要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

死の宣告

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「あ! ヤニャ様! おはようごにゃいます!」

「あぁ、おはようリアンちゃん。今日も元気だなぁ。癒されるわぁ」

「えへへ」

 リアンちゃんの頭を撫で、癒されながら食堂へ向かった。

「よう、『漆黒ジェット』。おはようさん」
「『漆黒ジェット』、昨日は面白かったぜ」

 既に食堂にいた冒険者達に『漆黒ジェット』として、声をかけられた。昨日ちょっと・・・・悪ノリした結果が、これだ。黒歴史量産中である。漆黒だけに……

 軽く自分に凹んでいると、女将さんに背中をバンっと叩かれた。

「なんだい、朝から背中を丸めて。シャキッとしないかい! ほら、旨い朝飯食べて元気だしな!」

 クックルさんの出す食事に、負けず劣らずの量を朝から出されて驚いていると、「昨日のお礼だとさ」と女将さんが旦那さんを指差した。

 旦那さんに目を向けると耳まで赤くしていたが、いい歳のおっさんの照れ姿など誰得だ。

「ありがとう。ありがたく頂くよ」

 朝からボリューミーだが、クックルさんで慣れているのでペロリと平らげる。

「ヤニャ様は、今日はどうにゃさるんですか?」

「ん? 今日は昨日のCランク試験の続きで、指定された魔物の討伐準備かな」

「頑張ってくにゃさいね!」

 リアンちゃんは、満面の輝く笑みで俺を応援してくれた。

「誰かさんと違い、なんて屈託のない笑顔……最近嗤い顔ばかり見てたから、癒されすぎて涙が……ありがとう! 頑張るぜ!」

 その時だった。俺の死神の危険/気配慟哭自動感知がいきなり背後に警鐘を鳴らす。リアンちゃんを背に守り、勢いよく振り向くとそこには嗤う女がいた。

「誰かって……だぁあぁれぇ?」

「ぎゃぁあああああ!」

「悲鳴上げるほど喜んじゃって……エディス嬉しいぃ……ふふふ」

「ヤニャ様? 誰か来てるのかにゃ?」

「リアンちゃんは見ちゃ駄目だ! あんな嗤い方なんか、純真な君が覚えちゃいけなぶふぅ!」

「はいはい、さっさとギルド行きますよぉ~」

 エディスさんにチョークをホールドされて、引きづられて宿屋を出て行く。心の中のBGMは、勿論子牛が売られて行くアレである。



「で、何すればいいんだ?」

 エディスさんに迎えに連行来てもらった後に、ギルドの受付でCランクの魔物討伐試験について質問していた。

「ここから半日ほど馬車で揺られた先にあるケシン渓谷で、ロックベア討伐とロックンドルの卵の採取ですね」

「そこに一人で行って、その討伐採取クエストをクリアすればいいのか?」

「今回は試験ですので、試験官が一人同伴してクエストの評価を行います。また万が一の際は、救助もその試験官が行います」

「因みに、試験官はどちら様?」

「ふふふ、あ   た   し   よ」

本気マジ?」

本気マジ

 何故だろう? 死神の危険/気配慟哭自動感知は反応していないのに、背中がゾクゾクするのは。色んな意味で恐ろしいCランク魔物討伐試験が始まった。

「取り敢えず、そのケシン渓谷まで行かないといけない訳だな。道が分からないから、馬車しかないかなぁ。走った方が鍛錬になるし、早くていいんだけどな」

「私はあくまで評価者なので、いない者と思ってくださいね。ですから方法は、ヤナ君の方法で結構ですよ」

「分かった。なら準備が出来たら、エディスさんに声をかけて日程調整でいいかな?」

「はい。それで構いませんよ。私の予定は、どうとでもなりますから」

 その後、エディスさんにまずこの辺一帯の地図はないか聞いてみると、買ったり写しも取らして貰えないが、見せて貰える事は出来るという事で早速見せてもらうと、大きい街道と周辺地形がかなり大雑把・・・に描かれた地図を見せられた。詳しい地図は王宮にしかないらしい。今は他国との戦争は無いが、やはり地図というのは防衛上非常に大事らしい。

「これを見るとケシン渓谷ってのは、この城下町から少し北の大きな道沿いに走っていけば良さそうだな」

「そうですね。大きな渓谷ですから近づけば、すぐ分かりますよ」

「あとは一応、野営の準備くらいはしていこうかな」

「私と夜を共に……過ごすと? ふふふ」

「……いえ、全力で日帰りしてみせます……」

 そそくさとギルドを後にして、初日に女将さんに聞いて下見していた道具屋、薬屋を巡り野営の準備や回復薬ポーション類を買い込んだ。食料はオーク肉は未だ潤沢に収納魔法マジックバックの中にあるが、こちらの世界の調味料やら野菜類、他の食材も買い込んだ。収納魔法マジックバックの中では時間が止まっているので、鮮度を気にする必要が無いので、気になった食材はどんどん買っていった。金もまだまだ気にする必要がなかったのも有難かった。

