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第三章 冒険者
奴隷と貴族と冒険者
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俺はどっかの性悪メイド宜しく『五蓮の蛇』を、高笑いしながらズタボロにし、全員を白目を引ん剝かせた所で、支部長からストップがかかった。
支部長からは昇級戦闘試験は合格だと伝えられたが、同時に肩を叩かれながら呟かれた。
「暫くパーティでの討伐は諦めろ……」
観客の方を見ると、一斉に全員から目を逸らされた。
「ノォオオオオオオ!?」
きっちりかっちり、見に来ていた冒険者の『関わっちゃいけないブラックリスト』に載ったらしい。エディスさんは、満面の嗤い顔だったが。
受付カウンターで大金のはずの金貨五十枚を受け取ったというのに、誰にも絡まれる事なく宿屋に帰ってこれてしまった。誰からも避けられるって、寂しい。
「あ! ヤニャ様、おかえりにゃさい!」
「癒さぁれぇるぅううう……ただいま、リアンちゃん。夕飯食える?」
「はい! 食堂に行っててくにゃさい!」
そのまま食堂に向かうと、中には十数人の冒険者達が食事や酒を飲んでいる。『冒険者の宿』というだけあって、冒険者だらけだった。俺も空いている席に付き、食事を待っていた。数分後、リアンちゃんがお盆に食事を乗せてやってきた。
「お待ちどう様にゃ。冷めにゃいうちに、食べてにゃ!」
「あぁ、ありがとう。早速食べるよ」
食事はこっちの家庭料理といったところなんだろうか、クックルさんが作る料理とは違ったが、これはこれで十分に旨かった。食べていると、後からぞろぞろと冒険者達が宿に帰ってきているらしく、食堂が大分賑やかしくなってきた。
俺がお代わりを貰えないかとリアンちゃんを探していた時、突然ガシャンと何やら食器が落ちる音とリアンちゃんの小さい悲鳴が聞こえた。その聞こえた方を見ると、煌びやかな鎧に身を包んだ青年がリアンちゃんを見下ろしていた。
「邪魔だ! 奴隷のしかも獣臭い獣人が、俺の視界に入るんじゃない!」
「すみませんにゃ!」
どうやらあのクソ野郎が、リアンちゃんをいじめているらしい事はわかった。
「おい、あいつサーレイス大臣の甥っ子だよな?」
「あぁ、実家の伯爵家では三男だからな、最近冒険者になったらしい」
「取り巻きも一緒にかよ、面倒くさそうだな」
どうやら野次馬の話に耳を傾けると、あいつはサーレイス大臣の甥っ子で伯爵の三男で、今は冒険者らしい。騒ぎを聞きつけた女将さんと旦那さんが出てきて、必死に謝っていた。
「すみません! 次から気をつけますんで、勘弁してくだせぇ!」
「この子も奥にやりますら、堪忍してください!」
「ごめんにゃさい……」
「知るか! 今日は坊ちゃんは機嫌が悪いでゲス!」
「今日登録した新人が、サクッと坊ちゃんより上のCランクになるって聞いてゴス!」
取り巻きが誰かのせいで、貴族の坊ちゃんの虫の居所が悪いと叫んでいた。
「だからな、腹いせにその奴隷を俺に寄越せ。そしたら、許してやるし、寧ろ可愛がってやるぞ?」
しかも、変態クソ野郎だった。
「リアンはまだ子供ですし、私達の大事な子です! 勘弁してくだせぇ!」
「ハッハッハ、奴隷でしかも獣人を自分たちの子供だと? 穢らわしい! そうだ、お前達を奴隷の目の前で殺してから、こいつを貰っていくか!」
「坊ちゃん、いい考えでゲス!」
「やっちゃえばいいゴス!」
周囲の冒険者からはクソ野郎どもにかなりの殺気が向けられているが、伯爵の息子で大臣の甥っ子という事で手が出ないらしく、我慢しているようだった。
俺は先ほどまで、奴隷でも幸せそうなリアンちゃんの笑顔に、安心していたのだ。ただ、この世界ではそれがきっと珍しい事なのだろう。冒険者達も宿屋の夫婦が殺されそうという事に怒っているのであって、特にリアンちゃんに対してでは無かった。むしろ、獣人奴隷なら仕方ないかという声さえあった。
『奴隷』は『所有物』で、『貴族』は『平民』より『上』なのだろう。
なら『冒険者』は?
