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第一章 中盤
第69話:女神の使徒
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公爵家当主の名は『サイン・フォン・デリアベル』。
王弟だと聞いている。
式典の打ち合わせの時、かなり強い反対を受けているので気を付けるようにとは言われていたのだが、この妨害のされ方は予想していなかった。
これはもう気を付けようがないのではないだろうか……。
「お主らのようなぽっと出の若者ばかりのパーティーが、魔族の軍勢を退けたと聞いてもとてもじゃないが信じられん!」
若者ばかりではなく一二〇〇歳のハイエルフに恒久の時を生きるドラゴンがいるパーティーだし、魔族の軍勢は退けたのではなく全滅させたのだが、そこを突っ込むともっとややこしくなりそうなので置いておこう。
歩みを止めてどうしたものかと悩んでいると、リルラが小声で話しかけてきた。
「コウガ様? 私がサクッと倒しちゃいましょうか?」
「ダメだよ!? ジルみたいなこと言わないように!」
最近ジルにばかり注意を払っていたが、リルラもまだまだ要注意だな。
何か悪い顔になっているし……まぁそれがまた可愛いらしいんだけど。
でも、この状況でオレたちに何かできるだろうか?
隠蔽しているジルに出てきてもらって、空に向かってブレスでも吐いてもらうか?
ダメだ……危険人物として拘束される未来しか見えない。
どうするべきかと悩んでいると、王族の席から助け船が出された。
「叔父様! その者たちの実力は私が保証いたします!」
「ゼシカよ。どうして君にそのようなことがわかるのだ? そもそもゼシカは初めて会うのではないのか?」
しかし、学院に通っていることを公表するわけにはいかないゼシカさんは、それ以上何も言えなくなってしまう。
「そ、それは……」
「それなら黙っていて貰おう」
あっさり沈み行く助け船……。
しかし、そこで今度は別の声が掛けられた。
「サインよ……どうしてそこまで反対するのだ?」
それはトリアデン王国国王『アレン・フォン・トリアデン』様だった。
ざわめく会場の中、オレたちの前で対峙する国王と公爵。
「どうしてもこうしても無い! 『月下の騎士』とはそもそも勇者様に授けるために設けられた称号だぞ! どこの馬の骨ともわからぬ奴らに与えていいような称号ではない!」
なんでもデリアベル公爵は、子供の頃から『勇者召喚の儀』をこの国でも行うべきだとずっと唱え続けているような人物だそうだ。
この世界では極端に勇者に傾向する者たちのことを勇者信仰者と称したりするのだが、デリアベル公爵はまさに勇者召喚に憑りつかれたようなお人で勇者信仰の信者だった。
つまり召喚された勇者を称えるための『月下の騎士』の称号なのだから、もし本当に街を危機から救ったのだとしても、オレたちのような誰とも知らない者たちに与えるのは我慢ならないといった心境だろうか。
まぁそもそも街を救ったこと自体も信じてなさそうではあるが。
「礼を尽くさねばならぬ者たちに無礼だぞ! そもそもいくら弟であるお前でも、国王の権限である称号授与に異を唱えるとは何ごとか!! 場をわきまえて下がるが良い!」
そして国王様も弟の勇者信仰にはうんざりしているそうで、大事にこそなっていないが日頃からよく対立していたらしい。
「ぐぬぬ。しかし待て兄上! 聖エリス神国で勇者召喚の神託がおりたと聞いても、その考えは変わらぬか!」
そのデリアベル公爵の言葉に会場が騒然となる。
「な、なんと!? 勇者召喚の神託だとはまことか!?」
「ということはまさか……ま、魔王が!?」
「ま、魔王軍が本格的に侵攻してくるということか!? 世界はまた混沌に包まれるぞ!?」
この世界で勇者召喚の神託が下るのは、魔王による人族への侵攻が迫っている時と言われている。
そしてその神託を授かるのは聖エリス神国の役割であり、この国でその聖エリス神国と深いつながりを持つのもまたデリアベル公爵だった。
つまり信憑性が高そうだ。
と言っても、すでに本格的な侵攻はとっくに始まっていると思うのだが、オレたちの功績を話半分で聞いて信じていないものがほとんどだったのかもしれない。
「サインよ。それは本当なのだろうな?」
「もちろんだ。このようなこと嘘をついたりはせぬ。先日、懇意にしている聖エリス神国の者から魔法郵便で知らせが届いたのだ」
それを聞いてまたもや会場が騒然となるが、国王様が手を挙げて静かにさせる。
ところで……オレたち一旦退場してはダメなんだろうか?
