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6th ステージ
055 ウチが財布に決まっとるやん
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リンディエールが作り出した転移門を通って、ヘルナとファルビーラがこちらへやって来た。
「このような所から、失礼してごめんなさいね」
「悪いな。邪魔するぞ。クレイ」
転移門を見て固まっていたクゼリア一家が、更に目を丸くする。
ヘルナはふふふと笑いながら。ファルビーラは通常通りだ。その軽さのまま、寡黙な人という印象しかなかったクゼリア前伯爵へ『クレイ』と呼びかけ片手をヒョイっと上げる挨拶をする。
「っ、ファルっ、ヘルナ嬢っ、ご、ご無沙汰しております」
停止していた思考が急速に動いたのだろう。クレイは驚きながら、悪い足の事など忘れたというように、勢いよく立ち上がろうとした。だが、あまり歩かなくなっていたことで、筋力も落ちているのだ。倒れそうに傾ぐ。
あっと誰もが一瞬、息を止めた。だが、リンディエールだけは確信を持って静かに見守る。
「失礼いたします」
そこに、スッとグランギリアが手を伸ばし、支えたのだ。
「あ、も、申し訳ない……」
「お怪我がなくて何よりです」
再び椅子に座らせると、グランギリアはすぐに身を引いた。リンディエールは少し笑みを見せて、そんなグランギリアに礼を伝え、ほっとするクレイへ目を向ける。
「いきなり動くんはあかんよ? ファルじいちゃん友達か?」
前半はクレイに。後半はファルビーラを見て尋ねる。
「おお。学園で一緒だったんでな。ヘルナとも、よくふざけ合ったもんだ」
「あの頃は楽しかったわね~。校舎を何度壊したか」
「半分以上、逃げ遅れた私が叱られてましたけど……」
クレイが、げんなりした様子で背中を丸めた。
「あ~、そんで、弁償すんのに冒険者登録したんだよな」
「交代で授業を受けて、勉強したわね~」
「それで上位独占して、何度教師からも嫌味を言われたか……」
多分この感じは、ヘルナとファルビーラに言えない鬱憤晴らしを周りがクレイにしていたのだろう。思い出して泣きそうになっていた。
「……じいちゃん。ばあちゃん……」
「ん? なあに? リンちゃん」
「なんだ? リン」
どうかしたのかと不思議そうにこちらを向く祖父母に、リンディエールは一つ息を吐いてから告げた。
「友達に迷惑かけたらあかんで」
「……」
「……」
それですぐにクレイのことだと察せられるだけの自覚はあったようだ。だが、二人が何か言うより先に、リンディエールが続けた。
「困らしてもついて来てくれる友達は貴重やで? 大事にせなあかん」
「そ、そうね……」
「確かに……」
二人と冒険者のパーティを組んでいた他の四人は、多分なんだかんだ言って、一緒にバカやれる人種だ。まさに類友。けれど、クレイは違う。
大事な友達だから、嫌な思いをしないように、裏でフォローして回ってくれる優しい人なのだろう。明らかに先ほどの会話で、苦労人な姿が見えていた。間違いない。
「けど、多少ハメ外しても許してくれるやろって思うんも分かる」
「そうなのよ! クレイって、面倒見がすごく良いの」
「めちゃくちゃ女にも男にもモテてたからなっ。それなのに、不器用過ぎて意中の相手にはアピールできないって泣くしよ」
「っ、ちょっ、ファルっ!!」
先ほどから、クレイの最初のイメージがガラガラと崩れていく。隣にいる彼の妻が驚いているのが良い証拠だ。
「ふふふ。ようやくこの話が出来るわ~。あまり話したことなかったけど、フィアラ様。改めて、ヘルナ・デリエスタよ。クレイの学友なの」
「同じく、ファルビーラ・デリエスタだ」
「あ、フィ、フィアラ・クゼリアですわ。これまでご挨拶もほとんどせず、ご無礼いたしましたこと、お許しくださいませ……」
フィアラは、二人と付き合いがなかった。クレイの友人であるというのは知っていたし、学園でも先輩であったヘルナたちの噂はよく聞いていた。
良くも悪くも、目立つ二人だったのだから。
けれど、だからこそ、苦手にしていた。『染血の参謀』『国の英雄』などと呼ばれる二人と、自分は凡人であると自負しているフィアラには、付き合える気がしなかったのだ。
性格も違いすぎる。
「そう固くならんでも。クレイとは、侍従の話も出たぐらい付き合いが長いんだ。何より、親戚だからな」
