54 / 208
6th ステージ
054 まったく、父上はっ
しおりを挟む
リンディエールは明日は面倒なことになりそうだなとため息を吐いて、大人達を見回した後、クイントに提案した。
「娘はアレやったけど、この場に居る者は使えるやろ」
「そうですねえ。クゼリア伯爵も、夫人も横の繋がりがかなりあるようですし」
「ほお~。因みにウチんとこは?」
リンディエールはニヤニヤと笑いながらクイントの評価を尋ねると、クイントはにこりと笑う。
「人当たりが良いですし、クゼリア伯爵夫妻とはまた違う繋がりをお持ちですよ」
「そんなら、じいちゃん達も召喚したら全包囲できるか?」
「できますね。良いのですか?」
「ついでや、ついで。こんなもん片手間で済ましたるで」
「ふふふ。さすがです!」
「おだてても、ウチからは何もやらんで」
「残念です」
すぐさま返すところはさすがだ。
「ほんなら……じいちゃん達呼ぶか」
リンディエールは、祖父ファルビーラに連絡を取る。予定では祖父母は領地で留守番。お披露目会に来る予定もなかった。事情を話すと、問題なく行くと答えが返ってくる。用意が整ったら扉を繋げることにした。
「五分くらいやろ。ちょい待ったってや。その間に、グラン。兄いとジェルラスの着替え頼めるか?」
「下町ですか」
「せや。ジェルラスの部屋貸してもらえるやろか」
伯爵に一応はと確認する。
「あ、ああ。構いません」
「こんな無礼な小娘に遠慮はいらんで」
「い、いえ……」
さすがに衝撃を与えすぎたらしい。ゆっくり目をそらされた。少し怯えているようだ。彼らの胃を守るためにも、早いところ外に出るべきだろう。
「すんまへんなあ。あ、グラン。そっちのテシルにも頼むわ」
「承知しました」
「え……」
壁際に俯き気味に控えていたテシルに目を向け、グランは頷いた。
フィリクスがリンディエールへ確認してくる。目が輝いているのは、フィリクスにとって、初めての辺境以外の土地での外出になると察したためだろう。
「っ、外に出るの?」
「王都散策。やってみたいやろ? ウチとシュラで護衛は十分やし、案内もできる。夕食までには帰るわ」
最後のは父ディースリムに向かって告げた。
「リンと彼女なら……グラムさんは……?」
「詳しい組織の情報持っとるで、ここに残してくわ。ってか、相変わらず『さん』付けするなあ……あかんで?」
「うっ……気を付ける……」
ディースリムもだが母セリンも、どうにもグランギリアの存在感に慣れないらしい。グランギリアは圧倒的に頼りになる侍従。その上、誰よりも年上。魔族だからという訳ではなく、尊敬すべき大人の代表にしか見えないらしいのだ。
「普段はええけど、せめて外でだけは気い付けえよ」
毎回注意していなかったのが悪かったかもしれない。だが、リンディエールも父母のことをバカにしているわけではない。きちんと外での対応を切り替えられる人達だと知っている。ただ、思ったよりもグランギリアの雰囲気に押されているようだ。これだけ言っておけばなんとかなるだろう。
「ほんなら、着替え頼むで」
「かしこまりました。では、参りましょう」
「「はい!」」
「は、はい……」
フィリクス、ジェルラス、テシルを連れて、グランギリアが部屋から出て行った。
「シュラ。ウチらは魔女っ子着替え術やで!」
「いいでしょう。お嬢様。今日は負けませんよ」
「ふっふっふっ。受けて立つで!」
リンディエールとシュラは、それぞれ笑みを向けながら、リンディエールが唐突に出現させた二つの衝立てに向かう。
壁から人一人通れるだけの幅を空けて立てられた衝立て。二人は別れたその衝立ての前に立った。
「宰相さん。合図頼むわ。そんで先に通り抜けてここに戻ってきた方を教えてや」
「はあ……何をするんです?」
さすがの宰相も訳が分からないだろう。『着替え術』と言っていたのは聞いていても、それがこの状況に結び付かない。
