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第三章 真実を知る家族
033 お昼は平和に
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理修は学校へ来る前、ある人物にメールをしていた。
それは、仕事の依頼という形式のもので、すぐに了解の返信が来た。これで一安心だ。
ずっと完成を先延ばしにしてきた魔導具を今日中に仕上げる為に必要な事だった。そして、昼食を取る屋上に彼女は現れたのだ。
「アオカ姉さっ……?理修……授業をサボるのか?」
その司の問いかけに、当然だと頷いた。
「青華さんが空いてて助かったわ。流石に私がサボると、先生達が心配するんだよね」
「……お前、優等生で通してるもんな……」
「面倒な事にね」
それは、小さな頃に決めた事だった。
「こっちでは、極力大人しくするって約束だから」
「……そ、そうか……」
何か言いたい事があるらしいが、聞いてやる義理はないとそのままスルーしておく。そして、放置していた青華に目を向けた。
「ごめんなさい、青華さん。そういう事で、午後の授業をお願いします。それから、家の結界が落ち着くまで、家族の護衛をお願いできますか?」
それに、青華は片膝をついたまま応えた。
「勿論です。リズリール様のお役に立てるのでしたら、我ら一族、どんな任務でもこなしてみせます」
「あ……ありがとう……じゃぁ、よろしくお願いします」
「はっ」
そう言って、青華が立ち上がった時には、その姿を理修へと変えていた。
「は?」
「え?」
「それじゃぁ、行ってきます」
青華は、理修の声で理修にしか見えない姿となって、屋上から教室へと向かって行った。
「……相変わらずちょっと重いんだよね……まぁ、いいか」
後に残されたのは、食事を再開する司と、これでとりあえず一安心とメールをする理修。そして、事態を全く理解出来なかった拓海と明良だ。
「な、なぁ、理修……あれは……忍……」
「忍者だよ?彼女の家業なの。古風でいいよね。ちょっとアレだけど」
「「…………」」
スマホを弄りながら、そう理修が言う。
「青華姉さんに頼んでまで、何をするんだ?」
司の問いに顔を上げる事なく、スマホをポケットにしまうと、この場では理修しか分からない数式や言葉が細かく書かれた紙を取り出しながら答えた。
「電話みたいなものかな。こっちにいても、あちらと交信が出来るようにしたくて。便利すぎると欲しがる奴が出てくるから、こういうのは慎重に進めないといけないんだよね……面倒だし、後回しになってたの」
「それは……世界の壁を越えられるって事か?」
「うん。今回みたいな事があると、さすがにウィルに心配させるから……」
理修は今回のエヴィスタの召喚で、ウィルバートに心配させる事になると分かっていた。エヴィスタを帰せばいいのだが、それが出来なかったのは、母との関係を少しでも良い方へと変えたかったからだ。
エヴィスタはあれで意外に話上手だ。あの場は任せて正解だろう。そうして、理修はウィルバートの言葉を思い出していた。
『両親には話したか?』
その一言を何度聞いただろう。いつだってウィルバートは理修を気遣ってくれる。そして、決して無理強いはしないのだ。
「……今から会いに行った方が早くないか?」
「言ったでしょ?今は仕事に追われてるから、邪魔する気ないの」
「婚約者だろ?」
「だからだよ。ウィルとの時間を仕事に邪魔されたくないもの。私だって、さっさとゴブリンなんて片付けて、婚約式の準備をしたいんだから」
そこで、ようやく気付いた。
「理修……婚約って何だ……?」
「婚約者?」
「「…………」」
既に作業に入っていた理修は、司との会話しか聞こえていなかった。
「理修……」
司がどうするんだという顔をしてこちらを見ていた。仕方なく、一度拓海と明良を見る。その表情は、話せと言っている。理修は、大きく溜め息をつくと、言い訳をする気もなく単的に答えた。
