底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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〈別視点〉 ベルハイトの葛藤

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 [真なる栄光]のゲイルの正体は、ニールという冒険者だった。

 俺は“ゲイル”は顔を知っている程度だし、“ニール”にいたっては初対面だが、ルカさん曰く、[真なる栄光]に潜り込んでいた時と普段の彼に大差はないらしい。

「コイツの数少ない友人ダチだ」

「違います。だだの知人です」

 ニールはルカさんの友人を主張しているが、ルカさんはそれを頑なに否定している。でも。

「照れんなよ。ウレシイくせに」

 慣れたようなやり取りは、不仲よりも仲の良さを感じた。たぶん、ルカさんは否定するだろうけど。
 
 なんの躊躇いもなくルカさんの頬をつつくニール。ルカさんは無表情のまま、されるがままになっていて、俺にはそれがなんとも……、面白くなかった。

「お?」

 無意識にニールの手を掴み、ルカさんの頬から引き離した。
 やってしまった、と気づき、すぐにその手を離したが、ニールは良くない笑みを浮かべて俺を見ていた。

「……へぇ~。なるほどねぇ」

 何が、なるほど、なのかなんて聞きたくない。自覚はあるので、言わないでくれ。

 俺はちらりとルカさんに視線を向ける。

「?」

 こちらは何も察していないようだ。ルカさんはルカさんで、きょとんとした顔で俺を見上げていた。



 三人でメルビアへの帰路を歩きだして、しばらく経った頃。

「ちょっとコイツ借りるぜ」

「は?ちょ……なんで?!」

 ニールが突然、俺を引っ張ってルカさんから離れていく。
 余程大きな声でなければ、ルカさんには聞こえそうにない距離を空けてから、ニールは意味深に深く息をついた。

「いやー、春ってやつかー」

「………………」

 なんでその話に戻ったんだ。その話題には乗りたくない。
 俺自信、まだ心の整理というか準備というか……。とにかく、そっとしておいてほしい。
 ニールは俺の心中など知る由もなく、実に楽しそうなのが癪だ。

