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第七章 秘伝と任されたもの
454 奇跡なのだろう
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蓮次郎達は、この時にはしっかりと距離を取ることにしていた。
「うわ~……なんか動いてる……いよいよ?」
「これはすごいねえ」
「っ、エルラント殿!?」
「やあ」
蓮次郎の傍に現れたのは、エルラントだった。昨日、体育館で挨拶した時とは色違いの、今日は少し大人しめの茶色い服だ。
「ヨウカが見てきてくれと言うものだからね。三人で来たんだ」
「三人……キルティス様とイスティア様ですか」
「うん。あそこに居るよ」
「……」
日が暮れ出した頃。眩しくはないので遠慮なく指を差された屋上に目を向ければ、そこには多くの人がいた。
「う、ウチの子たちもいる?」
「扉を繋いでね。映像も撮るけど、やはり珍しいものは見られるなら見なくてはね。高耶くんは生で見られなくて残念だ」
「……本当に珍しいのですね……」
「そうだね。神には雌雄がないのが多い。性格で男性的とか、女性的と言えるものはあるが、生物としては雌雄なしということになる」
「え、ええ……」
そう知ってはいても、男性的に見えれば、そう接したりしているため、意識していなかった。これは多くの術者がそうだ。神も、そう見せようとしているのだと思っていた。
「だが、この神は完璧な女神だ。母神と呼べる生み出す力を持った力の強い女神のようだ」
「っ……生み出す? 神を……ですか?」
「色々だよ。精霊を生み出すこともあるだろう。小さな神も、そして、妖も」
「妖も!?」
「どちらかというと、人に近いものをだ。私たちのようなものや、そうだな……雪女もそうだ」
「っ……」
「人と番えるほど、知性を持ったものを生み出す。だがまあ……すぐには無理だ。千年は生まないだろう」
「……そ、そうですか……千年……」
気の長い話だが、それが神からすれば当たり前の感覚だろう。
「だから、多くの土地神達が見守っている。目だけ飛ばしてきているようだ」
「神にとってもそんなに……珍しいことだと?」
「ああ。発生条件が難しいとキルティスは言っていたな。恐らく、高耶くんがこれに関わらなければ、この神も消滅していただろうと」
「……何が必要だったのです?」
「神木……それと繊細な力と場の調整……高耶くんの一音ずつ調律するように整えていく能力は、天性のものだろう。そこに、神力も加わり、最適な環境が整った」
「……」
今や、トクントクンと、空気に波動が伝わるほど、サナギは波打っていた。それを校舎沿いまで離れて見上げながらエルラントは嬉しそうに微笑む。
「これが幼虫の状態の時は、禍いを寄せやすくなるんだ。それで、神職の者達は、神ではなく災いとして処理した。見た目も良くないからね」
「……」
良くないなどと、エルラントのようにはっきり言うことは蓮次郎にも出来なかった。構わずエルラントは続ける。
「まあ、神としては強いから、神職の者達では消滅させることなどできはしないのだけれど」
「……」
近くに居た神職の者達が、聞こえたのだろう。申し訳なさそうに肩を落としていた。
「恐らく、休眠状態になっていたこれが、再び活性化しようとしていた所に、高耶くんが来たのだろう。そこで高耶くんから神力を吸い、そこから指向性が生まれた。本来ならば、条件が揃わず、ただ不毛の地にする神が孵化するだけだった所に……」
「たまたま高耶くんが来た……」
「それも、神力の制御が緩くなっている彼がね。耐えれば助かるかもしれないと、望んだように生まれられるかもしれないと希望を持ったのだろう。まあ、その結果がこれだ」
「最良の結果ということですね……」
「素晴らしいことだよっ」
エルラントからすれば、母のような存在になるだろうか。どこから自分が発生したのか分からなかった。けれど、キルティスやイスティアの研究で、それが明らかとなったのだ。
「私にとっては、親戚のお姉さんということになるかもしれないね」
「……なるほど……」
どうやって発生したか分からない妖の幾つかは、どこかでこうして発生した女神が産み落としたものかもしれないと思えば、少しスッキリする。
「おや……いよいよかな。これは……土地の歌だ」
体育館からは、今まで歓声しか聞こえなかった。しかし、今ははっきりとピアノの音と歌声が聞こえてくる。
「神楽器を使わずにこれほどとはねえ」