「私、もうすぐ婚約するの。今度紹介するね」
「「え!?」」
「理修……」
理修は無駄に説明に時間をかけない。ある意味、面倒くさがり屋なのだ。エヴィスタを両親の所に置いてきたのは、この意味合いが多くを占めているのだと、気付けるものはこの場にはいなかった。
◆ ◆ ◆
「姐さんっ、姐さんっ、リズちゃんがついに兄弟にカミングアウトしましたよ」
「なに?……おい、魔女連に至急伝えて来いっ。こりゃぁ、また動くぜ」
シャドーフィールドのとある一室。そこは壁一面がモニターで埋め尽くされている。
『情報部』
あらゆる情報が集まるこの部署では、従業員の情報を管理するのも仕事の一つだ。
「母親の方はどうなってる」
エヴィスタが控えているのだ。理修の家は安全だろうが、この異世界の生物との遭遇に、母親が対応し切れているかが問題だった。
「大丈夫そうっス。エヴィさんは大人っスよね。分かり易く解説中みたいっス」
精霊使いである者達が、リアルタイムで会話を拾って報告してくる。今の所、パニックに陥るなどの問題はないようだ。
「父親は全く問題なさそうだしな。さすがは、東家の人間だ。それに比べて、リュートリールの娘はお堅いリアリストとはな……笑える冗談だ」
リュートリールは、こちらの世界でも並ぶ者がないと言われた全能の魔術師。その優秀さから、魔女連が本気でリュートリールを女に変えようと画策したくらいだ。
勿論、それに気付いたリュートリールに、こっぴどくやられていた。それを知っている者としては、普通過ぎる娘が妙で仕方がない。
「母親ねぇ……まぁ、これなら、なんとかあちらに嫁いでも『はい、さようなら』って事は回避できそうだな」
今の一番の懸念は、理修のトゥルーベルへの完全移住だ。それさえ防げれば、あとは家族がどうなっても、はっきり言って構わなかった。
「さぁて、頑張って引き留め役になってくれよ」
そう彼らは今日も家族達にエールを送るのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 7
それは、仕事の依頼という形式のもので、すぐに了解の返信が来た。これで一安心だ。
ずっと完成を先延ばしにしてきた魔導具を今日中に仕上げる為に必要な事だった。そして、昼食を取る屋上に彼女は現れたのだ。
「アオカ姉さっ……?理修……授業をサボるのか?」
その司の問いかけに、当然だと頷いた。
「青華さんが空いてて助かったわ。流石に私がサボると、先生達が心配するんだよね」
「……お前、優等生で通してるもんな……」
「面倒な事にね」
それは、小さな頃に決めた事だった。
「こっちでは、極力大人しくするって約束だから」
「……そ、そうか……」
何か言いたい事があるらしいが、聞いてやる義理はないとそのままスルーしておく。そして、放置していた青華に目を向けた。
「ごめんなさい、青華さん。そういう事で、午後の授業をお願いします。それから、家の結界が落ち着くまで、家族の護衛をお願いできますか?」
それに、青華は片膝をついたまま応えた。
「勿論です。リズリール様のお役に立てるのでしたら、我ら一族、どんな任務でもこなしてみせます」
「あ……ありがとう……じゃぁ、よろしくお願いします」
「はっ」
そう言って、青華が立ち上がった時には、その姿を理修へと変えていた。
「は?」
「え?」
「それじゃぁ、行ってきます」
青華は、理修の声で理修にしか見えない姿となって、屋上から教室へと向かって行った。
「……相変わらずちょっと重いんだよね……まぁ、いいか」
後に残されたのは、食事を再開する司と、これでとりあえず一安心とメールをする理修。そして、事態を全く理解出来なかった拓海と明良だ。
「な、なぁ、理修……あれは……忍……」
「忍者だよ?彼女の家業なの。古風でいいよね。ちょっとアレだけど」
「「…………」」
スマホを弄りながら、そう理修が言う。
「青華姉さんに頼んでまで、何をするんだ?」