「せやから、着替えや。早着替え! 華麗に町娘に一瞬で変身すんで! 見とってや!」
「……分かりました……」
まだ少し訳がわからない様子だが、リンディエールだしなと次第に落ち着いていた。
「合図よろしゅう」
「はい。では……はじめ!」
残像が見えた。そして、衝立てを通って一秒経たずに二人ともが町娘に変身して出てきた。
「どや!」
「……同時にしか見えませんでした……」
「わ、私もです……」
「……はい……」
クイントは他の大人達に確認するが、誰もが目を丸くして頷いていた。
「くっ……腕え上げたなあ」
リンディエールも、確かにコンマ一秒を争うものだったと認めた。
「恐れ入ります。これで合格はいただけますでしょうか」
「合格や。やけど……まだまだ極めるには甘いで」
そう言って、リンディエールは後ろを向き、自身の後頭部を指して見せる。そこにある白いリボンを見て、シュラははっきりと驚愕の表情を見せた。
「っ、髪型までっ……次回までにはマスターしてご覧に入れます」
「その意気や。さすがは、ウチの侍女やな」
「……っ」
振り返って、満足げに笑って見せれば、シュラは照れたように頬を染めた。
そんな遊びを見せたことで、驚きながらもクゼリア伯爵達は肩の力が抜けたらしい。
それから、しばらくしてグランギリア達が戻って来た。
「お待たせいたしました」
「あっ。リン達も着替えてる。可愛いっ」
「姉上、ステキです!」
「お~。三人ともよお似合っとるで。あ、丁度じいちゃんらの用意も出来たようや」
ファルビーラから連絡が来た。
「伯爵さんらは、親戚やしな。特別にウチの技を見したんで」
「リン。まさか、ここに?」
「当然やろ。まあ、外におる見張りは気にせんでええ。この後、ウチらが引っ張って行くさかいな」
クイントは一瞬、表情を引きつらせた。外に組織の見張りが居ることを警戒していなかったわけではないが、居ると確定されたのだ。強張って当たり前だろう。
「家ん中のことまでは見えとらんし、耳もあらへん。安心せえ」
リンディエールは転移門を発動させた。
◆ ◆ ◆
王城の奥。
王族の住居となっている奥宮の自室で、今年十一になるこの国の第二王子が、幾つものクッションや物を投げながら悪態を吐いていた。
「なんで! なんで今更兄上など!」
「落ち着いてください殿下……」
そんな彼から距離を置いて宥めようとするのは、クイントの息子。三男であるレングだ。第二王子であるユーアリアより一つ上の十二歳だが、二人の精神年齢はかなり離れてしまっている。
「だって、僕が次の王になるって言ってたのに! あんなやつ! ずっと寝てただけなのに!!」
「……」
先日、第一王子の立太子式の話が王の口から出た。それを聞いてから、ユーアリアはずっとこうして暴れている。
「お前も! 父上の手先だろ!! ファルトはどこへ行った!! イエルドはどこへやったのだ!! お前を側近にするつもりはない!!」
数ヶ月前。ユーアリアの側に居た二人の側近達が捕縛された。とある組織と繋がっていると確認されたためだ。今もまだ城の地下牢に居る。それを、ユーアリアは知らない。
レングはその時、急遽ユーアリアの側近、教育係として連れてこられたのだ。
「そのように叫ばれては、また喉を痛めてしまいますよ」
「うるさい!!」
「……」
クッションが飛んでくるが、避けるのは左程難しくはない。
レングはリンディエールと出会ってから、真面目に勉学に向き合い、冒険者であるリンディエールに少しでも近付こうと、剣術についても真剣に取り組むようになった。これにより、常にあった、どこか背伸びをする必死な様子が消え、一気に精神的にも成長を見せたのだ。
レングは母に目を向けて欲しかった。母にとっての愛する子どもは次兄だけ。けれど、母がずっと次兄を洗脳するように『お前が当主になるんだ』と言っている姿は異様だった。
