怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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遅延新入生勧誘編

強者蹂躙④

「こんなのってあんまりだよ……」

 桜川が泣きそうな表情で、うなだれながらベンチへと戻ってきた瑞都の選手達を見ながら呟いた。

「先輩達が築き上げてきたものが全部、まるで無かったことのように叩き壊されて……! それほどまでに実力差があるの……?」

「瑞都高校は決して弱くない。だけど、今のヴァリアブルとはレベルが違いすぎる。試合を組むにはあまりも早計で、練習にもならなかったな」

 瑞都高校の監督は勝てる見込みがあってヴァリアブルに試合を申し込んだのか?
 それとも負ける上で得るものがあると踏んで試合を申し込んだのか。
 どちらにせよ、悪手になったと言わざるを得ないな。
 結果、狩野隼人を入れて自信にみなぎっていた部員の多くの心は折られ、今後の大会に響いてしまうことは間違いない。

「修斗、今の試合を見て何か思うところはあった? 例えばもう一度ヴァリアブルに入りたいとか……」

 弥守に聞かれ、改めて考えた。

 思うところがない、といえば嘘になる。
 神奈月先輩のおかげで走れはせずともフットサル程度なら可能だと分かった。
 将来的にはサッカーができるだろうと嬉しく思った。
 だが、それはあくまで趣味の範囲内。
 もう一度プロを目指すことは微塵も考えなかった。

 こうして涼介達の試合を見せられて、俺の心はかつてないほど滾っている。
 右足を完全に壊してでも試合に飛び込んでやろうかと何度思ったことか。
 でも俺の足の痛みは消えてくれない。
 この痛みが消えない限り、俺が再びプロを目指すことはない。
 これ以上、梨音にも迷惑はかけられないしな。

「刺激は受けたよ。でもヴァリアブルが俺を取るわけがないだろう。一度放出した手前、格好がつかないしそもそも足の問題が何も解決してないからな」

「医者には何て言われてるの?」

「完治には時間が必要……だとよ。それがいつになるかは分からないみたいだ。一生治らないかもしれないし、1年……2年で治るかもしれない」

「ふ~ん……。じゃぁ…………」

 弥守がボソボソと呟いていたが聞き取れはしなかった。
 俺に話したのではなく独り言なのだろう。

「あ、ヴァリアブルは神上達を下げてるみたいだよ」

 桜川に言われてヴァリアブルベンチを見ると、涼介、優夜、光、賢治の4名が交代していた。
 Aチームに昇格すると話していたし、ここまでの点差。
 最後の調整は充分ということか。

「日本代表組が下がったね……」

「じゃあ俺はそろそろ戻るとするよ」

「えっ、最後まで見ないの?」

「実は生徒会の仕事の途中なんだよ。これ以上遅れたら梨音に怒られちまう」

 もう怒ってる可能性の方が高そうだけど……。
 図書室に行ってくると言ってから1時間半が経ってるからなぁ……。
 嘘で塗り固めても桜川に話されたら終わるし、正直に話して1発ヤキ入れてもらうだけで勘弁してもらうか。

「まだ狭間とか友ノ瀬は出てるよ?」

「勝負は決し、涼介や優夜が交代した。となれば桜川には悪いけど、俺の中での優先順位が下がったからな。弥守は一応関係者でもあるんだし、見ていけよ」

「修斗が見ないならいい」

「俺関係なくね?」

「ん~…………あっ!」

「なんだ突然……」

 桜川が突然何かに気付いたように声をあげた。
 ロクなことじゃない予感。

「高坂っちに抱きついた転校生って、宮っち?」

「おおい! 何で知ってんだよ!?」

唐突な精神的攻撃。
まさかこんなところで振り返されるとは思わなかった。

「ちょ~有名だよ!? 美人の転校生がラブアタックした人がいるって! 宮っちの態度がなーんか引っかかってたけど、そういうことか~」

「ぐっ……! おい弥守、お前から説明しろ。お前のせいだからな」

「私は修斗が好きだよ」

「うわあああああああ!」

 …………なんで桜川がダメージ負ってるんだ。
 叫びたいのは俺の方だっつーの。
 弥守は説明しろって言ったのに何でまた告白してくるんだよ。

「こ、こんなハッキリ……!」

「お前なぁ、そういうことをホイホイ口にすんじゃねーよ。前に一度断り入れたろ」

「断ったんだ!?」

「でも気持ちが変わらないことも私、伝えたし」

「分かった分かった。とりあえず俺はもう行くから」

「軽っ! 高坂っちの対応が粗塩過ぎる!」

「でもそういうクールなところもたまらなく良いよね!」

「ええ…………二人の距離感どうなってんの……?」

 それについては俺も知りたい。
 あまり近付かれ過ぎても困るし、正直なところ弥守は危険思想が垣間見えるからこれぐらいの距離感がベストだと思うわ。

「俺のことより桜川は応援続けなよ。後半、始まってるぞ?」

「やばっ、じゃーねー高坂っち」

「また明日ね」

 俺は二人と別れてグラウンドを後にし、校舎の方へと戻っていった。
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