司の問いに顔を上げる事なく、スマホをポケットにしまうと、この場では理修しか分からない数式や言葉が細かく書かれた紙を取り出しながら答えた。
「電話みたいなものかな。こっちにいても、あちらと交信が出来るようにしたくて。便利すぎると欲しがる奴が出てくるから、こういうのは慎重に進めないといけないんだよね……面倒だし、後回しになってたの」
「それは……世界の壁を越えられるって事か?」
「うん。今回みたいな事があると、さすがにウィルに心配させるから……」
理修は今回のエヴィスタの召喚で、ウィルバートに心配させる事になると分かっていた。エヴィスタを帰せばいいのだが、それが出来なかったのは、母との関係を少しでも良い方へと変えたかったからだ。
エヴィスタはあれで意外に話上手だ。あの場は任せて正解だろう。そうして、理修はウィルバートの言葉を思い出していた。
『両親には話したか?』
その一言を何度聞いただろう。いつだってウィルバートは理修を気遣ってくれる。そして、決して無理強いはしないのだ。
「……今から会いに行った方が早くないか?」
「言ったでしょ?今は仕事に追われてるから、邪魔する気ないの」
「婚約者だろ?」
「だからだよ。ウィルとの時間を仕事に邪魔されたくないもの。私だって、さっさとゴブリンなんて片付けて、婚約式の準備をしたいんだから」
そこで、ようやく気付いた。
「理修……婚約って何だ……?」
「婚約者?」
「「…………」」
既に作業に入っていた理修は、司との会話しか聞こえていなかった。
「理修……」
司がどうするんだという顔をしてこちらを見ていた。仕方なく、一度拓海と明良を見る。その表情は、話せと言っている。理修は、大きく溜め息をつくと、言い訳をする気もなく単的に答えた。
「私、もうすぐ婚約するの。今度紹介するね」
「「え!?」」
「理修……」
理修は無駄に説明に時間をかけない。ある意味、面倒くさがり屋なのだ。エヴィスタを両親の所に置いてきたのは、この意味合いが多くを占めているのだと、気付けるものはこの場にはいなかった。
◆ ◆ ◆
「姐さんっ、姐さんっ、リズちゃんがついに兄弟にカミングアウトしましたよ」
「なに?……おい、魔女連に至急伝えて来いっ。こりゃぁ、また動くぜ」
シャドーフィールドのとある一室。そこは壁一面がモニターで埋め尽くされている。
『情報部』
あらゆる情報が集まるこの部署では、従業員の情報を管理するのも仕事の一つだ。
「母親の方はどうなってる」
エヴィスタが控えているのだ。理修の家は安全だろうが、この異世界の生物との遭遇に、母親が対応し切れているかが問題だった。
「大丈夫そうっス。エヴィさんは大人っスよね。分かり易く解説中みたいっス」
精霊使いである者達が、リアルタイムで会話を拾って報告してくる。今の所、パニックに陥るなどの問題はないようだ。
「父親は全く問題なさそうだしな。さすがは、東家の人間だ。それに比べて、リュートリールの娘はお堅いリアリストとはな……笑える冗談だ」
リュートリールは、こちらの世界でも並ぶ者がないと言われた全能の魔術師。その優秀さから、魔女連が本気でリュートリールを女に変えようと画策したくらいだ。
勿論、それに気付いたリュートリールに、こっぴどくやられていた。それを知っている者としては、普通過ぎる娘が妙で仕方がない。
「母親ねぇ……まぁ、これなら、なんとかあちらに嫁いでも『はい、さようなら』って事は回避できそうだな」
今の一番の懸念は、理修のトゥルーベルへの完全移住だ。それさえ防げれば、あとは家族がどうなっても、はっきり言って構わなかった。
「さぁて、頑張って引き留め役になってくれよ」
そう彼らは今日も家族達にエールを送るのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 7
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