底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第二十三話 ユトス到着

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「よっ!ご両人!」

 ユトスの冒険者ギルドの扉を開けた直後。その人は上機嫌で僕達を出迎えた。

 何か良い事でもあったのだろうか、と思いながら挨拶を返す。
 
「どうも」

「なんでいるんですかダイアーさん今ユトスの周りはプラドフロッグが増える時期だから冒険者は繁忙期ですよね?仕事してきてください」

 今僕の隣で、先輩冒険者に再会の挨拶もせず、棘しかない言葉を一息に捲し立てたのは、本当にベルハイトだろうか。
 
 そっと隣を見上げると、ベルハイトは忌まわしいものでも見るような顔でダイアーを見やっている。

 しかし当のダイアーは気にもとめず、からからと笑う。

「せっかく俺が出迎えてんだから、素直に喜べよ」

「頼んでません。そもそも、いないと思って安心してたのに…」

 ベルハイトは苦虫を噛み潰したような表情で溜め息をついた。ダイアーがいると、何かまずい事があるのだろうか。
 
 いつまでも出入り口にいては邪魔になるので、ダイアーと共に支部長室へ向かう。
 ダイアーは最後尾を歩きながら、
  
「そういやカインの奴が、「ルカと手合わせする!」って張り切ってたんだが……」

 その手合わせ、了承した覚えはない。

「戻って早々、例のカエル討伐に狩り出されちまってな。泣く泣く出かけてったぜ」

 カエル――プラドフロッグは、その名にある通り、カエルに似た魔物だ。大きさは野ウサギくらいで人を襲うことはあまりないが、何故か馬を好んで食べる。旅人の馬や馬車が襲撃されることもあり、プラドフロッグの数が増える時期は、自ずと討伐依頼ガ増えるのだ。

 ベルハイトは早足で先頭を歩きながら、

「ダイアーさんが代わってあげれば良かったじゃないですか」

「お前……。今日は、やけに俺に冷たいな」

 確かに。すごくトゲトゲしい。

 しかしダイアーはそんなことは全く引きずらずに、僕の肩をぽんっと叩く。

「というわけで、手合わせは俺とやろうぜ!」
 
「…………」

 やろうぜ!じゃない。絶対嫌だ。
 これから王都まで行くというのに、何でわざわざSランクと手合わせして体力を削らなければならないのか。

「なー、いいだろ?やろーぜー?なーあー」

 ダイアーが僕の肩を掴んでガクガクと揺する。

 子供のような駄々のこね方をしないでほしい。

 僕はダイアーの手を無理矢理がし、

「その手合わせ、僕にメリットが無いです。疲れるし、お腹が空きます」

「俺と手合わせなんて、メリットそのものじゃねぇか。いい鍛錬になるぞ」

 やはりSランクは言う事が違う。
 冒険者はその腕っぷしが物を言う世界。強者の技術を自身で受け、己の力をぶつけるチャンスは貴重なものだ。冒険者なら、喜んで自ら手合わせを願い出るだろう。

