底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

文字の大きさ
10 / 73

第八話 メルビアへの道程

しおりを挟む
 ユトスを出てから三時間。日が沈む前に野営場所を決めた僕達は、早めの夕飯を摂ることにした。

「ギルド長がいろいろ持たせてくれて…」

 そう言ったベルハイトの魔法鞄マジックバッグからは、パンやチーズ、干し肉がごろごろと出てきた。

 ベルハイトは冒険者ギルドに併設してある宿舎住まいだったらしく、荷物を取りに戻り、そのままヨハンにユトスを出ることを伝えに言ったそうだ。
 急な旅立ちにもかかわらず、ヨハンはすぐに、冒険者登録をメルビアへ移すための書類を準備し、食料まで持たせてくれたのだとか。ここまでは三十分を少し過ぎるくらいで戻って来られそうだったらしいが、ダイアーが「ちょっと待ってろ」と言い、どこかへ行ってしまい、なかなか戻って来なかったそうだ。やっと戻って来たダイアーは、曰く『とても不必要なもの』を餞別にと渡してきたらしい。それが何なのか、ベルハイトは頑なに教えてくれなかった。

 ベルハイトからは一時間待たせたことを平謝りされたが、もとより三十分で戻って来られるとは思っていなかったので、気にしないように言った。



 [無限保存庫ストレージ]に自分の備蓄はあったが、先にベルハイトの食料を消費することになり、パンなどを分けてもらう代わりに、僕はスープと果物を提供した。

「これ、もしかして[草原のはちみつ亭]の?」

「はい。今朝作ってもらいました」
 
 昨日、グランドベアのステーキセットについていたスープが非常に美味しかったので、持ち帰りできないか打診したところ、快諾してくれた。
 持参した小鍋に入れてもらい、[無限保存庫ストレージ]で持ち運んできたので、温かいままだ。

 黙々と食事を進めていると、ふいにベルハイトが口を開く。
  
「そういえば、昨日はどうやって俺を外に運んだんです?」

 タストラ魔窟ダンジョンの深層から戻る時のことか。……訊かれずに済んだと思っていたのに。
 今更隠す事でもないが、答えを聞いた時の反応が想像できてしまう。

 僕はパンを咀嚼してから、スープを注いだカップを手に取って答える。
  
「背負いました」

「なるほどー……って言うと思います?」

 一口、スープを飲む。おいしい。

「……引き摺りました」

「背負うのと同じくらい無理じゃないですか」

 あからさまに嘘をついているんだから、素直に頷いてくれればいいものを。というか、

「本当は分かってるんじゃないですか?」

 少しジト目で見上げると、ベルハイトはバツが悪そうに笑う。

「あはは……。という事は、やっぱりんですか?」

「入れました」

 ええ、そうです。[無限保存庫ストレージ]に。

「ですよねー……」

 ベルハイトは一度天を見上げる。

「俺の他に、[無限保存庫ストレージ]に人を入れたことって……」

「あります」

「あるんだ…」

「その人は、自分から入りたいって言って入りましたけど」

「なんて怖いもの知らずな……」

「そのおかげで、人を入れても大丈夫だと分かったので。ベルハイトさんを引き摺らずに済みました」

「う……。ある意味、その人も恩人ですね……」
 
 普通は進んで入りたいものではないか。僕が逆の立場でも遠慮するだろう。

 ついでなので、僕も気になった事を訊いてみる。
 
「ベルハイトさんは、誰に対しても敬語なんですか?」

「そうでもないです。目上の人には敬語ですけど」

「…………。なんで僕に敬語なんですか?」

 まさか助けたから?

「最初は恩人への礼儀でしたけど…。ルカさんはもう長く、今の仕事をしてるんじゃないかと思って。俺は冒険者になって、まだ二年も経たないんですよ」 

 そうなのか。じゃあ冒険者になったのは、少なくとも成人してしばらく経ってからか。その前は何をしていたのだろう。
  
「ルカさんはいつ運び屋ポーターに?」

「十年前です」

「ごほっ!」

 吹き出した。

「っ、じゅうねん?……ルカさん、今いくつです?」

「十七ですが」

「てことは、七歳の頃から?……予想以上に先輩じゃないですか」

「別に敬語じゃなくていいですけど」

 ベルハイトは「駄目です」と首を振った。よく分からないが、彼にとっては譲れない点らしい。
 
「俺には敬語使う必要ないですよ?」

「僕は誰に対しても基本的に敬語これなんで」

 食事をしながら取り留めのない話をするうちに、日が沈んできた。
 明かりを灯そうと魔石式のランタンを取り出した。魔力を注ぐだけで点く、便利な代物だ。

 白い光が灯り、野営場所を照らす。

 夜は段々と更けていった。




 
 翌朝。

 昨夜はそこそこ話し込んだあと、見張りを買ってでたベルハイトに任せて、僕は先に仮眠をとらせてもらった。途中で交代する予定だったのに、完徹しようとしたベルハイトと一悶着あったが、それ以外は何事もなく、静かな夜だった。