「は、はい……」
クレイは次男で、侍従候補の筆頭だった。クゼリア伯爵家へ婿入りするのは、実はクレイの兄のはずだったのだ。だが、クレイがフィアラに気があると知ったからか、その兄はある日突然出奔してしまったのだ。『世界を見てくる』と言って。
「未だにギーランから連絡はないの?」
「……はい……もう諦めています……」
「っ……」
クレイとフィアラが結婚した時に一度だけ手紙が来て、それ以降は来ていないらしい。フィアラも、ギーランとは性格的に合わないと思っていたこともあり、クレイの想いに応えてしまった。口にはしないが、フィアラはそれを後悔している。
「……ギーラン……?」
その名前にリンディエールは引っ掛かりを覚えて呟く。そして、クレイを見た。
赤茶色の髪。榛色の瞳。母は夫人似なので違うが、その二つが少し薄まった色が、母の姉である現当主の妻にも受け継がれているのを見れば、それがクレイの血族の色の可能性は高い。
その二つを持ち、尚且つ雰囲気は真逆に近いが、クレイの目鼻立ちにとても良く似た人を、リンディエールは知っていた。
名前は間違いなくギーランだ。
「そうゆうことか」
過去に聞いたギーランの身の上話も思い出し、納得しながら、祖父母へ声をかける。上手くいけば、すぐに捕まえられるだろう。そのことは言わず、話に割り込む。
「積もる話もあるやろうけど、こっちの話も聞いたってや。宰相さん。任せるで? ウチらは遊んで来るよって」
「このまま一緒に出かけられるんじゃないかと思い始めていた所なんですけど?」
「諦めえ」
危なかった。
「仕方ないですね……なら、明日のお披露目会でのダンス。申し込んでも良いですか?」
「……子どものはお遊びみたいなもんやって聞いたで?」
せっかくのお披露目会だ。踊れる子は子ども同士。初めての子は父や兄、姉や母と踊る。真似事だ。学園の入学が近い者たちは違うが、その場で最年少の十才の子どもが身内以外と踊るなど、まずあり得ない。
「『おててつないでク~ルクル』やろ? やりたいん?」
「ふふ。だって、リンは踊れるんじゃないですか?」
「……身長差考えや……腰痛めるで?」
「足を踏む心配ではないんですね。安心しました。楽しみです」
「……目立つんイヤなんやけど」
「「「え!?」」」
クイントだけでなく、フィリクスとファルビーラの声も重なった。
「なんやねん……おかしな事ゆうたか?」
「い、いえ、特には」
「り、リンはリンらしくしてればいいかなって……」
「あれで、目立ってないつもりだったのか!?」
「じいちゃん……」
クイントとフィリクスがニコニコと愛想笑いする中、ファルビーラは正直だ。
「……まあ、ええわ。ダンスも承知したわ……ほな、行こか。兄いも、外で買い物とかした事ないやろ。お金の使い方予習しとき」
「え、あ、わかった。買い物か~。あ、でも、お金持ってないっ」
貨幣の価値は、フィリクスも理解している。だが、実際に使う機会は今までなかった。
十三にもなって、はじめてのお使いも出来ていないのは、リンディエールの前世の感覚からは考えられないものだ。
「ほんなもん、ウチが財布に決まっとるやん。安心せえ『この店ください』も軽く対応したるわ。この国で長者番付したら、余裕で一番取れるくらい持っとるで、気にせんでええで」
「……ちょうじゃ……ちょっと分かんないけど、リンがお金持ちなのは分かった」
「ちょうどええさかい、帰りに馬車引き取って来よか。初乗りも楽しめそうや」
そうして、フィリクスとジェルラスを真ん中にして手を繋ぎ、後ろにシュラとテシルを引き連れて屋敷を出た。
「うまい具合に釣れとるな。テシルを連れて来て正解やったわ。テシル。そないに顔、強張らせとったらあかんで」
「っ、も、申し訳ありません……」
怖いのはわかる。彼は裏切り者となるのだから。
「安心せえ。任されたからには、ウチが守ったる。現役のBランク冒険者をナメたらあかんで」
「っ、Bッ……冗談じゃ……っ、ないんですねっ。あ、安心? 安心しましたっ」
「よろしい」
ついこの間、ランクが一つ上がったのだ。
テシルは混乱したままのようだが、表向きは大丈夫そうだ。
「そういえば、外の見張りを引っ張って行くとか言ってたね。危ない人じゃないの?」
フィリクスは、リンディエールの言った言葉をかなり良く覚えている。愛のなせる技だと、本人は胸を張っていたが、本当に耳聡い。