称号はそもそもオレたちが望んだものではないし一旦白紙に戻していいから、話が纏まってからあらためてってことで……。
でも、勝手に出ていくわけにもいかない。
「それでその内容はどういったものだったのだ?」
「うむ。『勇者召喚の儀』は残念ながら今まで通り聖エリス神国で行われるそうだ。ただし! 今回の神託には続きがあるのだ!」
そこまで話すとたっぷりと間を取り、握りこぶしを作って右手を天に掲げるように振り上げるデリアベル公爵。
「勇者とは別に、我が国に『女神の使徒』が現れるそうなのだ!! だから、その者を召し抱えるためにも『月下の騎士』の称号はとっておくべきなのだ!」
その言葉に今度は歓声が巻き起こる。
いや、たしかにそんな奴が現れるのなら、式典をぶち壊すような暴挙にでるのも多少は理解できる。まぁそれでも、それなら普通に話し合って中止にしろよと思うけど……。
「なに!? それは真か!? しかし、どうやってそのものを見つけるのだ? 神託で何か示されておらぬのか?」
「あぁ! その者の左手の甲には竜の紋章が刻まれているそうだ!」
あれ? なんだかすごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
咄嗟に左手をポケットに突っ込んだのは言うまでもなかった……。
************************************
ここまでお読み頂きありがとうございます!
ひとまず『第一章 中盤』はここまでとなります。
もちろん物語はまだまだ続きます!
槍使いのドラゴンテイマーは丸々一章通して楽しい作品になるように
お話を創っていますので、ぜひ最後までお楽しみください♪
この後は閑話的なお話を挟んで『第一章 後半』を開始いたしますので、
そちらもお楽しみに。
************************************
王弟だと聞いている。
式典の打ち合わせの時、かなり強い反対を受けているので気を付けるようにとは言われていたのだが、この妨害のされ方は予想していなかった。
これはもう気を付けようがないのではないだろうか……。
「お主らのようなぽっと出の若者ばかりのパーティーが、魔族の軍勢を退けたと聞いてもとてもじゃないが信じられん!」
若者ばかりではなく一二〇〇歳のハイエルフに恒久の時を生きるドラゴンがいるパーティーだし、魔族の軍勢は退けたのではなく全滅させたのだが、そこを突っ込むともっとややこしくなりそうなので置いておこう。
歩みを止めてどうしたものかと悩んでいると、リルラが小声で話しかけてきた。
「コウガ様? 私がサクッと倒しちゃいましょうか?」
「ダメだよ!? ジルみたいなこと言わないように!」
最近ジルにばかり注意を払っていたが、リルラもまだまだ要注意だな。
何か悪い顔になっているし……まぁそれがまた可愛いらしいんだけど。
でも、この状況でオレたちに何かできるだろうか?
隠蔽しているジルに出てきてもらって、空に向かってブレスでも吐いてもらうか?
