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第六章 秘伝と知己の集い
253 慰めない
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午前一コマ、昼を挟んで二コマの講義を終えた高耶は、俊哉と共に優希の小学校に向かっていた。
今回は、きちんと大学を出る直前に見た目も変えている。
「高耶は、マジで苦労するよな」
「しみじみ言うな」
人を少しでも減らそうと、次の講義が始まった時間まで待って、空き部屋のドアを使い、オタクルックから仕事スタイルに変更した。
それでも、少なくない人の目に触れることになり、ここで俊哉のガードが役に立った。
「だってよお、こうやって歩いてても、術かけてってるだろ」
「……なんで分かるんだよ……」
「いや、あの百貨店から出る時にやったやつと一緒だろ? 周りの感じが同じだった」
「……」
高耶が本気でやれば、完全に姿を消すことが出来る。それこそ、セットし直した後に、ドアから出る時に姿を見えなくしてもいいのだ。それをしないのは、仕事以外では、なるべく人らしく力を使わずにいようと思っているから。
同じ理由で、なるべく移動のドアも使わない。これは、防犯カメラのこともあるからとも言える。
そうして、なるべく普段は力を使わないようにと意識しているから、今もきちんとドアを使わずに歩いているのだ。
「段々と視線が減る感じ。高耶の側だと、めちゃくちゃ良く分かる」
「それはそうだろうが……お前、ちょっと訓練した方が良さそうだな」
「訓練?」
俊哉はかなり感覚が鋭くなっているように感じる。視えるようになってきているというのもあるのだ。今後、身を守るために訓練が必要になりそうだった。
「どこまで視えてる。あの公園の滑り台の下のとか、視えるか?」
「ん? 黒いウネウネするやつ? 影喰いだっけ? けっこう前から視えるぞ。それは、笑ってれば近付いて来ねえって源龍さんに聞いた。俺は多分故意に近付かなけりゃ平気だって」
「ああ。まあ……お前、は嫌なことあったら、愚痴って発散してスッキリするタイプだろ」
影喰いは、内に溜める者に寄る。自分に合ったストレスの発散方法を知っている者には、寄っていかないものだ。
俊哉は子どもの頃から、相手が聞いていても、聞いていなくても良いから、一方的に愚痴るタイプ。それで勝手に自分の中で納得、解決してしまうのだ。ほとんど他人の力を借りない、自己完結型。大変有り難い。面倒がなくていいと、高耶は昔から思っていた。
数少ない、俊哉の良いところだなと考えていれば、俊哉がなぜか泣きそうな顔をしていた。
「っ、高耶……」
「なんだよ……」
「っ……高耶が俺のこと分かってくれてる!!」
「っ!!」
感極まって抱き着いてこようとした俊哉を、反射的に避ける。
「ちょっ、なんで避けんの!?」
「避けるだろ……年考えろ。落ち着きを持て」
「冷静過ぎじゃね!?」
「煩い。そのテンションのままだと、危険人物扱いになるから離れろ」
「酷い! 他人のふりする気だ!」
「いや、他人だし」
今時の小学校は警戒が強めだ。つい最近まで小学生だったちょっと不良っぽい中学生も、白い目で見られる。テンション高い大学生なんて、変質者扱いになるだろう。
「ううっ。高耶がいじめるって、優希ちゃんに言い付けてやる」
「好きにしろ。後悔するぞ」
「え、なんで?」
最近の優希は、一年生の女子とはいえ、一味違ってきている。
のんびり歩いて来たので、ギリギリかと思ったが、下校の時間には問題なく間に合ったようだ。
門を開けるためと見回りのため、時島先生が出てきていた。
「あっ、先生~」
「和泉か……相変わらず、落ち着きなさそうだな」
「それ、最近よく言われんだけど、一目で落ち着きないって判断されんのなんでだと思う?」
これに、時島先生と高耶が顔を合わせてから、それぞれ答えた。
「……雰囲気……顔か?」
「顔な気がする」
「どんな顔!?」
「「なんとなく」」
「マジで!? なんとなくでも顔!?」
こういう所だよなと、高耶は時島先生と目で会話した。