「くそったれが」
俺は神出鬼没を発動し、三人組の後ろへ回った。
「ハッハッハ! お前ら一緒に痛めつけてから、部屋で楽しむごふっ! なんだ……? 誰だ後ろから……掴んでいるのは……苦しぃ」
「げふぅ……三人一緒に掴まれいゲス…ガハッ」
「誰だ……俺たちに……こんなことするやつゴスは」
俺は後ろから三人まとめて腰の辺りをがっしり抱えた。当然この後何するか決めていたので、食堂の扉と宿の出入り口が一直線線になっている事も把握しているし、事前にこっそりその扉も開けてきている。
「飯が不味くなるわぁああ! ゲス野郎どもぉおお! どりゃあぁあああ!」
「「「ぎゃぁあああああ!?」」」
俺は、思いっきり投げっぱなしジャーマンを後方へ向けてぶっ放した。勿論、扉を壊さず一直線に宿の外まで低空飛行でだ。サービスで宿を出た辺りで地面と擦れる様な、絶妙な角度のおまけ付きで。
「あんた何してんだい!? 相手は貴族様だよ!?」
俺は女将さん言葉を聞きながら、投げっぱなしたクソ野郎どもの所に歩いていった。宿の外には地面にヤスリのごとく削られボロボロになった三人組がいた。
「いでぇええ! くそったれ! 誰だ! 俺様にこんなことして、ただで済むとおもぶへぇ!」
「「坊ちゃん!」」
また何か言う前に、顔面に前蹴りを叩き込んだ。
「その汚ねぇ口を開くな!」
「「酷すぎる!?」」
取り巻きに肩を持たれながらなんとか、クソ貴族が起き上がった。
「はぁはぁ……貴様、こんな事をして只で済むと思うなよ? すぐに衛兵に突き出してやる!」
「あぁ? お前も冒険者なんだろ? 冒険者同士のいざこざに国は介入してこねぇよ。登録した時に聞いただろ? 覚える脳みそも無えのか、スカタン」
クソ貴族が取り巻きに確認しているが、取り巻きの方は知っていたらしい。物凄い愉快な顔をしてくれている。
「だがな! 俺は伯爵の息子で、この国の大臣の甥だぞ! そんな俺に歯向かって、只で済むとおもぶえらぁあ!」
再度煩いことを言いそうだったので、今度は飛び蹴りを、顔面にぶち当てた。
「「坊ちゃん!」」
「うるさいわ!」
「「鬼か!?」」
しぶとくまた取り巻きに肩を貸してもらいながら、起き上がったクソ貴族は懲りずに喋り出した。
「いいかへんにしろ! へったいにお父しゃまとおひちゃんに、いいつへてやる!」
「おうおう、見事な台詞だな。サーレイス大臣にちゃんと言っとけよ? 『あんた、甥っ子をちゃんと躾けとけよ?』って、ヤナって冒険者に言われたってな」
俺の名前を聞いた瞬間に、取り巻きが騒ぎ出した。
「坊ちゃん! ヤナっていや今日冒険者に登録して、すぐさま坊ちゃんが何回受けても受からないCランクの戦闘試験を受かった奴でゲス」
「なんひゃと! こいふだったのか! ひかもおひちゃんを、あんただっひぇ! みのほど、ひらすめ! いひて帰すな!」
「「へい!」」
「おい、アレ……『漆黒』だよな?」
「そうだろうな。黒目黒髪に真新しい革鎧に、二本の刀だしな」
「なんで、バカ貴族ボコってんだ?」
「アレだろ? きっとアレが疼いてんだよ」
宿屋の前で騒いでいると言うことは、冒険者ギルドの前でもある訳である。その為、騒ぎを嗅ぎつけた冒険者達が野次馬となっている。当然、俺が『五蓮の蛇』をボコっている所を見ていた冒険者もいた。
「またアレになるのかな?」
「アレかぁ、どうだろうな?」
「アレ、結構カッコ良くなかったか?」
「……お前……一回ギルドの治癒師に頭と目を回復して貰え……」
何やらアレを期待されている。ならば期待に応えなければ男ではない。こっそり生活魔法の『送風』で、砂埃を巻き上げた。その瞬間に、神出鬼没で隠れる。スキルの無駄遣い? ナニカモンダイデモ?
