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サマーバケーション勧誘編
熊埜御堂将太朗
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【熊埜御堂将太朗視点】
小学1年の頃、俺の親父はJリーグのプロ選手として試合に出ていた。
決して活躍しているとは言い難く、試合に出るのも必ず先発というわけではなかった。
しかし、セットプレーのチャンスではキッカーを任されており、得点を決めたシーンの喜びようを俺は今でも覚えている。
「いつかセットプレーで世界を獲るんだ」
親父の口癖を、俺は何度も聞いていた。
親父に習い、サッカーを始めていた俺は親父を真似るようにしてフリーキックの練習をした。
たまに親父に蹴り方を矯正してもらい、暇な時は有名選手の動画を見て勉強し、クラブチームの練習が終わった後でもひたすらにフリーキックの練習をした。
小5になる頃には下の兄妹が四人おり、練習が終わると弟妹の面倒や家事を手伝うようになったが、自身の練習時間だけは決して減らさなかった。
親父もお袋も、そんな俺の邪魔をすることは一切無かった。
小6に上がった頃、親父が戦力外通告を受けた。
以前から試合に出る試合が極端に減り、さらには年齢も32を超えたということで契約更新がなされなかった。
フリーキックだけを蹴れる選手は、チームにとって抱えておくほど価値がある選手ではないと判断されたということだ。
唯一の取り柄としていた自分の武器を否定された親父だったが、自分の実力不足であったと認めざるをえなかったようだ。
その後、いくつかトライアウトを受けたが、親父のことを拾うクラブはなかった。
7人家族という大所帯を支えるには、早過ぎる退職だった。
親父は知り合いの人の会社で働かせて貰えることになり、お袋も介護の仕事を始めた。
一番上の俺ですら小6。
一番下の妹は保育園に通い始めたばかりだった。
幼いながらも責任感という言葉を重く感じ始めたのはその頃からだ。
中学2年になった頃、俺のフリーキック技術はほぼ完成されていた。
ボールまでの助走、蹴り方、腰の捻り方、蹴る強さ。
不思議と感覚で全てが分かるようになっていた。そこに至るまで一体何万本蹴ったか覚えていない。
しかし、強風でも吹いていない限り、俺はこの決まった形を崩すことはないだろう。
親父に報告するのは実際に試合を見に来てもらったときにしようと思っていた。
───親父が急性心筋梗塞で亡くなった。
いつものように練習を終え、家へと帰る途中でお袋から電話が掛かってきた。
何事かと出てみれば、業務中に親父が倒れたという。
すぐに飛んで家に帰り、弟妹を連れて先に病院へ行っていたお袋に合流した。
顔に白い布を被せられた親父がベッドの上で横たわっており、その隣ではお袋や弟妹が泣いていた。
一番下の妹だけは何が起こっているのか分かっていなかったが、不安そうに指を咥えていた。
布を取り、親父の顔を見ると、血の気が引いた青白い顔をしていたが、外傷は全くなく、今にも目を開くのではないかと錯覚した。
涙は出てこなかった。
元々比較的冷めた性格であったこともあるが、親父が死んだことへの実感がまだ湧かなかったことと、これからの長男としての立場を考えさせられたからだ。
早くに責任感というものを感じていたからかもしれない。
(親父の目指した道を極めたいと、亡骸に報告するのか、俺は)
親父が目指した天下道。
それは1つのセットプレーによって悪い流れを全てぶった切る異質のプレースタイル。
生半可なキッカーじゃ足りない。
他の全てを犠牲にしてでも、確実に得点できるキッカーでなければならない。
そして親父が亡くなった今、家族を支えるのに俺が金を稼がなければならない。
くしくも親父が遺してくれた生命保険のこともあり、高校のことは心配するなとお袋は言うが、高校を出るのを待ってからでは間に合わない。
1日でも早くプロ契約を取り、親父の代わりにお袋や弟妹を守る。
そのために俺は極めつつあるキックスタイルをそのままに、バリエーションを増やす方法を考えた。
要は巻くだけのシュートだけではキーパーの熟練度によっては先読みされて防がれる。
縦に落ちるドライブシュート、そして無回転シュート。少なくともこの二つはモノにするためにさらに練習量を増やした。
そして戦う相手のキーパーの情報を詳しく調べた。
基本的にそのチームのエースキーパーというのはフィールドプレーヤーと違って変わることが少ない。
なので一度インプットできてしまえばその後も反芻することができる。
相手のキーパーの癖を知ることでフリーキックの決定力を上げた。
中学3年の冬。
俺はついに日本代表に選ばれた。
その頃にはジュニアユースのチームメイトも、ペナルティエリア直近まで運んだところで意図的にキープしてファウルを貰うようになっていた。
フリーキックからの方が得点力があると、俺は実力でチームメイトや監督に認めさせたのだ。
そして俺が全てを決める。
大会では準々決勝で東京ヴァリアブル相手に5ー2で負けてしまったが、それまで無失点だった大門郡司からフリーキックで2点を奪った。
それが代表監督の目に止まったのだろう。
俺は親父が成し得なかった夢を、この左足を持ってして掴み取る。
