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第四章 秘伝と導く音色
163 邪魔するモノ
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この部屋には小さめのピアノが一台。それを確認すると、修が嬉しそうに高耶に歩み寄ってきていた。
「やあ、高耶くん……でいいのかな? そちらの方が同行すると言っていた術者かい?」
陽も高耶と名前の方で呼ぶので、修も照れ臭そうにそう呼ぶ。そして、一緒に現れた源龍へ視線を一度向けた。
源龍が同行することは、連絡していたが、どういう人か、なぜかというのは説明していない。高耶自身も未だに源龍を同行させることの理由をよく理解できていないのだ。どう説明するべきかがわからなかった。
「はじめまして。榊源龍と申します。彼からは学ぶことが多いので、まとめ役からの助言で一緒に行動しております」
その説明で、野木崎仁が不思議そうに口を挟む。
「年齢は君の方が上ではないのかな? 保護者的なものだと思ったんだが」
ちょっと面白そうな顔をしていた。
「おい。失礼だろう」
陽の注意に、仁は肩をすくめて見せた。
「そうですね。私のせいで彼が下に見られるのは困ります。彼は当主としても、術者としても私よりも遥かに上です。私たちをまとめる組織でも、恐らく実力的には彼はトップクラスですからね。使役している式神からしてレベルが違い過ぎます」
「源龍さん……」
「ふふ。君は本当に褒められ慣れていないねえ。でも本心だよ?」
「……っ」
源龍も仁が冗談半分で言ったと分かっているため、楽しそうに笑っていた。照れて目をそらす高耶も珍しいのだろう。
「なるほど。失礼なこと言って悪かったよ。どうしても、その年で当主とか、ちょっと信じられなくて」
「でしょうねえ。私をはじめ、他の陰陽師の家は血筋重視ですから。このくらいで当主になったら父親の後を継いで順当にとなります。ただ、秘伝家は違います。完全に実力と素質重視な家系ですよ」
「へえ……因みに君は?」
「直系が絶えて選ばれた分家の出です」
「……君も当主なのか?」
「ええ。意外でしたか?」
お互いが嘘くさい笑みを浮かべながらの会話。これが大人の会話だなと、高耶は妙な感心をしていた。
「美人な当主ってデキ過ぎでしょ」
「顔で選ばれることはなかったかと。なんせ、当主と決まったのは生まれて数日後でしたから」
「ほお……」
きらりとお互いの目が光る。そして、一拍後に雰囲気が一変した。
「はっはっはっ。楽しい時間が過ごせそうだ」
「こちらこそ。安心して高耶くんの力を見せられそうです」
固く握手をすると、揃ってにこやかに高耶の方を向いた。
「君が優秀過ぎるくらい優秀だってのが分かって嬉しいよ。今日はよろしく頼みます」
「高耶くん。この人は口が軽そうだけどちゃんと口を噤むことも知ってるよ。安心して仕事してくれ」
「……はあ……」
そういう確認作業だったらしい。
「源龍くんだっけ。君が女性だったら結婚を前提に話を進めたいところだよ。腹黒美人最高なのになあ」
「あ~、好きそうですねえ。ですが残念です。正真正銘、男ですからね」
「因みにお姉さんか妹さんは?」
「生き別れた双子の妹が居ますけど、人を辞めてしまったようです。とっても危険なので、見かけても声をかけないように。生贄にされますよ」
「なにそのデンジャラスな妹! お近付きになりたいっ……けど、死にたくないなあ」
「近付かないでくださいね。妖絡みで亡くなった人の処理するの大変なんですから」
「僕の心配して!?」
初対面だというのに、なぜこんなにも受け入れられているのか。源龍の思わぬコミュニケーション能力を見ることができた。
「……仕事……始めてもいいですか?」
「も、もちろんだよ」
修に確認すると、高耶は源龍と仁を放っておいて、さっさと作業を開始した。
まずは軽く過去視をする。合わせるのは、とりあえずはと賢が居る所だ。探っていくと、ピアノを弾く賢ともう一人。ヴァイオリンを弾くメガネをかけた神経質そうな男が視えた。彼がこの別荘の持ち主だろう。
「ヴァイオリニスト……でしたか」
その呟きを聞いて、修が目を見開いていた。だが、構わず高耶は部屋を見回していく。時間を送り、一人でヴァイオリンを弾く男を見つめる。きちんと、その時の音も耳に届いていた。