精神的にずっと子どもで不安定だったのは、母に振り向いて欲しかったという思いが一番だろう。
同じように自分の存在を認めて欲しいと、リンディエールへと心から渇望する想いに気付いた時、それを理解した。
そこからまた、レングは変わった。
リンディエールに会った時、父クイントと二人で話していたことは理解出来なかった。けれど、それが兄の病に関係のあることだということは何となく分かっていた。次第に兄が回復していくのを見て、不意に知らなければと思った。そして、父に頼みリンディエールとの話を改めて教えてもらった。
今の貴族家が抱えている長男と次男以降の者の問題。それを理解した時。父にユーアリアの側に居た者たちが所属していた組織についても聞かされた。
『貴族病』によって生まれた隙につけ込んでくる組織。それは、もしかしたらレングも取り込まれていた可能性があった。それに気付き青くなった時、父が満足げに頷き、提案してきた。
『今のおまえならばいいかもしれないな……レング。第二王子の教育係兼側近になれ』
長兄は第一王子の側近に決まっていた。だから、考えなかったことではない。その時は素直に分かりましたと答えた。
しかし、会ってみるとその難しさに頭を抱えた。
ユーアリアは、もろに『貴族病』によって傷付き、あの組織によってその心の隙に入り込まれていたのだから。
「お前などに何が分かる! 僕の気持ちなど、わからないクセに!! 出て行け!」
「……また後で参ります……」
「っ……」
出て行けと言って暴れても、ユーアリアは一人になりたくはないのだ。また来ると言えばそれを拒絶する言葉は出てこない。
静かに扉を閉め、大きくため息を吐く。すると、扉を守る二人の騎士から労るような視線が向けられた。
「すまない……しばらくしてからまた来る」
「はい……」
「お手伝いできず、申し訳ありません……」
「いや……中に入る侍女達が怪我をしないよう気を付けてやってくれ」
「お任せください」
ユーアリアは最近は食事も王達と取ることを嫌がる。そのため、部屋で一人で取るのだが、その世話をする侍女達に手を上げることもあるので注意が必要だった。
少し外の空気を吸って来ようと歩き出す。
「……あれは子どもの癇癪だな……半年前の私も、そう変わらないか……」
こんな時。一人になってふと思い出すのはリンディエールの姿。あれから、一度も会えていない。だから、声はもう遠くなってしまった。父が会わせたがらないのだ。これは、最近気付いた。
「まったく、父上はっ」
少し前まで、父は偉大で尊敬できる父親だった。反抗しようなんて一切考えなかったのだ。だが、最近はイラっとすることがある。明らかにリンディエールと会う機会を潰されているのだ。
勉強のための記憶媒体も、父が受け取ってくる。そして、リンディエールに会った日の父は、それは嬉しそうにレングに何を話したか聞かせてくる。
それが最近、とても腹立たしく感じるのだ。
長兄がこれに気付き、教えてくれた。
『父上はねえ。独占欲が強いんだよ。そして、お前はそんな父上に嫉妬してるんだ。好きなんだね。その子のこと』
言われて顔を真っ赤にした。自覚したのだ。だが、そのあとに青くなった。
『私も会ってみたいなあ。父上や君が夢中になる子に』
これも最近知ったが、長兄は父と良く似ている。内面も見た目も。絶対に長兄も気に入るに決まっている。
「……どうしよう……」
ユーアリアの問題よりも、お披露目会でようやく会えるという嬉しさよりも、長兄にまでこの想いを邪魔をされそうな予感に不安しかない。
「……はぁぁぁぁぁ……」
外に面する廊下の真ん中で、大きくため息を吐くレングを目撃した侍女や騎士達は、誰もが心配そうに、そんなレングを見つめるのだった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空けます。
22日の予定です!
