底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第二十話 謎の魔石

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 メルビアへ到着した僕とベルハイト、ニールの三人。そのまま三人で冒険者ギルドへ向かうのかと思ったが、「オレの仕事は、もう終わってっから」とニールはどこかへ行ってしまった。
 
 ギルドへ入ってすぐ通された応接室には、ヴィクトルと四人の冒険者と姿があった。

 ヴィクトルが振り返り、
 
「おう、戻ったか。客人がお待ちかねだぞ」

「ベルハイトさん!」

 若者の声が出迎え、その声にベルハイトが破顔する。

「やっぱりカイン達だったのか」

 客とはやはり、ユトスの冒険者パーティー[風のつるぎ]だった。
 若者――カインはベルハイトに挨拶を済ませると、僕を見て、なぜか目を輝かせた。
 
「もしかして、あんたがルカ?」

 人懐っこい笑顔で近づいてくるカインを、

「ちょっとカイン!いきなりタメ口とか失礼でしょ?!」

「ぐえっ!」

 すぐそばにいたメンバーの少女が、躊躇なく彼の首に腕をかけて抑え込んだ。あれは間違いなく締まっている。
 
「あの、大丈夫です。楽な話し方で」

 これ以上カインの首が締まる前に声をかけると、ベルハイトが苦笑いしながら僕を紹介する。

「この人はルカさん。メルビアの運び屋ポーターで、俺がお世話になってる人だよ」
 
「けほっ……。はじめまして!オレは冒険者パーティー[風のつるぎ]のリーダーで、カイン!こっちは、メンバーのシェリーとヒューゴ、それからアネット。よろしく!」

「……ルカです。よろしくお願いします…」

 溌剌とした挨拶に圧倒される。三人のメンバーは、紹介されると礼儀正しく一礼した。

 カインはぐっと身を乗り出す勢いで、

「あんたことは、ギルド長とダイアーさんから聞いて、めちゃくちゃ会いたかったんだ!なんか、すっっごく強いんだって?!」

 すっっごく強いって……、すごくフワッとした情報だな…。それに、それなりに戦えるという自負はあるが、[無限保存庫ストレージ]とそこにある魔法あっての戦果が大きい。僕自身が強いかと言われると、どうなのだろう。

「いえ…、別にそうでもないです」

 やんわり否定したつもりだったのだが、カインは謙遜と受け取ったようで、更に力説し始める。

「何言ってんだよ!上層とはいえ魔窟ダンジョンの中を、自分よりずっと大きいベルハイトさんを背負った状態で、魔物を蹴散らしながら走り抜けるなんて、誰にでも出来ることじゃないって!」

 ……。
 …………。
 ………………うん?

 誰が誰を背負って魔窟ダンジョンの中を魔物を蹴散らして走り抜けたって?目を疑う絵面が出来上がるじゃないか。

 僕は助けを求めてベルハイトを見るが、彼は額を押さえて俯いているし、その向こうのヴィクトルにいたっては、腹を抱えて笑いを堪えている。

 するとベルハイトがぼそりと、

「ダイアーさん、適当なことを……」

 ……なるほど。ダイアーの仕業か。

 おそらくだが、僕のことをカイン達に説明するにあたって称号持ちのことなどを話せなかったため、適当に濁したのだろう。

 にしても、適当すぎやしないか。

 僕がどう答えたものか考えている間も、カインは止まらない。

「俺さ!斧を使ってんだけど、最近どうにも伸び悩んでるっつーか、もっと威力を上げたいんだ!こう……ドッカーンて!なんかいい方法あったら」

 スパンッ!
 
「あんた何しに来たのか忘れたの?!」

 止めたのはシェリーの一撃だった。張り手が綺麗にカインの後頭部を直撃した。
 
 それでもカインは、キラキラした目で僕を見ている。彼の中で僕は、既に怪力爆走運び屋ポーターになってしまっているようだ。

 しかし、無表情のまま無言の僕やベルハイトの反応に、カインは何か察したらしい。

「……ん?…え?あれ?」

 パーティーメンバーやヴィクトルにも視線を泳がせるカイン。そして、隣のシェリーが溜め息をついた。 

「だから言ったでしょ。ダイアーさんの話は真に受けちゃダメだって」

 それにヒューゴとアネットも続ける。
 
「あの人の話は、戦闘とダンジョン探索に関すること以外、聞き流したほうがいい」

「あはは……。ダイアーさん、良い人なんだけどね……」

 どうやらダイアーの話を鵜呑みにしていたのは、カインだけだったようで、メンバー三人は困ったようにリーダーを宥めた。
 カインはがっくりと項垂れる。

「えぇ……。じゃあ、ルカが強いっていうのはウソなのか?」

「いや、嘘じゃないよ」

「ああ。嘘じゃねぇな」

 ベルハイトとヴィクトルが間を置かず相槌を打つ。それに反応したのは、やはりカインで。

「じゃあ!今から手合わせ…」

「だから何しに来たのよ!」

 スパンッ!

