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ブラックレオン討伐
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「それにしても、ブランドンさん、キャロルがついてくるのをよく許してくれたな」
「お兄さんを信頼してるから、ってお父さんは言ってましたよ」
朝食をとってからすぐに、俺はキャロルを連れて平原に向かった。
昼間の平原は魔物どころか獣も見かけないくらい、そよそよと風の吹く平和な場所だ。
「安心してください、私もお兄さんに守ってもらってばかりじゃありません。これを使って、お兄さんを必ず守ります!」
俺の右隣を歩くキャロルは荒い鼻息とともに、背負っていた巨大な槍を掲げた。
「物置の奥に立ててあったけど、キャロルの武器だったんだ……」
「私の10歳の誕生日に、お父さんが買ってくれたんです。この鉄騎槍『ブルズランス』は、ゴブリンなら5匹まとめて潰せるほど頑丈なんですよ」
キャロルは平然と振り回してるが、鉄の塊を切り出したような槍の重厚さは、見てるだけでもよく分かる。
ついでに言うと、こんなものを扱えるのはきっと牛角族だけだろうな。
「……もしかして、けっこう重い?」
「試しに持ってみますか? 大丈夫ですよ、腕が折れないように支えますから!」
「ははは、やめとく。荷物を狼に運んでもらう程度の俺じゃあ、槍に潰されそうだしな」
俺は笑いながら、左隣をのしのしと歩む狼の頭を撫でた。
金属と複数の武器を元に生命を与えた狼は目つきも鋭く、人間ほどのサイズも相まって、魔物と並べても遜色ない威圧感を放ってる。
「その狼、何に【生命付与】したんですか?」
「ひとつのものじゃない。いくつものガラクタに【生命付与】スキルを使って合体させた、『鉄くずの狼』だよ」
スキル【生命付与】が命を与えられるのは、ひとつの物体だけじゃない。
似通った材質だとか、サイズにも制限はあるけど、複数の素材を合体させて別の生命を造り上げることだってできる。
少し前に、『双角屋』の物置を整理した時、壊れた棚をいくつかの蝶に生まれ変わらせて合体させたことがあるだろ?
あれの応用みたいなものだ――今回は、もっと秘密を盛り込んでるけどな。
「でも、それだけじゃない。こいつには秘密が……おっと」
その隠しギミックをキャロルに話そうとした時、森の中から何かが飛び出してきた。
『ガルルルアアァァッ!』
黒い体毛と黒いたてがみ、オークに匹敵する巨躯と長い爪を携えた四肢。
いくつもの牙が並んだ口に、瀕死のジャッカロープを咥えた凶暴な顔立ち。
そして黄色い瞳をぎらつかせているさまからして、間違いなく凶悪な魔物だ。
「……あれが、喫茶のおばさんが言ってた魔物か」
「はい、『ブラックレオン』です。前にいたオーク、一昨日やっつけたゴブリンと同じで、この辺りには絶対にいないはずの魔物です」
あれがブラックレオンって名前じゃなきゃ、信じられないな。
そいつはジャッカロープを投げ捨てて、足を止めた俺達をぎろりと睨みつけた。
「お兄さん、魔物がこっちを見てます!」
「次の獲物は俺達、か……上等だ」
こっちとしては、探す手間が省けたからありがたい。
「俺とこいつでブラックレオンを引き付けてダメージを与える! 隙を見せたら、キャロルが横から槍でどぎつい一撃をぶち込んでやれ!」
「は、はい!」
俺とキャロルが臨戦態勢を取ると、ブラックレオンが咆哮と共に突進してきた。
『グルオオオ!』
作戦通りキャロルが迂回するように走り出すと、敵の標的は俺になる。
もちろん、俺は逃げ出すつもりなんて毛頭ない。
なぜならこっちには、体毛の如く寝かせていた剣を逆立たせて、牙を剥き出しにした狼がいるからだ。
生命を与えるスキルは、その生き物の性質を維持したまま、形を作り替えることができる。
つまり、複数の武器や鎧で造った生物なら――。
『ワオオォーンッ!』
――自我を持って武器を操る、戦闘生物になる。
俺が命令を下すまでもなく、狼は剣を正面に向けたまま、ブラックレオンと激突した。
『ガウッ……ギャアァース!?』
突進して噛みつき、狼を倒してしまおうとしたブラックレオン。
だけど、逆に刃の欠けた剣を体中に突き刺されて、絶叫しながら転げまわる。
