうか?
体育館も校庭にも破片が散らばり、まるで戦争のようだった。
……と、その時。戸惑う幼子の前に、2人の男が現れた。
1人は中年のおじさんで、もう1人は背の高いすらりとした青年。そして彼らの傍らには、大きな赤い玉が浮かんでいた。
玉は透き通っており、中には鎧姿のあのお姉さんが眠っていたのだ……!
おじさんは振り返って、青年に告げた。
「良くやった。神人の確保ご苦労だったな」
「私ではありません。隠がやったのです」
青年は、少し浮かない表情で答えた。
「隠はすぐに戻らせました。私の独断です」
「構わん、神人さえ仕留めれば何とでもなる」
おじさんは口元をぐにゃりと曲げて、恐ろしい顔で笑みを浮かべた。
「よくぞ無傷で捕縛できた。このまま連れ帰り、血の一滴まで御方の捧げ物としよう。この霊力なら大層お喜びになられる」
「……それはそうですが、まずは夜祖様にご報告を」
「事後で構わんと言っているのだ。まずは勝たねば始まらん」
男達は幼子など気にも留めずに会話を続け、やがて2人とも消えてしまった。あの玉に包まれたお姉さんも一緒にである。
幼子は戸惑った。母の行方も気になった。
けれどあのお姉さんの事が、どうしても胸を離れなかったのだ。
みんなを守るために、あの人達はいつも戦ってくれた。
だったら自分にも、何か出来るのではないだろうか。
その時、ふと何かの音が聞こえた。
「……?」
幼子は必死に耳をすます。
もう一度、鳴り響いた。まるで鈴みたいな澄んだ音色だ。
崩れかけた体育館の入り口を抜け、外に走り出ると、駐車場の片隅に数人が倒れていた。
彼らが運んでいたであろう担架の傍には、あのお兄さん……鳴瀬と呼ばれた人が横たわっていた。
今は目を閉じているが、確かにあの日幼子を助けてくれた英雄だったのだ。
特務隊の射撃を電磁シールドで弾きながら、宮島が叫んだ。
彼の言葉通り、青紫の機体は次々空へ飛び立って行く。餓霊の霧や対空呪詛がない場合、慣性制御で機体は飛行出来るのだ。
「逃がすかよ!」
宮島が銃を構えるが、その時モニターに通信が入った。
映されたのは、馴染みの歩兵部隊の顔である。
「待って、撃たないで下さい! し、司令が、鶉谷司令が攫われました!」
「何ですって!? みんな、いったん止まって!」
副隊長のカノンの指示で、一同はひとまず銃を下ろした。
「それでどうするんだ副隊長。俺も仏様じゃない、ここまでされたら黙ってられんぜ」
普段冷静な香川も、かなりの怒りを滲ませていた。
「決まってるわ。撃てない以上、追いかけるしかないでしょ」
カノンが答えた時、再び歩兵が口を挟んだ。
「そ、それがその、別情報なのですが。当避難区を目掛けて、餓霊の大軍が押し寄せています。更に別の避難区には、毒霧のようなものが発生しており……人々が次々倒れてしまい、避難もおぼつかず……」
「次から次へと厄介ね。まるでこの機を待ってたみたい」
カノンが呟き、香川が後を続けた。
「どう見てもそうだろう。つまるところクーデターだ。あいつら敵の侵攻時期が分かるんだろう? それに乗じて俺達を始末し、船団を一気に乗っ取る気だろう」
「そういや、今は旗艦に船団のお偉いさんが集まってんだよな。そこ狙われたらおしまいじゃんかよ!」
「……折角船団が1つになったのに、全部おじゃんになっちゃうわね」
宮島の叫びに、カノンが悔しげに呟く。
「それで、どないするんカノっち。うちらだけじゃ、司令と避難区と両方守るわけにいかんやろ」
「どうするって、それは……」
難波の問いにカノンは項垂れたが、その時。
一同の画面が光ると、そこに女神・岩凪姫が映し出された。
女神は力強く言い放つ。
「うろたえるな、まずは落ち着け。雪菜の事は手を回す。それと人々が倒れたのは、邪法の呪いだな。解呪せねば助からんが、私と妹が何とかしよう」
岩凪姫の隣には、長い黒髪に桜花を挿したもう1人の女神・サクヤ姫がいた。
「歩兵の皆さんには、人々を海岸のシェルターへ誘導して貰うわ。それまで敵を食い止めるしかないの。苦しい戦いになるけど、あなた達が頼りよ」
「りょ、了解しました!」
サクヤ姫の言葉に、一同は力強く答えた。
幼子は、何が起きたのか理解出来ずにいた。
人があちこちに倒れ、救護の兵が運び出している。
母の姿は見当たらないが、怪我をして運び出されたのだろうか?
体育館も校庭にも破片が散らばり、まるで戦争のようだった。
……と、その時。戸惑う幼子の前に、2人の男が現れた。
1人は中年のおじさんで、もう1人は背の高いすらりとした青年。そして彼らの傍らには、大きな赤い玉が浮かんでいた。
玉は透き通っており、中には鎧姿のあのお姉さんが眠っていたのだ……!
おじさんは振り返って、青年に告げた。
「良くやった。神人の確保ご苦労だったな」
「私ではありません。隠がやったのです」
青年は、少し浮かない表情で答えた。
「隠はすぐに戻らせました。私の独断です」
「構わん、神人さえ仕留めれば何とでもなる」
おじさんは口元をぐにゃりと曲げて、恐ろしい顔で笑みを浮かべた。
「よくぞ無傷で捕縛できた。このまま連れ帰り、血の一滴まで御方の捧げ物としよう。この霊力なら大層お喜びになられる」
「……それはそうですが、まずは夜祖様にご報告を」
「事後で構わんと言っているのだ。まずは勝たねば始まらん」
男達は幼子など気にも留めずに会話を続け、やがて2人とも消えてしまった。あの玉に包まれたお姉さんも一緒にである。
幼子は戸惑った。母の行方も気になった。
けれどあのお姉さんの事が、どうしても胸を離れなかったのだ。
みんなを守るために、あの人達はいつも戦ってくれた。
だったら自分にも、何か出来るのではないだろうか。
その時、ふと何かの音が聞こえた。
「……?」
幼子は必死に耳をすます。
もう一度、鳴り響いた。まるで鈴みたいな澄んだ音色だ。
崩れかけた体育館の入り口を抜け、外に走り出ると、駐車場の片隅に数人が倒れていた。
彼らが運んでいたであろう担架の傍には、あのお兄さん……鳴瀬と呼ばれた人が横たわっていた。
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