「これ……か?」
聞いたことのない音楽だ。歩いて男が居る場所へ進む。譜面台に乗っている楽譜は手書きのようだ。
また時を進めると、今度はピアノを弾いていた。そして、譜面台にある五線紙に書き進めていく。それも覗き込んで眉を寄せた。
作曲途中の手書きの楽譜というのはとても見辛い。丸いはずの音符のタマはチョンチョンと点に近い線で書かれているし、消しゴムを使わずに斜線で取り消してあったりする。その上でその人その人の癖も出るのでこれを読み取るのは至難の技だった。
「う~ん……とりあえずこの楽譜を探すか……」
高耶としては、万が一見つからなくても、過去視から聴き取ってもいいと考えていた。とはいえ、依頼は楽譜探しだ。やってみようと気合いを入れて過去視を進める。だがこの時、さすがにあるモノが邪魔になっていた。
「……鬱陶しいな……」
過去視は集中力がいる。そこに目の前をウロチョロされては、苛立っても仕方がない。
一度過去視を切った高耶は、全員の視線が集まっていることに気付いた。
「ん?」
「あ~、私達は邪魔かな?」
陽が頭を掻きながら首をかしげる。
「え? いえ。勝手に視て歩き回るだけですから大丈夫ですよ?」
「そうかい? でも今……」
そこで気付いた。鬱陶しいと言ったのが聞こえていたようだ。
「ああ……陽さん達ではなく……」
その時、仁が外を見て声を上げる。
「うわぁ!!」
「なっ……なに……っ?」
そこに居たのは、獅子の姿の綺翔だった。ただ、その綺翔が怒っている。人化していないのがその証拠だ。
「綺翔?」
少しだけ開いていたサッシがピシャんと唐突に閉まった。だが、それを受けて綺翔が吠える。
《グルガァっ!》
バチっという音と共に部屋に風が吹いた。
「っ!!」
「っ、あ……っ!」
「っ……」
陽は綺翔が高耶の式であると分かっていても、怖いものは怖いようだ。ゆっくりと慎重に、仁と修と一緒に後退っていく。
そして、綺翔は器用にサッシを開けた。体が入ると、次に綺翔は鋭く目を細めた後、あるモノに向かって飛びかかる。それは、高耶達を飛び越えてだった。
完全に腰を抜かした陽達。だが、高耶と源龍は綺翔が押さえ込んだそれに、落ち着いて目を向けていた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「やあ、高耶くん……でいいのかな? そちらの方が同行すると言っていた術者かい?」
陽も高耶と名前の方で呼ぶので、修も照れ臭そうにそう呼ぶ。そして、一緒に現れた源龍へ視線を一度向けた。
源龍が同行することは、連絡していたが、どういう人か、なぜかというのは説明していない。高耶自身も未だに源龍を同行させることの理由をよく理解できていないのだ。どう説明するべきかがわからなかった。
「はじめまして。榊源龍と申します。彼からは学ぶことが多いので、まとめ役からの助言で一緒に行動しております」
その説明で、野木崎仁が不思議そうに口を挟む。
「年齢は君の方が上ではないのかな? 保護者的なものだと思ったんだが」
ちょっと面白そうな顔をしていた。
「おい。失礼だろう」
陽の注意に、仁は肩をすくめて見せた。
「そうですね。私のせいで彼が下に見られるのは困ります。彼は当主としても、術者としても私よりも遥かに上です。私たちをまとめる組織でも、恐らく実力的には彼はトップクラスですからね。使役している式神からしてレベルが違い過ぎます」
「源龍さん……」
「ふふ。君は本当に褒められ慣れていないねえ。でも本心だよ?」
「……っ」
源龍も仁が冗談半分で言ったと分かっているため、楽しそうに笑っていた。照れて目をそらす高耶も珍しいのだろう。
「なるほど。失礼なこと言って悪かったよ。どうしても、その年で当主とか、ちょっと信じられなくて」
「でしょうねえ。私をはじめ、他の陰陽師の家は血筋重視ですから。このくらいで当主になったら父親の後を継いで順当にとなります。ただ、秘伝家は違います。完全に実力と素質重視な家系ですよ」
「へえ……因みに君は?」
「直系が絶えて選ばれた分家の出です」
「……君も当主なのか?」
「ええ。意外でしたか?」
お互いが嘘くさい笑みを浮かべながらの会話。これが大人の会話だなと、高耶は妙な感心をしていた。
「美人な当主ってデキ過ぎでしょ」