 しかし、あいにく僕は冒険者じゃない。

「ご遠慮ください」

「えぇー……」

 ダイアーは腕を組んでしばらく唸っていたが、凄い賭け品を提示した。
 
「……よし!嬢ちゃんが勝ったら、好きなもん、いくらでも奢ってやる!」

「やります」「駄目です」

 即答したらベルハイトに即却下された。

 ベルハイトは呆れたように、

「ここでお昼食べて一休みしたら、出発する予定だったでしょう?」

「む……」

 そうだった。つい無料食べ放題につられてしまった。

「その前に孤児院に行って話を聞く。ルカさんが言ったんじゃないですか」

「…………」

 ちょっと無料食べ放題につられただけなのに、ベルハイトがいつになく厳しい。

 ……なんか引っかかる。

「……ベルハイトさん。ユトスから早く離れようとしてませんか?」

「…………」

 ベルハイトは僕の問いに無表情という返答をし、支部長室のドアをノックした。



 冒険者ギルドでヨハンに挨拶し、タストラ魔窟ダンジョンの詳しい調査結果や謎の魔石の件について情報共有した後。

「ここが孤児院です」

 僕とベルハイトは謎の魔石が持ち込まれた孤児院を訪ねた。

 [パトリッジ孤児院]。
 
 小さいながらも庭や建物は綺麗に整えられており、時折聞こえる子供達の笑い声からも、とても穏やかで明るい印象を受けた。

 門をくぐって敷地に入ると、庭で遊んでいた数人の子供が気づき、ピタリと止まって遠巻きに僕達を見ている。
 
「おにーちゃん、だぁれ?」

「ちがうよ、お姉さんだよ」

「あ!知らない人に話しかけちゃいけないんだよ!」

 距離はとっているものの、みんな興味津々といった様子。
 ついでに取り次いでもらおうと思い、挨拶をしようとした時、
 
「どうしたんだい?」

 子供達の声を聞きつけたのか、建物から高齢の男性が出てきた。子供達はそちらへパタパタと走っていく。

「いんちょーせんせー!」

「あのね、知らない人がいるの」

「あのひと、だぁれ?」

「おにいさん?おねえさん?」

 再び口々に喋りだす子供達。
 院長先生と呼ばれた男性がこちらを見、ベルハイトが挨拶をする。
 
「すみません、冒険者ギルドの者です」

「…ああ!カインが言っていた方達ですか」

 院長は子供達に「お客様だから、静かにしてるんだよ」と言いつけ、中へ通してくれた。カイン達があらかじめ伝えてくれていたおかげだ。

 応接室と思われる一室でお茶と茶菓子を振る舞われ、お礼を言ってソファーに座る。
 院長も向かいに腰掛けながら、
 
「すみませんね。人が来ると、どうしても気になるみたいで」

「いえ」

 ちらりと窓を見ると、ぺたりと張りついた小さな顔が、さっと隠れた。ここは先程の庭がすぐ見える位置のようだ。
 その後も来客が気になるのか、数人がこちらを覗いては離れるを繰り返していたが、やがて飽きたのか、はしゃぐ声が遠ざかっていった。

「ご用件は、あの石のことでしたね」

 院長の声に、僕は意識をそちらへ戻す。

「はい。あれを持って来た男性について、詳しくお伺いしたくて」

「そうですね……。私も歳なので、あまりよくは覚えていないのですが」

 院長はそう前置きし、

「私が覚えている限り、初めていらっしゃる方のようでした。旅人のような風体で、歳は…四十前後でしょうか」

「あの石のことは、なんと言っていました?」

魔窟ダンジョンで採れるもので、珍しいものだから良い値で売れるだろう、と」

 謎の魔石がどういったものかはともかく、魔窟ダンジョンなら、謎の魔石ああいったものが出てきても不思議はない。現時点での問題は、男が言った事が本当かどうかだ。

「ああ、そういえば」

 院長が、ふと口を開く。
 
「少し、こちらの言葉に不慣れなように感じました」

「オルベリア語に、ですか?」

「ええ。発音に少し違和感があった程度ですが」

「…………」

 オルベリアの公用語はオルベリア語だが、一部の部族がその部族独自の言語を使っている。その男はそういった部族の出か、あるいは他国の人間ということだろうか。

 それ以上は特にこれといった情報はなかった。
 謎の魔石を持って来た男は、偶然それを手に入れただけのただの旅人か。それとも自ら謎の魔石を入手し、何かの目的があって孤児院に渡したのか。

 今は考えても仕方ない、か。

 もしまたその男が来るような事があれば、すぐに冒険者ギルドへ知らせるよう院長に伝え、僕とベルハイトはその場を後にした。

 孤児院の門を出たあと、なんとなく振り返る。すると、それに気づいた子供達が笑顔で手を振ったので、僕も小さく手を振り返した。
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