底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第五十六話 居場所

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 結果として。

「罪人が脱走した!!絶対に逃がすな!!」

 僕とローガンは、衛兵達に追われながら詰所の通路を走る羽目になった。なんのために忍び込んだのだろう、と思わなくもないが、僕が話に気を取られてしまっていたのも事実なので、要反省である。

 走りながら、ローガンが「あ!」と声を上げた。

「おじさんの槍とか魔法鞄マジックバッグとか、どーしよ?!」

「回収してあります」

 拘束された時に押収されたローガンの装備品は、夜勤の衛兵のすぐそばにあったので、先に[無限保存庫ストレージ]に回収した。

「え?!うそ!スパダリ~。……ん?てことはお嬢ちゃん、最初からおじさんのこと連れて帰るつもりだったの?」

「……」

「も~、ツンデレじゃ~ん!」

 ニヤニヤとだらしない顔で隣を走るローガンを無視し、後ろをちらりと見る。

「待てこの野郎!!お前にセリーンは渡さんぞ!!」

 衛兵はなおも怒鳴りながら追いかけてくる。 
 この調子では、詰所にいる全ての衛兵が集まってきそうだ。さすがに全員の相手をするのは、御免こうむる。

 こうなってしまっては、本来なら蹴散らすなり何なりして脱出し、追っ手を撒かなければならないが、今の僕には、速やかにこの場から離脱するのにうってつけの魔法がある。

 せっかくだし、試してみるか。

「ローガンさん。そこの先の角を二つ曲がったら死角に入るので、宿まで

……?…あ、マジで?」

 首を傾げたあとすぐに察し、ローガンは先程までの笑顔を引き攣らせた。「それ初めて使うんだよね?おじさんちょっと怖いなー」などと言っているが、知ったことではない。

「嫌なら自力で振り切ってください。僕は先に戻りますから」

「ごめんなさい連れてってください」

 うむ、素直でよろしい。

 エレメンタルドラゴンが僕達を転移させた時に放出されていた魔力量から考えて、僕とローガンの二人を宿屋まで転移させる魔力は充分にある。

 僕は角を曲がったところでローガンの腕を掴み、

「――空間転移トランステラ

 タンッ、と靴の底が床を鳴らした瞬間、辺りは白い光に包まれた。





「――っ?!」「うわ!!」「きゃあっ?!」

 ユリウスとソニアの悲鳴が聞こえて顔をそちらに向けると、咄嗟に二人の前に出たのであろうベルハイトがぽかんとしていた。

「びっ……くりした……。今のまさか、転移ですか?…あ、ローガンさん」

「あー…ははは……。ただいま~」

 出戻ったローガンは気まずそうに頬を掻いた。

 彼が牢で何を考えていたかは、今ここで言うことではないだろう。ローガン自身がそれを精算する目処をつけた時、自分で明かすか、誰にも告げずに為すかは彼の自由だ。

 僕はベルハイトに向き直り、

「驚かせてすみません。思いのほか、衛兵さん達が熱烈だったので、ついでに[空間転移トランステラ]の試運転を」

 二人でこの距離を跳んで、この魔力消費量ならば、[無限保存庫ストレージ]を普段通り使っていても、かなりの距離を跳べそうだ。

 ローガンが拘束されたそもそもの理由が痴情のもつれだと分かった時は置いていってやろうかと思ったが、思いがけず[空間転移トランステラ]の実証実験ができた。

「それで、なぜ衛兵に拘束された?ルカが連れ帰ったということは不当な理由だったのだろうが、一体なにがあった?」

「うえっ?え~と……」

 ユリウスに尋ねられて視線を泳がせるローガンの代わりに、簡潔に答える。

「痴情がもつれて絡まってました」

「え……。まさか、あのギルド職員が言ってたとおりだったんですか?」

 僕の答えにベルハイトが眉を顰めた。

 そう、そのまさかです。

 僕が深く頷くと、ベルハイトは溜め息をつきながらローガンを見やった。
 首を傾げているユリウスとソニアに説明すると、

「なにをやってるんだ、貴方は……」

「えーと……。お疲れ様でした…?」

 片や呆れ、片や苦笑いする二人。それに対してローガンはへらりと笑うしかない。
 その表情に、どこか安堵したような色を見て、僕も内心ほっとした。

「じゃあ、これで父上達の元へ行けるんだな?」

「はい。ローガンさん、できますよね?」

 神聖魔法[記憶の標レクエルド=ビーコン]。
 術者と共通の記憶を持つ人や場所を特定する魔法。神聖魔法の中でも上級にあたるものだ。

「本当に神聖魔法に適性があるんだな」

 ユリウスがローガンに視線を移し、ぼそりと呟く。

「…………似合わないな」

「えぇ…、ひどい……」

 神聖魔法には治癒系の魔法が多く、上級の魔法を操る者は高位神官の地位を与えられたり、女性であれば聖女と呼ばれることもある。要するに、そういうイメージが強いのだ。

 そういえば、[真なる栄光]のカミラは四元魔法の水属性の他に、神聖魔法にも適性があるようだった。ただ、一度使っているところを見た限りでは、初級の治癒魔法を全詠唱しており、擦り傷などの軽傷を治す効果だけのようなので、適性自体は低いと見える。

 ローガンは神官なんて柄ではないだろうし、カミラはまあ……、難ありだ。そもそも魔法適性に、似合う似合わないという主観によるものは関係無いだろう。

 ……でも。

「ベルハイトさんは精霊魔法でしたね」

「?そうですよ」

 ……うん。

「似合いますね」

「……はい?」

 この人が妖精とか精霊に囲まれていても、たぶん違和感はない。ベルハイトに対する僕の個人的なイメージが、純粋、素直、実直。
 清廉な気質であると言われる精霊や妖精に、どこか通じるところがある。……と、思う。

「可愛いと思います」

 妖精。

「………………はい?」

 この時主語を省いた結果、ベルハイトが誤解をしたことに僕が気づくのは、まだずっと後のこと。

 それはそれとして。

 疑問符を浮かべているベルハイトをそのままに、

「この場所も、いつ割り出されるか分かりません。バライザ王のところへ行きましょう」

 そう言ってローガンに視線をやると、「はいよー」と気の抜けた返事が帰ってきた。
 
「おじさん全詠唱だから、ちょっと待ってねー」

 そう前置きしてから、ローガンはその場に胡座で座り込み、詠唱を始めた。
 彼を中心に魔法陣が広がり、光の粒子が舞う。

「――追憶を示せ、記憶の標レクエルド=ビーコン

 光の粒子が空気に溶けるように散り、魔法陣は淡く発光を続ける。

「…………んん?」

 しばらくして訝しげに眉を顰めたローガンは、そのままさらに居場所を探っていたが、

「………………いない」

 呟かれた声に、ユリウスが「え?」と目を瞠った。続けてローガンが口にしたのは、予想外の言葉。

「……城にいない。二人とも」
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