幸い、このやり取りを見ていたお迎えの保護者達は、クスクスと笑っており、変質者扱いは免れた。
「そういえば蔦枝、学芸会のピアノ、頼まれてくれるとか」
時島先生が、思い出したというように、高耶へ話を振る。
「ああ。はい。構いませんよ。録音するなら、専用の機材とか使います? 知り合いに頼めますけど」
「えっ、何? どんな知り合い?」
俊哉が口を挟む。
「音楽関係と演劇関係。今回なら演劇関係の方が良さそうだな」
「それ、向こうに関係あるやつ?」
「いや。一般」
クラブエルタークのピアニストとしての知り合いだ。
ここでようやく、時島先生が答える。
「機材……いや、そこまで本格的には……費用もかかるだろう」
「いえ、借りがあるんで、タダでやらせますよ。気になるなら、そうですね……学校にある音とか、別で録音させてもらえれば、良いと思います」
「学校にある音……」
「子ども達が遊ぶ声とか、黒板を書く音とか、椅子を引く音とかです。廊下を歩く音でも喜びますよ」
「ほお……」
それならばと思案し出す時島先生。その時、優希達一年生がやって来た。
「あっ、お兄ちゃん。うん。ごうかく!」
「そりゃあ良かった……」
見た目合格らしい。
「優希ちゃん、優希ちゃん。聞いてよ。高耶が俺をいじめるんだぜっ。他人のふりすんのっ」
一気に喋り出す俊哉。異様な光景だが、きちんと目線を合わせようと、地面に両膝を突いているのは、見ていた周りの保護者的には、ポイントが高いようだ。
そんな俊哉へ、優希は腰に手を当てて困った顔を作ってから告げた。
「それ、シュンヤお兄ちゃん、わるいところなかった? お兄ちゃんは、いじめないよ?」
「え……」
「だいたい、シュンヤお兄ちゃんは、おちつきがないよね。大人なんだから、いつまでもお兄ちゃんにあまえてちゃダメだよ。お兄ちゃんにあまえていいのは、わたしだけなのっ。わかった?」
「……はい」
「ん。よろしい」
満足げな優希。一方、俊哉は高耶の方を膝を突いたまま振り向き、泣きそうな顔をする。
「……高耶ぁぁ。優希ちゃんが……優希ちゃんが慰めてくれないぃぃ」
「情けない顔すんな」
「酷いっ」
当然、誰も慰めなかった。寧ろ、笑っていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今回は、きちんと大学を出る直前に見た目も変えている。
「高耶は、マジで苦労するよな」
「しみじみ言うな」
人を少しでも減らそうと、次の講義が始まった時間まで待って、空き部屋のドアを使い、オタクルックから仕事スタイルに変更した。
それでも、少なくない人の目に触れることになり、ここで俊哉のガードが役に立った。
「だってよお、こうやって歩いてても、術かけてってるだろ」
「……なんで分かるんだよ……」
「いや、あの百貨店から出る時にやったやつと一緒だろ? 周りの感じが同じだった」
「……」
高耶が本気でやれば、完全に姿を消すことが出来る。それこそ、セットし直した後に、ドアから出る時に姿を見えなくしてもいいのだ。それをしないのは、仕事以外では、なるべく人らしく力を使わずにいようと思っているから。
同じ理由で、なるべく移動のドアも使わない。これは、防犯カメラのこともあるからとも言える。
そうして、なるべく普段は力を使わないようにと意識しているから、今もきちんとドアを使わずに歩いているのだ。
「段々と視線が減る感じ。高耶の側だと、めちゃくちゃ良く分かる」
「それはそうだろうが……お前、ちょっと訓練した方が良さそうだな」
「訓練?」
俊哉はかなり感覚が鋭くなっているように感じる。視えるようになってきているというのもあるのだ。今後、身を守るために訓練が必要になりそうだった。
「どこまで視えてる。あの公園の滑り台の下のとか、視えるか?」
「ん? 黒いウネウネするやつ? 影喰いだっけ? けっこう前から視えるぞ。それは、笑ってれば近付いて来ねえって源龍さんに聞いた。俺は多分故意に近付かなけりゃ平気だって」
「ああ。まあ……お前、は嫌なことあったら、愚痴って発散してスッキリするタイプだろ」
影喰いは、内に溜める者に寄る。自分に合ったストレスの発散方法を知っている者には、寄っていかないものだ。