「良い意味で、ただの集団やのおて、組織として統制されとる奴らはなあ、数人で突発的に何か出来るほどの度胸と応用力はないんよ。何かやらかすなら、決行日が決まっとる。役割もきちんと一人一人に割り振られる。散らばっとる奴らが徹底しとるんは、報・連・相だけや」
組織に組み込まれた者たちは、上の指示なしで動けるようにされていないのだ。
「ほう、れん、そう?」
「報告、連絡、相談や。見て、伝えて、どうします? ってことしかできんのよ」
「あ~、じゃあ、僕らを見てるだけしかできない?」
「せや。そもそも、ウチらが来ることは想定外やろうし『あいつら、テシル連れて出てったけど、何しとるん? 何するつもりなん? とりあえず見とこ!』ってなるだけやねん」
「なるほど」
フィリクスは楽しそうに納得した。学ぶことが楽しい時期で、何にでも疑問を持ち、理解しようとするのは、フィリクスの楽しみなのだ。リンディエールの傍に居ると、その機会が多い。だから、余計にリンディエールの傍に居たがるのだ。
「このまま、引き連れて行くで。ふふふ……町に潜伏しとるんも、あぶり出せたら御の字なんやけどな~……」
呟きながら、少し振り向き気味にシュラに視線を投げると、彼女の目はリンディエールの考えを肯定するようにキラリと光っていた。
「さ~てと。まずはどこ行こか。ジェルラスは何屋さんに行きたい?」
「え~っと……っ、ぺ、ペンとか見たいです。いまつかってるのが……つかいにくくなってきてて……」
「あ、いいねっ。私も見たい」
「ほんなら雑貨屋に行くで! ええ店知っとるんよっ。ベンちゃんが絶賛しとったトコやっ」
「ベン? ちゃん? リン……ベンちゃんって? 男? 女?」
すかさずそこを聞いてくるフィリクスは怖い。
「っ、兄い……たま~に、ええ殺気放つなあ。ベンちゃんは、ラビたんの父親や」
「父親……ふ~ん……」
「な、なんやねん。元友人の父親や。恋仲とかにはならへんぞ?」
「じゃあ、宰相さんはなんなのさ……」
「……あ、アレは特別枠や……」
「特別……へえ……」
「っ、どないせえと!?」
リンディエールは殺気別に怖くない。だが、扱い方の分からない嫉妬心だけは怖いなと思うリンディエールだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、29日頃の予定です。
よろしくお願いします◎
「このような所から、失礼してごめんなさいね」
「悪いな。邪魔するぞ。クレイ」
転移門を見て固まっていたクゼリア一家が、更に目を丸くする。
ヘルナはふふふと笑いながら。ファルビーラは通常通りだ。その軽さのまま、寡黙な人という印象しかなかったクゼリア前伯爵へ『クレイ』と呼びかけ片手をヒョイっと上げる挨拶をする。
「っ、ファルっ、ヘルナ嬢っ、ご、ご無沙汰しております」
停止していた思考が急速に動いたのだろう。クレイは驚きながら、悪い足の事など忘れたというように、勢いよく立ち上がろうとした。だが、あまり歩かなくなっていたことで、筋力も落ちているのだ。倒れそうに傾ぐ。
あっと誰もが一瞬、息を止めた。だが、リンディエールだけは確信を持って静かに見守る。
「失礼いたします」
そこに、スッとグランギリアが手を伸ばし、支えたのだ。
「あ、も、申し訳ない……」
「お怪我がなくて何よりです」
再び椅子に座らせると、グランギリアはすぐに身を引いた。リンディエールは少し笑みを見せて、そんなグランギリアに礼を伝え、ほっとするクレイへ目を向ける。
「いきなり動くんはあかんよ? ファルじいちゃん友達か?」
前半はクレイに。後半はファルビーラを見て尋ねる。
「おお。学園で一緒だったんでな。ヘルナとも、よくふざけ合ったもんだ」
「あの頃は楽しかったわね~。校舎を何度壊したか」
「半分以上、逃げ遅れた私が叱られてましたけど……」
クレイが、げんなりした様子で背中を丸めた。
「あ~、そんで、弁償すんのに冒険者登録したんだよな」
「交代で授業を受けて、勉強したわね~」
「それで上位独占して、何度教師からも嫌味を言われたか……」
多分この感じは、ヘルナとファルビーラに言えない鬱憤晴らしを周りがクレイにしていたのだろう。思い出して泣きそうになっていた。
「……じいちゃん。ばあちゃん……」
「ん? なあに? リンちゃん」
「なんだ? リン」
どうかしたのかと不思議そうにこちらを向く祖父母に、リンディエールは一つ息を吐いてから告げた。
「友達に迷惑かけたらあかんで」