「顔で選ばれることはなかったかと。なんせ、当主と決まったのは生まれて数日後でしたから」
「ほお……」
きらりとお互いの目が光る。そして、一拍後に雰囲気が一変した。
「はっはっはっ。楽しい時間が過ごせそうだ」
「こちらこそ。安心して高耶くんの力を見せられそうです」
固く握手をすると、揃ってにこやかに高耶の方を向いた。
「君が優秀過ぎるくらい優秀だってのが分かって嬉しいよ。今日はよろしく頼みます」
「高耶くん。この人は口が軽そうだけどちゃんと口を噤むことも知ってるよ。安心して仕事してくれ」
「……はあ……」
そういう確認作業だったらしい。
「源龍くんだっけ。君が女性だったら結婚を前提に話を進めたいところだよ。腹黒美人最高なのになあ」
「あ~、好きそうですねえ。ですが残念です。正真正銘、男ですからね」
「因みにお姉さんか妹さんは?」
「生き別れた双子の妹が居ますけど、人を辞めてしまったようです。とっても危険なので、見かけても声をかけないように。生贄にされますよ」
「なにそのデンジャラスな妹! お近付きになりたいっ……けど、死にたくないなあ」
「近付かないでくださいね。妖絡みで亡くなった人の処理するの大変なんですから」
「僕の心配して!?」
初対面だというのに、なぜこんなにも受け入れられているのか。源龍の思わぬコミュニケーション能力を見ることができた。
「……仕事……始めてもいいですか?」
「も、もちろんだよ」
修に確認すると、高耶は源龍と仁を放っておいて、さっさと作業を開始した。
まずは軽く過去視をする。合わせるのは、とりあえずはと賢が居る所だ。探っていくと、ピアノを弾く賢ともう一人。ヴァイオリンを弾くメガネをかけた神経質そうな男が視えた。彼がこの別荘の持ち主だろう。
「ヴァイオリニスト……でしたか」
その呟きを聞いて、修が目を見開いていた。だが、構わず高耶は部屋を見回していく。時間を送り、一人でヴァイオリンを弾く男を見つめる。きちんと、その時の音も耳に届いていた。
「これ……か?」
聞いたことのない音楽だ。歩いて男が居る場所へ進む。譜面台に乗っている楽譜は手書きのようだ。
また時を進めると、今度はピアノを弾いていた。そして、譜面台にある五線紙に書き進めていく。それも覗き込んで眉を寄せた。
作曲途中の手書きの楽譜というのはとても見辛い。丸いはずの音符のタマはチョンチョンと点に近い線で書かれているし、消しゴムを使わずに斜線で取り消してあったりする。その上でその人その人の癖も出るのでこれを読み取るのは至難の技だった。
「う~ん……とりあえずこの楽譜を探すか……」
高耶としては、万が一見つからなくても、過去視から聴き取ってもいいと考えていた。とはいえ、依頼は楽譜探しだ。やってみようと気合いを入れて過去視を進める。だがこの時、さすがにあるモノが邪魔になっていた。
「……鬱陶しいな……」
過去視は集中力がいる。そこに目の前をウロチョロされては、苛立っても仕方がない。
一度過去視を切った高耶は、全員の視線が集まっていることに気付いた。
「ん?」
「あ~、私達は邪魔かな?」
陽が頭を掻きながら首をかしげる。
「え? いえ。勝手に視て歩き回るだけですから大丈夫ですよ?」
「そうかい? でも今……」
そこで気付いた。鬱陶しいと言ったのが聞こえていたようだ。
「ああ……陽さん達ではなく……」
その時、仁が外を見て声を上げる。
「うわぁ!!」
「なっ……なに……っ?」
そこに居たのは、獅子の姿の綺翔だった。ただ、その綺翔が怒っている。人化していないのがその証拠だ。
「綺翔?」
少しだけ開いていたサッシがピシャんと唐突に閉まった。だが、それを受けて綺翔が吠える。
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「っ!!」
「っ、あ……っ!」
「っ……」
陽は綺翔が高耶の式であると分かっていても、怖いものは怖いようだ。ゆっくりと慎重に、仁と修と一緒に後退っていく。
そして、綺翔は器用にサッシを開けた。体が入ると、次に綺翔は鋭く目を細めた後、あるモノに向かって飛びかかる。それは、高耶達を飛び越えてだった。
完全に腰を抜かした陽達。だが、高耶と源龍は綺翔が押さえ込んだそれに、落ち着いて目を向けていた。
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