 取り敢えず今日は、準備の日と割り切って慌てず着々と準備をすすめることにした。。ちょっとした用事・・を済ませに、街の外に出て近くの荒野まで走って行った。用事を済ませて街に戻り、昼飯を屋台で済ませてから防具屋へ出掛けた。

 防具屋の扉をくぐり店内に入る。中には誰にも居なかったため、カウンターから奥の方に声をかけた。

「ごめーんくださーい! 誰かいませーんかー!」

「うるさいわい! 聞こえとるわ!」

 部屋の奥から、もう見たまんま頑固でしょ? って感じのおっさんが出てきた。前回の下見の時には若いお姉さんだったんだけどなと、やや寂しがっているとおっさんが大声で話し始めた。

「お前! なんか用があったんじゃないのか!」

「聞こえとるわ! あんたがうるさい!」

「ん? そうか! で? 何の用だ。ただ買いたいだけなら、その辺の奴勝手にみとけ」

「適当だなオイ……いや、防具作成の依頼だな。コレなんだが、どんなの出来そうだ?」

 俺は瘴気纏いオーガ二体分の素材を手渡した。しかもちゃんと神火・・魔法で清めてある。流石に街中で腕輪や指輪を外せない(まだ力の制御が難しい)ので、誰もいない荒野まで行ってきたのだ。

「ほほう、この黒さは瘴気纏いオーガか。中々お目にかかれんな。骨、牙、皮、爪、角か……驚いたな、丸々二体分もあるじゃねぇか……これどうしたんだ? まさか見るからに初心者装備のお前さんが、コレを狩ったわけじゃあるまい? 貴族の息子にも見えんが」

「その見たまんま初心者の俺が、狩ったんだよ」

「はぁ!? お前さんが狩った!? 瘴気纏いオーガだぞ! しかも全ての素材が、通常のオーガの瘴気纏いより規格外の大きさだぞ……素材から見るにオーガキングに並ぶが……だがオーガキングの瘴気纏いなぞ、この辺に出るはずないんだが……」

「で、防具に出来そうなのか? 一応『冒険者の宿』の女将さんに、ここが腕が良いと聞いてきたが、無理そうなら他を当たるんだが?」

 ニヤニヤと、防具屋のオヤジを見ながらそう言った。俺がそう言うと、防具屋のオヤジは顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。

「馬鹿野郎! この城下町で、俺より腕のある職人なんざいねぇ!」

「そうか、なら素材は全部渡しておく。金はいくら出せばいい?」

「ふん! それでいいんだ! 俺にやらせろ! っと、金か。そうだなぁ、素材は持込だし特に追加の素材も使わんから……金貨十枚ってとこか」

「金貨十枚か……加工賃にしては、えらく高くないか?」

「まぁ、普通のオーガの素材で作るなら金貨一枚か二枚ってとこだがな。こいつは普通のオーガと違って瘴気纏いだ。更に、オーガキングときたもんだ。只でさえ瘴気纏いだった奴は加工が難しくてな、こいつを請け負うと他の仕事が全くできんようになる……ん? なんだこいつは? 瘴気纏いだった癖に、やけに神聖な気配がするぞ? この黒さは瘴気纏いの証だが、こりゃ一体……」

「ん? あぁ、ちょこちょこっと消毒してな」

「瘴気纏いだった素材を消毒ってお前なぁ……だがこれなら、もう少し加工は楽そうだな。金貨八枚にまけといてやる」

「ありがとよ。角は使うのか? 使わんのなら、武器屋でナイフぐらいに加工出来るか聞きたいんだが」

「それならワシがナイフも作ってやる。俺は鍛冶職人だからな、どちらも大丈夫だ。それにこの街の武器屋は武器を北から仕入れて売っているだけだからな」

「そうなのか。なんで武器はここで造って売ってないんだ?」

「その仕入れる武器ってのが、安いんだ。この城下町にいる冒険者は、駆け出しが多いからな。一点物の武器ってのは、高くつくからな売れんのだ」

「なら防具は違うのか?」

「防具は、使える素材がこの辺でも集めやすいからな。結構持ち込みで作るやつが、多いのさ。武器は中々持ち込みって言うわけには行かんからな。今回はオーガの角があるが、大剣や片手剣なんかは鉱石がいる。その為に、如何しても注文で作るのは高くつくのさ。まぁ、それでも上級冒険者は大抵注文だがな」