「……」
「……」
それですぐにクレイのことだと察せられるだけの自覚はあったようだ。だが、二人が何か言うより先に、リンディエールが続けた。
「困らしてもついて来てくれる友達は貴重やで? 大事にせなあかん」
「そ、そうね……」
「確かに……」
二人と冒険者のパーティを組んでいた他の四人は、多分なんだかんだ言って、一緒にバカやれる人種だ。まさに類友。けれど、クレイは違う。
大事な友達だから、嫌な思いをしないように、裏でフォローして回ってくれる優しい人なのだろう。明らかに先ほどの会話で、苦労人な姿が見えていた。間違いない。
「けど、多少ハメ外しても許してくれるやろって思うんも分かる」
「そうなのよ! クレイって、面倒見がすごく良いの」
「めちゃくちゃ女にも男にもモテてたからなっ。それなのに、不器用過ぎて意中の相手にはアピールできないって泣くしよ」
「っ、ちょっ、ファルっ!!」
先ほどから、クレイの最初のイメージがガラガラと崩れていく。隣にいる彼の妻が驚いているのが良い証拠だ。
「ふふふ。ようやくこの話が出来るわ~。あまり話したことなかったけど、フィアラ様。改めて、ヘルナ・デリエスタよ。クレイの学友なの」
「同じく、ファルビーラ・デリエスタだ」
「あ、フィ、フィアラ・クゼリアですわ。これまでご挨拶もほとんどせず、ご無礼いたしましたこと、お許しくださいませ……」
フィアラは、二人と付き合いがなかった。クレイの友人であるというのは知っていたし、学園でも先輩であったヘルナたちの噂はよく聞いていた。
良くも悪くも、目立つ二人だったのだから。
けれど、だからこそ、苦手にしていた。『染血の参謀』『国の英雄』などと呼ばれる二人と、自分は凡人であると自負しているフィアラには、付き合える気がしなかったのだ。
性格も違いすぎる。
「そう固くならんでも。クレイとは、侍従の話も出たぐらい付き合いが長いんだ。何より、親戚だからな」
「は、はい……」
クレイは次男で、侍従候補の筆頭だった。クゼリア伯爵家へ婿入りするのは、実はクレイの兄のはずだったのだ。だが、クレイがフィアラに気があると知ったからか、その兄はある日突然出奔してしまったのだ。『世界を見てくる』と言って。
「未だにギーランから連絡はないの?」
「……はい……もう諦めています……」
「っ……」
クレイとフィアラが結婚した時に一度だけ手紙が来て、それ以降は来ていないらしい。フィアラも、ギーランとは性格的に合わないと思っていたこともあり、クレイの想いに応えてしまった。口にはしないが、フィアラはそれを後悔している。
「……ギーラン……?」
その名前にリンディエールは引っ掛かりを覚えて呟く。そして、クレイを見た。
赤茶色の髪。榛色の瞳。母は夫人似なので違うが、その二つが少し薄まった色が、母の姉である現当主の妻にも受け継がれているのを見れば、それがクレイの血族の色の可能性は高い。
その二つを持ち、尚且つ雰囲気は真逆に近いが、クレイの目鼻立ちにとても良く似た人を、リンディエールは知っていた。
名前は間違いなくギーランだ。
「そうゆうことか」
過去に聞いたギーランの身の上話も思い出し、納得しながら、祖父母へ声をかける。上手くいけば、すぐに捕まえられるだろう。そのことは言わず、話に割り込む。
「積もる話もあるやろうけど、こっちの話も聞いたってや。宰相さん。任せるで? ウチらは遊んで来るよって」
「このまま一緒に出かけられるんじゃないかと思い始めていた所なんですけど?」
「諦めえ」
危なかった。
「仕方ないですね……なら、明日のお披露目会でのダンス。申し込んでも良いですか?」
「……子どものはお遊びみたいなもんやって聞いたで?」
せっかくのお披露目会だ。踊れる子は子ども同士。初めての子は父や兄、姉や母と踊る。真似事だ。学園の入学が近い者たちは違うが、その場で最年少の十才の子どもが身内以外と踊るなど、まずあり得ない。
「『おててつないでク~ルクル』やろ? やりたいん?」
「ふふ。だって、リンは踊れるんじゃないですか?」
「……身長差考えや……腰痛めるで?」
「足を踏む心配ではないんですね。安心しました。楽しみです」
「……目立つんイヤなんやけど」
「「「え!?」」」
クイントだけでなく、フィリクスとファルビーラの声も重なった。
「なんやねん……おかしな事ゆうたか?」
「い、いえ、特には」
「り、リンはリンらしくしてればいいかなって……」