売り物にならないからタダでいい、なんて言ってた武具屋のおじさんからもらったおんぼろ武器でも、使い道はあるもんだな。
「こっちの狼は鋼鉄製、しかも刃が飛び出してる! ライオンだからって噛みつけば、大ケガ間違いなしだっての!」
無傷でピンピンしてる鋼の狼を見て、ブラックレオンは飛び退く。
様子をうかがおうって算段だろうけど、余裕を与えるわけがないだろ。
「そんでもって、距離を取れば安全だと思うなよ!」
俺の意志を感じ取ったように、狼が口を開く。
すると、先のとがった鉄の棒が口から射出され、ブラックレオンの腹を見事に貫いた。
『アギャアア!』
刃を刺され、腹をえぐられ、魔物の顔から生気が失われてゆく。
よし、口の中から鉄の棒を飛ばすシステムは成功だ。
物置に置いてあったクロスボウの仕組みをちょっとだけ勉強して、同じ要領で杭を発射できる機能を追加したんだが、想像以上の威力だな。
こんな風に【生命付与】する時に追加するイメージがもっと細かくなれば、色んな武器に変えられる。
俺の想像力次第で、スキルは枠組みを超えてもっと強くなるはずだ。
「キャロル、とどめだ!」
狼のスペックを確認した俺にとって、もうブラックレオンに用はない。
すでに魔物の死角に回り込んでいたキャロルが、思い切り鉄の槍で敵を殴りつけた。
「どおおりゃあああぁーッ!」
雄叫びを上げながら振るわれた槍の一撃は、ブラックレオンの頭を一撃で潰した。
どれくらいの威力かって言うと、槍が地面に激突した瞬間、少し離れていた俺の足元が衝撃でグラグラと揺れるくらいだ。
自分よりも強いパワーの持ち主だって、ブランドンさんの話は嘘じゃないな。
あの子を怒らせないように気を付けよう――喧嘩になったら、勝てる気がしない。
「すごいパワーだな、キャロル……」
めきめきとブラックレオンの頭蓋骨を砕いて絶命させたキャロルは、俺よりも確実に重い槍を軽々と背負い、にっこりと微笑む。
「えへへ、一撃でやっつけられました! あとはこれを担いで帰るだけですね、お兄さん!」
キャロルはブラックレオンの亡骸を担ごうとしたけど、代わりに狼に背負わせた。
女の子にこれ以上、重労働をさせるつもりはないしな。
「と、その前に。せっかくだから、素材も集めていくとするか」
それにまだ、俺の目的は終わっちゃいなかった。
次の目的地は、すぐ目の前に見えるブリーウッズの森だ。
「お兄さんを信頼してるから、ってお父さんは言ってましたよ」
朝食をとってからすぐに、俺はキャロルを連れて平原に向かった。
昼間の平原は魔物どころか獣も見かけないくらい、そよそよと風の吹く平和な場所だ。
「安心してください、私もお兄さんに守ってもらってばかりじゃありません。これを使って、お兄さんを必ず守ります!」
俺の右隣を歩くキャロルは荒い鼻息とともに、背負っていた巨大な槍を掲げた。
「物置の奥に立ててあったけど、キャロルの武器だったんだ……」
「私の10歳の誕生日に、お父さんが買ってくれたんです。この鉄騎槍『ブルズランス』は、ゴブリンなら5匹まとめて潰せるほど頑丈なんですよ」
キャロルは平然と振り回してるが、鉄の塊を切り出したような槍の重厚さは、見てるだけでもよく分かる。
ついでに言うと、こんなものを扱えるのはきっと牛角族だけだろうな。
「……もしかして、けっこう重い?」
「試しに持ってみますか? 大丈夫ですよ、腕が折れないように支えますから!」
「ははは、やめとく。荷物を狼に運んでもらう程度の俺じゃあ、槍に潰されそうだしな」
俺は笑いながら、左隣をのしのしと歩む狼の頭を撫でた。
金属と複数の武器を元に生命を与えた狼は目つきも鋭く、人間ほどのサイズも相まって、魔物と並べても遜色ない威圧感を放ってる。
「その狼、何に【生命付与】したんですか?」
「ひとつのものじゃない。いくつものガラクタに【生命付与】スキルを使って合体させた、『鉄くずの狼』だよ」
スキル【生命付与】が命を与えられるのは、ひとつの物体だけじゃない。
似通った材質だとか、サイズにも制限はあるけど、複数の素材を合体させて別の生命を造り上げることだってできる。
少し前に、『双角屋』の物置を整理した時、壊れた棚をいくつかの蝶に生まれ変わらせて合体させたことがあるだろ?