 結局、瘴気纏いオーガ神火消毒済み素材で防具を注文し、角を素材にナイフも二本注文しておいた。どちらも一週間はかかるということらしく、どんなのになるか楽しみである。刀もそのうち、自分専用を打って貰いたいと、男の夢をしっかり抱きつつ店を後にした。



 なんだかんだと準備をしていたら日も暮れてきたので、宿屋に戻り食事を済ませ部屋に入った。

「明日は、魔物討伐訓練以来の魔物討伐だな。たしかロックベアは岩のように硬い毛並みが特徴の熊みたいな奴で、ロックンドルは馬鹿でかい怪鳥だったよな……羽毛は高級品と……ふあぁ……卵は確か岩肌の高い所だった……な……どうしようか……な……」

 ヤナが、明日の魔物討伐試験の事を考えながら寝た頃、ギルドではエディスとガストフ支部長が、二人で支部長室で同じく明日の話をしていた。

「ヤナは、明日にでもケシン渓谷に向かうのか?」

「あぁ、そう聞いてるな。朝から行って日帰りで帰ってくる腹らしいぞ。くっくっく」

「はぁ? ケイシ渓谷まで行くのに、馬車で半日だぞ? ロックベアもロックンドルも図体は馬鹿でかい癖に、擬態と気配を消すのが上手い魔物なんだが、ヤナは魔物の知識はあまりないのか?」

「いや、その事もよく知っていたな」

 ヤナは夕方宿屋に戻る前にエディスに明日朝に出発する旨を伝えた際に、日帰りの予定だと伝えていた。その際、さりげなくエディスは指定魔物の特徴を聞いてみた。ヤナはクックルとの座学と書物からの知識で擬態も気配を消すことが特徴の魔物だと把握していた。

「通常Cランク受けるくらいの奴なら、一週間ぐらいに張り込んでやっと見つけるだけで精一杯だろうがな。戦闘力は申し分ないから、少し意地悪したんだが」

「意地悪ってレベルじゃねぇだろ、ったく戦闘試験だって、『五蓮ゴレンジャ』を一人で倒すたぁ、Aランクだぞ。Aでも、もう少し苦しい戦いになるが、ありゃある意味彼奴らを鍛錬稽古してやがったぞ? ロックベアもロックンドルにしたって、見つけるだけでBランク相当、単独討伐となるとAランクだぞ」

 エディスはガストフ支部長を睨みつけながら、更なる説明を求めた。

「今ここの支部にAランクがいないのは、エディスも知っているだろう」

「あぁ、あたいが引退して職員になったからな」

「そうだ。お前は前線に立てないだろう。特に魔族が現れる危険がある前線はな」

「……そうだ、皆に迷惑がかかる」

 エディスは自分の胸元を手で押さえながら、苦しそうに答えた。

「その事はいい。お前は先ずは自分の身を守れ。でだ、俺の持つスキルは知ってるな?」

「『死の宣告死亡予知』……か。見えるのか?」

「あぁ、俺の目に入るこの街に住んでいる者に全て、死の宣告が出ている。こんな事は始めてだ」

 エディスはそれを聞いて、驚愕の表情をしていた。

「全員だと! 何が起きるってんだ! この周辺の迷宮ダンジョンは全て管理出来ているはずだぞ! 溢れるなんて事は無いはずだ!」

「落ち着け! 感情を昂らせるな」

「悪い……で、何が起きるんだ? そして、それはいつだ?」

「それが分からんのだ。只、一つ言えるのは、ヤナと一緒にいる人間からは死の宣告が薄くしか見えないという事だ。それでも、薄くは見えるがな」

「はぁ!? なんだそりゃ……もしかして、だからあたいをヤナの試験官にしたのか?」

「それだけじゃないがな。ヤナの実力を、きちっと把握したいという事もある。結果だけ見れば、オーガキングの瘴気纏いを単騎で打ち倒すなんてのは、Sランクにも匹敵するからな」

「チッ! わかったよ。そういう事にしといてやるよ」

「まぁ、仲良くやるんだな」

「はぁ……あたいと仲良くとか、色々無理だろ。分かってて言いやがって」

 エディスは、悪態をつきながら支部長室を出ていった。ガストフ支部長はエディスを見送った後、部屋の窓から外を見ていた。

「そうとは限らんさ。あいつヤナには何かがある。それだけは分かる」

 ガストフ支部長の呟きが、静かに部屋に響いたのだった。
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