怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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文化祭勧誘編

文化祭初日①

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 文化祭当日、学校内はその名の通りお祭り騒ぎとなっていた。
 あるところでは中庭で屋台を出し、あるところでは劇のリハーサルを、あるところではバンド演習の音楽が鳴り響いていた。
 そして俺達のクラスでは各々の準備した格好にコスプレしており、それとは別にクラスで作ったTシャツを着ているやつもいる。

 俺達は食堂の一角を借り、コスプレ喫茶として展開することになっている。
 そのため着替え終えた後は、みんな徐々に食堂に集まってきている。

 俺は牧村さんに借りた執事の服を着ている。
 サイズ的には申し分ない、体型が近かったのが功を奏したか。
 ちなみに白手袋は店で買って準備をした。

「修斗が様になってるのがムカつくな」

「なんだとこの──────誰だてめぇ!」

 声の主に噛みつこうとしたらそこにいたのは謎の怪獣の着ぐるみだった。
 着ぐるみはコスプレに入るのか?

「『妖怪GO!』に出てくる高橋さんだ!」

「新之助だろお前……。なんだよ高橋さんって。妖怪GOってお前がよくやってる携帯ゲームだろ」

「知らんのかお前は。高橋さんは親友に裏切られ殺された結果、怨念を抱えたまま妖怪になった悲しきモンスターなんだよ」

「なんだその無駄に重い設定! つーかコスプレ提案者のお前は顔の見えないそれでいいのかよ」

「っはー! 修斗には分からんか! 俺がなぜ着ぐるみ型にしたのか!」

「分からん」

「目線がバレないことによって一方的に女子のコスプレ姿を凝視できるからだよ!」

「分かってたまるかそんなもん!」

 その欲望に忠実な無駄なアイディアをクラスメイトのために使おうとは思わんのかこいつは。
 思わないか、新之助だし。
 欲望に忠実でなくなったらそれはもう新之助ではないからな。

「佐川さぁ、その格好でどうやって仕事する気?」

 椚田に言われ、フリーズする新之助。
 おい、その格好でたたずんでるだけだと本当にただの置き物になっちゃうぞ。喋れ喋れ。

「物も何も運べないし」

「…………」

「料理も作れないじゃん」

「…………」

「アンタが提案したんだから少しは考えて───」

「椚田さん大丈夫! 私と新之助で看板持って校内回って宣伝してくるから! それならいいよね!?」

 着ぐるみの中が涙で溢れてるんじゃないかと思い始めた頃、警察官姿の八幡やはたが颯爽とフォローに来てくれた。
 サッカーなら日本代表レベルの良いフォローだ。

「まぁ……八幡が面倒見てくれるなら……」

「任せて! ほら、新之助行くわよ」

「うう……申し訳ない。愛してるぜ八幡ぁ」

「なななな、何言ってんのよ。そんな軽口が叩けるなら大丈夫じゃない」

 八幡に連れていかれる新之助の姿はまるで犯罪者のようだった。
 更生して戻ってこいよ。

「佐川君と冬華は外回りかぁ」

「梨音も来たか」

 梨音はチア姿だった。鉢巻を巻いて髪も後ろで留めている。
 スタイルもプロポーションも良いから本職のチアと言われても違和感が無い。
 さすがだな。

「どうこれ? チア部の友達に借りたんだ。似合う?」

 梨音がくるりと一回転をする。

「めちゃくちゃ似合ってる。お前本当レベル高いな」

「でしょー。自分でも結構似合ってると思うんだよね」

 周りの男子が明らかに梨音に注目しているのが分かる。
 身内の贔屓目に見てもやっぱ人気あるんだよなこいつ。

「俺は?」

「似合ってる。牧村さんかと思った」

「…………褒められてんの?」

「褒めてるよ~。本職の人と同じってことだからね」

 確かにそうか。
 牧村さんみたいにお年寄りって意味かと思っちゃったぜ。

「ねね、文化祭見て回るの今日と明日どっちにする?」

 梨音に言われて約束していたのを思い出す。
 仕事の割り振り的には1日目より2日目の方がお互いに暇があるし、2日目の方が無難か。

「明日にしよう。そっちの方が時間ありそうだ」

「分かった! じゃあ今日はクラスの仕事頑張ろうね!」

 そう言って梨音は手を振って他の班に混ざっていった。

 梨音が離れると急に後ろから首に腕を回された。
 見ると瀬古だった。
 俺の知らない何かのキャラのコスプレをしていた。

「良いよなぁ~若元。学年で見てもトップクラスに可愛いし、性格も明るい」

「狙ってんのか? 瀬古」

「お前がいなけりゃな! 高坂と幼馴染ってことがなけりゃあ狙ってる男子は多かっただろうよ。何で付き合ってないんだ? お前ら」

「何でって…………」

 例えば付き合ったとして、今と何が変わるんだ?
 既に一緒の家に住んでて飯を食って遊びに行って。やることといったらそんなに変わらないと思うんだ。
 それを言葉にして相手に伝えることが、お互いの想いを再認識するための儀式のようなものだと仮定するなら、わざわざそれを口に出す必要性はないと思うんだが。

「まぁお前のことを狙ってる女子もいるから俺がとやかく言うことはないが、言葉にして伝えなきゃ相手は不安になるもんなんだぜ」

「瀬古…………お前やっぱ遊び人だろ」

「違うわい! でも高坂よりかは経験多めかもな」

 そう言ってニヒルに笑って瀬古は離れた。

 瀬古に言われて改めて考えさせられた。
 俺にとって梨音がいることは生活の一部のように当たり前のことになっていた。
 だけど梨音にとってはどうなんだ?
 俺の知らないだけで、あいつには他に気になる人がいたりするんじゃないのか?
 今はいないにしても、将来的に気になる人ができてもおかしくない。
 その時俺は、なんて思うんだろう。
 正しく自分の立ち位置を理解することができるのだろうか。

「………………言葉にして伝える、か」

 大事な相手だからこそ、大事なことは直接伝えなければいけないのかもしれない。
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