よろしくお願いします◎
「娘はアレやったけど、この場に居る者は使えるやろ」
「そうですねえ。クゼリア伯爵も、夫人も横の繋がりがかなりあるようですし」
「ほお~。因みにウチんとこは?」
リンディエールはニヤニヤと笑いながらクイントの評価を尋ねると、クイントはにこりと笑う。
「人当たりが良いですし、クゼリア伯爵夫妻とはまた違う繋がりをお持ちですよ」
「そんなら、じいちゃん達も召喚したら全包囲できるか?」
「できますね。良いのですか?」
「ついでや、ついで。こんなもん片手間で済ましたるで」
「ふふふ。さすがです!」
「おだてても、ウチからは何もやらんで」
「残念です」
すぐさま返すところはさすがだ。
「ほんなら……じいちゃん達呼ぶか」
リンディエールは、祖父ファルビーラに連絡を取る。予定では祖父母は領地で留守番。お披露目会に来る予定もなかった。事情を話すと、問題なく行くと答えが返ってくる。用意が整ったら扉を繋げることにした。
「五分くらいやろ。ちょい待ったってや。その間に、グラン。兄いとジェルラスの着替え頼めるか?」
「下町ですか」
「せや。ジェルラスの部屋貸してもらえるやろか」
伯爵に一応はと確認する。
「あ、ああ。構いません」
「こんな無礼な小娘に遠慮はいらんで」
「い、いえ……」
さすがに衝撃を与えすぎたらしい。ゆっくり目をそらされた。少し怯えているようだ。彼らの胃を守るためにも、早いところ外に出るべきだろう。
「すんまへんなあ。あ、グラン。そっちのテシルにも頼むわ」
「承知しました」
「え……」
壁際に俯き気味に控えていたテシルに目を向け、グランは頷いた。
フィリクスがリンディエールへ確認してくる。目が輝いているのは、フィリクスにとって、初めての辺境以外の土地での外出になると察したためだろう。
「っ、外に出るの?」
「王都散策。やってみたいやろ? ウチとシュラで護衛は十分やし、案内もできる。夕食までには帰るわ」
最後のは父ディースリムに向かって告げた。
「リンと彼女なら……グラムさんは……?」
「詳しい組織の情報持っとるで、ここに残してくわ。ってか、相変わらず『さん』付けするなあ……あかんで?」
「うっ……気を付ける……」
ディースリムもだが母セリンも、どうにもグランギリアの存在感に慣れないらしい。グランギリアは圧倒的に頼りになる侍従。その上、誰よりも年上。魔族だからという訳ではなく、尊敬すべき大人の代表にしか見えないらしいのだ。
「普段はええけど、せめて外でだけは気い付けえよ」
毎回注意していなかったのが悪かったかもしれない。だが、リンディエールも父母のことをバカにしているわけではない。きちんと外での対応を切り替えられる人達だと知っている。ただ、思ったよりもグランギリアの雰囲気に押されているようだ。これだけ言っておけばなんとかなるだろう。
「ほんなら、着替え頼むで」
「かしこまりました。では、参りましょう」
「「はい!」」
「は、はい……」
フィリクス、ジェルラス、テシルを連れて、グランギリアが部屋から出て行った。
「シュラ。ウチらは魔女っ子着替え術やで!」
「いいでしょう。お嬢様。今日は負けませんよ」
「ふっふっふっ。受けて立つで!」
リンディエールとシュラは、それぞれ笑みを向けながら、リンディエールが唐突に出現させた二つの衝立てに向かう。
壁から人一人通れるだけの幅を空けて立てられた衝立て。二人は別れたその衝立ての前に立った。
「宰相さん。合図頼むわ。そんで先に通り抜けてここに戻ってきた方を教えてや」
「はあ……何をするんです?」
さすがの宰相も訳が分からないだろう。『着替え術』と言っていたのは聞いていても、それがこの状況に結び付かない。
「せやから、着替えや。早着替え! 華麗に町娘に一瞬で変身すんで! 見とってや!」
「……分かりました……」
まだ少し訳がわからない様子だが、リンディエールだしなと次第に落ち着いていた。