「ぐはぁ! ぺっぺっ! なんだいきなり砂埃がまいやはって! あいふはどこ言った? 暗闇にまひれてにげたのは?」
「坊ちゃん?……あれは何でゲス?」
「ありゃあ……火の玉ゴス?」
"カツーン"
"カツーン"
"カツーン"
「なんのおほだ?」
「『漆黒』が来たぞ! 逃げろ! 巻き添え食うぞ!」
「こんな往来で……きっと暴れるだろうな……アレに理屈は通じねぇ」
周りの野次馬の冒険者が、クソ貴族達から一気に距離を置いた。そして、俺は暗闇から周りに『十指』『黒炎の大剣』を漂わせながら『漆黒の騎士』姿で現れる。
「クソ共、来てやったぞ? 『黒炎の大剣』『自動操縦』……さぁ、己の行いを悔いる暇なく……滅びよ」
「「「ギャアアアア」」」
どっかの戦隊と同じく白目を剥くまでボコった後、再度叩き起こしてその顔を覗き込んだ。
「次も……楽しみだな?」
「「ひぃ!?」」
一応脅しといたが、あぁ言うバカはまた来るだろう。そん時はもう、オークの苗床にしてしまおうと決めた。
そして、ひと段落ついた所で宿屋に戻った。
「ヤニャ様! 大丈夫にゃった!?」
「荒んだ心がいぃやぁさぁれぇるぅ……おう、大丈夫だぞ。クソ……いじめっ子は、お兄ちゃんが退治しておいたから安心しな」
そう言いながら、リアンちゃんの頭をわしわしと撫でた。
「ありがとうにゃん……でも……」
リアンちゃんが何か言う前に、女将さんが心配そうに話しかけて来た。
「あんた、あんな事して本当に大丈夫なのかい? 確かに冒険者同士のいざこざに、衛兵なんかはでてこないけどさ……相手は貴族様だよ? しかも、この国の大臣の甥っ子って……でも、本当にありがとうよ」
「俺からも礼を言わしてくれ、あんたヤナさんと言ったな。ヤナさん、うちの子を助けてくれてありがとう!」
旦那さんは泣きながら、俺に礼を述べた。
「いいさ、俺がムカついてボコりたかったから、ボコっただけさ。それにここだけの話だぞ? サーレイス大臣には、でかい貸しがあってね。あれくらいなら大丈夫さ。殺してやいないしな」
それを聞いて三人がポカンとしていたが、女将さんがいち早く復帰して大笑いした。
「あっはっはっは! あんた、大したもんだね! できるだけこの宿を贔屓してくれよ! うんと、良くしたげるからさ! ねぇ、あんた!」
「おうともよ!」
「私もがんばるにゃん」
「ごはぉ!……かわいいは……最強だ……」
「「「あっはっはっは!」」」
こうして『冒険者』としての初日が、やっと終わろうとしていた。
「あのやろふ! おぼへてやごれよ!」
その頃街の外れでは、ヤナにボコられた男が復讐に燃えていた。
支部長からは昇級戦闘試験は合格だと伝えられたが、同時に肩を叩かれながら呟かれた。
「暫くパーティでの討伐は諦めろ……」
観客の方を見ると、一斉に全員から目を逸らされた。
「ノォオオオオオオ!?」
きっちりかっちり、見に来ていた冒険者の『関わっちゃいけないブラックリスト』に載ったらしい。エディスさんは、満面の嗤い顔だったが。
受付カウンターで大金のはずの金貨五十枚を受け取ったというのに、誰にも絡まれる事なく宿屋に帰ってこれてしまった。誰からも避けられるって、寂しい。
「あ! ヤニャ様、おかえりにゃさい!」
「癒さぁれぇるぅううう……ただいま、リアンちゃん。夕飯食える?」
「はい! 食堂に行っててくにゃさい!」
そのまま食堂に向かうと、中には十数人の冒険者達が食事や酒を飲んでいる。『冒険者の宿』というだけあって、冒険者だらけだった。俺も空いている席に付き、食事を待っていた。数分後、リアンちゃんがお盆に食事を乗せてやってきた。
「お待ちどう様にゃ。冷めにゃいうちに、食べてにゃ!」
「あぁ、ありがとう。早速食べるよ」
食事はこっちの家庭料理といったところなんだろうか、クックルさんが作る料理とは違ったが、これはこれで十分に旨かった。食べていると、後からぞろぞろと冒険者達が宿に帰ってきているらしく、食堂が大分賑やかしくなってきた。
俺がお代わりを貰えないかとリアンちゃんを探していた時、突然ガシャンと何やら食器が落ちる音とリアンちゃんの小さい悲鳴が聞こえた。その聞こえた方を見ると、煌びやかな鎧に身を包んだ青年がリアンちゃんを見下ろしていた。
