死に戻り毒妃の、二度目の仮婚 【オメガバース】

飛鳥えん

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知りたい、知ってほしい

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「おいで、こっちだよ」
 まごついているシュメルヒを見かねてか、ヨアンが手首を掴んで引っ張る。部屋に入った時と同じように。シュメルヒは薄絹の手袋を付けているが、ヨアンは歩きかけて立ち止まると、手を持ち上げて指先から手袋を脱がせてしまった。
「今更だろ。寝てる時に邪魔じゃないか? ほら、そっちの手も外すからかして」
 自分でできる。子どもではないのだから。
 そう思うのに、ヨアンはシュメルヒの返事を待たずにもう片方の手も取り上げて、手袋を脱がせた。
「僕といる時は付けなくてもいいよ、どうせアンヌも気にしないし、それに……」
 ヨアンは少し間を置いて、視線を下げた。
「他の皆の前ではしてるのに、僕の前では外してるのって……なんか特別な感じがする」
「ヨアン様は変です」
 そんなの、特別どころか失礼で、怖いことだ。薄皮一枚の向こうに毒の血が流れている……「特別」だなんて……ヨアンはおかしい。
(前にヨアン様だって、怖いと仰っていたのに)
「決めつめるなよ。僕が何をどう感じるかは僕の自由なんだから」
「では、私がヨアン様を変だと感じるのも自由ということになります」
 ヨアンはムッと顔を顰めて、「……確かに」と頷いた。
(勝った……!)
 思いがけず小さな勝利を感じてしまった。何しろヨアンには言い負かされてばかりなので、ちょっとだけ嬉しい。
「……嬉しそうな顔」
 ハッとして頬に手をやると、確かに緩んでいる。
「申しわけ、」
「謝るなって。今のは妃の機転が利いたんだから、僕の負けでいいよ。母上が、妃は弁が立つって褒めてたぞ? あの人が褒めるくらいだから、こういうのはオスロに来る前からよくあったんじゃないのか? ……それとも、僕が怒ると思ってる?」
「そんな、違います。こういうことは……ありませんでした」
「無かった? へぇ、イレニアの人間はそんなに切れ者ぞろいなのか」
「いえ。あ、いえ……?」
「どっちだよ」
「分からないのです……でも、もっと彼らといろんな話をすればよかったと思います。いつも考えを代弁してもらってばかりだったので、それに甘えてしまって」
 一番会話を重ねたはずのジュールとも、『お互いの意見や考えを言い合う』ことはしなかった。いや、してきたつもりになっていたが、ヨアンとの会話を経て、それがシュメルヒの一方的な勘違いであることに気付かされた。
「代弁って……」
 ヨアンは何か引っかかったように、ぎゅっと眉間にしわを刻んだ。
「いつもって言うけど、妃が考えてることは妃にしか分からないんだから、いつも代弁されてたなら、それはおかしいんじゃないのか」
「おかしい、ですか?」
「妃はそう思わなかったのか?」
 思わなかった。しかしシュメルヒの揺れる表情を見るヨアンの顔は相変わらず険しい。自分が何か間違いをしてしまった気がしてくる。

「……勝手に気持ちを決めつけられてると感じることは、僕にもある。でもそういう時は、ちゃんと違うって言わないと駄目だって、キリアスに言われた。相手が誤解したままだと、その時は良くても、あとで思ってもみない食い違いが起きて取り返しがつかなくなるからって。……だから」
 ヨアンは顔を上げ、真剣な面持ちで、シュメルヒの目をまっすぐ捉えた。
「だから妃も、僕が妃のことを誤解したり、分かったような気になってたら『違う』って言わなくちゃ駄目だ。僕は妃を知りたいし、勘違いして、僕だけの思い込みの妃を作りたくない」
 ヨアンは言い終えた後、まるでちゃんと伝わったかどうか確かめるように、息を呑んでいるシュメルヒの顔を見た。
「僕のこれは『提案』だから、妃がどう思ったかも教えてほしい」
「私、私は……」
「うん」
「うまく、言えませんが」
「いいよ。妃の言葉で聞きたいんだ」
 すとんと、肩に篭っていた力が抜けた。
(そうか……上手くなくてもいいのか。ヨアン様が欲しているのは場に即した答えではなく、私の本心からの言葉……)
「ヨアン様を、もっと知りたいです。私のことも、知って欲しい、です」
「うん」
 ヨアンが目を細める。嬉しそうに。いや、きっと嬉しいのだ。シュメルヒの言葉が、ヨアンをそうさせた——。
「……ヨアン様の役に立って、いろんなお話をして、もっとヨアン様と一緒に過ごして」
「うん、過ごそう」
「ヨアン様に、」
「うん、僕に?」
「……」
(今、私は何を言おうとした?)
 頬に昇っていた血が、サァ、と下降していく。ヨアンはそわそわした様子で、踵を床から浮かしたりつけたりしながら、シュメルヒの答えを待っていた。
「僕に? 僕にどうしてほしい?」
「……これまでと変わらず、接していただけたらこれ以上ないほど嬉しいです」
 ヨアンはきょとんと目を瞠り、「ああ、うん……そうか」と、心なし気落ちしたように頷いた。
「本当に嬉しいです」
 もう一度告げると、ヨアンは顔を上げて、大人びた苦笑を浮かべた。
「うん、それは本当だって思う……本当で合ってる?」
「本当です。勘違いではないです」
 ヨアンはくすりと笑い、シュメルヒも釣られ笑いをした。二人で、目を見交わす。
「話してたらすっかり遅くなった。明日は審理の結果が出るんだ。もう寝よう」
 はい、と頷き、ヨアンの手を取った。緊張は解けていた。
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