「合図よろしゅう」
「はい。では……はじめ!」
残像が見えた。そして、衝立てを通って一秒経たずに二人ともが町娘に変身して出てきた。
「どや!」
「……同時にしか見えませんでした……」
「わ、私もです……」
「……はい……」
クイントは他の大人達に確認するが、誰もが目を丸くして頷いていた。
「くっ……腕え上げたなあ」
リンディエールも、確かにコンマ一秒を争うものだったと認めた。
「恐れ入ります。これで合格はいただけますでしょうか」
「合格や。やけど……まだまだ極めるには甘いで」
そう言って、リンディエールは後ろを向き、自身の後頭部を指して見せる。そこにある白いリボンを見て、シュラははっきりと驚愕の表情を見せた。
「っ、髪型までっ……次回までにはマスターしてご覧に入れます」
「その意気や。さすがは、ウチの侍女やな」
「……っ」
振り返って、満足げに笑って見せれば、シュラは照れたように頬を染めた。
そんな遊びを見せたことで、驚きながらもクゼリア伯爵達は肩の力が抜けたらしい。
それから、しばらくしてグランギリア達が戻って来た。
「お待たせいたしました」
「あっ。リン達も着替えてる。可愛いっ」
「姉上、ステキです!」
「お~。三人ともよお似合っとるで。あ、丁度じいちゃんらの用意も出来たようや」
ファルビーラから連絡が来た。
「伯爵さんらは、親戚やしな。特別にウチの技を見したんで」
「リン。まさか、ここに?」
「当然やろ。まあ、外におる見張りは気にせんでええ。この後、ウチらが引っ張って行くさかいな」
クイントは一瞬、表情を引きつらせた。外に組織の見張りが居ることを警戒していなかったわけではないが、居ると確定されたのだ。強張って当たり前だろう。
「家ん中のことまでは見えとらんし、耳もあらへん。安心せえ」
リンディエールは転移門を発動させた。
◆ ◆ ◆
王城の奥。
王族の住居となっている奥宮の自室で、今年十一になるこの国の第二王子が、幾つものクッションや物を投げながら悪態を吐いていた。
「なんで! なんで今更兄上など!」
「落ち着いてください殿下……」
そんな彼から距離を置いて宥めようとするのは、クイントの息子。三男であるレングだ。第二王子であるユーアリアより一つ上の十二歳だが、二人の精神年齢はかなり離れてしまっている。
「だって、僕が次の王になるって言ってたのに! あんなやつ! ずっと寝てただけなのに!!」
「……」
先日、第一王子の立太子式の話が王の口から出た。それを聞いてから、ユーアリアはずっとこうして暴れている。
「お前も! 父上の手先だろ!! ファルトはどこへ行った!! イエルドはどこへやったのだ!! お前を側近にするつもりはない!!」
数ヶ月前。ユーアリアの側に居た二人の側近達が捕縛された。とある組織と繋がっていると確認されたためだ。今もまだ城の地下牢に居る。それを、ユーアリアは知らない。
レングはその時、急遽ユーアリアの側近、教育係として連れてこられたのだ。
「そのように叫ばれては、また喉を痛めてしまいますよ」
「うるさい!!」
「……」
クッションが飛んでくるが、避けるのは左程難しくはない。
レングはリンディエールと出会ってから、真面目に勉学に向き合い、冒険者であるリンディエールに少しでも近付こうと、剣術についても真剣に取り組むようになった。これにより、常にあった、どこか背伸びをする必死な様子が消え、一気に精神的にも成長を見せたのだ。
レングは母に目を向けて欲しかった。母にとっての愛する子どもは次兄だけ。けれど、母がずっと次兄を洗脳するように『お前が当主になるんだ』と言っている姿は異様だった。
精神的にずっと子どもで不安定だったのは、母に振り向いて欲しかったという思いが一番だろう。
同じように自分の存在を認めて欲しいと、リンディエールへと心から渇望する想いに気付いた時、それを理解した。