 ニールは一応、声量に気をつけながら、

「冒険者なんて、出逢いがありそうに見えて、なかなか無ぇからなー。ガキからは格好いいだの言われるが、女からチヤホヤされんのは、夜の街で金使う時くらいだろ?」

 下世話な話に同意を求められた。

「知らないよ…」

「またまたぁ。……まさか、行ったことねぇの?」

「…………」

「マジ?」

 一度だけあるけど。ダイアーさんに無理矢理付き合わされて。あの時は、すっかりできあがったダイアーさんを連れて帰るのが大変だった。

「あー、でもそんな感じするよな、アンタ。ルカも擦れてねぇって言ってたし」

 夜の街と擦れてるかどうかは関係ないと思うが、ニールは一人で納得し、

「ま、せいぜい頑張れよ。相手がアイツだと、大変だろうけどな」

 ヘディさんにも同じことを言われた。いや、それよりも、

「…………それだけ?」

「あ?」

 俺が呆気にとられて言うと、ニールは何が?と
言わんばかりの顔。
 
「もっといろいろ訊いてくるかと思って…」

「訊かねぇよ。人の色恋に下手に首突っ込んたところで、その気も無ぇのに当て馬にされるか、そんなつもりじゃねえのに馬に蹴られるかのどっちかだろ」

 過去に何かあったとしか思えない言いよう

「軽くつついて、後はかず離れず見てるくらいが、ちょうどいいぜ?」

 そう言って、ニールは欠伸をしている。

 少し意外ではあるが、これ以上触れないでくれるなら、俺としてはそのほうがいい。
 
「でも進展させたいなら、ルカあっちに期待するなよ」

 ニールはぴっとルカさんを指差した。
 この話、まだつつくのか。

「さっきだって、なぁんにも分かってなかったろ?びっくりするくらい、分かりやすいってのに」

「…………」

 分かりやすい……のか。
 いや、うん。自覚はある。もう何度もやらかしてるし。これで本人に微塵も気づかれていないのは、少し複雑な気持ちもある。

 まあ、つまり。何かを望むなら自分で動くしかないということ。そもそも勝手に相手に期待するというのは、どうかとも思うし。

 首を突っ込まないとは言ったが、ニールは外野から楽しむ気はあるようで。

「ま、話くらいは聞いてやるぜ?オレとしては、アンタがフられようが、アイツを押し倒そうが、知ったこっちゃねえけど」

 なんで結末がその二つなんだ。前者は嫌だが、後者は駄目だろ。

 俺が返答に仇していると、

「――で、こっから本題」

 ニールは今までとは打って変わって、真面目な表情になった。そして声を潜める。

「アンタ、王都の出だろ?」

「っ、……」

 思わず出かかった声をギリギリで抑えた。
 
 なんで知ってる?メルビアではもちろん、ユトスでも出身を明かしたことはないのに。
 
「ちょっと王都で調べもんしてた時に、アンタを見かけた事があるんだよ。こう見えて、一度見たものは大概忘れねぇんだぜ?」

 ニヤリと笑って、指で頭をトントンと示すニール。

 見かけただけで、王都そこの出身だと判断できたということは、そこから更に探られているということだ。
 
 俺の生家――ロズ家の事を。
 
「本名使ってるみてーだし、隠してるわけじゃねえんだろ?」

「それは、まぁ……」

 冒険者を生業にするにあたって、偽名を使うこともできた。しかしそれは、のような気がして出来なかった。

 ニールは淡々と続ける。

「オレが確かめたいのは、アンタが言えずにいる事が、アイツに近づいた理由かどうかで」

「それは違うっ!!」

 思わず声を張り上げた。

 一瞬固まったニールが、ハッとしてルカさんのほうを見たのにつられ、俺も彼女のほうを見た。

「?」

 何かあったのかと振り返ったルカさんに、俺とニールはなんでもないと、それぞれ首と手を振って誤魔化した。

 ルカさんは納得……は、してないだろうが、再び前を向いて歩き出したので、俺達はどちらともなく息をついた。

 ニールはルカさんとの距離を再び一定に保ちながら、

「オレはアンタの事情になんて興味ねぇから、違うならそれでいい。でも、アイツはアンタ自身に興味があるみたいだからな。いつかきっと気づくぜ」

 じっとルカさんの後ろ姿を見ている。

 ……興味?ルカさんが?

 たぶんこの時、俺は間抜けな顔でルカさんを見ていたのだろう。ニールは声に呆れを含ませ、

「じゃなきゃアイツが進んで誰かとつるんだりしねぇよ」

 オレでさえフられてんだぜ?とニールはおどけてみせた。 

「オレが言いたいのは、後で知られて気まずくなるくらいなら、自分でゲロッたほうがマシってこと」

「…………」

 ニールが言うように、隠しているわけではないが、進んで明かしたい事ではない。しかし、ルカさんと誠実に向き合うのならば、話しておくべきだとも思う。それに、ルカさんが他の誰かの口からを知ることになったら、少なくとも俺は気まずいし、自分で話さなかったことを後悔するだろう。
 彼女がそれをどう思うかは分からないが。

「オレが思うに、アンタが言い渋ってることが何であれ、アイツは気にしねぇだろうけどな」

 見透かしているのか、ニールは俺を気遣うような言葉を付け足した。
 俺はその気遣いを黙って受け取ることしか出来なかった。
 
 そしてふと思う。このニールという青年、最初の印象よりだいぶ違うな、と。
 
 本人はルカさんの友人と言っているが……。 

「君……、ルカさんのお兄さんみたいだな」

 率直に思ったことを口にすると、ニールはぽかんとしたあと、
  
「アニキ?オレが?アイツの?……ふ、っははは!!」

 吹き出した。
 ニールは息を整えるが、やはり笑ったまま。
 
「それ、絶対アイツの前で言うなよ?オレが睨まれるからな」

 それはなんとなく想像できる。でもその時は、おそらく俺も睨まれると思う。

 ヘディさんもニールも、どちらも口は悪いがルカさんを気にかけているのが分かる。だからこそ、出会ったばかりの俺に接触し、ある程度腹のうちを見せ、こちらのうちを探っているのだろう。
 それを不快には思わない。むしろ当然だと思う。気になるのは、何故二人がルカさんを守ろうとしているのか。

 たぶんそれは、今の俺にはまだ知る資格のない事なのだろう。
 
 そのあとはしばらく沈黙が流れた。
 するとふいにニールがぽつりと、

「アンタも、もっと楽に生きれりゃいいのにな」

「え?」

 呟かれた言葉の真意が分からず、俺はニールを見る。しかし、

「いーや、なんでもねぇよ」

 無意識に口をついた言葉だったのか、ニールははぐらかすように伸びをし、それ以上は何も語らなかった。
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