「邪魔だ! 奴隷のしかも獣臭い獣人が、俺の視界に入るんじゃない!」
「すみませんにゃ!」
どうやらあのクソ野郎が、リアンちゃんをいじめているらしい事はわかった。
「おい、あいつサーレイス大臣の甥っ子だよな?」
「あぁ、実家の伯爵家では三男だからな、最近冒険者になったらしい」
「取り巻きも一緒にかよ、面倒くさそうだな」
どうやら野次馬の話に耳を傾けると、あいつはサーレイス大臣の甥っ子で伯爵の三男で、今は冒険者らしい。騒ぎを聞きつけた女将さんと旦那さんが出てきて、必死に謝っていた。
「すみません! 次から気をつけますんで、勘弁してくだせぇ!」
「この子も奥にやりますら、堪忍してください!」
「ごめんにゃさい……」
「知るか! 今日は坊ちゃんは機嫌が悪いでゲス!」
「今日登録した新人が、サクッと坊ちゃんより上のCランクになるって聞いてゴス!」
取り巻きが誰かのせいで、貴族の坊ちゃんの虫の居所が悪いと叫んでいた。
「だからな、腹いせにその奴隷を俺に寄越せ。そしたら、許してやるし、寧ろ可愛がってやるぞ?」
しかも、変態クソ野郎だった。
「リアンはまだ子供ですし、私達の大事な子です! 勘弁してくだせぇ!」
「ハッハッハ、奴隷でしかも獣人を自分たちの子供だと? 穢らわしい! そうだ、お前達を奴隷の目の前で殺してから、こいつを貰っていくか!」
「坊ちゃん、いい考えでゲス!」
「やっちゃえばいいゴス!」
周囲の冒険者からはクソ野郎どもにかなりの殺気が向けられているが、伯爵の息子で大臣の甥っ子という事で手が出ないらしく、我慢しているようだった。
俺は先ほどまで、奴隷でも幸せそうなリアンちゃんの笑顔に、安心していたのだ。ただ、この世界ではそれがきっと珍しい事なのだろう。冒険者達も宿屋の夫婦が殺されそうという事に怒っているのであって、特にリアンちゃんに対してでは無かった。むしろ、獣人奴隷なら仕方ないかという声さえあった。
『奴隷』は『所有物』で、『貴族』は『平民』より『上』なのだろう。
なら『冒険者』は?
「くそったれが」
俺は神出鬼没を発動し、三人組の後ろへ回った。
「ハッハッハ! お前ら一緒に痛めつけてから、部屋で楽しむごふっ! なんだ……? 誰だ後ろから……掴んでいるのは……苦しぃ」
「げふぅ……三人一緒に掴まれいゲス…ガハッ」
「誰だ……俺たちに……こんなことするやつゴスは」
俺は後ろから三人まとめて腰の辺りをがっしり抱えた。当然この後何するか決めていたので、食堂の扉と宿の出入り口が一直線線になっている事も把握しているし、事前にこっそりその扉も開けてきている。
「飯が不味くなるわぁああ! ゲス野郎どもぉおお! どりゃあぁあああ!」
「「「ぎゃぁあああああ!?」」」
俺は、思いっきり投げっぱなしジャーマンを後方へ向けてぶっ放した。勿論、扉を壊さず一直線に宿の外まで低空飛行でだ。サービスで宿を出た辺りで地面と擦れる様な、絶妙な角度のおまけ付きで。
「あんた何してんだい!? 相手は貴族様だよ!?」
俺は女将さん言葉を聞きながら、投げっぱなしたクソ野郎どもの所に歩いていった。宿の外には地面にヤスリのごとく削られボロボロになった三人組がいた。
「いでぇええ! くそったれ! 誰だ! 俺様にこんなことして、ただで済むとおもぶへぇ!」
「「坊ちゃん!」」
また何か言う前に、顔面に前蹴りを叩き込んだ。
「その汚ねぇ口を開くな!」
「「酷すぎる!?」」
取り巻きに肩を持たれながらなんとか、クソ貴族が起き上がった。
「はぁはぁ……貴様、こんな事をして只で済むと思うなよ? すぐに衛兵に突き出してやる!」
「あぁ? お前も冒険者なんだろ? 冒険者同士のいざこざに国は介入してこねぇよ。登録した時に聞いただろ? 覚える脳みそも無えのか、スカタン」
クソ貴族が取り巻きに確認しているが、取り巻きの方は知っていたらしい。物凄い愉快な顔をしてくれている。
「だがな! 俺は伯爵の息子で、この国の大臣の甥だぞ! そんな俺に歯向かって、只で済むとおもぶえらぁあ!」
再度煩いことを言いそうだったので、今度は飛び蹴りを、顔面にぶち当てた。
「「坊ちゃん!」」
「うるさいわ!」
「「鬼か!?」」
しぶとくまた取り巻きに肩を貸してもらいながら、起き上がったクソ貴族は懲りずに喋り出した。