 シェリーの張り手、二発目が炸裂した。

 こうしてパーティー内の力関係が確立されていくのかもしれない。





「[蒼天の鐘]が調査した結果、タストラ魔窟ダンジョンには、あの一件以降、異常はありません」

 用件を話始めたシェリーが冒頭で報告したのは、意外な結果だった。てっきり、タストラ魔窟ダンジョンで前回と同じ異変、もしくは新たな異変が発生したのかと思っていたからだ。

 ちなみにカインは脱線しそうなので、報告する役割から解任された。

「ここへ来たのは、ルカさんに見てもらいたい物があったからなんです」

「僕に?」

 シェリーは頷き、魔法鞄マジックバッグから小さな包みを取り出し、テーブルの上で開いた。そこには――。

「これは…」

 見覚えのある石。タストラ魔窟ダンジョンでグランドベアの亜種と思しき魔物が吐き出した、魔石のような石と酷似している。

「ルカさんがタストラ魔窟ダンジョンで見たものと同じですか?」

「同じ、だと思います。見たのは一瞬だったので絶対とは言えませんが…。形はともかく、色や模様は僕が見たものとよく似ています」

 一見、魔石のようではあるが、一般的に知られている魔石は種類ごとにほぼ単色。これは複数の色が混ざり合い、見る角度で違う色になる。表面に浮き出た模様も、僕が知っている魔石とは一致しない。

「これはどこで?」

「ユトスの孤児院です」

 孤児院?そんな場所に正体の分からない石が?
 
「私達は四人ともその孤児院の出身で、定期的に院を訪ねているんですが、先日訪ねた時に院長先生に相談されたんです」

 シェリーは一度、テーブル上の石に視線を落とした。
 
「この石は一週間ほど前に孤児院に立ち寄った旅の男が、寄付として置いていったそうです。院長先生は宝石か鉱石の類かと思い、ユトスの商人に見せたそうですが正体が分からず、扱いに困っていのを、私達がギルドに持ち込みました」

 随分不可解な話だ。その旅の男とは何者で、なぜこの石を持っていたのか。なぜそんなよく分からない物を孤児院で手放したのか。
 
「ギルドの鑑定師にも確認してもらい、魔石の類であることは間違いないとのことでした。でも、現存しているどの魔石とも一致しないそうで…。念のため、他の鑑定師にも鑑定してほしいということで、ヨハンさんが「それならメルビアへ」と」

 シェリー達の報告はここまでのようだ。
 僕はヴィクトルに視線を移す。

「お前らが戻って来るまでに鑑定させたが、ユトスの見解と同じだ。魔石の一種だろうが、見たことも聞いたこともねぇシロモノだと」

 お手上げと言うように、ヴィクトルは肩を竦めた。

 僕は目の前の謎の魔石を手に取り、それに集中する。

 魔石とは、魔力を内包する石のことを指す。そしてその内包する魔力によって種類が分けられており、現時点で存在が確認されているのは、四元の四種類と光と闇の計六種類。
 魔石は、魔素が自然に魔力に昇華した際に偶発的に生成されるもので、生成されたものを加工して形を整えたりすることは可能だが、魔石自体を人工的に造ることは不可能とされている。
 魔窟ダンジョンでは当たり前のように生成されているので、魔法鞄マジックバッグなどにも使用され、市場にもそれなりに出回っているが、今目の前にあるこれは明らかに魔石の中でも異質だった。

 しばらくして、ヴィクトルが口を開く。 

「……どうだ?ルカ」

「……確かに魔石ですけど、鑑定師の言うように、どの種類にも当てはまりません。強いて言うなら、外部の魔力への干渉が普通の魔石より強い気がします」

 今の段階では、この謎の魔石に関して、これ以上分かることはなさそうだ。
 そう考えていると、ベルハイトがじっと僕を見ていた。

「えっと……。まさかルカさん、鑑定ができるんてすか?」

「?はい。……言ってませんでしたか?」

「言ってませんよ……」

 ベルハイトは溜め息をついた。

 鑑定は魔法ではなく、魔力操作による物質の反応から対象の性質や特性などを読み取り、それを特定する技術だ。なので、必要なのは魔力操作の技術と知識で、どの魔法適性も必要ない。

運び屋ポーターの仕事をしていると、時々あるんです。詐欺が」

「詐欺?」

 僕はベルハイトに頷いた。

「受取人と差出人がグルで、運び屋ポーターに偽物を運ばせて、荷のすり替えをでっち上げたて、金銭を要求してきたり。商売だと、売り主は既に代金を受け取っている状態で、客に偽物や劣化品を渡したり」

 巻き込まれると身の潔白を証明したり、聴取を受けたりと、大変なんてものじゃない。 

「以前は荷の鑑定は持ち主の許可がないと出来なかったんですけど、運送対象に限り、運び屋ポーターの判断で鑑定が出来るよう、五年前に法が改訂されました」

 それでもこの手の詐欺や犯罪はまだ横行しているが、以前に比べれば減ってきている。

 しかしなお、ベルハイトは難しい顔のまま。

「それって普通、鑑定師に依頼するのでは…?」

「ええ、まあ。でも自分で鑑定したほうが、時間も手間も省けますし」

 近くにギルドがあればいいが、そうでないと鑑定師を探すのも一苦労だ。

「分かりますけど、簡単に身につくような技術じゃないでしょ……」

 ベルハイトは何故か呆れたように笑っていて。
 見渡すと、シェリーとヒューゴ、アネットは狐につままれたような顔。そんな中、

「やっぱルカって、すごいんだな!」

 静かだったカインがパアッと顔を輝かせたかと思うと、それにつられたヴィクトルが声を上げて笑いだした。
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