俊哉は子どもの頃から、相手が聞いていても、聞いていなくても良いから、一方的に愚痴るタイプ。それで勝手に自分の中で納得、解決してしまうのだ。ほとんど他人の力を借りない、自己完結型。大変有り難い。面倒がなくていいと、高耶は昔から思っていた。
数少ない、俊哉の良いところだなと考えていれば、俊哉がなぜか泣きそうな顔をしていた。
「っ、高耶……」
「なんだよ……」
「っ……高耶が俺のこと分かってくれてる!!」
「っ!!」
感極まって抱き着いてこようとした俊哉を、反射的に避ける。
「ちょっ、なんで避けんの!?」
「避けるだろ……年考えろ。落ち着きを持て」
「冷静過ぎじゃね!?」
「煩い。そのテンションのままだと、危険人物扱いになるから離れろ」
「酷い! 他人のふりする気だ!」
「いや、他人だし」
今時の小学校は警戒が強めだ。つい最近まで小学生だったちょっと不良っぽい中学生も、白い目で見られる。テンション高い大学生なんて、変質者扱いになるだろう。
「ううっ。高耶がいじめるって、優希ちゃんに言い付けてやる」
「好きにしろ。後悔するぞ」
「え、なんで?」
最近の優希は、一年生の女子とはいえ、一味違ってきている。
のんびり歩いて来たので、ギリギリかと思ったが、下校の時間には問題なく間に合ったようだ。
門を開けるためと見回りのため、時島先生が出てきていた。
「あっ、先生~」
「和泉か……相変わらず、落ち着きなさそうだな」
「それ、最近よく言われんだけど、一目で落ち着きないって判断されんのなんでだと思う?」
これに、時島先生と高耶が顔を合わせてから、それぞれ答えた。
「……雰囲気……顔か?」
「顔な気がする」
「どんな顔!?」
「「なんとなく」」
「マジで!? なんとなくでも顔!?」
こういう所だよなと、高耶は時島先生と目で会話した。
幸い、このやり取りを見ていたお迎えの保護者達は、クスクスと笑っており、変質者扱いは免れた。
「そういえば蔦枝、学芸会のピアノ、頼まれてくれるとか」
時島先生が、思い出したというように、高耶へ話を振る。
「ああ。はい。構いませんよ。録音するなら、専用の機材とか使います? 知り合いに頼めますけど」
「えっ、何? どんな知り合い?」
俊哉が口を挟む。
「音楽関係と演劇関係。今回なら演劇関係の方が良さそうだな」
「それ、向こうに関係あるやつ?」
「いや。一般」
クラブエルタークのピアニストとしての知り合いだ。
ここでようやく、時島先生が答える。
「機材……いや、そこまで本格的には……費用もかかるだろう」
「いえ、借りがあるんで、タダでやらせますよ。気になるなら、そうですね……学校にある音とか、別で録音させてもらえれば、良いと思います」
「学校にある音……」
「子ども達が遊ぶ声とか、黒板を書く音とか、椅子を引く音とかです。廊下を歩く音でも喜びますよ」
「ほお……」
それならばと思案し出す時島先生。その時、優希達一年生がやって来た。
「あっ、お兄ちゃん。うん。ごうかく!」
「そりゃあ良かった……」
見た目合格らしい。
「優希ちゃん、優希ちゃん。聞いてよ。高耶が俺をいじめるんだぜっ。他人のふりすんのっ」
一気に喋り出す俊哉。異様な光景だが、きちんと目線を合わせようと、地面に両膝を突いているのは、見ていた周りの保護者的には、ポイントが高いようだ。
そんな俊哉へ、優希は腰に手を当てて困った顔を作ってから告げた。
「それ、シュンヤお兄ちゃん、わるいところなかった? お兄ちゃんは、いじめないよ?」
「え……」
「だいたい、シュンヤお兄ちゃんは、おちつきがないよね。大人なんだから、いつまでもお兄ちゃんにあまえてちゃダメだよ。お兄ちゃんにあまえていいのは、わたしだけなのっ。わかった?」
「……はい」
「ん。よろしい」
満足げな優希。一方、俊哉は高耶の方を膝を突いたまま振り向き、泣きそうな顔をする。
「……高耶ぁぁ。優希ちゃんが……優希ちゃんが慰めてくれないぃぃ」
「情けない顔すんな」
「酷いっ」
当然、誰も慰めなかった。寧ろ、笑っていた。
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