そこからまた、レングは変わった。
リンディエールに会った時、父クイントと二人で話していたことは理解出来なかった。けれど、それが兄の病に関係のあることだということは何となく分かっていた。次第に兄が回復していくのを見て、不意に知らなければと思った。そして、父に頼みリンディエールとの話を改めて教えてもらった。
今の貴族家が抱えている長男と次男以降の者の問題。それを理解した時。父にユーアリアの側に居た者たちが所属していた組織についても聞かされた。
『貴族病』によって生まれた隙につけ込んでくる組織。それは、もしかしたらレングも取り込まれていた可能性があった。それに気付き青くなった時、父が満足げに頷き、提案してきた。
『今のおまえならばいいかもしれないな……レング。第二王子の教育係兼側近になれ』
長兄は第一王子の側近に決まっていた。だから、考えなかったことではない。その時は素直に分かりましたと答えた。
しかし、会ってみるとその難しさに頭を抱えた。
ユーアリアは、もろに『貴族病』によって傷付き、あの組織によってその心の隙に入り込まれていたのだから。
「お前などに何が分かる! 僕の気持ちなど、わからないクセに!! 出て行け!」
「……また後で参ります……」
「っ……」
出て行けと言って暴れても、ユーアリアは一人になりたくはないのだ。また来ると言えばそれを拒絶する言葉は出てこない。
静かに扉を閉め、大きくため息を吐く。すると、扉を守る二人の騎士から労るような視線が向けられた。
「すまない……しばらくしてからまた来る」
「はい……」
「お手伝いできず、申し訳ありません……」
「いや……中に入る侍女達が怪我をしないよう気を付けてやってくれ」
「お任せください」
ユーアリアは最近は食事も王達と取ることを嫌がる。そのため、部屋で一人で取るのだが、その世話をする侍女達に手を上げることもあるので注意が必要だった。
少し外の空気を吸って来ようと歩き出す。
「……あれは子どもの癇癪だな……半年前の私も、そう変わらないか……」
こんな時。一人になってふと思い出すのはリンディエールの姿。あれから、一度も会えていない。だから、声はもう遠くなってしまった。父が会わせたがらないのだ。これは、最近気付いた。
「まったく、父上はっ」
少し前まで、父は偉大で尊敬できる父親だった。反抗しようなんて一切考えなかったのだ。だが、最近はイラっとすることがある。明らかにリンディエールと会う機会を潰されているのだ。
勉強のための記憶媒体も、父が受け取ってくる。そして、リンディエールに会った日の父は、それは嬉しそうにレングに何を話したか聞かせてくる。
それが最近、とても腹立たしく感じるのだ。
長兄がこれに気付き、教えてくれた。
『父上はねえ。独占欲が強いんだよ。そして、お前はそんな父上に嫉妬してるんだ。好きなんだね。その子のこと』
言われて顔を真っ赤にした。自覚したのだ。だが、そのあとに青くなった。
『私も会ってみたいなあ。父上や君が夢中になる子に』
これも最近知ったが、長兄は父と良く似ている。内面も見た目も。絶対に長兄も気に入るに決まっている。
「……どうしよう……」
ユーアリアの問題よりも、お披露目会でようやく会えるという嬉しさよりも、長兄にまでこの想いを邪魔をされそうな予感に不安しかない。
「……はぁぁぁぁぁ……」
外に面する廊下の真ん中で、大きくため息を吐くレングを目撃した侍女や騎士達は、誰もが心配そうに、そんなレングを見つめるのだった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空けます。
22日の予定です!
よろしくお願いします◎
427
あなたにおすすめの小説
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる