『隣の県議様』 三十一歳、バツイチ子持ち女の日照争奪戦!

てめえ

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第9話 理事会の意向 ②

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「実は……」
ようやく私は、本題を切り出す気になった。

 騒音も、埃も、ビル風も……。
 どれも心配だとは思うけど、日照だって同じくらい心配しても良いと思うから。

「どうぞ、仰って下さい」
「それが……。マンションの業者さんがウチに来て、日照が減ると言われたのです」
「日照ですか。ああ、滝川さんのお宅は一階だからねえ」
「ええ……。もちろん、私もマンションに住んでいるのですから、少々のことなら我慢もしますし、何が何でもしょっちゅう日が射していないと嫌なんてことも言いません」
「うん、それで?」
「ですが、冬至だと、一日の内二時間しか日照がないと言われたのです。しかも、それが法律で許されているのだとか」
「……、……」
「長谷川さんに相談してどうにかなるものではないのかもしれませんが、マンション内で起った問題なので、理事会としてどう対応していただけるか聞きに参ったのです」
「理事会として……、ですか?」
「はい……」
長谷川氏は、少し困ったような表情になった。
 何か、私は変なことを言っただろうか?

「滝川さん……」
「……、……」
「気を悪くしないで聞いて欲しいのですが、申し訳ないけど、その件については理事会としては対応しかねるのですよ」
「えっ? どうしてですか」
「先ほども言いましたように、理事会というのはマンション全体の利益を考えるものなんです」
「……、……」
「滝川さんの日照の件は、確かにお困りではあるのでしょうが、それは個々のお宅の問題でマンション全体の問題とは言えないのです」
「……、……」
「私には詳しいことは分かりませんが、恐らく、日照に不満をお持ちの方は一階の方々だけなのではないでしょうか?」
「……、……」
「と言うことは、それはつまり個々の案件と言うことで、理事会では扱えないのですよ」
「……、……」
そ、それって……。

 私は思いがけない言葉に、驚きのあまり何も言えなくなってしまった。

 しかし、長谷川氏の言っていることは、何だかおかしい気がするのだ。
 だって、マンションと言うのは住民全体の共有財産なのではないだろうか?
 確か、マンションの土地だって何分の一の権利と言う定めはあっても、特定の箇所が持ち分として示されているわけではない。
 だとしたら、一部に掛かる影が問題になれば、全体の問題になるのではないだろうか?

「すいませんね、お力になれなくて……」
「……、……」
「ですが、これは理事会としては仕方がない判断だと思いますよ」
「あの……、……」
私の心に、沸々と怒りが湧いてきた。

 長谷川氏の言うことは分からないではない。
 しかし、スマホやテレビの電波はとりあえず聞いてもらえるのに、もっと大事な日照はダメって絶対変だ。
 正直、長谷川氏のお宅が五階だから日照の心配がないので、面倒事には関わり合いたくないようにしか思えない。

 だけど、気持ちは文句の一つも言いたいのに、具体的に何を言って良いのか分からない。
 長谷川氏が悪意で言っている訳ではないのも、一応理解しているから……。




「あの……。素人考えですけど、聞いてもらっていいですか?」
「ええ……、仰って下さい」
「私、一階に住んでいるので、エレベーターって一回も使ったことがないのです。今も非常階段を使って来ました」
「……、……」
「ですが、共益費はちゃんと払っています。共益費にはエレベーターを使用したり維持したりする費用が含まれていますよね? それって一階だからと言って減額はされていないと思うのですが?」
「……、……」
「私が他のお宅と同じように共益費を払わなくてはならないのは、このマンションが住民の共有物であるからではないのでしょうか? だとしたら、一部にかかった影もこのマンションのこととして捉えてもらうことは出来ないのでしょうか?」
「うーん、そう言われてもねえ……」
「何か、私は変なことを申しましたでしょうか?」
「……、……」
精一杯無い知恵を振り絞って、私は思いついたことを言ってみた。

 だが、何となく、私の理屈は通らないような気がしている。
 何処がダメなのかは分からないが、我ながら屁理屈のような気もするし……。




「うん、仰ることは分かりました。ただ、私は専門家ではないので、何とも言えないです」
「……、……」
「それと、業者の方は法律で認められていると言っているんですよね? その日照で」
「え、ええ……」
「だとしたら、理事会で扱っても結論は同じなのではないでしょうか? いや、逃げ口上で言っているのではないですよ。だけど、法律で認められていることを覆すような力は理事会にはありませんので……」
「……、……」
そうか。
 そう言うことか。

 私が通らないと思った理由はそこにあったのか。

 長谷川氏の言っていることは、多分正しい。
 理事会と言えども、法律に逆らうわけにはいかないのだ。
 改めて言われてみれば当然のことだが、私は今指摘されるまでそのことに気が付かなかった。




「そうですか……」
私は、力なくそう言うしかなかった。
 これは、長谷川氏が悪いわけではないから。

 だけど、これで私は頼るべき存在を失った。
 理事会に言ってすべて解決するとは思っていなかったが、これほど綺麗に拒否されるとは思ってもいなかった。




 裕太ママ晴美の一言メモ
「法律……。ウチの日照を減らす一番の原因に、ようやく気がついたわ!」
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