怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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遅延新入生勧誘編

強者蹂躙⑤

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「修斗!」

 呼び止められ振り返ると、わざわざ追いかけてきたのかまだユニフォーム姿の涼介がいた。

「良いプレーだったぜ涼介、ずば抜けた個人技は健在だな。光や賢治、それに優夜も当時からさらにレベルアップしていて素直に驚かされたよ。今年のヴァリアブルは3冠を狙えるな」

「この中にお前がいれば完璧だったんだ修斗。お前さえいれば……」

 悔しそうに話す涼介を見て、心がじんわりと熱くなった。
 本当に良い奴だこいつは。

「流星も中央のプレーヤーとして申し分ないだろ」

「それは間違いないが、流星の代わりができる奴は多い。だけど修斗、お前の代わりを務められる奴はいない、唯一無二なんだよ」

 親友にそこまで言われて嬉しく思わないわけがない。
 だからこそ俺は、涼介に変な期待は持たせたくないんだ。
 俺のことを気にせず、そのまま走り抜けて行って欲しい。

「できないことは諦めるしかない。俺の夢、お前に託すよ涼介」

「修斗…………」

 そう言って俺は手を伸ばし、握手を求めた。
 俺の無念をこいつに引き継ぐ。
 将来的にどうなるかは分からないが、涼介には気にせずサッカーで天下を取って欲しい。
 だからここで、俺のことは断ち切ってもらう。

「…………分かった。俺は必ずプロに……いや、誰しもが憧れる世界的なサッカープレイヤーになってやる!」

「ああ、応援してるぜ」

 吹っ切れたような表情の涼介に俺は頷き、ガッチリと握手を交わした。
 会うことを躊躇っていた神上涼介。
 しかし結果的に俺は会えて良かったと思っている。
 あいつと会えたことで俺の中でも少し思うところが生まれた。
 引っ張ってくれた桜川に感謝しないとだな。

 涼介はグラウンドへと戻っていった。

「さて……早く戻らないと」

「あれ? 修斗じゃんか。なーにやってんだよこんなところで」

 今度はちょうど正面玄関口から出てきた新之助に会った。
 部活も何もやっていないのにまだ帰ってなかったのか。

「お前こそ何やってんだよ」

「俺か? しょーがねーな見せてやるよ俺の成果ってやつを」

 そう言って新之助は自分の持っていた携帯の画面を俺に見せてきた。
 そこには『妖怪GO!』というアプリの起動画面が映し出されていた。

「…………なんだこれ」

「はあ!? お前知らねーの最近話題のアプリ!!」

「ゲームなんかやらねーし」

 携帯は所詮連絡を取り合うためだけのツールだろ。

「これは最新AR技術を用いたゲームでな、風景を携帯で写すと妖怪が画面上に映し出されるんだよ。それを捕獲するってやつだな」

「で、それをずっとやってたと?」

「おうよ! おかげで学校限定キャラのトイレの花子さんゲットだぜ!」

 ニッコニコでガッツポーズをとる新之助を見て、俺の心がほっこりした。
 やっぱこいつ面白いわ。

「なんかお前といると安心するな」

「お? なんだ急に褒めんじゃねえよ」

「何も悩み事とかなさそうな馬鹿っぷりがいい」

「喧嘩だてめぇ!」

 新之助といて余計な心配事が起きたことが今まで一度もない。
 まさにストレスフリー。
 梨音だけじゃなく、今の高校生活が充実して楽しめるのは案外こいつの存在が大きかったりもするかもな。

「俺はまだ生徒会の仕事があるんだ。悪いけどまたな」

「何だ生徒会で残ってたのか。最近の生徒会はどうよ」

「ああ、委員会会議だの生徒会新聞で忙しそうにしてるよ。まだまだこれからやる事が多そうだな」

「違う違う、そうじゃなくて」

「は?」

「あんな美少女だらけの空間で、何か面白いことは起きてないのかって話だよ!」

 なんだ下世話な方の話か。
 相変わらず新之助はそういう話にはよく食いつく。
 自分に似た話がないから、他の人の下世話な話に興味深々なのか? と考察してみる。

「残念ながらお前が喜ぶような話は何もねーよ」

「ということは修斗自身、何も起きてないってことか? ぷっ、むしろそっちの方が俺としてはご馳走です」

「は? 殺す」

 その通りではあるが新之助に馬鹿にされると100倍ムカつく。
 やっぱここらで1発シメとくのが正しいか。

「修斗」

 俺が新之助の顔面に手を伸ばそうとした時、今度は正面玄関口に梨音が立っていた。
 ちょっと顔がお怒りだ。
 資料を取りに行ったまま全然帰ってこない上に、こんなところでアホの新之助とふざけていたのだから当然だろう。
 たぶんこの後の流れとしては、俺が顔面クラッシャーされると思われる。

「じゃ、俺はこれにて失礼」

 一目散に走り去って行った新之助。
 空気を読む力はこんな時でも健在かこの野郎。
 すぐに不穏な空気を察しやがった。

「こんなところで何してるの? 全然帰って来ないから心配になったんだけど」

「いやぁ…………ちょっと用事が」

「私の納得いく理由なんだよね? 佐川君と一緒にいたみたいだけど」

 アイツは関係ないんだよなぁ……!
 偶然会っただけで良く分からんアプリの話してただけだし。

 そもそも最初から梨音に1発ははたかれる予定だったんだ。
 素直に話した方が吉だよな。

「実は……ヴァリアブルの奴らがここに練習試合しに来てたんだよ。それで久しぶりに会うために……」

「そうなの? それだったら最初から言ってくれれば良いのに」

 おや?
 流れ変わったな。

「クラブ時代の人達だよね。ゆっくり話せた?」

「ああ。相変わらず良い奴だったよ」

「そっか……。修斗もいつか、サッカーできるようになるといいね」

 これは叩かれずに済む奴か。
 良かった良かった、どうやら俺の考えすぎだったみたいだ。
 そもそも梨音がそんなことで怒ったりしないよな。

「それはそれとして、資料は?」

「………………ん?」

「ん? じゃなくて、資料。試合見に行くにしても先に図書室から持ってきてくれてるんでしょ?」

「………………ん?」

 おや?
 流れ変わったな。
 ダラダラと冷や汗が止まらないぜ。

「まさか……まだ取りに行ってないとか言わないよね。もう図書室の利用時間、終わっちゃうんだけど」

「梨音、例えばの話をしよう。もしも、もしもまだ資料を取ってきてないって言ったらどうする?」

「砕く」

「どこを!?」

 予定調和というべきか、俺は顔面をクラッシャーされた。
 一番の強者は梨音なのかもしれない。
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