底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第五十七話 ラマンドラ神殿①

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 バライザ王国、王都ジャンレーの北側。
 ザナ渓谷を奥へと進んだその場所で、僕達は目の前にそびえるを見上げていた。 


 遡ること二時間ほど前。
 王城に忍び込むにあたり、必要最低限で内部を移動できるよう、ローガンに神聖魔法[記憶の標レクエルド=ビーコン]でバライザ王と王太子の居場所を探ってもらった。
 しかし分かったのは、当然城にいると思っていた二人はそこにはいないという結果。

 それに一番当惑したのはユリウスだった。

「城を空けるような公務は予定に無いはずだし、そもそも姉上も俺もいない今、二人とも揃って不在にするなんてあり得ない…!」

 ユリウスの言う通り、常識的にも状況的にも不自然だ。そうなると、二人が自らの意思で城を離れたのかどうかも怪しい。

 ローガンの話では、[記憶の標レクエルド=ビーコン]の反応はジャンレーの北側へ消えたが、それ以上は範囲が広すぎてここから探るのは難しいらしい。
 しかし、[記憶の標レクエルド=ビーコン]に反応があり、方角が分かっているのなら探しようがある。
 僕達はそのままジャンレーから北方へ出て、再度ローガンに二人の居場所を調べてもらった。すると、

「……ザナ渓谷の方だ。その一番奥、かな」

「ザナ渓谷って、王様が出向くような場所なんですか?」

 しかも、こんな夜更けに。

「う~ん……。砦があるわけでもないしねぇ」

 ローガンが考え込んでいると、口を開いたのはユリウスだった。

「……ザナ渓谷の最奥には、ラマンドラ神殿がある」

 その声はどこか重々しく、視線は伏せられていた。

「古代遺跡として登録されているから、神殿の存在自体は誰が知っていてもおかしくないが、立ち入ることは禁止されている」

「そーいや、そんな所あるって聞いた気が……。前にザナ渓谷の依頼を受けた時に、神殿には絶対に近づかないように、ってギルドから言われたっけ。だから実際に見たことはないけど」

 ローガンが思い出したように言った。

 立ち入り禁止の神殿。そこにいる王と王太子。ユリウスの様子。
 浮かぶ疑問から生まれる推測は、あまり良いとは言えないものばかりだ。

「そこって、何かあるんですか?」

「それは……」

 問うと、ユリウスはぎゅっと唇を引き結んだ。
 言いたくない、というよりは、言えない、といった表情。
 彼がこの状況で情報を開示しない理由は察しがつく。 

「もしかして、国家機密ですか?」

「…………」

 ユリウスは肯定も否定もせず一度視線を逸らしたが、

「お前達を信用していないわけじゃないんだ。しかしは……」

 言葉を探すユリウスを、僕は片手を挙げて制した。

「無理に訊くつもりはありません。僕達の目的は人工魔石の回収で、ラマンドラ神殿の秘密ではないですから」

 国家機密なんて、不用意に触れてもお互いに良いことなどない。場合によっては関わらざるを得ないこともあるかもしれないが、ここで問い詰めるつもりはない。
 
 今はただ、バライザ王と王太子の元へ行くべく、僕達はザナ渓谷の最奥へ向かった。





 そして辿り着いたラマンドラ神殿。
 石の柱が誘うように石畳の左右に立ち並び、その先にそびえる同じく石造りの建造物。絡みついた蔦や、経年劣化で欠けた箇所はあるものの、充分すぎるほど荘厳な姿をしている。しかし、

 ……嫌な感じだ。
 
 まるで渓谷の最奥の一部のように佇むその神殿からは、何か得体の知れない気配が漂っていた。

「やだねぇ…。ヒリヒリする」

「何かいるんでしょうか……?」

 同じく何かの気配を感じとったローガンとベルハイトが、神殿の様子を窺いながら呟いた。

 ほんの少し開いていた扉を、ベルハイトとローガンが押し開けると、床に落ちていた小石が扉に弾かれ、カラカラと転がる音が内部に響いた。

 天井は高く、明かり取りから差し込む光のおかげで内部は不便がない程度には明るいが、かすかに苔むした空気はどことなく重い。聞こえるのは僕達の足音だけだが、先程から感じている気配のせいか、静けさよりもザワザワとした感覚が強くまとわりついてくる。

 見回した限り真っ直ぐ進むしかないようなので、ベルハイト達と視線を交わして先へと進んだ。

「…………」

 黙って歩くユリウスを窺い見ると、その表情は暗い。
 父親と兄に対する心配もあるだろうが、どうやらそれだけではなさそうだ。彼が言えなかった、ラマンドラ神殿の国家機密。それも影を落としている要因かもしれない。

 なんだか見ていられなくなり、僕はさりげなくユリウスの隣へ場所を移動した。

「ユリウスさん。体調が優れないようなら、[無限保存庫ストレージ]に入りますか?何かあったらすぐ知らせますから」

 ユリウスだけに聞こえるよう、小声で提案した。皆に、特にソニアに聞こえれば、とても心配するだろうから。

 僕の提案に、ユリウスは青い顔のまま目を瞠ったが、すぐに首を振り、

「大丈夫だ。自分で歩ける。……ありがとう」

 そう言って、真っ直ぐに前を見据えた。
 その横顔を見て、これ以上何か言うのは野暮だろうと思い、僕は黙って頷いた。

 数拍おいたあと、ユリウスは再びこちらを見た。その顔は、なぜか苦虫を噛み潰したようなそれでだったので、僕は首を傾げる。

「どうしました?」

「お前、もう少し距離感を考えたほうがいいぞ。俺に気を遣って話すためなのは分かってるが、はたから見ると近すぎる」

「距離感……」

 改めて、僕とユリウスの距離を見た。僕の方が背が低いため、僕の肩とユリウスの腕がギリギリ触れない距離。
 神殿内が静かなため、かなり近づいて話してしまったが、これが良くなかったらしい。

「ユリウスさん、近づかれるの苦手だったんですね。すみません」

 少し離れながら謝ると、ユリウスは眉間のシワを深くした。

「そうじゃなくて、異性との……。いや、いい。どうせ言っても分からないだろうし。とにかく、俺に限らず距離は適度に保つようにしろ」

「了解です」

 こういうところも、ベルハイトが以前言っていた「常識から逸脱」している部分なのだろうか。
 そう考えていると、

「あ、ベルハイト相手なら好きにしていいぞ」

 なぜ。

 ちょうど思い浮かべていた人物の名が出てきたが、出てきた理由が分からない。
 僕が疑問を口にする前に、ユリウスは歩調を速めて前を歩くローガン達を追っていく。

 残された僕はベルハイトの背中を見ながら、ただただ首を傾げるばかりだった。
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