ダメだ……危険人物として拘束される未来しか見えない。
どうするべきかと悩んでいると、王族の席から助け船が出された。
「叔父様! その者たちの実力は私が保証いたします!」
「ゼシカよ。どうして君にそのようなことがわかるのだ? そもそもゼシカは初めて会うのではないのか?」
しかし、学院に通っていることを公表するわけにはいかないゼシカさんは、それ以上何も言えなくなってしまう。
「そ、それは……」
「それなら黙っていて貰おう」
あっさり沈み行く助け船……。
しかし、そこで今度は別の声が掛けられた。
「サインよ……どうしてそこまで反対するのだ?」
それはトリアデン王国国王『アレン・フォン・トリアデン』様だった。
ざわめく会場の中、オレたちの前で対峙する国王と公爵。
「どうしてもこうしても無い! 『月下の騎士』とはそもそも勇者様に授けるために設けられた称号だぞ! どこの馬の骨ともわからぬ奴らに与えていいような称号ではない!」
なんでもデリアベル公爵は、子供の頃から『勇者召喚の儀』をこの国でも行うべきだとずっと唱え続けているような人物だそうだ。
この世界では極端に勇者に傾向する者たちのことを勇者信仰者と称したりするのだが、デリアベル公爵はまさに勇者召喚に憑りつかれたようなお人で勇者信仰の信者だった。
つまり召喚された勇者を称えるための『月下の騎士』の称号なのだから、もし本当に街を危機から救ったのだとしても、オレたちのような誰とも知らない者たちに与えるのは我慢ならないといった心境だろうか。
まぁそもそも街を救ったこと自体も信じてなさそうではあるが。
「礼を尽くさねばならぬ者たちに無礼だぞ! そもそもいくら弟であるお前でも、国王の権限である称号授与に異を唱えるとは何ごとか!! 場をわきまえて下がるが良い!」
そして国王様も弟の勇者信仰にはうんざりしているそうで、大事にこそなっていないが日頃からよく対立していたらしい。
「ぐぬぬ。しかし待て兄上! 聖エリス神国で勇者召喚の神託がおりたと聞いても、その考えは変わらぬか!」
そのデリアベル公爵の言葉に会場が騒然となる。
「な、なんと!? 勇者召喚の神託だとはまことか!?」
「ということはまさか……ま、魔王が!?」
「ま、魔王軍が本格的に侵攻してくるということか!? 世界はまた混沌に包まれるぞ!?」
この世界で勇者召喚の神託が下るのは、魔王による人族への侵攻が迫っている時と言われている。
そしてその神託を授かるのは聖エリス神国の役割であり、この国でその聖エリス神国と深いつながりを持つのもまたデリアベル公爵だった。
つまり信憑性が高そうだ。
と言っても、すでに本格的な侵攻はとっくに始まっていると思うのだが、オレたちの功績を話半分で聞いて信じていないものがほとんどだったのかもしれない。
「サインよ。それは本当なのだろうな?」
「もちろんだ。このようなこと嘘をついたりはせぬ。先日、懇意にしている聖エリス神国の者から魔法郵便で知らせが届いたのだ」
それを聞いてまたもや会場が騒然となるが、国王様が手を挙げて静かにさせる。
ところで……オレたち一旦退場してはダメなんだろうか?
称号はそもそもオレたちが望んだものではないし一旦白紙に戻していいから、話が纏まってからあらためてってことで……。
でも、勝手に出ていくわけにもいかない。
「それでその内容はどういったものだったのだ?」
「うむ。『勇者召喚の儀』は残念ながら今まで通り聖エリス神国で行われるそうだ。ただし! 今回の神託には続きがあるのだ!」
そこまで話すとたっぷりと間を取り、握りこぶしを作って右手を天に掲げるように振り上げるデリアベル公爵。
「勇者とは別に、我が国に『女神の使徒』が現れるそうなのだ!! だから、その者を召し抱えるためにも『月下の騎士』の称号はとっておくべきなのだ!」
その言葉に今度は歓声が巻き起こる。
いや、たしかにそんな奴が現れるのなら、式典をぶち壊すような暴挙にでるのも多少は理解できる。まぁそれでも、それなら普通に話し合って中止にしろよと思うけど……。
「なに!? それは真か!? しかし、どうやってそのものを見つけるのだ? 神託で何か示されておらぬのか?」
「あぁ! その者の左手の甲には竜の紋章が刻まれているそうだ!」
あれ? なんだかすごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
咄嗟に左手をポケットに突っ込んだのは言うまでもなかった……。
************************************
ここまでお読み頂きありがとうございます!
ひとまず『第一章 中盤』はここまでとなります。
もちろん物語はまだまだ続きます!
槍使いのドラゴンテイマーは丸々一章通して楽しい作品になるように
お話を創っていますので、ぜひ最後までお楽しみください♪
この後は閑話的なお話を挟んで『第一章 後半』を開始いたしますので、
そちらもお楽しみに。
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