「いいかへんにしろ! へったいにお父しゃまとおひちゃんに、いいつへてやる!」
「おうおう、見事な台詞だな。サーレイス大臣にちゃんと言っとけよ? 『あんた、甥っ子をちゃんと躾けとけよ?』って、ヤナって冒険者に言われたってな」
俺の名前を聞いた瞬間に、取り巻きが騒ぎ出した。
「坊ちゃん! ヤナっていや今日冒険者に登録して、すぐさま坊ちゃんが何回受けても受からないCランクの戦闘試験を受かった奴でゲス」
「なんひゃと! こいふだったのか! ひかもおひちゃんを、あんただっひぇ! みのほど、ひらすめ! いひて帰すな!」
「「へい!」」
「おい、アレ……『漆黒』だよな?」
「そうだろうな。黒目黒髪に真新しい革鎧に、二本の刀だしな」
「なんで、バカ貴族ボコってんだ?」
「アレだろ? きっとアレが疼いてんだよ」
宿屋の前で騒いでいると言うことは、冒険者ギルドの前でもある訳である。その為、騒ぎを嗅ぎつけた冒険者達が野次馬となっている。当然、俺が『五蓮の蛇』をボコっている所を見ていた冒険者もいた。
「またアレになるのかな?」
「アレかぁ、どうだろうな?」
「アレ、結構カッコ良くなかったか?」
「……お前……一回ギルドの治癒師に頭と目を回復して貰え……」
何やらアレを期待されている。ならば期待に応えなければ男ではない。こっそり生活魔法の『送風』で、砂埃を巻き上げた。その瞬間に、神出鬼没で隠れる。スキルの無駄遣い? ナニカモンダイデモ?
「ぐはぁ! ぺっぺっ! なんだいきなり砂埃がまいやはって! あいふはどこ言った? 暗闇にまひれてにげたのは?」
「坊ちゃん?……あれは何でゲス?」
「ありゃあ……火の玉ゴス?」
"カツーン"
"カツーン"
"カツーン"
「なんのおほだ?」
「『漆黒』が来たぞ! 逃げろ! 巻き添え食うぞ!」
「こんな往来で……きっと暴れるだろうな……アレに理屈は通じねぇ」
周りの野次馬の冒険者が、クソ貴族達から一気に距離を置いた。そして、俺は暗闇から周りに『十指』『黒炎の大剣』を漂わせながら『漆黒の騎士』姿で現れる。
「クソ共、来てやったぞ? 『黒炎の大剣』『自動操縦』……さぁ、己の行いを悔いる暇なく……滅びよ」
「「「ギャアアアア」」」
どっかの戦隊と同じく白目を剥くまでボコった後、再度叩き起こしてその顔を覗き込んだ。
「次も……楽しみだな?」
「「ひぃ!?」」
一応脅しといたが、あぁ言うバカはまた来るだろう。そん時はもう、オークの苗床にしてしまおうと決めた。
そして、ひと段落ついた所で宿屋に戻った。
「ヤニャ様! 大丈夫にゃった!?」
「荒んだ心がいぃやぁさぁれぇるぅ……おう、大丈夫だぞ。クソ……いじめっ子は、お兄ちゃんが退治しておいたから安心しな」
そう言いながら、リアンちゃんの頭をわしわしと撫でた。
「ありがとうにゃん……でも……」
リアンちゃんが何か言う前に、女将さんが心配そうに話しかけて来た。
「あんた、あんな事して本当に大丈夫なのかい? 確かに冒険者同士のいざこざに、衛兵なんかはでてこないけどさ……相手は貴族様だよ? しかも、この国の大臣の甥っ子って……でも、本当にありがとうよ」
「俺からも礼を言わしてくれ、あんたヤナさんと言ったな。ヤナさん、うちの子を助けてくれてありがとう!」
旦那さんは泣きながら、俺に礼を述べた。
「いいさ、俺がムカついてボコりたかったから、ボコっただけさ。それにここだけの話だぞ? サーレイス大臣には、でかい貸しがあってね。あれくらいなら大丈夫さ。殺してやいないしな」
それを聞いて三人がポカンとしていたが、女将さんがいち早く復帰して大笑いした。
「あっはっはっは! あんた、大したもんだね! できるだけこの宿を贔屓してくれよ! うんと、良くしたげるからさ! ねぇ、あんた!」
「おうともよ!」
「私もがんばるにゃん」
「ごはぉ!……かわいいは……最強だ……」
「「「あっはっはっは!」」」
こうして『冒険者』としての初日が、やっと終わろうとしていた。
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大丈夫でしたらそのままお進みください。
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