怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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サマーバケーション勧誘編

真剣勝負⑦

「修斗ー!」

 梨音ともっちーさんが笑顔で近付いてきた。
 今回の任務は無事に達成したってわけだ。

「まずは優勝おめでとう! 全然なまってなかったね」

「ボールは止まってるからな。日々の訓練のおかげで感覚は維持できてたよ」

 日々の訓練というのも部屋の中でボールを転がし続けたりといった簡単なものだけだが。
 メインはリハビリ業務だ。

「マジで驚いたっすよ! 高坂さん、本当にサッカーが上手いんすね~」

「それほどでもあるんですよ実は」

「まあそれだけが取り柄だしね」

「ちょっと若元君? 言葉は時として人を傷つけることを忘れないでくれたまえ」

 他にもあるだろ、取り柄。
 何って聞かれたら……そりゃ答えづらいけれども。
 でも幼馴染のお前だけはそういうの知っておくべきなんじゃないんですかね。

「にしても本当に優勝できるんすね~」

「これで副賞の新作ゲームはゲットですね」

「あの~…………すいません大会運営のものなんですけど…………」

 授賞式の準備をしていたという関係者の人が戻ってきていた。
 だけど何故か申し訳無さそうな表情だ。

「どうしたんですか?」

「いやほんと、なんて言ったらよろしいのか…………賞金3万円と副賞の関係なんですけど……」

「はい」

 なんか嫌な予感しかしないな。
 このやめてくれよ。

「実は運営本部が同率優勝というものを想定していなかったらしく、賞金と副賞が一つずつしかなくてですね……」

「あーなるほど…………ええ? マジっすか」

 気持ちは分からんでもないけど、ルール上可能性はゼロじゃないだろうに。
 準備を怠ったのはいただけないな。
 これじゃあ競い合った意味がない。

「…………なら高坂が貰うといい。先程も話したように今回は俺の負けだ」

 熊埜御堂が言った。

「それはあくまで心情的な話だろ? 結果は俺達同率なんだから、流石にそれに対してイエスとは言えないな」

「お二人とも1st、2ndステージでも全く同じ成績ですので、いよいよ優劣もつけられるわけもなく…………何とかするように今協議しているところですので」

「はえ~なんか大変なことになったっすね」

 このまま長々と待たされてもしょうがない。
 運営の誰かのポケットマネーで3万円も出されても仕方がないし、こちらで妥協案でも提示してみるか……。
 そもそも俺の目的は一つだけだ。

「…………なら賞金は熊埜御堂が貰えよ。お前、どうしてもお金がいるって言ってただろ?」

「なんだと……? お前、3万円がどれぐらい大金なのか分かって言っているのか? 3万円だぞ!?」

 凄い圧だな。

「いや分かってるよ。ただしその代わり、副賞の新作ゲームは俺が貰う。俺はこれを貰うために参加したんだからな」

「俺は全然構わないが……そもそもやるための本体を持ってないしな。だけど本当に良いのか? 後で欲しくならないのか?」

「ならんよ」

「ほんとだな!? やっぱり金が欲しいと言っても返せないぞ!?」

「大丈夫だって。お前金の話になると性格変わるな……」

「いや悪い…………大丈夫なら構わないんだ。ならありがたく頂こう」

 取り乱した熊埜御堂は一つ咳払いをして落ち着いた。
 本心では喉から手が出るほどに賞金を欲しがっていたくせに、あっさり俺に渡そうとしてきたり、何度も確認してきたり、お金の価値を分かっているからこそのリアクションなのだろう。
 プライドが高くてとっつきにくい奴なのかと思ったが、プライベートでは違うのかもしれない。

「運営さん、そういうことでどうですか? 俺としてはそれで充分なんですけど」

「その旨で一度連絡させていただきます。大変申し訳ありません。高坂さんの賞金の有無については今後も確認させていただきますので」

「お願いします」

 運営の人は走って行ってしまった。
 あの人も大変そうだな。
 俺も仕事するようになったらああいうことするんだろうか。きっと俺には向かないだろう。
 そうならないように、サッカーを頑張らないとな。


 しばらくして俺達はW優勝ということでそれぞれ賞品を受け取った。
 どうやら俺にも後日賞金はスポンサーから渡されるそうだ。
 副賞のゲームについては残念ながら二つとないため、発売日に合わせて送るという話になったが、熊埜御堂は先程も話したようにゲームをするための本体がそもそも無いということで断っていた。
 貰っておいても損は無いと思うんだけどな。


「はい、もっちーさん。ご所望の新作ゲーム」

「おおお…………! ありがとうございます高坂さん! まだどこにも出回っていないゲームが私の手の中にぃ……!」

 会場から駐車場へと向かう途中、もっちーさんに副賞のゲームを手渡すと大切そうにゲームを抱きしめた。
 そこまで喜んでもらえるとは。見ているこっちが嬉しくなってしまう。

「修斗グッジョブだね。ところで足の方は大丈夫なの? 途中で痛めてたよね」

「よく気付くな。痛みが出たのはあの一瞬だけだから大丈夫。今も普通に歩けてるしな」

「帰ったら見てあげるから。久々にマッサージもする?」

「お、いいね頼むわ」

 昔は試合の後とかに足を揉んでもらっていたのを思い出す。
 両足を持って揺らしてもらったりするのが結構気持ち良いんだなこれが。

「はえ~そこまでするんすね。なんか専属トレーナーみたいというか、ほんとお二人は仲良いっすよね」

「そうなんですよ。こいつ俺のことが気になってしょうがないみたいなんで」

「なっ!? 修斗が無茶ばっかりして放っておいたらまた怪我しそうだから見てあげてるんでしょ!」

「面倒見の鬼だよな」

「鬼って失礼ね!」

「でもそんな奴だから、俺も一番気を許せるんですよ。ほんと、困った時にいつも近くにいてくれて助かってます」

「~~~! …………言い方がずるいよ」

「あははは。羨ましい関係性っすね」

 間も無く2学期が始まる。
 夏休みにやり残したことはないだろうか。

 あ…………宿題。
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