「……っ」
そして、ゆっくりとサナギが割れた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「うわ~……なんか動いてる……いよいよ?」
「これはすごいねえ」
「っ、エルラント殿!?」
「やあ」
蓮次郎の傍に現れたのは、エルラントだった。昨日、体育館で挨拶した時とは色違いの、今日は少し大人しめの茶色い服だ。
「ヨウカが見てきてくれと言うものだからね。三人で来たんだ」
「三人……キルティス様とイスティア様ですか」
「うん。あそこに居るよ」
「……」
日が暮れ出した頃。眩しくはないので遠慮なく指を差された屋上に目を向ければ、そこには多くの人がいた。
「う、ウチの子たちもいる?」
「扉を繋いでね。映像も撮るけど、やはり珍しいものは見られるなら見なくてはね。高耶くんは生で見られなくて残念だ」
「……本当に珍しいのですね……」
「そうだね。神には雌雄がないのが多い。性格で男性的とか、女性的と言えるものはあるが、生物としては雌雄なしということになる」
「え、ええ……」
そう知ってはいても、男性的に見えれば、そう接したりしているため、意識していなかった。これは多くの術者がそうだ。神も、そう見せようとしているのだと思っていた。
「だが、この神は完璧な女神だ。母神と呼べる生み出す力を持った力の強い女神のようだ」
「っ……生み出す? 神を……ですか?」
「色々だよ。精霊を生み出すこともあるだろう。小さな神も、そして、妖も」
「妖も!?」
「どちらかというと、人に近いものをだ。私たちのようなものや、そうだな……雪女もそうだ」
「っ……」
「人と番えるほど、知性を持ったものを生み出す。だがまあ……すぐには無理だ。千年は生まないだろう」
「……そ、そうですか……千年……」
気の長い話だが、それが神からすれば当たり前の感覚だろう。
「だから、多くの土地神達が見守っている。目だけ飛ばしてきているようだ」
「神にとってもそんなに……珍しいことだと?」
「ああ。発生条件が難しいとキルティスは言っていたな。恐らく、高耶くんがこれに関わらなければ、この神も消滅していただろうと」
「……何が必要だったのです?」
「神木……それと繊細な力と場の調整……高耶くんの一音ずつ調律するように整えていく能力は、天性のものだろう。そこに、神力も加わり、最適な環境が整った」
「……」
今や、トクントクンと、空気に波動が伝わるほど、サナギは波打っていた。それを校舎沿いまで離れて見上げながらエルラントは嬉しそうに微笑む。
「これが幼虫の状態の時は、禍いを寄せやすくなるんだ。それで、神職の者達は、神ではなく災いとして処理した。見た目も良くないからね」
「……」
良くないなどと、エルラントのようにはっきり言うことは蓮次郎にも出来なかった。構わずエルラントは続ける。
「まあ、神としては強いから、神職の者達では消滅させることなどできはしないのだけれど」
「……」
近くに居た神職の者達が、聞こえたのだろう。申し訳なさそうに肩を落としていた。
「恐らく、休眠状態になっていたこれが、再び活性化しようとしていた所に、高耶くんが来たのだろう。そこで高耶くんから神力を吸い、そこから指向性が生まれた。本来ならば、条件が揃わず、ただ不毛の地にする神が孵化するだけだった所に……」
「たまたま高耶くんが来た……」
「それも、神力の制御が緩くなっている彼がね。耐えれば助かるかもしれないと、望んだように生まれられるかもしれないと希望を持ったのだろう。まあ、その結果がこれだ」
「最良の結果ということですね……」
「素晴らしいことだよっ」
エルラントからすれば、母のような存在になるだろうか。どこから自分が発生したのか分からなかった。けれど、キルティスやイスティアの研究で、それが明らかとなったのだ。
「私にとっては、親戚のお姉さんということになるかもしれないね」
「……なるほど……」
どうやって発生したか分からない妖の幾つかは、どこかでこうして発生した女神が産み落としたものかもしれないと思えば、少しスッキリする。
「おや……いよいよかな。これは……土地の歌だ」
体育館からは、今まで歓声しか聞こえなかった。しかし、今ははっきりとピアノの音と歌声が聞こえてくる。
「神楽器を使わずにこれほどとはねえ」
「……っ」
そして、ゆっくりとサナギが割れた。
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