あれの応用みたいなものだ――今回は、もっと秘密を盛り込んでるけどな。
「でも、それだけじゃない。こいつには秘密が……おっと」
その隠しギミックをキャロルに話そうとした時、森の中から何かが飛び出してきた。
『ガルルルアアァァッ!』
黒い体毛と黒いたてがみ、オークに匹敵する巨躯と長い爪を携えた四肢。
いくつもの牙が並んだ口に、瀕死のジャッカロープを咥えた凶暴な顔立ち。
そして黄色い瞳をぎらつかせているさまからして、間違いなく凶悪な魔物だ。
「……あれが、喫茶のおばさんが言ってた魔物か」
「はい、『ブラックレオン』です。前にいたオーク、一昨日やっつけたゴブリンと同じで、この辺りには絶対にいないはずの魔物です」
あれがブラックレオンって名前じゃなきゃ、信じられないな。
そいつはジャッカロープを投げ捨てて、足を止めた俺達をぎろりと睨みつけた。
「お兄さん、魔物がこっちを見てます!」
「次の獲物は俺達、か……上等だ」
こっちとしては、探す手間が省けたからありがたい。
「俺とこいつでブラックレオンを引き付けてダメージを与える! 隙を見せたら、キャロルが横から槍でどぎつい一撃をぶち込んでやれ!」
「は、はい!」
俺とキャロルが臨戦態勢を取ると、ブラックレオンが咆哮と共に突進してきた。
『グルオオオ!』
作戦通りキャロルが迂回するように走り出すと、敵の標的は俺になる。
もちろん、俺は逃げ出すつもりなんて毛頭ない。
なぜならこっちには、体毛の如く寝かせていた剣を逆立たせて、牙を剥き出しにした狼がいるからだ。
生命を与えるスキルは、その生き物の性質を維持したまま、形を作り替えることができる。
つまり、複数の武器や鎧で造った生物なら――。
『ワオオォーンッ!』
――自我を持って武器を操る、戦闘生物になる。
俺が命令を下すまでもなく、狼は剣を正面に向けたまま、ブラックレオンと激突した。
『ガウッ……ギャアァース!?』
突進して噛みつき、狼を倒してしまおうとしたブラックレオン。
だけど、逆に刃の欠けた剣を体中に突き刺されて、絶叫しながら転げまわる。
売り物にならないからタダでいい、なんて言ってた武具屋のおじさんからもらったおんぼろ武器でも、使い道はあるもんだな。
「こっちの狼は鋼鉄製、しかも刃が飛び出してる! ライオンだからって噛みつけば、大ケガ間違いなしだっての!」
無傷でピンピンしてる鋼の狼を見て、ブラックレオンは飛び退く。
様子をうかがおうって算段だろうけど、余裕を与えるわけがないだろ。
「そんでもって、距離を取れば安全だと思うなよ!」
俺の意志を感じ取ったように、狼が口を開く。
すると、先のとがった鉄の棒が口から射出され、ブラックレオンの腹を見事に貫いた。
『アギャアア!』
刃を刺され、腹をえぐられ、魔物の顔から生気が失われてゆく。
よし、口の中から鉄の棒を飛ばすシステムは成功だ。
物置に置いてあったクロスボウの仕組みをちょっとだけ勉強して、同じ要領で杭を発射できる機能を追加したんだが、想像以上の威力だな。
こんな風に【生命付与】する時に追加するイメージがもっと細かくなれば、色んな武器に変えられる。
俺の想像力次第で、スキルは枠組みを超えてもっと強くなるはずだ。
「キャロル、とどめだ!」
狼のスペックを確認した俺にとって、もうブラックレオンに用はない。
すでに魔物の死角に回り込んでいたキャロルが、思い切り鉄の槍で敵を殴りつけた。
「どおおりゃあああぁーッ!」
雄叫びを上げながら振るわれた槍の一撃は、ブラックレオンの頭を一撃で潰した。
どれくらいの威力かって言うと、槍が地面に激突した瞬間、少し離れていた俺の足元が衝撃でグラグラと揺れるくらいだ。
自分よりも強いパワーの持ち主だって、ブランドンさんの話は嘘じゃないな。
あの子を怒らせないように気を付けよう――喧嘩になったら、勝てる気がしない。
「すごいパワーだな、キャロル……」
めきめきとブラックレオンの頭蓋骨を砕いて絶命させたキャロルは、俺よりも確実に重い槍を軽々と背負い、にっこりと微笑む。
「えへへ、一撃でやっつけられました! あとはこれを担いで帰るだけですね、お兄さん!」
キャロルはブラックレオンの亡骸を担ごうとしたけど、代わりに狼に背負わせた。
女の子にこれ以上、重労働をさせるつもりはないしな。
「と、その前に。せっかくだから、素材も集めていくとするか」
それにまだ、俺の目的は終わっちゃいなかった。
次の目的地は、すぐ目の前に見えるブリーウッズの森だ。
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