そして親父の墓前で報告するのだ。
貴方の進んだ道は正しかったのだと。
小学1年の頃、俺の親父はJリーグのプロ選手として試合に出ていた。
決して活躍しているとは言い難く、試合に出るのも必ず先発というわけではなかった。
しかし、セットプレーのチャンスではキッカーを任されており、得点を決めたシーンの喜びようを俺は今でも覚えている。
「いつかセットプレーで世界を獲るんだ」
親父の口癖を、俺は何度も聞いていた。
親父に習い、サッカーを始めていた俺は親父を真似るようにしてフリーキックの練習をした。
たまに親父に蹴り方を矯正してもらい、暇な時は有名選手の動画を見て勉強し、クラブチームの練習が終わった後でもひたすらにフリーキックの練習をした。
小5になる頃には下の兄妹が四人おり、練習が終わると弟妹の面倒や家事を手伝うようになったが、自身の練習時間だけは決して減らさなかった。
親父もお袋も、そんな俺の邪魔をすることは一切無かった。
小6に上がった頃、親父が戦力外通告を受けた。
以前から試合に出る試合が極端に減り、さらには年齢も32を超えたということで契約更新がなされなかった。
フリーキックだけを蹴れる選手は、チームにとって抱えておくほど価値がある選手ではないと判断されたということだ。
唯一の取り柄としていた自分の武器を否定された親父だったが、自分の実力不足であったと認めざるをえなかったようだ。
その後、いくつかトライアウトを受けたが、親父のことを拾うクラブはなかった。
7人家族という大所帯を支えるには、早過ぎる退職だった。
親父は知り合いの人の会社で働かせて貰えることになり、お袋も介護の仕事を始めた。
一番上の俺ですら小6。
一番下の妹は保育園に通い始めたばかりだった。
幼いながらも責任感という言葉を重く感じ始めたのはその頃からだ。
中学2年になった頃、俺のフリーキック技術はほぼ完成されていた。
ボールまでの助走、蹴り方、腰の捻り方、蹴る強さ。
不思議と感覚で全てが分かるようになっていた。そこに至るまで一体何万本蹴ったか覚えていない。
しかし、強風でも吹いていない限り、俺はこの決まった形を崩すことはないだろう。
親父に報告するのは実際に試合を見に来てもらったときにしようと思っていた。
───親父が急性心筋梗塞で亡くなった。
いつものように練習を終え、家へと帰る途中でお袋から電話が掛かってきた。
何事かと出てみれば、業務中に親父が倒れたという。
すぐに飛んで家に帰り、弟妹を連れて先に病院へ行っていたお袋に合流した。
顔に白い布を被せられた親父がベッドの上で横たわっており、その隣ではお袋や弟妹が泣いていた。
一番下の妹だけは何が起こっているのか分かっていなかったが、不安そうに指を咥えていた。
布を取り、親父の顔を見ると、血の気が引いた青白い顔をしていたが、外傷は全くなく、今にも目を開くのではないかと錯覚した。
涙は出てこなかった。
元々比較的冷めた性格であったこともあるが、親父が死んだことへの実感がまだ湧かなかったことと、これからの長男としての立場を考えさせられたからだ。
早くに責任感というものを感じていたからかもしれない。
(親父の目指した道を極めたいと、亡骸に報告するのか、俺は)
親父が目指した天下道。
それは1つのセットプレーによって悪い流れを全てぶった切る異質のプレースタイル。
生半可なキッカーじゃ足りない。
他の全てを犠牲にしてでも、確実に得点できるキッカーでなければならない。
そして親父が亡くなった今、家族を支えるのに俺が金を稼がなければならない。
くしくも親父が遺してくれた生命保険のこともあり、高校のことは心配するなとお袋は言うが、高校を出るのを待ってからでは間に合わない。
1日でも早くプロ契約を取り、親父の代わりにお袋や弟妹を守る。
そのために俺は極めつつあるキックスタイルをそのままに、バリエーションを増やす方法を考えた。
要は巻くだけのシュートだけではキーパーの熟練度によっては先読みされて防がれる。
縦に落ちるドライブシュート、そして無回転シュート。少なくともこの二つはモノにするためにさらに練習量を増やした。
そして戦う相手のキーパーの情報を詳しく調べた。
基本的にそのチームのエースキーパーというのはフィールドプレーヤーと違って変わることが少ない。
なので一度インプットできてしまえばその後も反芻することができる。
相手のキーパーの癖を知ることでフリーキックの決定力を上げた。
中学3年の冬。
俺はついに日本代表に選ばれた。
その頃にはジュニアユースのチームメイトも、ペナルティエリア直近まで運んだところで意図的にキープしてファウルを貰うようになっていた。
フリーキックからの方が得点力があると、俺は実力でチームメイトや監督に認めさせたのだ。
そして俺が全てを決める。
大会では準々決勝で東京ヴァリアブル相手に5ー2で負けてしまったが、それまで無失点だった大門郡司からフリーキックで2点を奪った。
それが代表監督の目に止まったのだろう。
俺は親父が成し得なかった夢を、この左足を持ってして掴み取る。
そして親父の墓前で報告するのだ。
貴方の進んだ道は正しかったのだと。
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