「あれで、目立ってないつもりだったのか!?」
「じいちゃん……」
クイントとフィリクスがニコニコと愛想笑いする中、ファルビーラは正直だ。
「……まあ、ええわ。ダンスも承知したわ……ほな、行こか。兄いも、外で買い物とかした事ないやろ。お金の使い方予習しとき」
「え、あ、わかった。買い物か~。あ、でも、お金持ってないっ」
貨幣の価値は、フィリクスも理解している。だが、実際に使う機会は今までなかった。
十三にもなって、はじめてのお使いも出来ていないのは、リンディエールの前世の感覚からは考えられないものだ。
「ほんなもん、ウチが財布に決まっとるやん。安心せえ『この店ください』も軽く対応したるわ。この国で長者番付したら、余裕で一番取れるくらい持っとるで、気にせんでええで」
「……ちょうじゃ……ちょっと分かんないけど、リンがお金持ちなのは分かった」
「ちょうどええさかい、帰りに馬車引き取って来よか。初乗りも楽しめそうや」
そうして、フィリクスとジェルラスを真ん中にして手を繋ぎ、後ろにシュラとテシルを引き連れて屋敷を出た。
「うまい具合に釣れとるな。テシルを連れて来て正解やったわ。テシル。そないに顔、強張らせとったらあかんで」
「っ、も、申し訳ありません……」
怖いのはわかる。彼は裏切り者となるのだから。
「安心せえ。任されたからには、ウチが守ったる。現役のBランク冒険者をナメたらあかんで」
「っ、Bッ……冗談じゃ……っ、ないんですねっ。あ、安心? 安心しましたっ」
「よろしい」
ついこの間、ランクが一つ上がったのだ。
テシルは混乱したままのようだが、表向きは大丈夫そうだ。
「そういえば、外の見張りを引っ張って行くとか言ってたね。危ない人じゃないの?」
フィリクスは、リンディエールの言った言葉をかなり良く覚えている。愛のなせる技だと、本人は胸を張っていたが、本当に耳聡い。
「良い意味で、ただの集団やのおて、組織として統制されとる奴らはなあ、数人で突発的に何か出来るほどの度胸と応用力はないんよ。何かやらかすなら、決行日が決まっとる。役割もきちんと一人一人に割り振られる。散らばっとる奴らが徹底しとるんは、報・連・相だけや」
組織に組み込まれた者たちは、上の指示なしで動けるようにされていないのだ。
「ほう、れん、そう?」
「報告、連絡、相談や。見て、伝えて、どうします? ってことしかできんのよ」
「あ~、じゃあ、僕らを見てるだけしかできない?」
「せや。そもそも、ウチらが来ることは想定外やろうし『あいつら、テシル連れて出てったけど、何しとるん? 何するつもりなん? とりあえず見とこ!』ってなるだけやねん」
「なるほど」
フィリクスは楽しそうに納得した。学ぶことが楽しい時期で、何にでも疑問を持ち、理解しようとするのは、フィリクスの楽しみなのだ。リンディエールの傍に居ると、その機会が多い。だから、余計にリンディエールの傍に居たがるのだ。
「このまま、引き連れて行くで。ふふふ……町に潜伏しとるんも、あぶり出せたら御の字なんやけどな~……」
呟きながら、少し振り向き気味にシュラに視線を投げると、彼女の目はリンディエールの考えを肯定するようにキラリと光っていた。
「さ~てと。まずはどこ行こか。ジェルラスは何屋さんに行きたい?」
「え~っと……っ、ぺ、ペンとか見たいです。いまつかってるのが……つかいにくくなってきてて……」
「あ、いいねっ。私も見たい」
「ほんなら雑貨屋に行くで! ええ店知っとるんよっ。ベンちゃんが絶賛しとったトコやっ」
「ベン? ちゃん? リン……ベンちゃんって? 男? 女?」
すかさずそこを聞いてくるフィリクスは怖い。
「っ、兄い……たま~に、ええ殺気放つなあ。ベンちゃんは、ラビたんの父親や」
「父親……ふ~ん……」
「な、なんやねん。元友人の父親や。恋仲とかにはならへんぞ?」
「じゃあ、宰相さんはなんなのさ……」
「……あ、アレは特別枠や……」
「特別……へえ……」
「っ、どないせえと!?」
リンディエールは殺気別に怖くない。だが、扱い方の分からない嫉妬心だけは怖いなと思うリンディエールだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、29日頃の予定です。
よろしくお願いします◎
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