 野営した場所を片付け、二人で街道を歩き出す。

 メルビアとユトスを繋ぐ街道は、起伏の少ない平原を縦断している。危険な魔物の報告例もなく、比較的穏やかな場所だ。
 しかし魔物や獣、野盗といった危険が無いわけではないので、警戒は欠かさない。

「今後の事なんですけど」

 歩きながらベルハイトを見上げる。

「冒険者のベルハイトさんと運び屋ポーターの僕が正式にパーティーを組むと、良い意味でも悪い意味でも目立つので、基本的には街の外に出る時だけ同行するのがいいかと」

 冒険者であるベルハイトが魔物討伐や魔窟ダンジョン探索に行く際や、運び屋ポーターの僕がメルビアの外に配達に行く際。毎回とはいかないだろうが、それぞれの仕事に同行するようにすればいい。

 そう思って提案したのだが、ベルハイトは驚いたように言う。
 
「いいんですか?」

「?同行したいって言ったのはベルハイトさんじゃないですか」

「そうなんですけど……。まさかメルビアに着いた後も同行させてもらえるとは思ってなくて」

「………………」

 てっきり、そういう話だと思っていたのだが。

「必要ないなら僕は別に……」

「いやいやいや!すみません、願ってもないです!よろしくお願いします!」

 ベルハイトは慌てて承諾したが、なんだか僕が先走ったみたいで、少し腑に落ちない。

 



 二時間ほど歩いた頃。
 街道を外れた小道を、一台の荷馬車がゆっくり進んでいる。よく見ると、御者がこちらに手を振っていた。

「おーい!そこの旅のかたー!」

 呼び止められたので、ガタガタと荷台を揺らしながら近づいてくる荷馬車を待つ。
 しばらくして街道に到着し、御者はにこにこしながら降りてきた。
 
「いやぁ、良かった!こっちへは初めて来たもんで、いつの間にか街道から逸れちまったみたいでよ。人影が見えたんで、助かったぜ」

 からからと笑ったかと思うと、僕達をじっと見る。

「おたくら兄弟かい?行き先は?」

「…メルビアへ」

 僕が短く答えると、御者は一際大きな声を出す。

「そりゃあ奇遇だ!オレもメルビアに行くところでね。乗せてってやるよ!」

「いえ結構です。では」

 きっぱりと断って歩き出そうとするが、御者は行く手を遮るように前に出た。
 
「おいおい、遠慮すんなって!こっちは寂しい一人旅なんだ。話し相手になってくれよ」

「……ルカさん」

 ベルハイトに小声で呼ばれ、僕は小さく頷く。

「荷台は満席みたいだが?」

「あ?」

 ベルハイトが指摘すると、御者は僕達の顔を交互に見たあと、舌打ちして後ろへ下がった。

「随分と勘のいい奴だな。だが…」

 御者が荷台を叩く。

「勘づいたところで、どうにもならねぇがな」

 荷台からぞろぞろと男達が降りてきた。数は四人。その手には剣や斧が握られている。
 
「おい、お前!」
 
 御者がベルハイトに向かって、

「弟と金目のもんを置いていけ!そうすりゃ、お前だけは見逃してやる」

 まるで既に勝ったかのように持ちかける。それに対しベルハイトは、
 
「断る」

 低い声で即答した。

 ……怒ってる?

 もちろん僕も捕まる気はないし、荷物を渡す気もない。だがあちらが仕掛けてくる以上、自衛はさせてもらう。
  
「男はっていいが、ガキは殺すな。物好きに高く売れるだろうからな。――やれぇっ!!」





 御者の威勢のいい掛け声から十数分後。

 「じゃあ、遠慮なく乗って行きます」

 縛り上げて荷台に詰め込んだ野盗達にお断りを入れて、御者席に上がる。

「俺が御者やりましょうか?」

 言いながら、ベルハイトも荷馬車に乗り込む。

 先の戦闘でのベルハイトの動きは、人並みという言葉には収まらないレベルだった。謙遜か自己肯定感が低いのか。なんにせよ、タストラで不意をつかれたのは不運だったようだ。

 僕は御者席の土を払いながら、
 
「いえ、荷台をお願いします。僕が見張りだと、侮って無駄に手間を増やしそうながいるので」
 
 そう言って荷台を一瞥すると、野盗達は苦虫を噛み潰したような顔で俯き、そのうちの一人は頭が回っていないのか、的外れなことを訊いてきた。

「お前ら、兄弟じゃねえのか…?」

 僕とベルハイトは顔を見合わせ、

「そろそろ行こうか、兄さん」

「っ…、そうで……そうだな、行こう」

 ベルハイトが噴き出すのを堪えて返事をした。

 黙り込んだ野盗達を後目に、僕は手綱を引いてメルビアに進路を取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...